天文はかせ幕下

弓張平でM106を撮影しました

4月の新月期は、山梨県の弓張平に出かけてM106を撮影しました。その顛末の報告です。

撮影地

弓張平公園は、月山のふもとにある美しい公園です。

標高は600mほどで、街灯のない広い駐車場があって天体写真撮影にもとても良いところです。高速道路のICがとても近くアクセス良好なのも嬉しい。

じつは、前回ここに来たのはもう5年以上前です。その時は見事な曇天に撮影を阻まれ、かのーぷすさんと一緒に雲を数時間眺めて撤収したのでした。盆地のような地形と湖が関係しているのか、どうも「雲が湧きやすい場所」というイメージがあります。

春休み最後の週末のこと。我々は熟慮を重ねた末に月山周辺の天候がベストと結論します。それで今回もかのーぷすさんと現地で落ち合う予定を立てました。ところが大事なことを見落としていたのです

「雪が積もっていて駐車場に入れません」

先発していた氏からDMで連絡が。なんと!4月だというのにアスファルトの駐車場まで根雪で埋め尽くされているとは・・・。地元の方にとってみれば「月山なんだから当たり前だろ」という話なのでしょうけど、数年つづく暖冬傾向にすっかり油断してました。

結局、除雪されていた建物わきの駐車スペースをかのーぷすさんが見つけてくれていて、何とか撮影できたという顛末です。

コチラが撮影地。南側が開けていて暗く、雪山と星空の対比がなかなか美しい場所でした。空はすこし霞んでいて、0時過ぎには曇ってしまい、撤収となりました。それでも4時間は露光できたので、良しとしましょう。

結果

コチラです。

around M106

Date: 2024-04-05
Location: Yumihari-daira, Yamagata, Jpn.
Optics: Celestron RASA11'', ASI2600mc & ASI2600mm
Exposure: 180s x 45f gain100 (OSC), 180s x 33f (Mono), total 3.9h
Processing: Pixinsight & Photoshop

黒潰れに気をつけながら、背景を暗くして星と銀河の色彩を際立たせることができたと思います。RASAでやってしまいがちな擬似スパイダーの光条のずれも見えませんよね。うまくいったと思います。

以下、今回の撮影方法や処理についてまとめておきます。

撮影方法

以前のエントリで書いたように、RASA11''での撮影では、撮影の途中にモノクロカメラとカラーカメラを交換する方法で、LRGB撮影をしています。

これは、対物側にカメラを取り付けるRASAの構造上、フィルターホイールが使えないために考えた苦肉の策です。

撮影の手順は以下の通りです:

  1. カラーカメラ(ASI2600MC)を取り付けて、ピント合わせ → 撮影(1時間〜2時間くらいを目安)。後のモノクロ撮影でUV-IRカットフィルターを使う場合は、あらかじめフィルタードロワーにフィルターを入れておくことで、カメラ交換時のピント移動を抑えます。
  2. 子午線反転のタイミングを目安に、モノクロカメラ(ASI2600MM)に交換。ピントは一応確認するだけ(これまでの経験ではカメラを交換してもピントは動かない)。できれば3時間くらい撮影したい。
  3. モノクロカメラを装着したまま、パネルの照明でフラット撮影。(おわり)
フラットはモノクロのみ取得

フラットフレームは、モノクロカメラでのみ撮影し、それをカラー画像とモノクロ画像の両方に適用することにしました。カメラを交換する前にカラーカメラのフラットを取得するのは避けています。夜中にパネルを発光させるのは眩しくてイヤなのと、遠征中の作業はなるべく最小限にとどめたいためです。モノクロのフラットさえあっていれば、カラーのフラットがずれていてもLRGB合成後の影響はそれほど大きくないという判断もありました。

なお、PixinsightのWBPPで、カラー画像に対してモノクロのマスターフラットが指定できないようでした。なのでキャリブレーションのみ、ImageCalibrationプロセスを使用してマニュアルで行っています。

ピントは意外に動かない

これまでこの方法で2回撮影を行っています。F2.2のRASAを使っているにも関わらず、カメラ交換の前後にピントの移動はなかったです(バーティノフマスクで確認してます)。これは嬉しい誤算で、撮影がだいぶん楽です。ただし、ピントは2台のカメラのバックフォーカスがどれくらいの精度で合致しているかにもよる話で、たまたまアタリだったのかもしれません。それともZWOの機材の精度がすばらしいのかも。

画像処理

前処理

カラー画像の処理では、PixinsightのWBPP内Post-Calibrationタブにある"Channels configuration"を以下の設定にしています。これによって、Integration後に出力される画像がカラー画像ではなく各R,G,Bチャンネルのモノクロ画像になります。

ちなみにこの機能は、昨年末くらいにPixinsightのフォーラムで議論されていて最近WBPPに実装されました。Debayer補間による画質の劣化を避け、各チャンネルを別々にアライメントすることで大気差や色収差の影響も補正できるのが大きなメリットです。じつはこの方法、そーなのかー氏が3年前にすでにやっていた方法と同じなんです

さすが!そ氏!あと、同じ方法をあぷらなーとさんも独立に思いついていたようです。さすが!あ氏!

上記によって、L,R,G,Bの4枚のマスターライトが得られるので、Weigjht Optimizerスクリプトを使ってウエイトを計算した後に、スタックして1枚のL画像を作ります。ただ最近WOスクリプトがエラーでうまく動きません。Pixinsightのフォーラムでもそのことが指摘されていて、現在対応中だそうです。WOを使わなくてもPSF Weightでスタックしてもある程度良い結果が得られます。

後処理

最近、後処理で悩むことが増えてきました。特に今回のM106のようなメジャーな対象で、自分なりの個性を出そうと欲張るために、ふと手が止まって何をして良いのか分からなくなってしまうのです

硬調に仕上げたい

それで今回は「硬調」な銀河の画像を目指しました。海外の作例で、背景をかなり強く切り詰めた画像を目にします。つねに「硬調」が良いわけではもちろんないですが、星や星雲の色彩が引き立つ効果を狙いました。

星沼会のカタログで、メンバーが撮影した系外銀河の画像を見てみると、背景の値は256階調で25〜35くらいが多く、その辺りが自然な落とし所だとおもいます。今回の画像では、20以下を目指します。

単に背景を切り詰めるだけでは不自然になることが多いです。おそらく背景ノイズやフラット補正の誤差で、輝度が落ちているピクセルが先に黒潰れしてしまうからでしょう。そうならないように十分に背景を整える必要があるわけですが

DeepSNRのノイズ処理

今回は(というか最近の画像処理では)以前紹介したノイズ処理プログラム ”DeepSNR” が良い仕事をしてくれました。

このプログラム、適用する画像の種類によって全く効かないことがあるからか、いまいち流行っていないような気がします。これまで色々試した結果、おそらく「1倍のDrizzleでスタックしたカラー画像」のみに効果を発揮するようです。モノクロ画像やDrizzleしてないカラー画像、2倍以上のDrizzle画像に適用しようよすると、上手く行きません。

このように使いにくい部分はあるのですが、DeepSNRが良いのは、NoiseXTerminatorやTopazDenoiseと違って、ノイズ処理にシャープ化が伴わない点です。思い切り強く適用しても、シャープ化のために星がギザギザになるということがなく、純粋にノイズだけを取り除いているように見えます。こちら適用例です

かなり良いように思います(公平な比較のためのパラメータ調整が面倒なので、NXTとの比較は載せませんが、この画像に適用した範囲ではDeepSNRのほうが良い結果に感じました)

おわりに

こんな感じに思いついたことすべて、だらだら書いてしまいました。最近、チリでの撮影に比較して、国内での遠征撮影で「これは」という結果が得られていなかったのですが、今回のM106は満足いく結果に成りました。

 

サムネ用

 

NGC3621を撮影しました

2月から3月にかけてのチリリモートでは、うみへび座のNGC3621を撮影しました

NGC3621

Date: 2024-2-21.29,3-4,3-8,3-16,4-1
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS, correctorPH
Camera: ZWO ASI294MM
Exposure: 240s, gain=120(LRGB), 240s, gain200(Ha,O3)
Number of frames: (L,R,G,B,Ha)=(251, 63, 59, 69, 331)
Processing: Pixinsight, Photoshop

大きさも明るさも、だいたいM106と同じくらいの銀河です。とても明るい中心部に比較してとても暗い腕の部分は、均整の取れた渦巻きの構造になっています。

場所はこのあたり。ちょうどコップ座の南方向で日本からもギリギリ観望できる位置にあります。

ところでこの、「フレーム銀河」とか「南十字銀河」をいう名称はどのくらい信じていいものなんでしょう? Stellariumではたまによく分からない愛称が表示されるような気がします。

 

画像処理は、淡い腕の表現が難しかったです。炙り出そうとすると、代償として散在する球状星団によるツブツブが失われる感じがして、3回やり直しました。星沼会の皆さんにもみてもらい、結局腕を強めにストレッチしたこのバージョンを採用しました。渦巻き構造が美しいので、多少ツブツブ感を犠牲にしても、この方がいいだろうと判断。

色は、腕がシアン、中心部が黄色にによってしまっている気がします。シアンは青から群青、中心部はオレンジぽいのが好きなんですけど、うまく調整できなかったのでそのままとしました。SPCCもBack Ground Referenceの指定のしかたで結果がかわることもあるので、最終的な判断は難しいところです。理想としては、彩度をぐっと持ち上げたときに、好みの色に収束するといいですよね。そういう時は処理がとても気持ちいいです。

 

単秒露光画像なしで、星の飽和部を復元する擬似的なHDR合成

はじめに

星の中心部はかなり光っています。調べてみてすこし驚いたのは、例えばデジカメでIso1600の3分程度の露光をかけると、経験的に6等星くらいまでの星の中心部は飽和してしまっています。

飽和した星のプロファイルは、このようにピークが扁平になっています。

これをそのままストレッチすると、こうなります。

飽和部が円盤状になってしまいました。

この問題は、BXT(BlurXTerminator)を使うとさらにひどくなります。BXTは飽和している星の輝度を全て1にするように働くため、そのままストレッチを行うと、こんな風になってしまいます

これはすこし不自然ですね。

「まあ、別にいいじゃん、拡大しなければ判らないし」

というスタンスもあるでしょう。でも天体写真を見る時は200%拡大して星のフォルムや暗部のノイズ、四隅の星像を必ずチェックするというガチな人の存在を気にして、このは抜かりなくやっておきたい。

上の例では、ストレッチにはMaskedStrechをデフォルトの設定で適用しました。このように星が円盤状になる症状は、MaskedStrechでもっとも顕著に表れるようですが、ほかのストレッチでも大なり小なり似たことが起こります。

この問題への対策は昔から行われていて、例えば荒井さんが開発したFlatAideProの「飽和復元合成」がそうです。これは、メインの長秒の露光に加えて、短い露光時間(たいだい5〜10秒程度)で撮影したデータを用意しておいて、飽和した部分を短秒のデータで置き換えるという方法です。Pixinsightにも"HDR Composition"というプロセスがあって、まったく同じことができます。

ですが、その短秒露光のデータを用意するのは意外に面倒です。星のフォルムを修正するだけだたら、わざわざそのようなことをしなくても、なんとかなるのではないかと昔から思っていました。

今回の目的

というわけでちょっと考え、短秒露光のデータ無しで星の飽和部分を自然な形に復元する方法を思いつきましたので、こちらにまとめておきます。かなり単純な方法なので、すでに同じことを考えて実践されている方もいるかもしれません。また、この方法は星にしか使えませんのでご注意ください。

単秒データなしで行う星のHDR処理

手順は以下の通りです

  1. 【元画像を用意する】
    スタック後のマスター画像にBXTをかけた直後のリニア画像をからスタートします。(BXTを使っていない場合は、Repaired HSV Separation スクリプトを適用して、飽和部の色を調整した画像を用意してください。その方法については蒼月城さんのyoutube
     [APTips 012/ PixInsight編] さよなら Pink Star! その原因と対処法
    を参照してください。)
    今回はこちらの星像を例に話を進めます


    元画像は"original.xisf"という名前で適当な場所に保存しておきます。

  2. 【RangeSelectionで星中心部をカラー画像を抽出する】
    Range Selectionプロセスを起動します。Ligntnessのチェックを外し、invertにチェックを入れます。

    この状態で、Realtime Previewを起動(左下の白丸をクリック)します(Realtime Previewは、STFの仮ストレッチをオフにしてから起動したほうが、効果のかかり具合が確認しやすいです。)

    まず、飽和部分とその周辺の色のついた部分が少々選択される程度にUpper limitを0.98くらいに設定します。次に飽和している最も大きい星を参照しながら、中心部から外側にかけて自然に輝度が変化するようにSmoothnessの値を設定します。今回の例の場合、星の飽和部の直径が15pxだったのに対してSmoothnessの値は2pxで十分でした。
    RangeSelectionを元画像へ適用します。range_maskと名のついたこんなカラー画像ができます


    この画像は"range_mask.xisf"という名前で保存しておきます。

  3. HDR compositionで1.と2.の画像を合成する】
    HDR Compositonを起動して、1.と2.の画像ファイルを指定します。

    ひとまずデフォルトの設定で実行し、場合によって、Binarizing Thresholdの値を調整してみてください。
    出力されるHDR画像では、星のピークを基準に輝度の調整が行われるせいか、カラーバランスが崩れている場合があります。これはSPCCなどを使ってカラーバランスを調整すれば問題なく元に戻ります。

結果の比較

下の画像は、今回の処理を適用した後にストレッチを施した結果(左)と、適用せずにストレッチした結果です。

星の断面を2次元プロットも見ておきましょう。処理後では星が円盤状にならず、フォルムがきれいに復元されていることが分かります。

 

それでは以上です。

「ほんのひと手間」的な処理ですが、画角内に明るい星がある場合は、こういう処理をしておくとすこし星がシャープに見えて印象が変わるので、おすすめです。

彗星を撮る:計画から実際の撮影まで —— ポン・ブルックス彗星編

以下では、今回の12P/Pons-Brooks彗星の撮影について計画から撮影場所選び、実際の撮影までをまとめました。今年の秋にはツチンシャン(紫金山)・アトラス彗星も大いに期待されてますし、その時の撮影の参考になれば幸いです。

彗星が見える位置の確認

彗星の位置確認には、ステラリウムという無料のプラネタリウムソフトが便利です。以下からダウンロードできます

インストールした直後では、彗星の情報はソフトに登録されていませんので、プラグインで彗星情報を追加する必要があります。その方法はこちらのブログにわかりやすく書かれています。

これが済んだら、彗星の符号(今回なら"12P/Pons-Brooks”)をソフトで検索します

画面1 彗星の検索画面

選択し検索を実行すると、彗星の位置が下の写真のように赤いカーソルで表示されます。

画面2 検索結果

彗星は、毎日少しづつ動いていますので注意してください。

構図の確認

構図は、

  • 彗星の尾の長さ
  • 構図に取り入れたい周辺の天体
  • 地上の風景

を考慮して決めます。それらの確認にも、ステラリウムが便利です。「画面2」(a)に示したスパナのマークから、カメラのセンサーサイズとレンズの焦点距離を登録できるようになっています。

画面3 レンズの登録

画面4 センサーサイズの登録

それを済ませたの上で、(b)をクリックすると選択したセンサーとカメラレンズでの構図が赤枠で表示されます(画面3)。

画面5 構図決め

このとき、ステラリウムの「赤道儀モード」をオンにしておきます(写真下部の黄色の丸)。もし新星景の手法で撮影するなら、写野の長編を北に対して何度傾けておくと、日没時に写野の短辺が水平になるか、などもソフト上で画面をぐりぐり動かせば分かります。


彗星の尾がどのくらい伸びているか?を知るのは、はなかなか難しいです。SNSなどを調べて、他のマニアの方々が撮影された直近の画像を確認するしかありません。私のこれまでの経験では「予想以上に尾が長かった」というケースの方が多いです。

撮影場所選び

これが一番大変で、かつ楽しい作業です。

彗星は太陽に近づいてから明るくなるので、見頃の時期には明け方・夕方の低空に見えていることがほとんどです。なので地平線付近まで見晴らしの良い撮影場所を探し出す必要があります。

今回のポン・ブルックス彗星が見えている、北西の低空が見晴らしのよい場所を探します。参考になるのはLight Pollusion Mapです。

画面4

この時期、晴れる可能性の低い日本海側を除外して、今回は福島・宮城県境の宇多川湖(写真の赤丸のあたり)を選びました。

こちらは薄明後の様子。彗星が沈んだ位置は、福島市の光害からすこし北方向に離れていて、撮影には良好でした。

薄明終了後のダム湖の様子

つれを探す

どうでも良いことかもしれませんが、初めての撮影場所ではトラブルもありますし、天体写真を撮影する場所は薄気味悪いところが多いです。事前にツイッターなどで

「明日は彗星撮りに行こうかな」

などと呟き、付き合ってくれる人をさがしておくと良いでしょう。今回顧問は、普段飛行機の写真を熱心に撮っている部員のT君を誘いました。

T君と顧問

T君、星の写真を撮るのも感激していた様子で、良い勧誘になりました。

現地での撮影

彗星撮影に関しては、リモート天文台を複数所有している中東の富豪であろうと、宮城県名取市在住の庶民である私であろうと、誰にとっても与えられた時間は同じです。なので一般の天体写真にまして、光学系の明るさが勝負になります。

今回の撮影ではZeissのApo-SonnerをF2開放で用い、カメラはEOS6Dを使いました。撮影地の宇多川湖は十分に空が暗い場所ですが、低空の撮影ではISO1600の30秒露光で、ヒストグラムが50%くらいになりました。

薄明が終了した直後から25分程度追尾撮影したところで、彗星が山の稜線ギリギリにきましたので、そこで赤道儀のスイッチを切り、固定撮影で20分ほど地上の風景を露光しました。

画像処理

画像処理については、特に新星景の手法には詳しくなく、簡単にまとめておきます。今回の処理では、地上風景の撮影時に空が曇ったために偶然に上手く行った側面がありますので、あまり参考にならないかもしれません。

下の画像の左は、追尾撮影をした彗星とM31、右側は固定撮影した地上風景です。

彗星とM31の画像は適当にストレッチし、地上風景の画像は空がギリギリ白く飛ぶ程度に処理しています。こうするとマスクなどを用いなくても、単純に二つの画像を乗算合成するだけで良い感じに合成することができました(単純に考えると、比較暗合成をしたくなるところですが、試してみると山の稜線が不自然になり、乗算合成よりも劣る結果でした)。

最後に結果です

12P/Pons-Brooks and M31

Date:2024-3-10
Camera:Canon EOS6D
Lens: Zeiss Apo-sonner 135mm F2
Exposure: 30s x 55f, ISO1600, F2(Sky), 30s x40f, ISO1600, F2(land)
Processing: Pixinsight, Photoshop

新星景写真ではありますが、あまり現実離れしないように強調処理は控えめにしてみました。地上風景も単に植林された山と平凡ですが、反対にリアリティがあるような気もして、とてもお気に入りの一枚になりました。

1月・2月のチリリモート

チリでのリモート撮影をしておりますと、撮影している本人が一体どこを撮っているのか、てんで分かっていないことがあります。

一つの対象を数十時間も露光し続けているというのに、なんでそんなことになってしまうのか。

あかんではないか。

というのはやはり、撮影中はN.I.N.A.の画面を眺めているだけで鏡筒がどこを向いているかあまり意識しないですし、また南半球に行って星空を眺めた経験がまだない*1のもあります。

そこでStellariumを使って、3月1日の仙台市から眺めた星空に、今回撮影した対象の画角を重ねてみました。

地面を透けさせたのがちょっとしたアイデアで、これなら位置関係がよくわかります。年明けの1月と2月はここを撮っていたのです。

 

Around southern seagull nebula

Around Southern Seagull Nabula
Date: 2024-1-8,12,13,16
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS, correctorPH
Camera: ZWO ASI294MM
Exposure: 240s, gain=120(LRGB), 240s, gain200(Ha,O3)
Number of frames: (L,R,G,B,Ha,O3)=(114, 53, 49, 49, 94, 49)
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

GUM15 and RCW27

GUM15 & RCW27
Date: 2024-2-5,9,13,17
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS, correctorPH
Camera: ZWO ASI294MM
Number of frames: (L,R,G,B)=(103, 42, 45, 48), 240s, gain120 (Ha,S2,O3)=(66, 18, 57, 37), 240s, gain200 Processing: Pixinsight, Photoshop

 

二つ目のGUM15 & RCW27は、ちょっと構図が窮屈でした。もうちょっと構図を画面左方向に振るとカタツムリ星雲に似たNGC2626があったので、2枚モザイクにした方が良かったかも。

1月に撮影した一つ目の作品の方がより気に入っています。こちらアノテーションした画像です

”Southern Seagull negula"と名前がついているのは右上のNGC2032付近です。これとNGC2020の青緑色の領域が興味深いです。

お隣のアンドロメダ銀河を見ると、このようなO3領域がHαと同様に銀河の腕に散在しているようです。こちら先月、ドイツのアマチュア写真家によって撮影され、AstrobinにアップされたM31の姿です。

astrob.in

中心付近の驚くべきアークに加えて、よくみられるHaの「赤ポチ」と同様に「青緑ポチ」が薄く分布しているのがわかると思います。我々の天の川銀河では、このようなO3成分が極端に強い領域は、タランチュラ星雲の方向に散財しているだけで、北天ではお目にかかれません。でもM31の姿から推測するに、我々の太陽系からは見えない天の川中心部の向こう側などに、同等の「青緑ポチ」があるのかもしれません。

あと、同じ時期に、丹羽さんも同じ構図を撮影されていました。こちらからどうぞ。彩度や色表現など処理に違いもありますが、結構似た結果になりました。

masahiko.me

 

また、GUM15&RCW27を並べて比較すると、同じ画角であるとは思えないほどに、微光星の大きさが違うのも面白いです。

並べてみると、全く同じ画角(f=760mm, 4/3センサー)なのに右の方はf=200mmで撮ったような印象をうけます(スターリダクションはやってますけども)。”Southern Seagull negula"は大マゼラン雲に近く、この小さな星々も、天の川銀河ではなく大マゼラン雲を構成する星々なのでしょう。GUM15&RCW27の周辺の星は、天の川銀河の星々であるはずで、両者の距離の違いから、”Southern Seagull negula"のほうが星が小さく写っているのだろうと思われます。

 

 

サムネ用

 

*1:新婚旅行でオーストラリアを訪れましたが、慣れない海外では夜に出歩く余裕もなく、星を見る機会はなかった

「時空を超えた贈り物 — 宇宙は不思議で美しい —」 を見てきました

先日、CP+に合わせて実家への帰省をしていました。その帰り道に、かなりの遅ればせで、丹羽雅彦さんの個展

時空を超えた贈り物 — 宇宙は不思議で美しい —

を見てきました。実際の会期は昨年の8月で終わっているのですが、顧問は丹羽氏と個人的な友人であるため、特別の計らいでギャラリーを見せてもらったのです。しかもマンツーマンで。その始終を報告したします 

***

急に寒さの戻った2月の日曜日、表参道の街は冷たい小雨に濡れていました。地下鉄の駅から地上に出て、ブティックが立ち並ぶ狭い路地に入り、いくつかの角を曲がって緩やかな坂を下っていきます。すると通りの向こうに見知った姿が。"Davinci PROJECT"の建物の前で丹羽さんが出迎えてくれました。

「あー、どうもどうも」
「いやはやいやはや」

って感じで中に案内してもらいました。

地下のギャラリーには100号サイズ以上の大きな作品が並んでいます。入った瞬間に外界から遮断されるので、気が散ることなく作品を眺めることができます。まずは横にあるテーブルに腰掛けてちょっと休憩。イタリア製の微炭酸水をご馳走になりながら、ちょうどこのときに話題にしていたCFA Drizzleについて少し話しました。

「ではそろそろ本題に・・・」

と席を立ちます。奥へ続く細い廊下を通って階段を登り、もう一つの部屋へ。その一角が四角く仕切られており、小部屋のようになったスペースに丹羽さんの作品が並べられていました。

では、作品を一つ一つ見てまいりましょう。

彩度の対比、動的な宇宙 ケンタウルス座Aと南の回転花火銀河

入ってすぐ右側にあるのが、ケンタウルス座Aの銀河です。

黄色ぽい楕円銀河に「へ」の字をした暗黒帯が横たわっています。その暗黒帯に沿って分布するわずかに青い領域が映し出されていて、遥かな過去に別の銀河が衝突した名残を鑑賞することができます。

これだけならよく目にするケンタウルスAの姿です。この作品の白眉は、中央から噴出する赤いジェットにあります。この構造は相当に長い露光時間を費やした上で、さらに慎重な画像処理をおこなわないと作品として鑑賞に耐える形で映し出すことはできません。プリントの横にはさらに特殊な画像処理を施して、ジェットだけを浮き立たせたモノクロ画像も添えられています。人間の時間スケールでは完全に静止して見える宇宙が、実はダイナミックに変化していることを伝えてくれます。

ケンタウルスAから左を向くと、南の回転花火銀河M83が視界に入ってきます。

中心から外に向かい、黄から青へと変化する腕に赤紫のポツポツがいくつも浮かんでいて、ケンタウルスAと対照的に色鮮やかな姿にハッと爽やかな気分になります。周辺の星の彩度を抑えめにしていることも、中心に小さめに写った銀河の存在感を高めているようです。

M83はもう少し強めにストレッチを行うと、周辺のハローが分厚く浮かび上がったリッチな姿を描出することもできて、Astrobinなどでそういう作品も見ることができます(参考)。おそらく丹羽さんは意図してそれを避け、螺旋状の模様のコントラストを優先させたのだろうと想像しました。「回転花火」の名の通り、そのおかげで銀河全体の巨大な回転が、無限に広がる宇宙の中でひっそりと行われていることが伝わってくると思います。

認知を促す画像処理 NGC2170/2186とIC2188

左に目を移すと、M83よりもさらに色鮮やかな星雲が2作並んでいます。オオムラサキシジミチョウが並んで飛んでいるようなNGC2170/2185

それと、IC2188(魔女の横顔星雲)です。

古代の人が、なんの規則もない夜の星々の配置から星座や神話を想像したことから考えれば、星間ガスと星の放射が生み出した偶然の造形に、蝶とか魔女などと名前がつくこともなんら不思議ではなく、無意味なものに意味を持たせようとするのは、国や民族を超えた普遍的な認知の性質のようです。

丹羽さんの作品では、蝶々は優雅にてふてふと舞って見えるように、また魔女はさらに魔女ぽく見えるように、色彩や星々の表現に工夫が凝らされているようです。例えばNGC2170 / 2185では、個展の全作品の中で最も星が大きく高い彩度で仕上げられています。これは説明するまでもなく、星に見立てた花々の中を舞う蝶々の姿を連想させるわけです。また魔女の横顔星雲の薄青い分子雲の後ろ側には、Hαフィルターで撮影された赤い散光星雲がうすく重ねられています。この赤と青の対比は、音に例えれば不協和音的であり、美しいと言うよりも、血色の悪い魔女の皮膚に浮かぶ病的な血管を思わせる不気味さがあります。

おっと、ここに来て顧問の論評もアート分野の批評家っぽくなって来たかも知れません。丹羽さんは「天体写真がアートとして成立するか」を重要なテーマとされていますが、上に記した人間の認知に根差した画像処理は、その大きなヒントになっている気がします。

情報を削って生み出されるもの ほ座超新星残骸

最後に回れ右!そこには2023年の個展のメインディッシュ。ほ座の超新星残骸がドンと掲示されています。

この作品については語る必要を感じません。「アートとしての天体写真」というテーマに対する、現時点での丹羽さんの解答ですね。

—— 星を消し、色を消す

天体写真から情報を削ぎ落とすことで、逆説的に生み出されるものとしたら、それは何なのでしょうか?

単刀直入に、私は想像力であると思います。この作品をSNSで初めて見た時、シャープなハイライトとぼんやりした背景の星雲の姿から、鋭い波と消えゆく泡の混じる鳴門のうず潮を連想しました。または、背骨のつながった髑髏がこちらを凝視しているようにもみえますし、微生物の複雑な細胞組織を連想する方もいるでしょう。手垢のついた表現を借りれば「想像をかきたてる作品」です。こういった鑑賞者の勝手気ままな想像は、作者の意図を超えて作品を一人歩きさせる力をもっていて、天体写真がアートとなりうるための必要条件の一つであると思います。

来年も?

顧問はたまに美術館などを訪問すると、ぐったり疲れてしまうのですが、丹羽さんと5作品について2時間も喋り尽くしたのちに、それほど疲労は感じませんでした。興奮して何か神経物質が分泌されていたのかもしれません。

最後の30分ほどは、2024年の個展への構想や新しいアイデアについても少し語ってくれました。チリでの撮影の順調なようですし、楽しみですね!

実現したらまた表参道のおしゃれな街を再訪したいと思っています。丹羽さん、お相手いただいてありがとうございました。

 

"My Astronomy Picture Of the Year"を、少し贅沢して印刷する

たまに納得のいく天体写真が撮れたときは、フジプリで印刷を発注して、それをハクバのフォトフレームに納め、自宅の壁に飾っておりました。

一方で、年に一度はMAPOY(註:My Astronomy Picture Of the Year)を定め、もっと気合の入った印刷をなして額装し、ビシッと飾るのも悪くないよなあと思っていました。

そこで顧問は2023年のMAPOYを9月に撮影していたM31に定め、こちらの会社で印刷してもらいました。

FLATLABOは、プロ向けの写真プリントを請け負っている印刷所で、美術館で開催されるレベルの個展を数多く手掛けてられています。天体写真にとって重要な"FLAT"という用語が社名に入っている時点で、なんだか信頼したくなります。

昨年に丹羽さんが開いた個展も、ここに印刷をお願いしていたそうです。私が依頼のメールを送ったときも

「丹羽さんにかなり鍛えられてますので、ぜひお任せください」

と力強いお返事をいただきました。天体写真のノウハウもしっかり蓄積されているわけです。

印刷はA3サイズでお願いしました。仕上がりはこんな感じです

自宅の照明が全て電球色なせいで、この写真ではなんだか不自然に見えますが実際はパソコン画面のイメージに近かったです。

こちらは額装の様子。黒のアルミフレームはシンプルで自己主張せず、良い感じです。

気になるお値段ですが、2回の試し刷りと送料含めて27,000円ほどでした。技術者の方と直接やりとりして調整できるわけですし、年に一度の贅沢としてはそれほど高くはないのではという感想です。

こちらは壁に飾った様子(写真が下手ですみません)。家族は一瞥もくれず素通りですが、顧問はとても満足しています。

注文から仕上がりまでのプロセス

今回のM31を例にして、実際にプリントが仕上がるまでのプロセスをまとめておきます。顧問は基本的に雑誌のフォトコンには応募していないので、印刷の経験が薄いです。カラーマネジメントのモニターも所有していません。

やりとりする印刷データは8bitのtifです。初めにFLATLABOに送った画像は以下でした

M31

これは印刷してみると、がっかりな結果でした。特に銀河の中心部の領域が、プリントではモニターと比較して暗く感じられ、輝度の勾配も不自然でした。原因は元データにあって、中心部の色彩を強調しようと意識しすぎたあまり、明るさが弱くなってしまったのでした

大いに反省し、再処理したのがこちらの画像です

M31_reprocessed

銀河の中間から中心にかけて、スムースに輝度が1に近づくように処理し、前回の処理に比較して彩度を控えました。こちらは試し刷りの結果もモニターに比較して遜色なく、またTwitterにアップした時の皆さんの反応も良かったように思います。

まとめ —— プリントの難しさ

今回は、プリントを通して自分の画像処理を見直す良い経験になりました。その上で、写真プリントの難しさは、輝度表現の調整にあるのじゃないかなと思っています。

と言いますのも上の例のように、プリントでは元になる画像データのハイライトがしっかりRGB=(1,1,1)に近づいていないと輝いて見えない場合があるのですが、モニターは自分で発光している分、その辺りの誤魔化しが効きやすいようなのです。

反対に暗部は、モニターではノイズでざらざらして見えていても、プリントするとほとんど目立たなかったりします。これはモニターの方が、暗部の誤魔化しが効かない、といっても良さそうです。

ともかく、こういった輝度表現の差を埋めるには、モニターで編集しながらプリントの結果を予想するしかありません。これはカラーマネジメントモニターを使っていても同じことで、まさに経験で埋めていくしかなさそうです。

顧問は、この辺りの微妙な調整に深入りするのはしんどいなー、プリントするなら外注で済ませたいなーと思っている派です。すみません。

LRGB合成するとき、BXTはどの段階で使えばよいのだろうか?問題

(注意:今回のエントリはまだ結論が出ておらず、考察というよりは心配事の吐露みたいな内容です。最後まで読まれて、「なんだよ、この野郎」とガッカリしないよう、あらかじめお断りしておきます)

はじめに

モノクロカメラで撮影した画像を、LRGB合成へて仕上げる場合に、Blur X Terminator (BXT)の処理をどの段階で使うのが良いのかという問題を考えています。

といいますのも、BXTはリニアな画像に対して実行することになっています。さらに作者のRussel CromanさんによるBXTのリリースノート

の"COLOR"の節によれば

「 BXTのAIプログラムは、カラー画像を正しく補正するように訓練されていて、RGBの各チャンネル間の関係性を考慮して適切な処理を行う。なのでほとんどの場合、モノクロの各チャンネルに別々に作用させるよりも、カラー画像に作用させたほうが良い結果になる。」

つまりBXTは、カラーのリニア画像に作用させるのがベストということですね

 

しかし一方で、LRGB合成はノンリニア画像に対して行うべき処理でした。例えばNiwaさんのブログにあるように、LRGB合成にともなう様々なエラーを回避するためには、実行前に十分に強いストレッチを行うのがよいのです:

この辺りの話は以前に散々議論した話で、その経緯はSamさんのブログにまとまっています。

また蒼月さんのYoutubeでもLRGB合成がノンリニアなプロセスである理由が明確に説明されています。

 

そしてここからが本題でして、LRGB合成で画像を仕上げる場合、カラーの画像が得られた時点で画像はノンリニアだから、BXTを施すタイミングがないのじゃ無いか?困ったぞ。と思ったわけです。

心配な問題点

シンプルに考えるなら、BXTを取り入れたLRGB合成の処理手順の概要は次のようになるだろう思います:

BXTを取り入れたLRGB合成のプロセスその1。ただしDBEなどの傾斜補正や背景補正の処理は省略して書いています

つまりモノクロのLに対してBXTを行って解像度を上げ、RGB画像に対してもBXTを"Correct Only"で施して色収差などを補正した上でSPCCでカラーバランスを整え、それぞれをストレッチした後にLRGB合成を実行する——という手順です。

しかしながら、この手順について2つの心配事があります

  1. "Master Lum"に対してBXTを実行しているが、これはモノクロ画像なので、BXTの効果が十分に発揮されないのでは無いか?
  2. 最後のLRGB合成の前後で画像の色は変わってしまうから、SPCCの結果が忠実に反映されなくなってしまうのでは?

前者の1.については、星沼会のメンバーでいくつか検証してもらった範囲では特に問題は見つからず、Russel氏の「BXTがカラー画像に対して実行されるべき」って話は、色収差の修正に限った話であり、解像度の改善については関係ないのでは無いか?という見解になっています。この辺りはさらに検証を重ねる必要がありそうです。

2.については、確かにRGB Working Spaceの設定によっては色が変わるのですが、それは、各自の画像処理の味付けの範囲内のことであって、そんなに厳密に考える必要はないのじゃ無いかという意見もあり得ます。

でも、顧問はちょっと気になるなーって心配していました

考えられる対策

リニアなLRGB画像を用意する

リニアなLRGB画像を用意できるなら、上記の問題はマルっと解決します。

Pixinsightには、HSI色空間をつかってリニア段階でLRGB合成をする”LinLRGB”というスクリプトが用意されています。ただ問題もあって、顧問が試した範囲では、LinLRGBで得られる結果は、通常のLRGB合成と比べるとMaster Lumが元々持っていた背景の滑らかさが損なわれるようなのです。ちょっともったいない感じになってしまうので、この方法がベストとは言えそうにありません。

マスク処理

リニア段階でのLRGB合成が全くダメということはなくて、合成前にヒストグラムを揃えていれば、エラーが出るのは輝度の高い明るい星の周辺だけです。それなら、星にマスクをかけて、高輝度部のみをLinLRGBで合成した画像を置き換えてエラーを回避するという方法が思い付きます。そしてその後にBXTやSPCCを行えばよろしい。

あるいはもうちょっと複雑ですが、リニアなLRGB画像にBXTをかけた後にストレッチした画像と、通常のストレッチ後にLRGB合成したノンリニアな画像を星マスクをつかって合成するのもあり得る方法です。これは文章にするとわかりにくいのでヒストグラムを作りました:

いかにも面倒臭いプロセスです。今月チリで撮影したNGC3532のデータをこの方法で処理してみました。

NGC3532 (Wishing Well Cluster)

Date: 2024-1-8,12,13,16
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS, correctorPH
Camera: ZWO ASI294MM
Exposure: 240s, gain=120
Number of frames: (L,R,G,B,Ha)=(87, 56, 57, 59, 153)
Processing: Pixinsight, Photoshop

ある程度上手くはいっていますが、正直この画像について言えば、普通にストレッチしてからLRGB合成するのと対して結果は変わらず。

BXTの中身がブラックボックスである以上、こういった議論は色々な画像に対して試してみて結果を吟味するしかなさそうです。そういうわけでこのテーマはまたぶり返して登場するかもしれません。

結論

まとまりのない内容になってしまいまして、なんかすみません。こんなエントリはボツにしてもよいのですけど、書くのに1週間くらいかかってしまって、もったいないので上梓します。

2024年の撮り始めは神割崎でエンゼルフィッシュ

秋田県勢のみなさんと賑やかに撮影

冬になりますと、日本海側の天文ファンが晴れ間を求めて太平洋岸までやってきます。1月14日の神割崎での遠征撮影は、そんな秋田県勢の方々をお迎えして賑やかな撮影になりました。

普段より賑わう神割崎の下駐車場

ここに謹んでご紹介いたします:

お気楽ジョガーさんとは、夏のCANP以来の再会です。実はカメラをお借りしていたりと、個人的にとてもお世話になっております。ツイッターリンクはクリックすると、M42まで写った画角でご覧になれますのでぜひ。

永太郎さんとは、2020年の元旦にここ神割崎でお会いしたのが最初でした。あの時はバラ星雲の導入に2時間苦しんでおられてお手伝いしたのですが、あれから急速に技術を磨かれて、最近もとても印象的な作品を仕上げてらっしゃいます。今回のDualBandPass系のフィルターをつかったパノラマも素晴らしいです。仙台の光街で西方向が明るい神割崎で撮ったとは思えません。こちらもクリックすると南の端にうっすらガム星雲まで写っていて、驚きます

もう一人の方は初めてお会いする方で、こちらのブログ主の方でした。 

天文はかせ幕下もご覧になってくれていたそうで、嬉しい限りです。25cm鏡でのライブスタック撮影をメインにされていますが、一晩にたくさんの銀河を撮影していくスタイル、となりで少し見せてもらいましたが、すごくたのしそうでした

長い夜

当日はめずらしく明るいうちに現地入り。長い冬の夜をじっくり味わえました。撮影開始が18時半。ライトフレームを50枚確保した時点でも

「あらら、まだ9時ですよ。今夜はこれからですよ、うひひ」

なんて気色悪くニヤついておりました。皆さんとの雑談の合間に、カレーメシ食べて、コーヒー飲んで、コーンスープ飲んで・・・といろいろやっても、まだ0時前でした。

気温も0℃前後と快適な夜。風が少し強いことは予報であらかじめわかっていて、そのため135mmと250mmの短い焦点距離での撮影です。ガイドエラーの心配がほとんどないので、撮影中まったりできます

撮影中に星空を見上げるワタクシです。こういう写真を撮ると、自分がやたらエラソーな姿勢だったり顔が間抜けだったりで気に入らず、5回くらい撮り直しました。

撮影結果

エンゼルフィッシュ星雲の周辺

f=250mmのカメラレンズ2台にASI2600MMとMCをそれぞれ取り付けてトータル14時間超撮影したエンゼルフィッシュ星雲の周辺です

Angel fish nebula and sh2-263

Date:2024-01-14
Location: Kamiwari-saki, miyagi
Optics: Mamiya Aposekor 250mm F4.5, UV/IR Cut only for 2600MM  
Camera: ASI2600MM/MC
Exposure: 180s x 149f(mono),  180s x 146f(mono), total 14.75h
Processing: Pixinsight and Photoshop

南を上にとる構図を選びました。エンゼルフィッシュの口先から分子雲と散光星雲(sh2-263)がプクプク泡立っているイメージです。右下に写っている明るい星の色を出すのに腐心しました。

この領域について(なんちゃって天文学

星図を書き込んでみました。

この写真に写っている星雲は主に3つで、いづれもSharpless(Sh)カタログ*1に記載されています。左上からSh2-265, Sh2-263, Sh2-264です。

ここで、Sh2-263と264に注目してみましょう

エンゼルフィッシュ星雲Sh2-264の中心にはオリオン座のλ星"Heka"があります(写真右下の青い星)。Hekaは非常に高温で巨大とされるO型の主系列星です。エンゼルフィッシュ星雲は「オリオン座λ星のリング」とも呼ばれていて、この星の放射線をうけて光っているのだそうです。ちなみに、主系列星については以前、このエントリで書きましたのでよければご覧ください

一方で、Sh2-263は比較的小さい星雲で、日本の天文ファンの間では俗に「エンゼルフィッシュの餌」と言われることもあります。中心付近にはやはり明るい星(HIP25041)があって、調べてみるとこれはB型の主系列星です。B型はO型に次いでエネルギーが高い星ですが、それでも温度ではおよそ半分以下、絶対的な明るさでは一桁から二桁以上に暗い星です。

HekaとHIP25041の地球からの距離はどちらも1000光年ほどでした。なので星雲の見かけ大きさから、HekaとHIP25041が放出しているエネルギーの違いを推定できそうな気がします。

写真から見てわかる通り、二つの星雲の視直径の比は20倍ほどです。リニアのR画像を調べた限り、両者の明るさはそれほど変わらないようでしたので、単純に散光星雲の体積がそのまま星の放出するエネルギーに比例していると考えてよさそうです。するとHekaとHIP25041の放射量の比は20^3=8000倍となるでしょうか。うーん、でもHekaが4.3等、HIP25041が5.8等級なので明るさの比は4倍程度しかなく、ちょっと違うかもしれません

 

最後のパラグラフが「なんちゃって」になりますが、こんなふうに撮影した天体写真から、星と星雲の関係を妄想するのが、最近のマイブームであります。

それではまた。

 

*1:Sharplessカタログ。日本語にすると、ぼんやりした天体のカタログ、といった意味でしょうか。

往年?の名機EOS6Dの性能を、Drizzle+BXTで150%引き出す

冒頭の写真は、135mmF2レンズのZeiss Apo Sonnarを取り付けたCanon EOS6Dであります。顧問にとっては以前の定番ザブ機材で、Kenko SkyMemoRに載せて放置撮影をよくやっていました。

135mm+フルサイズセンサーの画角はそこそこ広いです。例えば白鳥座を撮影すれば北アメリカ星雲からサドル付近までがすっぽり入ります。そのため、数シーズンも活用すると、メジャーな対象はあらかたとり尽くしてしまうことになり、実はここ最近、めっきり出番が減っていました。

またEOS6Dも、発売はもう12年前の古いカメラです。近年は天体用冷却CMOSカメラに押されて、国内の天文ファンの中でもこのカメラを使用している方はだいぶん減ってきているのではないでしょうか。顧問も、棚に鎮座している6Dを見るにつけ

ハードオフに売りに行こ🎵ハードオフに売りに行こ🎵」

というメロディーが自然に脳内に浮かんでくるようになっていました。しかし!

「低画素機」の利点と欠点

EOS6Dが天体撮影の人気機種であった理由は、低画素ゆえの高感度性能にあったと思います。フルサイズセンサーで2020万画素ですから、これより画素数の少ないカメラはSony α7sくらいしかありません。

しかし低画素機ではApo Sonnarのような良いレンズの性能を十分に引き出せないことが起こります。これは実際に星空を撮影した結果を拡大してみればよくわかります

この画像は、実際にEOS6DとApoSonnarでの1枚の撮影結果を、強く拡大したものです、小さな星は4~9ピクセル程度の大きさで写っており、星の周辺にマゼンダやオレンジ、緑などの「偽色」が浮いているのがわかると思います。これは「アンダーサンプリング」と言われる状態で、レンズがセンサー面に投影する小さくシャープな星像に対して、センサーの解像度が追い付いていない状態です。

偽色が表れる理由も、図にしてみるとよくわかります。まずこれが星です

6Dのベイヤー配列はRGGBなので、この星を「アンダーに」サンプリングすると、次のようになります。

このように星の大きさに対してピクセルが十分に小さくない場合には、星のエッジの部分で、

  • RとBが感光してGに光が当たらない→マゼンダの偽色
  • RとGが感光してBに光が当たらない→茶色っぽい偽色
  • BとGが感光してRに光が当たらない→シアンっぽ偽色

などということが起こるわけです

低画素機は、Drizzle Integrationが効く!

ところが、6Dのアンダーサンプルなデータの問題点を解決する方法があって、それがDrizzle Integrationです。これは、それぞれで写り方が少しづつ違っている複数枚の画像のデータを利用して解像度を数倍に高める画像処理の技術です。詳しくは蒼月さんのyoutubeをご覧ください。

この方法が、特に6Dの場合はとてもよく効きます。

左が通常の処理、右がピクセル数を縦横2倍にするDrizzle処理を行った結果です。小さな星が密集している部分に注目すると解像度も2倍とまではいかないまでもかなり向上しているのが分かると思います。さらに星の周りの偽色もキレイに消えていますね。

(註:撮影はSkyMemoRのノータッチで行いました。Drizzleに必須なディザリングは行っていません。ガイドエラーがディザリングの効果を出しているようですが、本来ならディザリングをした方が良い結果に成ると予想されます)

さらにBXTが効く!!

BXT(BlurXTerminator)は、AIをつかったDeconvolution処理で、その驚くべき効果については以前紹介しました:

Deconvolutionの原理をおおざっぱに説明します:もし完全に理想的な光学系で撮影し、大気の揺らぎも全く無くガイドも完璧なら、一つ一つの星は1ピクセルの点で写るはずです。しかし現実にはボヤっと広がった楕円形に写るわけです。そのボヤケた星をPSF関数(Point Spread Function)で表現し、それを理想的な点像に近いPSFに戻す変換を、画像全体に掛けることで解像度を回復させよう、というのがDeconvolutionです。

ですのでDeconvolutionでは、星のPSFを正しく評価することが大事になります。しかしながら、上記のアンダーサンプルな撮影では、星がギザギザで偽色も表れてしまっているのでPSF評価が上手く行きません。実際に試してみると次のようになります

左が元画像、右がBXT処理後の結果です。星像は丸く小さくなっていますが、星の周りに暗く落ち込んだリンギングが目立っており、星雲の構造も処理前後であまり変化していませんね。

そこでDrizzleが功を奏します。

Drizzleによって星のPSF測定の精度が向上するので、BXTの結果も良くなるようなのです。

こちらはとても上手く行っています。星の周りの落ち込みも無くなりましたし、星雲の構造もかなり改善されています。毎度ながら、これは本当に驚きます。

Before-Afterギャラリー

あまりに驚くので、元画像と2倍Drizzle+BXTの画像をいくつかの場所で比較してみたいと思います。キャプションは入れるまでもないので省略しました!

クリスマスツリー星団の周辺

バラ星雲の中心部

タツムリ星雲のあたり

名前不明の星団

最後の星団では筋状のアーティファクトが見えているように見えますね。こういうこともあるようですので注意しないと。

リザルト

なんだか蛇足のようになってしまいましたが、今回の神割崎遠征では、強風が予想されていたこともあり、焦点距離が短くガイドが簡単なEOS6DとApo Sonnarのセットを久しぶりに持ち出しました。最後にこのセットを使ったのは2021年10月で、その頃はまだBXTは無かったし、画像のカラー化におけるDrizzleの重要性も認識できていませんでした。

今回は最新の画像処理を適用して、その効果に驚きました。EOS6Dは本来6Kの解像度しかないのですが、下記のFrickrにはモザイクでもないのに8Kの解像度でアップしてます。良ければぜひダウンロードしてご覧ください。

Cone, Rosette and sh2-284

Date: 2023-1-13

Location: kamiwari-saki, miyagi

Camera: Canon EOS6D

Optics: Zeiss Apo Sonner 135mm F2@F2.8

Exposure: 120s x 135frames (total 4h10min), ISO1600

Processing: Pixinsight, Photoshop

冬の天の川を対角構図にして、コーン星雲からバラ星雲にかけてと、さらにその南西に点在するsh2-284,283,282を一枚に据えてみました。

おわりに:EOS6Dはまだまだ現役

Drizzle+BXTで、低画素高感度のEOS6Dの性能を150%以上引き出せたなと感じます。ツインで所有している6D、過去の再処理も含めて、だいじに壊れるまで使っていきたい所存です。