天文はかせ幕下

複数晩の画像のスタック

 

複数の晩に渡って撮影した画像をスタックする --- 場合によっては昨年・一昨年に撮影した画像をアーカイブから取り出してきて、昨夜の画像に重ねる、という手法もよく行われます。フォトコンでもそう言った作品をよく見かけるもので,それが成り立つのは,我々の時間スケールから比較して「宇宙が静的である」という前提があるからです。しかし,実際はそうではないということは、昨冬のベテルギウスの増減光でまざまざと見せつけられました。ああいう変光星は、夜空に無数にあるはずです。

よく撮影でご一緒する知人も「それって写真ですかね?」と言っていました。頷きつつも、「ひたすら重ねて見たいな」と思うこともあり、私自身は立場を定められておりません。

今まで,そういった撮影手法をやってきませんでした。でもそれは「星の撮影はこうあるべき」という信念によるものではなくて,単に私が比較的にセッカチな気質で、また頻繁に撮影に出かけられる境遇にもないからです。何日もかけて一枚の画像を仕上げる、という根気が続かないのですよね。

前置きが長くなりましたけど、今回の記事では「複数晩のスタック」を初めて試みました。

サドル付近

5月23日、29日の蔵王での撮影のおり、SkyMemoRにEOS6D+135mmレンズを載せて、ほったらかしでサドル付近を撮影してました。23日は雲抜けの絶好のコンディションで32枚、29日は通常のコンディションで60枚を撮影してました。両日とも絞りはF2.8、ISO1600の120s露光です。

まず以下は、23日撮影の30枚をスタックした無加工の写真です:

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次は、29日撮影の60枚画像をスタックした、無加工の画像です:

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前者はコントラストは高いが露光枚数が少ない、反対に後者はコントラスト低いけど枚数が2倍以上。どちらも一長一短になっています。考えた挙句「えいや」と、単純に両者を1:1でスタックしました。

そうして仕上げたのが次の写真です:

The gamma cygni star and surroundings

Date: 2020-05-23 and 05-29(2 days)
Location: Mt. Zao, Miyagi, Jpn.
Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2(F2.8)
Camera: Canon EOS 6D (mod)
Exposure: 120s x 32flames(23th) + 120s x 60flames(29th), ISO 1600
Processing: AstroPixelProcessor, Pixinsight, Photoshop.
(リンク先に飛んだ方が、画像がシャープです・・・)

うーん、やっぱり露光時間は「正義」なのは確か。淡い部分の構造が思ったよりも出てくれました。いっぽうで星雲の色彩は単調で、さらなる精進が必要そうです・・・

 

 

 

 

 

 

 

蒼い馬星雲の失敗

5月29日。仙台の夜は月没23:50、薄明開始2:30。

 

狙いは、先日18分しか露光できなかった蒼い馬星雲です。撮影は短時間勝負になります。子供の風呂・寝かしつけ皿洗いなど、家庭における例のへこへこ運動をこなしたあと、「すんません、恐縮でございます。それでは出かけて参ります」と家を出て、ヒーヒー言いながらゲキ重い赤道儀と望遠鏡を自家用車に積載。蔵王まで移動。

そしてゲキ重い赤道儀と望遠鏡をセッテイング。フラフラしながら撮影開始。そして撮れたのがこの写真だ!

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ああ おまえはなにをしているのかと....
吹き来る風が私に云う*1

蒼い馬星雲の失敗

当夜は余裕を持って22時に到着。悠々とセッティングを済ませて月没を待ちました。RASA11"にSigmaFpを装着して、ISO1600の3分露光を30枚弱確保する予定。撮影はつつがなく進みました。

結果は上記のとおり。フラット補正後にあのような輝度のムラが発生してしまし、補正不能でした。星を消して見てはっきりするのは、左右の明暗がアベコベに傾いた様子です。

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初めは撮影地の南側の道路をひっきりなしに通過していた車のヘッドライトからの迷光を疑いました。しかし全てのフレームが同じ輝度ムラを呈しているので(3分露光の間に車が全く通らなかったこともあったことを考えれば)、その線は否定。

後で気付いたのは、ピンと調整後に主鏡を固定するノブ

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の片方を閉め忘れていたことです。南に低い対象の撮影で、主鏡がわずかに傾いて撮りためていたフラットが合わなかったのかもしれません。薄明フラットでも撮っていればなんとかなったのでしょうけど、時すでに遅し。

この固定ノブがゆるんでいると、主鏡がどのようにリリースされるのか?よくわかっていません。ピンとノブの右回しと左回しで、ミラーシフトの様子も違うようですし。フォーカス機構の仕組みをもうすこしちゃんと理解する必要がありそうです(反省)。

*1:中原中也「帰郷」より

いて座周辺のモザイク合成 -- APPとICE

目的

今回は、2つのモザイク合成ソフト;Astro Pixel Processor(APP)と、Imege Composite Edittor(ICE)を比較しつつ、前回撮影した画像をご紹介したいと思います。前者は天体写真用で有償、後者は一般用で無償ですから、比較すれば勝負にならないのはわかりきったことでしょうけど、果たしてAPPがお金を出すに値するかどうかという話です。

前置き

モザイク合成は貧者の武器であって、うまく貼り合わせれば数世代前のカメラでも最新機種で撮影したかのような素晴らしい結果を得ることができます。数年ほど前、顧問はこれの魅力にハマって、馬鹿の一つ覚え的にモザイク合成ばっかりやっていました。そのころの作品のなかでも例えば、コレ

NGC7000

などはとてもよく撮れたと自惚れていましたが、よく見ると継ぎ目がバレバレです。合成前画像の周辺部にわずかな倍率収差でもあれば、ストレッチにともなって境界は浮き上がってきてしまうのです。

うえのモザイク合成で使っていたのはICEでした。以下からwin版をダウンロード可能です

www.microsoft.com

冒頭で紹介したAPPは、30日のトライアル版を

www.astropixelprocessor.com

からダウンロードできます。win版・mac版・Linux版などが用意されていて、3台のマシンまでインストールできるようです。まずはこれをダウンロードしてテストをしました。

射手座周辺の星野

先日の蔵王雲抜けの夜、射手座の周辺(バンビの横顔からM16にかけて)を2x2モザイクで撮影してきました。レンズはMamiya Apo-sekor 250mm F4、それぞれ6分露光の10枚スタック。フラット処理をしてスタックを終えただけの4つを並べた画像が以下の通り:

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それぞれの画像は、一つの赤道儀にレンズを二つ載せて、それぞれに改造kissX5と60Daを取り付けたツインシステムで撮影しています(上側がkissX5、下側が60Da)。この2つのカメラはどちらも同一の解像度(5184×3456の1800万画素)です。カラーバランスが違いははっきりわかります。

丁寧に行うなら、これら4枚のカラーバランスを整えて、カブリ補正を行なったのちにモザイク合成を行うのが通常です。しかし今回はあえて、このまま処理しました。

モザイク合成結果

ICE

まずはICEの結果を。合成したのちPixinsightのSTFで仮ストレッチした画像です。でん。

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お。カラーバランスのズレは、補正してくれてますね。一見非常にうまく繋がっているように見えます。真ん中付近を拡大して見ましょう:

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4枚の境界付近です。このようにpixel 等倍ではほころびを隠しきれません。それぞれの画像がノイズも青ハロの出方も違いますので、ただ繋げるだけでは当然の結果です。

APP

つづいてAPPの結果を。こちらも合成したのちPixinsightのSTFで仮ストレッチしてます:

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しっかり合成できています。中心部分を拡大して見ましょう。

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おお、これはさすがですね。境界わかりませんよね? APPは各画像のNormalizeを局所的に行い、境界部分は2次〜4次関数で補間して滑らかに繋いでいるようなので、こういう結果になるのでしょう。ちなみに右上の領域だけ星がデカイのは、顧問の撮影技術の問題と思われます。

1800万画素の4枚合成で要する時間について。

ICEだと画像を読み込ませて数回クリックすれば10秒くらいで合成が終わります。一方、APPは単純に処理だけで20分くらいかかりました。それ以外にも処理前に星の検出で3分くらい、各種補間方法やLocalNormalizeのパラメータなどの設定は慣れないと10分くらいかかりますね。使用したパソコンは、Intel Corei5 2.4Ghzに8GBメモリを積んだモデルでグラフィッグボードはGeforceGTX1050でした。

終わりに

APPでモザイク合成後に一生懸命に処理した画像を、蛇足ながらご紹介致します。彩度上げすぎかな?

M16, M17 and the Sagittarius Star Cloud

Date: 23th May 2020
Location: miyagi, Mt. zao
Camera: Canon EOS 60Da, EOS Kiss X5 twin system
Optics: Mamiya Apo-sekor 250mm F4.5
Exposure: 360sec. x 8(ISO1600, 60Da) and 360sec. x 8(ISO1600, KissX5) . 2x2 mosaic
Guide: Kenko SEII, PHD2 guide

 

 

蔵王雲抜けの巻(8ヶ月ぶり2回目)

f:id:snct-astro:20200528171024p:plainくもじいじゃ*1

今日はワシが,東北地方における雲抜けについてお話しするぞ。言うまでもないかも知れんが,雲抜けとは山頂が雲の上に出ることじゃな。

時期はずばり梅雨じゃ!

東北の梅雨は,やませと呼ばれる特有の季節風が吹く。そんなときは,下の写真scw予報みたく太平洋側に雨が降って,日本海側が晴れることがよくあるじゃろう?この太平洋側の雲は所謂「低層雲」なのじゃ。下界では,霧や靄が出ていることが多いぞ。

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この条件なら雲抜けの可能性ありじゃ。Meteoblueにアクセスして,雲の高さを要チェックじゃ。ここにアクセスするとお主らの地方の天気予報が表示される様になっておる。

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こんな画面じゃ。左側のメニューから"weather map"を選んでクリックすると,地図がでてくるから,そこでお主らの興味のある地域に青いカーソルを合わせれば,一週間の天気や気温に加えて,高度ごとの雲の分布や風向きが表示されるぞ。

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だいたい,雲の高さが1500mくらいなら,蔵王でも雲抜けのチャンスじゃ!あとはお主らの運次第かの。それじゃあの。

蔵王の雲抜け。仙台上空に大気光が!

それは2423日土曜日でした。

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当日夜の気圧配置。

名取市は気温が低く,べったり曇った陰鬱な天気。scwは山形地方の晴れを予想しており,meteoblueの示す雲頂高度は1000mちょっと。とりあえず,蔵王の賽の河原まで行ってみて,曇っていたら山形まで足を伸ばそうという計画でした。

麓の温泉街は濃い霧の中で、これは期待できそう。結果はカンペキで、エコーラインを登っている途中から雲のうえにでました。山頂付近ではべったりと分厚い雲が,完全に宮城県側の下界を覆っていました。これを予想していたのは私たちだけではなかったようで,主に東北大の天文同好会の学生さんたちがたくさんきていました。

こちらは、賽の河原駐車場から東方向を撮影した画像です。

The milkyway in night grow

天の川の中心部ははこんなかんじ。低空までくっきりです。

The Milky Way

画像処理していて、どうも緑が被るなと悩んでいて、よく考えてみればこれは大気光でした。蔵王で、しかも仙台の方向で大気光が見えるのはかなり珍しいかも知れません。危うく画像処理で消去してしまうところでしたよ。

 

そんなわけで、1年に数回あるかという最高の星空を満喫できました。天の川以外には、サドル付近とバンビの横顔付近を 撮影したので、次回報告いたします

 

 

 

 

モノクロ・フラットとカラー・フラット(小ネタ)

撮影した画像の周辺減光を修正して、写野の明るさを均一にするのがフラット補正の目的です。

フラット補正は、対象になる元画像の明るさ(輝度)のみに変更を施し、色バランスは不変に保たれる。天体画像処理の各種ソフトウェアはそのように処理をしているのだろう,と顧問はこれまで思っていました。

ところが例えばPixInsightの場合、フラット補正ではRGBの各チャンネル毎に単純に割り算を行なっているようです。そのため、用意したフラット画像に色がついていると、元画像の輝度だけでなく色バランスも変更されてしまいます。もっと広く使われている Deep Sky Stackerも、フラット処理はRGB各チャンネル毎、別々に行なっているようです*1

「それならば、単純にフラット画像がグレーになるように撮影すればよいではないか。ひょっとこ野郎が。」

と顧問を面罵・排斥する方がおられるかもしれませんが、申し訳ない。これには事情があるのです。というのも天体用のカラーCMOSカメラでは撮影した画像の色バランスがはじめから大きく崩れていることが多いのです。基本的には、灰色の対象を撮影しても、出てくる画像は大きく緑に偏っています。状況によっては、ニュートラルグレーなフラット画像を得るのが難しい場合もあります。そこで、

モノクロのフラットフレーム

話は単純です。フラット画像を純粋なモノクロ画像にしてから、フラット処理を行えばよいはずです*2

実際には次のようにしました(処理にはPixinsightを使ってます);

  1. ベイヤー配列のままコンポジットしたフラット画像を用意する。
  2. そのフラット画像を、ディベイヤーしてカラー化。
  3. ConvertToGrayscaleの機能で、モノクロ化。32bit fitsで保存。
  4. 上の画像を、モノクロのマスターフラットとして、キャリブレーションの処理を行う。

というものです。ディベイヤーした画像をつかって、ディベイヤーする前の画像を除算することになる点が、なんとも気色悪いですが、キャリブレーション時にエラーは出ませんでした。

結果(適用例)

まず元画像は以下のとおり。カラーCMOSによる撮影では、このように撮って出しが緑に偏ってます。

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用いるフラット画像は、ディベイヤーを施してカラー化すると次の写真のように緑色になっています。

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これを「カラーの」フラット画像と呼ぶことにします。このフラット画像で補正を行うと

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このように、結果の色バランスが元画像から変化します。

 一方で、上で説明したモノクロのフラットを適用すると、次の写真のようになります:

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カラーバランスが元画像とほとんど変わっておらず、周辺減光だけ補正されています。モノクロのフラットを使っているのだから当然と言えば当然です。

 

「フラット補正後のカラーバランスが変わっても、背景がニュートラルになるように調整すれば、結局同じなんじゃないの。ひょっとこ野郎が。」

とおっしゃる方がおられるかもしれません。確かめておきましょう:

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結果はこんな感じでした。

どっちが良くてどっちが悪いという話ではなく*3、色のついたフラットを当てたことで、わし星雲の赤の出方が変わってしまったというのは問題です。あまり変なことをしないという意味で、モノクロのフラットフレームを使う方がよいと、顧問は考えております。

 

今後はモノクロ化したフラットフレームだねと。また一つ、徳を積むことができました、お上人様。 

わーるどかっぱずし

____________________

*1:DSSサイトのFAQ内には"Is it possible to use colored flat frames?"という質問に対して"...because DeepSkyStacker is processing each channel separately..."とある。Light, Dark, Flat, Bias... What are they and how to create them?

*2:たとえばSharpCapには、自動的にマスターフラットを撮影する機能があって、それは基本的にはモノクロのフラットが生成されます。オプションでカラーのフラットを選ぶこともできるけれど、「色のついたフラット画像は、合わせるのが難しいよ」という趣旨のワーニングがでますね。

*3:でも、見た目はカラーフラットのほうが良い結果に見えま。Gが強い画像で割った分、Rが強くなったのでしょうか。

ソンブレロ・チャレンジ

春夜のやり残し。

表題のソンブレロ・チャレンジとは顧問の造語で、M104銀河の円盤にある波状の紋様を映し出す挑戦ですのことです。

宮城県では南に低い不利があります。南中高度はおよそ40度。果たしてどうか??

結果

まずは結果から。ででん!

M104, the Sombrero Galaxy

Date:13th, May. 2020 20:40~23:10
Camera: ASI294MC-pro
Optics: Takahashi MT200 with coma corrector F8
Mount: Takahashi NJP
Exposure: 90sec. x 44 flames (gain 120, -5deg.)

出ましたよ。当日のシーイングを考えれば万々歳の結果です。

撮影の狙い・一部始終

13日は中国からやって来ていた黄砂が南の海上へ去って、透明度は抜群。しかしシーイングは最低。およそ長焦点撮影に適した夜ではありませんでした。

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行きがけに立ち寄ったコンビニにて。空は綺麗だったのです。

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こちらは撮影の様子。そーなのかー氏とごいっしょしました。気温が下がった時のピントの変化を指摘してもらって助かりました。

撮影に用いる鏡筒は、1200mmF6のMT−200です。普段はバーダーのコマコレクターを付けています。今回の撮影では、本来この筒に付属していたタカハシ純正のコマコレクタを引っ張り出して来ました。これだと1600mmF8になります。イメージーサークルが小さい補正レンズなのですが、フォーサーズの294MCなら問題ないだろうと。

M104は立体角あたりの輝度が高いです。周辺には何もなくて、淡い部分のあぶり出しも必要ありません。そこで露光時間は解像度重視としました。F8の暗い筒での撮影で、露光時間は90秒と短めに設定。66枚を撮影しました。Gainも120としました。これでも中心部分はわずかに飽和いたぐらいで、もうすこし短くてもよかったかもしれません。

処理について

フレームの選別

90秒露光x66枚をすべて並べてコマ送りにして見ました。

2時間の間に90秒以上の長いタイムスケールで星が大きくなったり小さくなったりしてます(youtubeの圧縮のせいでうまく見えないかもしれません)。シーイングが数分の長いタイムスケールで変化していることを示しており、ラッキーイメージングの手法は、90秒露光でも有効そうです。

つぎに、PIのSubframeSelectorで打ち出した星の半値幅の推移を見てみます。

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撮影開始から気温が低下してピンずれしていき、横軸indexの20のところでフォーカス調整し直しています。そのあと対象が西に低くなるにつれ、だんだんと半値幅が大きくなっていくのがわかります。index38,39の一時的な悪化はシーイングの影響と思われます。

ちなみに、半値幅がもっとも小さい一枚にSTFをかけて仮強調したのがコチラ:

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うーん、円盤の紋様わかります?はっきり言ってノイズに埋もれてますよね。

Decomvolution

模様のあぶり出しにもっとも効いたのが、PIのDecomvolution処理でした。スタック後に背景だけ整えて、STFで仮ストレッチしたものを切り出して見ました:

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この状態でも、うっっすら模様がでているようにみえます。ここにDecomvolutionをかけると・・・

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模様がはっきりします。が、しかし、同時に周辺背景に浮かんで来たノイズパターンの周期が、ソンブレロの円盤の模様の周期とコンパラです。これはアーティファクトを疑わないといけません。

ハッブルの画像と注意深く比較して見ましたけれど、一応は現実の紋様と相関が見られるので、今回は「写せた」と判断しました。最終画像ではマスクをつかって、decomvolutionを銀河にだけ作用させています。

 

以上でございます。来年はもっとシーイングの良い夜にチャレンジしたいですね。

 

 

LCD画面フラットと光害フィルタ

光害カットフィルタを含んだ光学系を使っている場合、フラット画像をLCD(液晶ディスプレイ)光源から取得するには、ちょっと注意が必要だろうというのが、今回のお話です。

事の起こり

先日M16。FC-76(レンタル品)にHeib-IIフィルタと取り付け、ASI294MCで撮影しました。

帰宅してからいつも通りパソコンの液晶画面でフラットを取得。ここ最近、慣れようとしているPixinsightで前処理します。Calibration(ダークバイアス減算とフラット補正)を行なったあと、わひゃーん。珍妙なことが。

フラット補正前:
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フラット補正後
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画面が真っ赤。いくら何でも赤すぎで、私はディスプレイが壊れたかと思いましたよ。これではカラーバランスを整えた後にも、影響が残ってしまうかもしれません。仕方がないので、このときはフラット補正を省略し、処理を進めたのでした。

しかしなぜこんなことが? フラット補正が、RGB各チャンネル毎に除算を行なったあと、輝度が変わらないように規格化して出力しているならば、カラーバランスは崩れないはずです。

液晶画面のスペクトルと光害フィルタ

夜空の背景がニュートラルな灰色であるのだから、フラット画像の光源として使うLCDの色も灰色であるほうがよいだろう。私はそう思っておりました。

あ。でもでも。夜空とLCDでは同じ灰色でもスペクトルまで同じなわけ無いはないか。

それを、特定の波長をカットするフィルタを通して撮影すれば、色バランスが大きく変わってしまうはずです。

夜空の背景スペクトルは、大気光や各種光害などの総和であって、だいたい連続スペクトルになっていると思ってよいでしょう。それに対してLCDのスペクトルってどうなっているのでしょうか? ということを私はTwitterでツイートしましたら、バケラッタさんというかたが、ササッと測定してくれました。許可を得て掲載いたします:

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これはHuaweiノートパソコンのLCDから得られたスペクトルです*1。当然ながら連続スペクトルではないです。

一方で、Heuib-IIフィルタの特性は以下の通りです(協栄大阪のサイトより転載)

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Heuib-IIは、Haのコントラストを高めるために、それ以外のRの成分である600nm〜650nmをカットするため、LCDの赤はごっそり取り除かれることになります。これでは問題が起こりそうです。

灰色のLCDから得られたフラット画像

では、Heuib-IIフィルターを取り付けた状態で、灰色のLCDを撮影して得られたフラット画像をみてみます。

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このフラット画像のヒストグラムが以下の通り

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Rの輝度とコントラストが極端に低いです(Gが強く出るのは冷却CMOSのデフォルトのようなので気にしなくて良い)。Heuib-IIがLCDのRをカットしてしまった結果でしょう。フラット補正後の真っ赤っか画像は、小さい値で割り算すると値が大きくなることの当然の帰結のようですね。。

しかしHeiub-IIが原因だとしても、これを取り外してしまうのは本末転倒。じゃあ、連続スペクトルの光源を使えということになりますけど、スカイフラットは私の好みではないのです。よく使われるLEDトレース台の光源だって、連続スペクトルでは無いはずです。LCDフラットでなんとかすることを考えます。

ライトフレームと同じカラーバランスになるように調整したLCD画面から得たフラット画像

「フラット画像がライトフレームと同じカラーバランスになるように、フラット光源の色を調整するほうがよいーー。」

これもよく言われる考え方です。しかし、Heiub-IIを取り付けた状態で同じカラーバランスを得るには、ディスプレイの色を真っ赤っかにしなければなりませんでした。なんとも不自然なことをやっているなあと不安になりながら取得したフラットがコチラ:

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真っ赤っかの画面を撮影しているのに、出て来る画像が緑色。ヒストグラムは以下の通りRとBの輝度とコントラストがだいたい同じになってます

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このふらっとをつかってCalibrationをやり直しました。

フラット補正前:
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フラット補正後

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さきほどの真っ赤っかは解消しました。これぐらいなら、カラーバランスの調整も容易そうです。やっぱり、LCDの色は調整したほうがよいのでしょうか。

うーん、とりあえず「まとめ」

話を戻します。フラット処理では除算を行なった後、規格化しているから、結果の色バランスは変わらないのだろうと思っておりました*2。しかしPixinsightの処理では必ずしもそうとは言い切れないようです。結果だけ見る限り、フラット画像の色は、グレーにするか、ライトフレームと一致させた方が良さそうです。

今回の話題、Heuib-IIに限らず、光害カットフィルターを装着した光学系のフラットを、LCD光源をつかって撮影する場合に問題になります。連続スペクトルの光源を用いるのは、解決策のひとつでしょうけど、白熱電球で壁を照らしてフラットを取るというのも、それはそれで難易度が高そうです。

簡単な方法として、フラット画像のGだけを取り出して、モノクロにしたものをフラット画像として適用するのもありかもしれません。次回以降、考察してみましょう。

*1:バケラッタさんはほか数種類のLCDについても測定してくれましたが、だいたい同じ分布でした。ありがとうございました。

*2:たとえばDSSのサイトのFAQには、「色のついたフラット画像を使っても良いか?」という質問があって、「いいけども、フラット処理は各チャンネルのごとにやるから、R=0とか極端な画像をつかうとGとBだけは正しく処理されるよ」なんて書いてあります。