天文はかせ幕下

赤外撮影と赤道儀のてすと

 

先日の設営では、赤道儀のトラブルで撮影ができず、危うく発狂しかけたことを

に書きました。

どうも電源周りに原因があったようで、と言いますのも後から冷静になってみれば、パソコンの充電を開始したタイミングで赤道儀の挙動がおかしくなったのでした。

しかし。何にしても動作テストをしておかないと、次の遠征に望めません。念のためCEM70のファームウェアをアップデートして、赤道儀のとパソコンの電源を別系統にしたうえで自宅でテストしました

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そのときの様子。電柱がナトリウム灯の影を落としているところに機材を設置します。

「あすこのご主人、夜中にごそごそと作業していることがたまにあるんだけど、気色悪いわよね」

近所の奥様方にはそう見られている思うのです。まあでも、変人であるというイメージが一度定着してしまえば、あとは気を使う必要もなく楽なものです。この日は、作業中に隣のご主人(数少ない理解者)が会社から帰宅されて、ちょっとお話ししたり。

動作テストのついでに、最近流行の赤外撮影を試してみました。294mcにsightron japanの赤外パスフィルターを装着します。

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このカメラのマウント部には、付属のリングを利用してネジ径31.7mmのフィルターが装着可能です。「アメリカンサイズ」と呼ばれるフィルターで、小さいので比較的安価に手に入ります。小さな銀河の撮影なら、多少のケラれは気にしなくても良いでしょうというわけです。

がしかし、いざ撮影に入ると真っ暗で何にも写らずプレートソルブ もピント合わせもできません。実は、別のところにUV-IRカットフィルターをつけっぱなしにしてしまっていたのでした。IRカットとIRパスを重ねたら、何にも写らないわけです(このポカミスでバタバタしている際Twitterでタカsiさんに相談したり、お世話になりました。)。

そのあとは、AstroPhotographyToolsのプレートソルブ も、オフアキガイドもバッチリ決まって、気持ちよく撮影できました。

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M104 and M100
Date: 2021-3-4

Location: natori-city, Miyagi, Japan
Camera: ASI294mc-pro
Optics: Takahashi MT-200, Sightron IR720 pro filter
Mount: CEM70G off-axis Guider+QHY5II174M
Exposure: 240s x 5f gain:120

 M104とM100です。どちらも20分露光でたいしたことないですが、それはともかく今回久しぶりに

「お、写った!」

って感動を味わえました。

天体写真の楽しみの半分くらいはこの「お、写った!」なのだろうと思っています。それだから皆さん、どんどんと淡い対象に挑戦したり、あえて光害地で撮影したりするのでしょうね。この気持ちを忘れないようにしないと。

 

 

 

NGC2903に表れた縮麺ノイズとダーク減算の関係

はじめに

以前、十分になめらかでないフラット画像をつかってフラット補正を行った場合に発生した縮麺ノイズの記事を書きました。

そのエントリでは、マスターフラットに問題がある場合、輝度ムラが縮麺状に分布するタイプの縮麺ノイズが発生する、という話を書きました。下の写真は、その時の例です。

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対象はNGC1333です。左上から右下の方向に、輝度が暗く落ち込んだノイズが縞状に発生して見苦しいです。このタイプの縮麺ノイズ、結局はフラットダーク減算を行って十分滑らかなフラットを得るか、強引にフラット自体をボカしてしまうことで解決しました。

 

今回は、上とは違うタイプの縮麺ノイズについてのお話をしたいとおもいます。まずは例をご覧ください。

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対象はNGC2903です。NGC1333の例とは対照的に、赤や緑の色ノイズが縮麺状に分布しているのがよく目立ちます。

このような縮麺ノイズはどういう原因で発生することがあるのか、その簡単な解決法と,ダーク減算の落とし穴についてが,今回の主題です。

事の起こり

2月の新月期、そーなのかーさんと一緒に、しし座の銀河NGC2903を撮影しました。

遠征の後日、氏がEOSKissX7iとビクセンR200SSで撮影したライトフレームと、そのた処理に必要なダーク・バイアス・フラット・フラットダークを送ってもらいました。自分の撮影した画像と合わせて平均するために、まずは前処理(ダーク減算・フラット補正・スタックの一連の処理)を行います。すると、氏の撮影結果は縮麺ノイズにまみれてしまったのです。それが上の1枚目の写真です。

「なんだ、まだまだ撮像が甘いのう・・やっぱオフアキだよね」

なんて、エラそうにニヤついておったのですが、実は未熟なのは顧問の画像処理でした。と申しますのも、間も無くそーなのかー氏から、同じ素材を処理したxisfファイルが送られてきたからです。下は同じデータを元に、顧問とそーなのかー氏がそれぞれ前処理を行ったあとの画像の直接比較です(左:そーなのかー氏による前処理・右:顧問による前処理)

う!いったいなぜこのような差が生じてしまったのか? 慢心。環境の違い・・・。

冷や汗をかきながら再処理してみます。手抜きでつかっていたWBPPスクリプトをやめてキャリブレーションやディベイヤーなど全てマニュアルでやり直してみます。しかし結果は変わりません。さすがに衝撃をうけました。

「まあでも、これはまた縮麺ノイズへの理解に近づいているのかもしれない」

その夜、顧問は屁をこいてふて寝しました。

後日,いろいろ条件を変えて前処理を行っていたところ,私も縮麺ノイズを取り除くことができ,安堵しました。以下,前処理結果に差が出た理由をくわしく説明したいと思いますが,その前に顧問が行ったPixinsightでのImageCalibrationの設定について書いておく必要があります。

PixinsightのImageCalibration

まず,縮麺ノイズが発生してしまった時,顧問が行っていたImageCalibrationの設定は以下の通りとなります。

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バイアスファイルを指定せず、マスターダークは"Calibrate"と"Optimize"のチェックを外し、マスターフラットも"Calibrate"のチェックを外して処理をしています。 この設定で処理を行うと

\displaystyle\frac{\rm (Light)-(MasterDark)}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(1)

という計算を行った画像が出力されます。ここで(MasterDark)自体はダークに加えてバイアスも含んでいることに注意します。また(MasterFlat)は(FlatDark)をあらかじめ減算したものを使っています。

一方で、以下の設定でキャリブレーションを行うと,縮麺ノイズが解消しました。これは書籍InsidePixinsightなどで推奨されている設定でもあります:

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マスターバイアスが指定されていて、MasterDarkの"Calibrate"と"Optimize"にチェックが入っているところが違います。この"Calibrate"にチェックを入れると、MasterDarkからMasterBiasが減算されます。さらに"Optimize"にチェックを入れると,マスターダークとライト画像の間にセンサー温度や露光時間の差がある場合に、補正を行ってダークノイズの大きさをライト画像に合致するよう調整するのだそうです*1。その調整の係数をAとすると,上の設定では以下のような計算がされます。

\displaystyle\frac{\rm (Light)-A(MasterDark-MasterBias)-MasterBias}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(2)

もし係数A=1なら(つまり"Optimize"にチェックを入れなければ),(2)式は(1)式と全く等価です。

 

つまり結論としては,"Optimize"機能がうまく働いて,縮面ノイズが解消されたことになります。あとで,撮影者のそーなのかー氏に聞いたところ,ダーク画像を取得する時に温度や露光時間をライトフレームと完全に一致させていないとのことでした。なーるほどそれでか,というわけです。

下の三つの画像は,

 (左)元の縮面ノイズ画像
 (中)"Optimize"にチェックを入れて前処理した画像
 (右)そーなのかー氏による前処理後の画像

です。

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縮面ノイズはあらかた解消したものの,それでも右のそーなのかー氏の処理画像が一番綺麗ですよね。それは氏が採用している「ディベイヤーを行わない前処理の方法」に秘密があるからかもしれません。ちょっと本題からずれました。

ダーク減算の"Optimize"の功罪

"Optimize"オプションについては賛否があって,Pixinsightの海外フォーラムをみると「最悪だから使うな!」という意見が多いようです。これは「楽しい天体観測」のNiwaさんから伝え聞きました。上の例では,露光時間と温度が違うダーク減算について,"Optimize"がうまく働いてくれたようです。センサー温度の制御が厳密に行えないデジカメの場合は,強い味方かもしれません。

いっぽうで今回の共同撮影では,私が294mcで撮影したNGC2903の画像をそーなのかー私に処理してもらいました。すると「なかなかアンプグローが消えなかったのですが,どうやら"Optimize"にチェックを入れていたことが原因だったようです。」という話を伺っています。アンプグローには、露光時間と輝度の間に単純な比例関係がないためでしょう。どうにも"Optimize"には功罪ありということですね。

今回の作品

最後に,今回仕上げたNGC2903の画像を上げて終わりにしたいと思います。

NGC2903

The datas obtained by two different photographers (Wata & Naga) stacked to form a single image.

Wata:
Date: 2021-2-11
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: Canon EOSKissX7(mod)
Optics: R200SS+Extender PH
Mount: EQ6-R+130 mm Guide scope+QHY5L-IIM
Exposure: 120s x 78f ISO: 800

Naga:
Date: 2021-2-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: ASI294mc-pro (no filter!)
Optics: Takahashi ε-200
Mount: CEM70G off-axis Guider+QHY5II174M
Exposure: 240s x 45f gain:120

Processing: Pixinsight, Photoshop

 

294mcのノーフィルターで撮影した私の画像をL画像とし,そーなのかー氏の画像のLと平均したあと,氏のRGBの色情報を使ってカラー化しています。8本の光条が合作の印です!

 

 

*1:ダークからバイアスを減算したフレームのノイズの輝度が露光時間に単純に比例するという規則があって,それを利用しているようです。これはあぷらなーと さんが検証されています

apranat.exblog.jp

温度差の補正はどうやっているのかちょっとわかりません。

屈辱のはやま湖

メンタルが弱いと様々のことが上手くいかなくなるものであって、勝負事は基本的に負け越し、過ぎたことをいつまで経ってもクヨクヨと思い出しては憂鬱になったり気に病んだりしてしまう。

顧問もそんな人間です。人に見られていると物事がうまくいかないというのも、よくある事です。例えば私はギターを嗜んでますけど、部屋に一人の時でないとうまく弾けないというのは、意味がないではないか。

 

さて今月。上弦の月の頃に撮影に出かけてまいりました。名取天文台のはたけさんを乗せてて、久方ぶりのはやま湖です。はたけさんは、我々の天文部から独立したのち天体写真を熱心に始め、急激な上達を見せています。今回、彼はM51を、私はM100を撮影予定でした。それで私の中には気負いがありました。 「華麗なる撮影を披露してしんぜよう」なんて余計なことを考えたのです。そんなふうにして失敗したこと、以前にもあって。

これも前回のはやま湖遠征でした。

今回は、私のメンタルの弱さが赤道儀に影響を及ぼしたように思えてなりません。覚えているうちにその詳細を時系列で書いておきます

症状

  今回からAstro Photography Tools (APT) を使ってみようということで、もう一人ご一緒していた(というかいつもご一緒)そーなのかー氏に教授を受けて準備をしていました。CEM70GにMT200を搭載して、撮影カメラは294mc、174mmでのオフアキガイドという機材構成です。

以下は、鏡筒とカメラをセットして、極軸を合わせてからの操作と症状です。

とここまでは順調。(2/22追記:実はこのタイミングで,パソコンのAC電源をバッテリーにつないでいたことを思い出しました。今のところCEM70G自体の不具合ではなく,電源の圧力降下が原因であった可能性が濃いです)

  • ガイドが突然止まる。
  • APTで、もう一度M100の再導入を試みるー>赤道儀が反応しない。
  • 赤道儀の電源を落として、初めからやり直す。やはりAPTが赤道儀を認識しない。
  • パソコン再起動して再挑戦。しかし結果は変わらず。
  • APTを諦め。SharpCapとCarte Du Cielをつかったいつもの操作に切り替え。
  • しかし、Carte Du Cielからの赤道儀の操作ができない。
  • パソコンからの操作を諦めて、HC一本での撮影に切替。
  • HCからのOne Star Alignmentのあと、M100を導入すると
    ”Object exceeds the limit”
    のエラー表示。
  • よく見ると、HCの日付がリセットされている。GPSも動いていない様子。
  • 手動で日付と緯度経度を設定。もう一度初めから。
  • しかしながら、M100を導入すると再び”Object exceeds the limit”。
  • 対象をM101に切り替えてみる。Gotoすると、再び”Object exceeds the limit”が表示されるも、赤道儀はM101の方向に移動。しかしgotoの途中で赤道儀が突然停止。
  • ・・・

向こうでは、そーなのかー氏はいつものように華麗に露光を続けています。はたけ君は

「やっぱり暗い空はいいですね!」

なんていって、M51の撮影も順調なようです。

顧問はひとり涙目です。

「おれ、天体撮影やめようかな・・。それか、鏡筒もろとも赤道儀を蹴り倒して発狂しようかな。」

なんて考えましたが、静かにお片付けすることにいたしました。その後はコーヒーを入れて気分を落ち着かせたのち、

「ちょっと星が伸びてますかねえ?」

なんて自分の写真を心配しているはたけ君に

「いえいえ、十分丸うございます。これだけガイドできていれば100点満点です」

と助言したり、そーなのかー氏の華麗な子午線反転を眺めて

「いいですなぁ」

なんて言ったのち、自家用車に籠もってふて寝しました。 

福島県の某所で撮影した星空です。 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

この写真は、リコーのTHETAではたけ君が撮影してくれました。3名の様子が対比的に良く写ってます。

 

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こちらがそーなのかー氏。

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これははたけ君。

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そして顧問。一人だけ動き回ってます(泣)。

翌々日に動作確認

まづ、後日に動作を確認しました。何の問題もなく、パソコンは赤道儀を認識するし、異常は再現できません。一応、ハンドコントローラーとマウントのFiemwareを更新し、さらにドライバーも最新版に置き換えました。満月期にゆっくりテストして、来月に備えます

sigma Fp, 天体写真を中心に一年使って改めてレビュー

顧問はSigma Fpなるカメラを購入。日常と天体撮影の両方に使ってきました。それから一年余。このブログをご覧いただき「天体撮影用にSigmaFpの購入を検討中です」というコメントもいただいておりますので、ここらへんでもう一度、sigmaFpを1年間使った感想を簡単にまとめたいと思います。

購入時のレビューはこちらです。

上のエントリの内容をまとめますと

  1. 無改造でもHaの感度は結構ある(改造カメラの60%ほど)
  2. 高感度は、ISO3200~6400くらいはノイズが気にならずに使用できる
  3. マウントアダプタの性能は問題なし。
  4. タイマー付きレリーズがないので自作の必要あり
  5. 液晶画面は撮影中offにできない。

といったところ(註:2019年11月現在にて)

(2022年1月追記:上の4.についてSigma Panasonic一眼レフ用のタイマーレリーズがΦ2.5-3.5変換アダプタを介してSigmaFpLに使用可能とのこと

また、撮影中の液晶画面は2021年のファームウェアアップデートによってoffに設定することが可能になっています。)

3.については1年が経過した現在もSigmaFpに対応するタイマーレリーズは販売されていません。いっぽうPCからSigmaFpをコントロールできる"SIGMA Camera Control SDK"というのは昨年7月に公開され、これを使えばUSB接続でカメラコントロールが可能になったようです。しかしこれはあくまで開発者向けのソフトウェアで、顧問が試したみたところワケがわからず、これを使ってタイマー付きレリーズの機能を実現するのは素人には無理に感じました。

5.については、ファームウェアアップデートで撮影中offが可能になるかもという噂はあったのですが、いまだに実装されていないようです。そういうわけでカメラを取り巻く環境は、1年前とそれほど変わっていません。

そういった状況ですが、顧問がこれまでこのSigmaFpを使って撮影した天体写真を全て並べておきます。

Coma Berenices

Horsehead, M78 and Barnard's Loop

Orion with night glow

Comet/2020 M3(atlas) on 11th. Nov

Comet NEOWISE on 19t July

The milkyway - from Sagittarius to Cygnus

IC4592 The Blue Horsehead Nebula

 使用したレンズやマウントは、写真のリンク先に記載しています。

6Dとの直接比較

EOS6Dは随分前のカメラですが、いまだに人気で、天体写真では根強く使われています。その性能の良さについては、改めて述べるまでもなさそうです。実は、うえに紹介した写真のうち、馬頭星雲からM78にかけての星野写真は、SigmaFpと改造EOS6Dにそれぞれ同じレンズをつけて撮影したものです。

そのときのデータをつかって、この二つの直接比較をしてみます。下の1枚目は改造EOS6D、2枚目はSigmaFpになります

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どちらもISO1600の5分露光です。これといって大きな差は内容ですが、カラーノイズは6DよりもFpの方が小さいです。さらに拡大するとホットピクセルが見えてきて、その数はFpの方が多かったです(というか6Dにはホットピクセルがまるで見当たらない)またヒストグラムの平均値は6Dが114に対して、Fpは100でした。これはFpのほうがダイナミックレンジが広いと解釈できるのか、それとも改造されている6Dのほうが感度の波長域が広いためなのか、どう解釈したらよいのかははっきりしません。

キットレンズ45mm DG DNの天体適正

コメントで質問いただきましたので、45mm F2.8 DG DNで星を撮った場合の中心像、周辺像をみていきましょう。自宅庭での撮影のため、カブリが酷く星が少ないのはご容赦ください。絞り開放のF2.8からF4までです。

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うーん。星像は周辺で大きなコマ。絞っても改善しません。周辺減光もそれなりにです。45mmDGDNは「オールドレンズ的な味わい」が開発コンセプトにあったよう(?)なので、これは仕方ない結果かもしれません。星の撮影を目的にSigmaFpを購入するなら、キットで購入せず、べつのArtレンズを買った方が良さそうです。

サムネ用

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オフアキシス(off-axis)ガイドへの入門

(注:使用した写真のリングの配置や順番がいろいろ間違っているので、近く差し替えます 2021-2-14)差し替えました2022-11-3

春に銀河を撮影するために、Off-axis guiding(オフアキガイド)を導入しました。

入門者が、新しい機材やシステムを導入するときに、大きな障壁があるいうのは、天体写真撮影に限らずどんな趣味でもよくあることです。顧問もオートガイドや天体用CMOSを初めて導入した時は、とても戸惑いました。

今回の「オフアキ」については、いくつかの販売店のホームページでも丁寧な説明があり、また他にも詳しい解説サイトはあります。しかしそれらを詳しく読んでも、なにか霞がかかったように細かなところが判然とせず、長く悶々としていました。

結局は「買えばわかるだろ」という大雑把な発想で購入に踏み切り、そうして初めて不明点が明瞭になり、「大して難しくはないのだな」という結論になります。そうすると、初期の戸惑いというのは忘れ去ってしまいます。

と言うわけですので、ここでは入門者の視点を忘れる前に,オフアキシスガイドについての基本的な知識,導入について戸惑ったこと,実際の効果,などについてまとめておきたいと思います。

オフアキガイドってなに?

ごく簡単に説明します。

オフアキシスガイドとは,オートガイド用のガイド鏡を用いずに,メインカメラのセンサーに投影される像の一部を借用してガイドを行う仕組みのことです。

下の図は手書きで恐縮ですが,その概念図です。

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赤い色の円柱が,望遠鏡からの光束を示しています。そのフォーカスが合う位置での光束の直径が「イメージサークル」です。一般的にはこのイメージサークルよりも小さいカメラセンサーを使って撮影を行うので,撮像に使われない領域が発生します。そこで,小さなプリズム(図中の三角柱)を光束の隅に配置し,光の一部を光軸の外へ取り出します(これがOff-Axisということですね)。そこに写っている星をガイド星としてガイドを行うのが,「オフアキシスガイド」です。

我々が導入したオフアキシスガイダー

今回導入したのは、ZWO製のオフアキシスガイダーです。

長焦点撮影での利用がメインになります。我々の部ではf=800mmのε200か、f=1200mmのMT-200にASI294MCを取り付けて撮影する際に利用できるよう、選定しました。下がそのブツになります。

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まず左側に望遠鏡、右側にカメラがきつながります。上側のスリーブがガイドカメラを装着する部分で、ここにはQHY5II-Lなどを挿入できます。またM42のネジで固定されているスリーブは取り外し可能で、通常のZWOの非冷却カメラをガイドカメラとして利用することもできます。

カメラ側のオネジ部分も着脱可能になっていて、それぞれM42とM48のネジが切られた2種類のアダプタが用意されています。

望遠鏡側はM48のメネジが切られてます。光路長を変えることなくM48メネジ->M42メネジと変換するアダプタが付属しています。

つまりZWOのオフアキは、望遠鏡側の補正レンズがM48かM42のネジになっていれば、そのまま取り付けられます。下は、我々の部のε-200に取り付けた様子です。

自分の光学系にオフアキを導入可能かどうか判定する

はたして自分が今使っている望遠鏡とカメラの組み合わせに、オフアキを入れることができるのだろうか?この点が一番モヤモヤしたところでしした。

判定基準は、使用する望遠鏡とカメラの二つのマウント面の間に、オフアキシステムの光路長(zwoのオフアキなら16.5mm)を確保できるかどうか、になります。この点はもちろん、オフアキを設計したメーカーの方達が「そうなるように」作ってくれていてはいます。ですが原理を理解していないと思わぬ勘違いを生むこともあります。

多くのばあい望遠鏡には補正レンズがくっついていて、その「メタルバックフォーカス」という距離が十分長いかどうかが問題になります。ついでにカメラのフランジバックについても確認しましょう。

メタルバックフォーカス 

問題になるのは望遠鏡の補正レンズに設定された「バックフォーカス」という長さです。これは補正レンズの後玉のガラス面から、焦点面までの距離を指します。ただそれだとわかりにくいので、「メタルバックフォーカス」といって、補正レンズのマウント面(ネジ込んでいったときに、ネジが止まる面)から焦点面までの距離が参照されることが多いです。

この「メタルバックフォーカス」の値が、メーカーサイトをみても大抵ハッキリしないのです。通常はユーザーがこの長さを意識しなくても望遠鏡が使えるように製品が設計されているので、これは当然といえば当然です。しかしその値を知りたい場合は、たとえばタカハシの望遠鏡なら

などが参考になります。

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多くの場合、50mm以上100mm以下といったところです。またメタルバックフォーカスがわからなくても、それぞれの補正レンズごとのシステムチャート(望遠鏡へのカメラの接続方法の図解)は多くの場合公開されてますので、そこに表示されているパーツの光路長とカメラのフランジバック(後述)を合計すればそれがメタルバックフォーカスになります。

フランジバック

使っているカメラのフランジバックは、そのマウントごとに定まっています。CanonEFマウントなら44mm、ニコンFマウントなら46.5mm、ミラーレスのソニーEマウントなら18mmといった具合です。

一方で、ZWOのCMOSカメラのフランジバックは17.5mmに統一されているようです(QHYCCDカメラのフランジバックは調べてみましたがよくわからない)。

 

以上から、現状でミラーボックスのある一眼レフを望遠鏡に接続している状態なら、カメラをミラーレス一眼かZWOのCMOSカメラに置き換えることで、オフアキに必要な光路長を十分に確保できる計算になります。

次に計算例を見てみます(本当はたくさん例を並べたいのですが、知識不足なもので)

例1:ニュートン鏡に汎用的な補正レンズを装着している場合

我々の部のMT-200という20cmF6の望遠鏡を例にして光路長の計算を考えてみます。この望遠鏡にはバーダー社のMPCC Koma correctorという汎用的な補正レンズをつかっています。

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この補正レンズのメタルバックフォーカスは55mmです。写真手前側のネジはM42、向こう側は2インチスリーブです。

デジカメを取り付ける場合は、下のようになります:

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EFマウント用Tリングの光路長は11mm、キャノンのカメラは44mmのフランジバックを持つので

     11mm + 44mm = 55mm

で補正レンズのバックフォーカスに一致する形です。

このようにカメラを接続しているシステムに対してオフアキを入れる場合は、55mmの光路の中にオフアキの部品が入らなければなりません。この場合、ソリューションは下の写真ようになります

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オフアキ部品の光路長が16.5mm、21mmの延長筒はZWOのカメラの付属品です。

   16.5mm+21mm+17.5mm=55mm

となります。つまり「そうなるように」できているわけです。

ただ、この例はコレクターレンズを除けばすべてZWO製品で揃っているからこうなるわけです。たとえばCelestronのオフアキなら光路長は29mm になるので、8.5mmの延長筒が必要になります。そう言う場合は

☆COSMOの天文工房

などで特注品の延長筒を制作してもらう必要があるかもしれません。 

例2:一眼レフカメラでオフアキを行う場合

ミラーボックスをもつ一眼レフは、ミラーレスカメラや天体用CMOSにくらべてフランジバックが長いので、オフアキ間に挿入するのに制限が大きくなります。しかし、工夫された商品は販売されているようです

このオフアキ部品は、11mmの光路長で作られています。ですので、Tリングでカメラを望遠鏡に接続している状況なら、そのままそれを置き換えるだけで使えるようです。

フィルターの厚さと光路長

ちょっと本題からそれますが、補正レンズとカメラの間に各種フィルターを入れる場合があります。ガラスは屈折率が空気よりも大きいので、フィルターの挿入によって光路長は伸びることになりるので、厳密にやりたい場合は延長筒の長さを補正してやる必要があります。これについては以下のサイトが参考になります。

撮影時の調整

プリズムの位置調整

オフアキに利用するプリズムは、柔軟に位置調整できるようになっています。これも実際に購入して実物を触ってみないといまいちよくわからなかった点です。

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まず、二つのイモネジ(A)(B)を緩めると、プリズムを写真上下方向に動かすことができます。撮影に備えて、ケラレが発生しないギリギリの位置にプリズムを調整します。また3つのイモネジ(C)を緩めると、カメラ自体を60度弱回転させることができますので、センサーの短辺方向にプリズムが来るようにします。

後者の調整は必ずしも自由度が十分でなく、この写真のようにプリズム位置がセンサー長手方向に対してわずかにずれてしまう、なんて自体も起こりました。

ガイドカメラのピント調整

ピント調整はプリズム反射位置を基準にして、下の写真のように,ガイドカメラと撮像カメラのセンサー面がプリズム位置から見て同じじょりになるように調整します。

ZWOからガイドカメラのピント位置を調整するためのヘリカルフォーカサーが販売されてますので,これを使用したほうが良いと思います.

あらかじめ昼間の時間帯に、十分に遠い風景などを利用してあらかじめ調整しておきましょう

ガイドカメラの選定

オフアキ用のガイドカメラは、感度重視になります。

通常のオートガイドでは、100mmから200mm程度のガイドレンズがよく使われるのに対して、オフアキシスガイドでは撮像画面そのものを使ってガイドしていることになるので、小さなピクセルピッチは必要ありません。そのかわり画面に写る星の数はとても少なくなりますので、ピクセルピッチが大きめで感度の良いカメラが適していることになります。

我々の部では、ちょっとお高いですが

を選びました。

ガイドの結果

以上のように、色々と面倒くさいことが多いオフアキシスガイドですが、運用にこぎつければその威力は絶大でした。

2月9日、f=800mmのε200で、NGC2903を4分露光で50枚ほどの撮影しました。そのコマ送りアニメをご覧ください。

風の強い夜で、歩止まりは80%ほどでしたが、それぞれのコマで星がほとんど動いていないことがよくわかると思います。途中星が大きく移動しているのは、子午線反転を行った為です。

通常のガイドカメラでオートガイドした場合のコマ送りアニメと比較してみますと、上の結果が優れていることがわかると思います。赤道儀は同じCEM70G、望遠鏡の焦点距離は620mm、240秒の露光です。

星が一方向にスライドしています。これはガイドカメラに対して相対的に望遠鏡が撓むために起こる現象で、撮像とは別の光学系でガイドを行っている都合上、完全に排除するのは難しい事態です。特にCEM70GのiGuiderは、ガイド鏡がマウント部にガッチリ固定されているのでたわみの影響が大きくなるようです。このようなたわみの影響が表れないことが、オフアキを導入する最大のメリットになります。

おわりに

少し尻切れトンボですが、オフアキガイドについてまとめました。今シーズンの銀河撮影に大いに活躍してくれることを期待してます

 

 

ゴリラテープでレンズ修理

はじめに:Mamiya Apo-sekor 500mm F6の悲しい履歴

いまから2年ちょっと前。顧問はYahooオークションを利用して表題のレンズを入手しました。

「250mmが天文適正バッチリだから、500mmだってイケるだろう。」

なんて言って。みなさんご存知のように、こういう推論は必ずしも正しくありません。なのに

「貧乏人はひっこんでろ!」

なんて悪態をつきながら、顧問は無計画にレンズを落札したのです。価格は10万円ちょっと。当時250mmが2万円弱で手に入ったのに比べれば高額でした。

しかし蓋を開けてみますとこのレンズ、星の周りにコマが発生するためにどうも星像がすっきりしません。まあでも250mmに比べれば光学性能が劣るという程度で、十分使えることは確かです。周辺減光がとても小さい利点もあるので、これまで頑張ってこんな写真を撮影してきました:

M81, M82 and the faint clouds around

Orion Nebula

cone nebula and Christmas tree cluster

 

これら3作品を残して1年余り後、ガシャーンバリーン事件がありました。レンズはEOS6Dもろとも、アスファルトの地面に落下してしまったのです。その顛末は

に書いております。

上のエントリには、「破損したのはマウントアダプター*1のみ」とありますがそれは間違いで、後で判明したところによると実はレンズも壊れてました。絞りリングのあたりがガタつくようになってしまったのです。撮影してみると星像もボロボロ。

さて、仙台のカメラ小僧なら、必ずお世話になっているであろうショップに「コセキカメラ」があります。顧問は壊れたMamiyaを持ち込んで相談してみました。

「一度レンズを落っことしてしまって、この通りです(グラグラ」
「あー、これはまずいですね。たぶん、内部の閉めネジが緩んでいるだけっぽいですが、ウチでは修理できないので、別の修理店に見積もってもらいましょうか?」
「はいおねげーいします」

なんてやりとり。数週間後に回答があり

「(請負いの店によると)ガタつきによるスケアリングエラーは確認できなかったとのことですが、修理は可能で3万円かかるようです。どうします?」
「スケアリングエラーが確認できない? うーん、それだと直るかどうかはっきりしませんよね。」
「そうですねー。」

結局、修理は諦めて、Mamiya Apo-sekor 500mmは長い眠りについたのです。

ゴリラテープ登場

最近ホームセンターにいくとしきりに宣伝されているゴリラテープ。

「Oh... ごりら」
「ゴリラテープ!そうだよね!」

って、顧問もそうだと思います。強烈な接着力と、ほとんど伸び縮みしない強い繊維が特徴のテープです。買ってきました

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ちなみにこれだけで1200円くらいします。こいつでガタつくレンズをグルグル巻きにしてやればいいんじゃね? 顧問は愚考したのです。

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うーんカッコ悪い。しかし仕方なし。ちなみに絞りの調整はもうできません。

 修理の結果

本日。庭先で修理の成果をチェックしてみました。まず下の写真は、ガシャーン・バリーン事件前のフルサイズでの中心と周辺像です

落下事件前↓

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ガシャーン・バリーン事件直後↓

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そしてこちらが「ゴリラテープ後」↓

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残念ながら壊れている時の画像がないので、ここまで読んでくださった方にとっては「何のことやら」という感じかもしれません。どうもすみません。後ほど壊れていた時の画像が見つかったので、掲載しました。星像が楕円に変形して、コマが拡大しているのがわかると思います。

結論としては、ゴリラテープの補強である程度星像は改善しました。なんとか使えるようになってよかった。春には干潟星雲でも撮影してみようかな。ありがとう、ごりら。

 

*1:マウントアダプターは応急処置のあと、いまはクラスノスチ氏が利用しています

かみのけ座の4時間露光

1月9日。Mamiya250mmのツインでかみのけ座の撮影してました。

Coma Berenices Date: 2021-1-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: Canon EOS6D(mod) and Sigma fp (twin)
Optics: Mamiya apo-sekor 250mm F4.5
Mount: Kenko SEII, MGEN guiding
Exposure:EOS6D ... 300s x 22, SigmaFp ... 300sec. x 26 ISO: 1600
Processing: Pixinsight, Photoshop

構図もなんかアレな感じだし,こんなところを4時間も露光して何がしたかったのか?おそらく「銀河がたくさん写ったらいいな」と思っていたのでしょう。しかし実際3・4個しか写ってませんでした。

写真上の方に、かみのけ座の特徴的な星の配置が写っています。これはNGC4565を手動導入するときの良い手がかりになる並びで、暗い空なら肉眼でもよく目立ちます。写真では,オレンジ・青・白の対比が案外に美しく、驚きました。

Coma Berenices, annotated

こちらはアノテーションを加えてみました。実際にはIC番号の銀河がたくさん映り込んでいたようでした。250mm程度の焦点距離だと微光星と区別がつきませんね。

ところで写真に映った銀河の数えるときに,良い助数詞はないでしょうか?

1つ2つとか1個2個というのはなんとなく矮小な感じです。上の写真に映り込んでいるNGC4656をみていると「1枚2枚」とか「1皿2皿」と数えたくなってきますがそれもどうかと。

もっと雄大な助数詞はないかなとTwitterに呟きましたら

 なんて反応がありました。どちらも悪くない感じです。もし何かアイデアとか「実は昔からこう数えられているのだよ」なんてことありましたら,是非コメントお願いします