天文はかせ幕下

CMOSのノイズ:まとめと覚書

先日、特にブログ上で告知するとこもなく「宮城星オタクの集い」という勉強会を開催しました。その時の議論に触発されて、CMOS撮影でのノイズのことを考え始めました。以下はお勉強の覚書です:

ZWOカメラのグラフの読み解き

まづはじめにASI294MCを例にとって、いままでちゃんと理解していなかった「例のグラフ」(協栄産業のHPのZWOカメラのページに付記されている)の縦軸の量の意味を理解して整理しておく。

f:id:snct-astro:20191216225545j:plain

協栄大阪のHPより引用

が、しかし。その前にカメラセンサーの働きを確認しなければなりません。

露光中のカメラセンサー(CMOS/CCD)では、あるピクセルに入射した光子は、一定の効率*1で電子に変換される。変換された電子は、各ピクセルに割り当てられたコンデンサーに蓄えられる。露光が終わると、コンデンサーに溜まった電子数をカウントして、写真の輝度を求める。

というしくみです。これを踏まえてグラフの縦軸を読み解きます:

  • FW(e-) … コンデンサーに蓄えることのできる電子の最大「個数」。294MCの場合Gain=150なら10000個の電子を蓄えた時、輝度が飽和する事がグラフから分かる。
  • GAIN(e-/ADU) … コンデンサーに溜まった電子をカウントする際、何個電子を数えたら、画像の輝度値を”1”増やすかを表す。ADUはAnalog to digital unitで、電子の数がanalog、輝度値がdigitalと思っている*2。294MCの場合gain(dB)=117で、一つの電子を数えた時に、輝度値を+1させていることがグラフから分かる。
  • DR(stops) ... ダイナミックレンジ。 \log_2\left({FW(e^-)}\cdot{GAIN(e^-/ADU)}\right)ってことだと思うが、値合わない(?)以下追記:リードノイズの大きさを単位として、それぞれのGainで記録することのできる最大の輝度をあらわしたもの。FW(e-)の値をRead Noisee(e- rms)で割った値の底2の対数。
  • Read Noise(e- rms) … コンデンサーに溜まった電子を数える時の数え間違えによるノイズ。バイアスノイズと同じ。単位にrms (root mean square)とあるので、数え間違い数の標準偏差を表している。その内容からしてRead noiseはゲインに依存しないはずなので、gain=120では、電子のカウント方式に何らかの変更がなされているのだろう。

あと協栄産業の294MCのページでは、(いつのまに)下のグラフが 追加されていた:

f:id:snct-astro:20191216232758j:plain

協栄大阪のサイトより引用
  • dark current(e-/s/pix) ... カメラセンサーに光子が全く入らない状態において、熱励起などによって生じてしまう単位時間、単位ピクセルあたりの電子の数(暗電流)。ダークノイズはこれ。

この情報はかなり有用です!いろいろ計算できます。

各ノイズの大きさの推定

以上から、特定の撮影状況を定めれば、具体的にノイズの大きさを推定できますね。ちょっとやってみます。

  • 撮影対象:M33(表面輝度14.1等級/(分角)^2)
  • 撮影鏡筒 :300mm F2.8 (口径10cm) 
  • カメラ:ASI294MC(センサーを0℃に冷却)

としておきます。以下のサイト

を参考にしてセンサーに降り注ぐ光子の数を計算します。StellariumによるとM33の単位立体角(分角)^2の明るさは14.1等だということなので、M33の単位領域からの光子の数、具体的には、

 (口径10cmのレンズが受け取る単位時間の光子の数)= 150 個/(sec. 分角^2)

と計算できます。一方、294MCと300mmレンズの組み合わせによる画角は約200分角x150分角。画素数が4144x2822であることを考えると、1(分角^2)はセンサーのピクセルにして20pixel四方。つまり400pixelsに対応します。よって

 (1pixelに単位時間に入射する光子の数)= 0.38 個/sec.

です*3

さて、294MCのgain=200としてセンサーを0℃に冷やして、M33をT秒露光したとします。以上の計算と上のグラフを組み合わせれば具体的にノイズの標準偏差を計算できます。

電子のノイズや光子の数の揺らぎはポアソン分布に従うなら、単位時間のカウント数の平均値Nに対して、揺らぎの標準偏差\sqrt{N} となるので。露光時間をTとすると

  • 光子のショットノイズ:\sigma_{\rm photon}=\sqrt{0.38Q_E T}
  • ダークノイズ:\sigma_{\rm dark}=\sqrt{0.0625T}
  • リードノイズ:\sigma_{\rm read}=1.5

ただしQ_Eは量子効率です。ここまで計算で、露光時間Tを伸ばせば、リードノイズはそれほど問題にならない(ショットノイズとダークノイズが支配的になる)こと(アタリマエ?)、0℃程度の冷却でダークノイズは光子のショットノイズに比べて十分小さくなること(25℃くらいで両者はコンパラになる)がわかりました。

さらに進めば、例の「低感度長秒露光」vs「高感度短秒多数枚露光」についても何かわかるような気がします。短秒露光といっても少なくともリードノイズを上回るくらいは露光したほうがいいとか。

が、眠くなったしまだよくわからないことも残っているので、もうちょっと考察を続けます。

わからないこと

  • dark currentはgain(dB)に依存しないのか?なんとなく、gainあげるとセンサー温度も上昇しやすくなるような気がするが、それはデジカメの話で、冷却CMOSなら関係ない。
  • gain(dB)をあげることによるノイズの上昇は、単純に光子のショットノイズを増幅しているだけ、という理解でいいのか?

 

 

*1:量子効率

*2:電子の数がアナログというのは変だが、測定では電子を数えるのではなく電圧を測っているからだろう。

*3:す、少ない!