光害カットフィルタを含んだ光学系を使っている場合、フラット画像をLCD(液晶ディスプレイ)光源から取得するには、ちょっと注意が必要だろうというのが、今回のお話です。
事の起こり
先日M16。FC-76(レンタル品)にHeib-IIフィルタと取り付け、ASI294MCで撮影しました。
帰宅してからいつも通りパソコンの液晶画面でフラットを取得。ここ最近、慣れようとしているPixinsightで前処理します。Calibration(ダークバイアス減算とフラット補正)を行なったあと、わひゃーん。珍妙なことが。
フラット補正前:
↓フラット補正後
画面が真っ赤。いくら何でも赤すぎで、私はディスプレイが壊れたかと思いましたよ。これではカラーバランスを整えた後にも、影響が残ってしまうかもしれません。仕方がないので、このときはフラット補正を省略し、処理を進めたのでした。
しかしなぜこんなことが? フラット補正が、RGB各チャンネル毎に除算を行なったあと、輝度が変わらないように規格化して出力しているならば、カラーバランスは崩れないはずです。
液晶画面のスペクトルと光害フィルタ
夜空の背景がニュートラルな灰色であるのだから、フラット画像の光源として使うLCDの色も灰色であるほうがよいだろう。私はそう思っておりました。
あ。でもでも。夜空とLCDでは同じ灰色でもスペクトルまで同じなわけ無いはないか。
それを、特定の波長をカットするフィルタを通して撮影すれば、色バランスが大きく変わってしまうはずです。
夜空の背景スペクトルは、大気光や各種光害などの総和であって、だいたい連続スペクトルになっていると思ってよいでしょう。それに対してLCDのスペクトルってどうなっているのでしょうか? ということを私はTwitterでツイートしましたら、バケラッタさんというかたが、ササッと測定してくれました。許可を得て掲載いたします:
これはHuaweiノートパソコンのLCDから得られたスペクトルです*1。当然ながら連続スペクトルではないです。
一方で、Heuib-IIフィルタの特性は以下の通りです(協栄大阪のサイトより転載)
Heuib-IIは、Haのコントラストを高めるために、それ以外のRの成分である600nm〜650nmをカットするため、LCDの赤はごっそり取り除かれることになります。これでは問題が起こりそうです。
灰色のLCDから得られたフラット画像
では、Heuib-IIフィルターを取り付けた状態で、灰色のLCDを撮影して得られたフラット画像をみてみます。
このフラット画像のヒストグラムが以下の通り
Rの輝度とコントラストが極端に低いです(Gが強く出るのは冷却CMOSのデフォルトのようなので気にしなくて良い)。Heuib-IIがLCDのRをカットしてしまった結果でしょう。フラット補正後の真っ赤っか画像は、小さい値で割り算すると値が大きくなることの当然の帰結のようですね。。
しかしHeiub-IIが原因だとしても、これを取り外してしまうのは本末転倒。じゃあ、連続スペクトルの光源を使えということになりますけど、スカイフラットは私の好みではないのです。よく使われるLEDトレース台の光源だって、連続スペクトルでは無いはずです。LCDフラットでなんとかすることを考えます。
ライトフレームと同じカラーバランスになるように調整したLCD画面から得たフラット画像
「フラット画像がライトフレームと同じカラーバランスになるように、フラット光源の色を調整するほうがよいーー。」
これもよく言われる考え方です。しかし、Heiub-IIを取り付けた状態で同じカラーバランスを得るには、ディスプレイの色を真っ赤っかにしなければなりませんでした。なんとも不自然なことをやっているなあと不安になりながら取得したフラットがコチラ:
真っ赤っかの画面を撮影しているのに、出て来る画像が緑色。ヒストグラムは以下の通りRとBの輝度とコントラストがだいたい同じになってます
このふらっとをつかってCalibrationをやり直しました。
フラット補正前:
↓フラット補正後
さきほどの真っ赤っかは解消しました。これぐらいなら、カラーバランスの調整も容易そうです。やっぱり、LCDの色は調整したほうがよいのでしょうか。
うーん、とりあえず「まとめ」
話を戻します。フラット処理では除算を行なった後、規格化しているから、結果の色バランスは変わらないのだろうと思っておりました*2。しかしPixinsightの処理では必ずしもそうとは言い切れないようです。結果だけ見る限り、フラット画像の色は、グレーにするか、ライトフレームと一致させた方が良さそうです。
今回の話題、Heuib-IIに限らず、光害カットフィルターを装着した光学系のフラットを、LCD光源をつかって撮影する場合に問題になります。連続スペクトルの光源を用いるのは、解決策のひとつでしょうけど、白熱電球で壁を照らしてフラットを取るというのも、それはそれで難易度が高そうです。
簡単な方法として、フラット画像のGだけを取り出して、モノクロにしたものをフラット画像として適用するのもありかもしれません。次回以降、考察してみましょう。