天文はかせ序二段(仮)

天文はかせ序二段(仮)

仙台高専(旧・宮城高専)天文部の活動記録です

天体写真のカラーバランスと,色のコントラスト

はじめに

天体写真のカラーバランスを整えるのに通常行われるのは、写真の背景部分がニュートラルなグレーになるように調整することです。しかし、この操作をちゃんと行っても、写真全体のカラーバランスが崩れてみえることってないでしょうか?私の経験ではつぎの二つのケースがそうでした:

  1. 光害による色カブリが残る写真を処理していたとき
  2. 光星の多い天の川付近や、散光星雲がいっぱいに広がった写真を処理していたとき

ここで問題にしたいのは、2.の場合です。ぎょしゃ座の中心部や北アメリカ星雲、コーン星雲付近の画像処理をしていたときがそうでした。しばらく考えていて最近ようやく、私なりの答えを得ました。それは一言でいいますと

RGB各色の明るさのレベルだけでなく、色のコントラストも気にする

というものです。ひょっとするとこんなのアタリマエなのかもしれないと恐れながら、検索してもネット上に類似の記述を見つけることができなかったので、ここで記事にまとめてみようと思った次第です。

まずは、背景部分をニュートラルグレーに設定する基本のカラーバランス調整を説明します。ご存知の方は読み飛ばしてください。

背景を使ったカラーバランス調整

稚拙な作例で恐縮ながら、昨夏に蔵王山で撮影していたバンビの横顔星雲を例に説明します。PhotoShop(以下PS)での処理ですが、使う機能はレベル補正とトーンカーブだけですので、別のソフトでも同じことができると思います)

f:id:snct-astro:20190208190313j:plain

これは、Deep Sky Stackerが吐き出したコンポジット後のtif画像に対して、光害カブリの補正だけを行ったあとの画像です。このままレベル補正で上下を切り詰めて強調すると・・・

f:id:snct-astro:20190208190318j:plain

Raw現像でホワイトバランスを調整していてもコンポジット後に色の崩れが出ることがよくあります

このようになります。このままでは、背景がほんのり青緑っぽくて全体的に赤茶けています。そこで通常よく行われるのは、ホワイトバランスツールなどを使って、背景(と思われる)部分をニュートラルなグレーにすることです。

f:id:snct-astro:20190208191514j:plain

ホワイトバランスの調整

上はPSのCameraRawフィルターの画面です。左上に矢印で示したホワイトバランスツールは、選択した部分がグレーになるように、色のバランスを調整してくれます。これをつかって、グレーであるべきと思われる何もない部分(この場合は写真の中で最も暗い暗黒帯の場所)を選択します。そうするとヒストグラム左端が揃います。

この処理を終えた後で、改めて強調してみると・・・

f:id:snct-astro:20190208193147j:plain

暗黒部でWB調整後に強調

たしかに星のない背景部分が青緑がかっていた点は解消しています。いっぽう星の多い天の川の中心部分(画像の左上)はまだ赤茶けて見えます。 この赤茶けた部分が、ほんらい何色であるべきかという議論は、最後に触れることにして、この画像のヒストグラムを見てみます:

f:id:snct-astro:20190208191616j:plain

Rが最も太っていて、青が細いですね。ヒストグラムの幅が広いというのは、明るい部分と暗い部分の差が大きいことを意味していて、そういう状態を「コントラストが高い」と呼んでいたわけでした。

そこで、ヒストグラムのピークだけでなく、RGB各色のコントラストも揃っている画像が「良い感じ」の天体写真なのでは?と考えました:

色のコントラストを揃える

今の例では、RとGのコントラストを落としてあげれば、ヒストグラムの形が揃います。それにはトーンカーブを使うのが簡単です。

f:id:snct-astro:20190208192354j:plain

トーンカーブの調整。Gに対しても同じことを行う

トーンカーブの調整レイヤーを開いて、チャンネルとしてRを選び、ヒストグラムの左端にアンカーポイントを打った上で、右端の部分を下げて「逆S字」をつくります。こうすることで背景部分のカラーバランスを崩すことなく、コントラストを下げることができます。Gに対しても同様の操作を行います。

f:id:snct-astro:20190208192958j:plain

こんな感じのトーンカーブを適用します。すると・・・

f:id:snct-astro:20190208192722j:plain

このようにRGBそれぞれのヒストグラムの形を揃えることができました。この状態でレベル補正で強調すると: 

f:id:snct-astro:20190208192804j:plain

こうなりました。

わかりにくいので、並べて比較して見ますね: 

f:id:snct-astro:20190208193019j:plain

うーん。どうでしょう?

最後に理屈を

説明の途中に、勢いあまって

「RGB各色のコントラストも揃っている画像が「良い感じ」の天体写真なのでは?」

と書いてしまいましたが、これは暴論かもしれません。必ずしもすべてがそうではないでしょう*1

でもなんとなくそういうヒストグラムを持つ天体写真が「美しく見える」ような気がしています。天体写真の色がどうあるべきかという問題は、なかなか一筋縄ではないようです:昨今では、

  • 肉眼で見えないものを可視化しているのだから、「本来の色」なんて結局は定まらない。だからある程度はお好みでよいのじゃないの(軟派)
  • 科学写真であるから、その色にも科学的な根拠があるべき(硬派)

に二分化されているかどうかは知りませんが、わたしはどちらかというと硬派です。今回のバンビの横顔付近の色については

  • 宮城からの撮影では南中高度が低く、そのせいで本来より赤く写っていたのではないか。
  • この記事を読むと、バンビの横顔付近の天の川は、引用記事内の色分布の赤い領域からは外れていて、ある程度白いのではないかな

 というのが根拠です。

以上、長い記事におつきあいいただきありがとうございました。最後に、レタッチ後のの最終版を載せておきます。 

f:id:snct-astro:20190209003943j:plain

 

*1:上の例でいえば,Rのヒストグラムのピーク右脇の太った部分は写真左上の天の川部分に対応しています。ここのヒストグラムをGBと揃えるということは,天の川のハイライト部分をバックグラウンドに近いニュートラルなグレーにしてしまうということにもなります。別例として北アメリカ星雲のような対象を考えると,Rのヒストグラムの右脇はもっと低く広く太っているはずで,そこをGBと揃えてしまうような処理は,あきらかに不自然になります。(2/13追記)