天文はかせ幕下

RASA11''でボーデ銀河を再撮影、片ボケ

前置き

昨年末、800mmF4の鏡筒と294MCの組み合わせでM81を撮影していました。

露光時間が40分と短かったにもかかわらず、画像処理の過程で周辺の分子雲がうっすら浮かんできたのが予想外でした。といいますのも、この領域は過去にデジカメで何度も撮影していて、その経験からすると40分程度の露光では、分子雲は決して写らないと思い込んでいたからです。

生データを出力するCMOSカメラは、こういった淡い構造の描出に強いのかもしれません。(対してデジカメは、ひょっとすると画像処理エンジンのノイズ処理が何かしらの悪さをして、淡い構造をけしてしまっている(?))

というわけで、元旦の撮影では、ボーデの銀河付近をみっちり3時間超露光しました:

確かにモクモクしたけども・・・

まずは結果から:

M81, 82 and NGC3077

Date: Jan. 1st, 2020
Location: Miyagi, Japan
Optics: RASA 11" + Heuib II 
camera: ASI294MC pro
mount: Takahashi NJP with Mgen auto guider
Exposure:gain 200, a stack of 50flames x 240 sec.
Sensor Temp. -10deg

NGC3077も仲間にいれてみました。処理はPIのMaskedStretchとarcsinhStretchに加えて、ColorEflexProの構造強調を少々かけています。それほど無理をしなくても、モクモクが浮き上がってきたのは満足。

が、しかし。画面右側がかなり酷く片ボケになっていることに、目ざとい皆様は気づかれたことと思いますorz。画像は右側1/4ほどをトリミングしてます。

片ボケ

F2.2のRASAは、ほんのわずかなエラーも許してくれず、この鏡筒の厳しさを痛感しております。これを使いこなしている方々は本当にすごいです。

以前もマウントアダプターのガタつきが原因のスケアリングエラーを経験していて、これについてはクリアできた思っていたので、上の結果には少々落ち込みました。

まさか。と思って、以前、まったく同じ光学系の組み合わせで撮影していたM33を見直して見ます

M33 re-postprocessing
294MC+RASA11'' with Heuib II フィルター

あ、これも片ボケしてしまっている(気づいてなかった…)。拡大してみると、

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左右の違いはありますが、明らかに左側は微光星が肥大してます。

原因の考察

これまで、RASA11''で撮影した結果を一通り見直して見ますと。

  • Tリングを介して60Daを取り付けた撮影ー>片ボケなし
  • ZWOの接続リングを介して294MCを取り付けた撮影
     ー>フィルターなし:わずかな片ボケ
     ー>フィルターあり:大きな片ボケ

といった結果です。どうやら片ボケの原因はZWOのマウントアダプターにあり、フィルターがそれを増幅しているのでしょうか?

現状の接続では、スケアリングを調整する機構はなく、何かを挟み込むとか、場当たり的な対応しかできなそうです。困りました

 

 

 

 

 

 



 

 

 

FC-76のレビュー

元旦にファーストライトを行なった、FC-76(レンタル品)の性能を見渡して見ます。

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外観を眺めて手に取るだけで、ニヤニヤしてしまう作りの良さがあるなあと、感じます。鏡筒バンドや接眼部が、鋳物で作られているというのがなんとも良いですね。

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刻印を見ると、製造は1997年。現行のFC-76DSの二世代前の製品ということになりますか。

76Dレデューサーを取り付けて、焦点距離は438mmのF5.8。光量60%のイメージサークルはφ36mmということなので、フルサイズはカバーしていないことになります。

ファーストライトはしかし、EOS6Dで行いました。先日の構図失敗のIC348の撮って出しがこちらです:

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FC-76 + 76Dレデューサー、EOS6Dの撮って出し。ISO3600 300秒露光

撮影日のシンチレーションは最悪の部類でした。輝星に目立つ「割れ」は、前玉に飛び出している錫箔が原因と思われます。(コメントを受けて追記:この手のタイプの割れは、レデューサの口径が小さいことによる口径食が原因とのことです。錫箔は前玉に3枚入っているので、普通なら6本の光条が出るはず)これはマスクをして後日検証予定。最四隅の減光はけっこう激しいです。

つぎに、星像は・・・

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ピクセル等倍、中心と四隅の500pxを切り出し

フルサイズ周辺までほぼ丸くて、収差もあまり感じられませんね。

フラット画像も撮って見ました:

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液晶ディスプレーによるフラット画像

こんな感じ。この写真と、先ほどの撮って出し画像を割り算して。。。

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フラット補正後

さすがに、四隅は補正しきれてませんでした。これだけフラットになれば満足です。フルサイズでもあっさり補正が決まってしまうあたり、光学系の素性の良さを感じずに入られません。

 

とうわけで以上です。次回はこれでカモメ星雲か、バラ星雲と撮って見たいと思います。

元旦は、神割崎からスタート!

「年末年始は、いつでも出撃できるように準備しておくこと。」

顧問は、まだ連絡のあるOBや部員関係諸氏に伝達しておりました。みなさま「了解です」とお返事され楽しい撮影会になりそうだなと楽しみにしておりました。

晦日の東北地方は荒れた天気に見舞われて、その翌日に安定した晴れの予想。

「よし。元旦に神割崎です。月没前の20時には集まるようにしましょう」

しかし、その追加伝達に従ってやってきたのは、あ氏だけでした・・。無理もないか。

あ氏の紹介

あ氏は4年ほど前に本校を卒業し、現在は某レンズメーカに務める筋金入りカメラオタク。社会人になってから天体撮影に取り組んでいます。今後、このブログにも頻繁に登場することになるでしょうから、ここで紹介しておきましょう

氏のブログ、グラスノスチ.comです。Zeissのアポゾナーと、非改造の5D mk4、スカイメモRの組み合わせで撮影されています。昨年の暮れ、会社の同僚からタカハシの屈折を買い受けたそうで、これから本格的な直焦点撮影に入りごもうとしています。

しかしのその鏡筒は、いま本校天文部の元にあります。

タカハシの屈折

ある日、あ氏から連絡がありました

赤道儀を購入するまでの間、この鏡筒をお預けしますので、有効利用してくれませんか?」
「うん。別にいいよ」

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ばーん!唐突にFC76がやってきました*1!憧れのタカハシの屈折です。レデューサーもついて438mm F5.8です。元旦はこれを使って、NGC1333とIC348を撮影しました。

悪夢の構図間違い

IC348 and Perseus zeta

Date: 1st Jan. 2020
Location: Miyagi
Camera: Canon EOS 6D(mod)
Optics: Takahashi FC76 76D reducer 438mm F5.8
Exposure: 300sec. x 33flames (ISO3200)
Guide: Kenko SEII, PHD2 guiding 

天リフの「みんなで100時間企画」、500mm部門のお題になっているNGC1333とIC348を撮影したつもりが、IC348とペルセウス座ζ星を撮ってしまいました。構図のミスです。淡い対象なのでライブビューでまったく確認できないんですよね。

先日はMamiyaの500mmで撮影して、これもスケアリングエラーで失敗してました。2連敗で予選敗退です。もうしばらく撮影することはないでしょう。

反省の時間

ここ数回の撮影の失敗。原因は

  • アリガタとカメラの固定ネジの緩み
  • フィルターの締め込み不足
  • 構図の事前確認不足

の二つ。どちらの本当に凡ミスです。慣れによる慢心と中弛みですよ。

撮影にミスが重なると、画像処理でストレスが溜まって、ついついやりすぎになってしまうような。うえのIC348も分子雲強調しすぎて、荒れてます。

 

*1:この鏡筒については、後日詳述します

白金台でメガスターを見てきた感想など

成果発表会のついでに、大平貴之さんのメガスターを見ることのできる施設を探していて、白金台にあるプラネタリウムbarを見つけました。ここは夜も営業していて、発表会後の時間帯でも入場できました。

このBARは基本カップル向けに作られていて、座席も二人席しかありません。顧問は二人分のチャージ料金とドリンクを二杯以上オーダーする条件で、一人鑑賞してきました。平日の早い時間帯だったせいか、客は私一人で、カップルたちの中で気まずい居心地のわるさに囚われることはありませんでした。

店内は完全に真っ暗。赤い懐中電灯でオーダー表を見て注文するという天文マニアも納得のスタイルです。奥手のほうの天井が直径5mほどのドーム状にくり抜かれていて、その中心にメガスターが据え付けられていました。

私が着席した時には、「メガスターCLASS」が稼働していました*1。これは100万の星を投影するとのことです。失礼して投影機に近づき、ドームの中心から見て見ますと、なるほど素晴らしい星空を堪能できました。

具体的な感想や推察など

ただ、決して批判する意味でなく申しますと、本物と見間違える星空か?と問われると、そうではないなと。あれは、あくまでプラネタリウムが投影するという前提での美しい星空である、というのが本音の感想です。恐らく理想のプラネタリウムがあるとしたら、それは数百万の輝度と色の異なる光源を搭載し、それらの光をレンズを通して一つ一つ投影するスタイルになるはずです。でもそれは無理なので、実際のプラネタリウムでは、1個から数十個の光源をつかって、星の明るさを投影面積の違いに置換して表現しています。

で、ここからは推測になりますけど、おそらく星の明るさの比をそのまま面積比に置き換えて投影してしまうと、美しい星空にはならない。星景写真でソフトフィルターを使って輝星を強調するように、プラネタリウムの面積比もある種の「デフォルメ化」が施されているように思いました。そのデフォルメ化が見事なセンスで行われていて、バランスよく、かつ本物の星空よりも星座がわかりやすいと思いました。私の好きな「や座」なんて、非常にはっきり見えました。

もう一つ気づいたのは、微光星の投影について。投影される天の川は、目に見えない星々を忠実に一つ一つ投影した点光源の集合体として表現されているということを大平氏の著書で読み、これが一番気になっていました。といいますのも、前述したように、星の明るさは投影面積で表現されるので、目に見えない暗い星は非常に小さい投影面積を持つことになります。そのためには恒星原盤*2に非常に小さな穴を穿たなければならない。しかしながら、小さな穴を通った光は必ず回折するので、原盤の穴を小さくしすぎると、投影される星は逆にぼんやりしてしまうはずです。この事情は、ちょうどカメラレンズを絞りすぎると画質が低下することに似ています。

メガスターはどうだったかと言いますと、スクリーンに近づいて確認したところ、微光星はちゃんと投影されているわけではなくて、それが存在するあたりをぼんやりと照らしているだけでした*3。しかしその星像は人間が実際の星空を見るときの目の分解能とうまく対応が取れていて、微光星はぼんやりしているけれども本物の星空と同じように見える*4。これがすごいと思いました。たとえば肉眼で光のシミのように見える蟹座のプレセペなどは、見事に再現されていました。いわんや天の川をや、です。

 

投影は休憩を挟んで「メガスターラチナム」に切り替わりましたが、ぱっと見は違いがわかりませんでした。プラチナムのほうは、投影する星の数がClassより多いとのことで、若干星座の識別がしにくかったような気がしましたが、そのころには酔いも進んでいたので、勘違いかもしれません。

 

予定より長い記事になってしまいました。2019年度の更新は以上です。みなさま良いお年を。

 

 

*1:同店にはこれの他にメガスターラチナムが設置されている

*2:プラネタリウムの光路に配置される星の配置ごとに穴を開けた板

*3:例えばプレアデス星団は、はっきり数えられる6つの星が投影されていて、その周辺がぼんやり明るく投影されていた。

*4:これも推測ですが、メガスターでは、はっきりとした面積でもって投影される星と、ぼんやりと投影される微光星は別扱いされていて、その閾値の設定が非常にうまく考えられているのではないかと。

東京大学にて部員が発表しました

年末、部長とSくんの二人を連れて、東京大学本郷キャンパスに行ってきました。助成金をいただいている、中谷財団の成果発表会にて発表をするためです。

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赤門前にて。これで学校の広報には、表題のように

「本校の天文部員が東京大学で成果発表を行いました」

と虚栄心たっぷりに書けるわけです。

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こちらは学生の発表の様子。

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発表の後は豪華な懇親会も。そのほかノーベル医学生理学賞大隅 良典先生の講演があったり有意義な発表会でした。

 

「し」の合作

11月末のもりもりランドでの撮影。一方の機材でNGC891やM82などを撮影しつつ、その隣ではSkyMemoRにEOS6DとSigma 70mm マクロを乗せて、エリダヌス座をほったらかし撮影してました。対象は「し」の形をした超新星残骸「スーパーバブル」です。

当日に撮影をご一緒していた「そーなのかー」氏も、EOSKissX7に50mm F1.8レンズを装着して、ほぼ同じ画角で同じ対象を撮影しております。そちらの方には12nmのHαフィルターが装着してあって、あとで私のカラー画像と、氏のHα画像を加算合成しようという作戦です。

この計画、構想は夏頃に持ち上がっていました。そのあと「天リフ」でも合作企画が持ち上がりました。今後はそういうったアプローチも増えるかもしれませんね。今回の結果は、二人で一晩。合計6時間の露光でした。

 

まずは結果から 

The Eridanus bubble

Date: Nov. 30th, 2019
location: Fukushima, Japan
RGB:
Photographer: nagahiro
Optics: Sigma 70mm F2.8 macro(F4)
Mount: Kenko SkymemoR without auto guide
Camera: EOS6D(mod)
Exposure:ISO3200, 180sec x 60flames

Ha(band width 12nm):
Photographer: so-nanoka-

Optics: Canon EF50mm F1.8 STM (F3.2)
Mount: Celestron Advanced VX with PHD2 guide
Camera: EOS kiss X7 (mod)
Exposure: ISO3200, 480sec x 19flames (Ha)

デジカメRGBとモノクロHαの合成

結果は「ででん」と言っても許される出来かなと感じております。

今回の処理で悩んだのはデジカメで得られたカラー画像にHaを加える方法です。最もシンプルなのは、カラー画像のRチャンネルとHaの背景輝度を揃えておいて、両者を比較明合成するという方法です。しかし今回は、最近勉強中のPixinsightのフォーラム(こちら)の書き込みを参考にしました。使うのは画像を四則演算できるPixelMath機能です。

まずHα画像を L_{H\alpha}、デジカメのR画像を L_{R}、それぞれの背景輝度(ヒストグラムのピーク値)を B_{H\alpha},~B_{R}として、

C_{H\alpha}=\frac{L_{H\alpha}B_{R}-L_RB_{H\alpha}}{B_R-B_{H\alpha}}

とした画像 C_{H\alpha}を用意します。この式の気持ちは、Hα画像とR画像の平均輝度を一致させた上で、Hα画像からR画像を引き算することで、Hα画像だけに写っている情報だけを抜き出すということなのだろうと思います(元情報には式の解説はない)。適当な定数をaとして

 L_{R}+a C_{H\alpha}

を新たなR画像として、RGB合成します。今回は深く考えずa=1としました。

で、合成語にストレッチして得られた(RGB+Ha)画像はこんな感じでした:

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比較対象として、Hαを加えないで処理したデジカメだけのRGB画像を載せておきましょう:

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両者、それぞれ一長一短で、赤い領域の描出は(Ha+RGB)が、周辺の分子雲の滑らかさはRGB画像がそれぞれ優れています。これはいいとこ取りしたいところです。

いろいろ試した結果、PSの「覆い焼きカラー」で両者を重ねるのが一番良い結果になりました。「覆い焼きカラー」ってなに?という感じなんですが。とはいえ、そうして出来上がったのが冒頭の写真でした。

 

今回は合作がきっかけになって、Pixinsightも覚えましたし、やっぱり周りの人から刺激を受けるのは楽しいなと感じた次第です。本業の研究の方も、そういうふうに楽しく進められれば良いのですが、うくく。

CMOSのノイズ:まとめと覚書

先日、特にブログ上で告知するとこもなく「宮城星オタクの集い」という勉強会を開催しました。その時の議論に触発されて、CMOS撮影でのノイズのことを考え始めました。以下はお勉強の覚書です:

ZWOカメラのグラフの読み解き

まづはじめにASI294MCを例にとって、いままでちゃんと理解していなかった「例のグラフ」(協栄産業のHPのZWOカメラのページに付記されている)の縦軸の量の意味を理解して整理しておく。

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協栄大阪のHPより引用

が、しかし。その前にカメラセンサーの働きを確認しなければなりません。

露光中のカメラセンサー(CMOS/CCD)では、あるピクセルに入射した光子は、一定の効率*1で電子に変換される。変換された電子は、各ピクセルに割り当てられたコンデンサーに蓄えられる。露光が終わると、コンデンサーに溜まった電子数をカウントして、写真の輝度を求める。

というしくみです。これを踏まえてグラフの縦軸を読み解きます:

  • FW(e-) … コンデンサーに蓄えることのできる電子の最大「個数」。294MCの場合Gain=150なら10000個の電子を蓄えた時、輝度が飽和する事がグラフから分かる。
  • GAIN(e-/ADU) … コンデンサーに溜まった電子をカウントする際、何個電子を数えたら、画像の輝度値を”1”増やすかを表す。ADUはAnalog to digital unitで、電子の数がanalog、輝度値がdigitalと思っている*2。294MCの場合gain(dB)=117で、一つの電子を数えた時に、輝度値を+1させていることがグラフから分かる。
  • DR(stops) ... ダイナミックレンジ。 \log_2\left({FW(e^-)}\cdot{GAIN(e^-/ADU)}\right)ってことだと思うが、値合わない(?)以下追記:リードノイズの大きさを単位として、それぞれのGainで記録することのできる最大の輝度をあらわしたもの。FW(e-)の値をRead Noisee(e- rms)で割った値の底2の対数。
  • Read Noise(e- rms) … コンデンサーに溜まった電子を数える時の数え間違えによるノイズ。バイアスノイズと同じ。単位にrms (root mean square)とあるので、数え間違い数の標準偏差を表している。その内容からしてRead noiseはゲインに依存しないはずなので、gain=120では、電子のカウント方式に何らかの変更がなされているのだろう。

あと協栄産業の294MCのページでは、(いつのまに)下のグラフが 追加されていた:

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協栄大阪のサイトより引用
  • dark current(e-/s/pix) ... カメラセンサーに光子が全く入らない状態において、熱励起などによって生じてしまう単位時間、単位ピクセルあたりの電子の数(暗電流)。ダークノイズはこれ。

この情報はかなり有用です!いろいろ計算できます。

各ノイズの大きさの推定

以上から、特定の撮影状況を定めれば、具体的にノイズの大きさを推定できますね。ちょっとやってみます。

  • 撮影対象:M33(表面輝度14.1等級/(分角)^2)
  • 撮影鏡筒 :300mm F2.8 (口径10cm) 
  • カメラ:ASI294MC(センサーを0℃に冷却)

としておきます。以下のサイト

を参考にしてセンサーに降り注ぐ光子の数を計算します。StellariumによるとM33の単位立体角(分角)^2の明るさは14.1等だということなので、M33の単位領域からの光子の数、具体的には、

 (口径10cmのレンズが受け取る単位時間の光子の数)= 150 個/(sec. 分角^2)

と計算できます。一方、294MCと300mmレンズの組み合わせによる画角は約200分角x150分角。画素数が4144x2822であることを考えると、1(分角^2)はセンサーのピクセルにして20pixel四方。つまり400pixelsに対応します。よって

 (1pixelに単位時間に入射する光子の数)= 0.38 個/sec.

です*3

さて、294MCのgain=200としてセンサーを0℃に冷やして、M33をT秒露光したとします。以上の計算と上のグラフを組み合わせれば具体的にノイズの標準偏差を計算できます。

電子のノイズや光子の数の揺らぎはポアソン分布に従うなら、単位時間のカウント数の平均値Nに対して、揺らぎの標準偏差\sqrt{N} となるので。露光時間をTとすると

  • 光子のショットノイズ:\sigma_{\rm photon}=\sqrt{0.38Q_E T}
  • ダークノイズ:\sigma_{\rm dark}=\sqrt{0.0625T}
  • リードノイズ:\sigma_{\rm read}=1.5

ただしQ_Eは量子効率です。ここまで計算で、露光時間Tを伸ばせば、リードノイズはそれほど問題にならない(ショットノイズとダークノイズが支配的になる)こと(アタリマエ?)、0℃程度の冷却でダークノイズは光子のショットノイズに比べて十分小さくなること(25℃くらいで両者はコンパラになる)がわかりました。

さらに進めば、例の「低感度長秒露光」vs「高感度短秒多数枚露光」についても何かわかるような気がします。短秒露光といっても少なくともリードノイズを上回るくらいは露光したほうがいいとか。

が、眠くなったしまだよくわからないことも残っているので、もうちょっと考察を続けます。

わからないこと

  • dark currentはgain(dB)に依存しないのか?なんとなく、gainあげるとセンサー温度も上昇しやすくなるような気がするが、それはデジカメの話で、冷却CMOSなら関係ない。
  • gain(dB)をあげることによるノイズの上昇は、単純に光子のショットノイズを増幅しているだけ、という理解でいいのか?

 

 

*1:量子効率

*2:電子の数がアナログというのは変だが、測定では電子を数えるのではなく電圧を測っているからだろう。

*3:す、少ない!