天文はかせ幕下

NGC2903に表れた縮麺ノイズとダーク減算の関係

はじめに

以前、十分になめらかでないフラット画像をつかってフラット補正を行った場合に発生した縮麺ノイズの記事を書きました。

そのエントリでは、マスターフラットに問題がある場合、輝度ムラが縮麺状に分布するタイプの縮麺ノイズが発生する、という話を書きました。下の写真は、その時の例です。

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対象はNGC1333です。左上から右下の方向に、輝度が暗く落ち込んだノイズが縞状に発生して見苦しいです。このタイプの縮麺ノイズ、結局はフラットダーク減算を行って十分滑らかなフラットを得るか、強引にフラット自体をボカしてしまうことで解決しました。

 

今回は、上とは違うタイプの縮麺ノイズについてのお話をしたいとおもいます。まずは例をご覧ください。

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対象はNGC2903です。NGC1333の例とは対照的に、赤や緑の色ノイズが縮麺状に分布しているのがよく目立ちます。

このような縮麺ノイズはどういう原因で発生することがあるのか、その簡単な解決法と,ダーク減算の落とし穴についてが,今回の主題です。

事の起こり

2月の新月期、そーなのかーさんと一緒に、しし座の銀河NGC2903を撮影しました。

遠征の後日、氏がEOSKissX7iとビクセンR200SSで撮影したライトフレームと、そのた処理に必要なダーク・バイアス・フラット・フラットダークを送ってもらいました。自分の撮影した画像と合わせて平均するために、まずは前処理(ダーク減算・フラット補正・スタックの一連の処理)を行います。すると、氏の撮影結果は縮麺ノイズにまみれてしまったのです。それが上の1枚目の写真です。

「なんだ、まだまだ撮像が甘いのう・・やっぱオフアキだよね」

なんて、エラそうにニヤついておったのですが、実は未熟なのは顧問の画像処理でした。と申しますのも、間も無くそーなのかー氏から、同じ素材を処理したxisfファイルが送られてきたからです。下は同じデータを元に、顧問とそーなのかー氏がそれぞれ前処理を行ったあとの画像の直接比較です(左:そーなのかー氏による前処理・右:顧問による前処理)

う!いったいなぜこのような差が生じてしまったのか? 慢心。環境の違い・・・。

冷や汗をかきながら再処理してみます。手抜きでつかっていたWBPPスクリプトをやめてキャリブレーションやディベイヤーなど全てマニュアルでやり直してみます。しかし結果は変わりません。さすがに衝撃をうけました。

「まあでも、これはまた縮麺ノイズへの理解に近づいているのかもしれない」

その夜、顧問は屁をこいてふて寝しました。

後日,いろいろ条件を変えて前処理を行っていたところ,私も縮麺ノイズを取り除くことができ,安堵しました。以下,前処理結果に差が出た理由をくわしく説明したいと思いますが,その前に顧問が行ったPixinsightでのImageCalibrationの設定について書いておく必要があります。

PixinsightのImageCalibration

まず,縮麺ノイズが発生してしまった時,顧問が行っていたImageCalibrationの設定は以下の通りとなります。

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バイアスファイルを指定せず、マスターダークは"Calibrate"と"Optimize"のチェックを外し、マスターフラットも"Calibrate"のチェックを外して処理をしています。 この設定で処理を行うと

\displaystyle\frac{\rm (Light)-(MasterDark)}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(1)

という計算を行った画像が出力されます。ここで(MasterDark)自体はダークに加えてバイアスも含んでいることに注意します。また(MasterFlat)は(FlatDark)をあらかじめ減算したものを使っています。

一方で、以下の設定でキャリブレーションを行うと,縮麺ノイズが解消しました。これは書籍InsidePixinsightなどで推奨されている設定でもあります:

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マスターバイアスが指定されていて、MasterDarkの"Calibrate"と"Optimize"にチェックが入っているところが違います。この"Calibrate"にチェックを入れると、MasterDarkからMasterBiasが減算されます。さらに"Optimize"にチェックを入れると,マスターダークとライト画像の間にセンサー温度や露光時間の差がある場合に、補正を行ってダークノイズの大きさをライト画像に合致するよう調整するのだそうです*1。その調整の係数をAとすると,上の設定では以下のような計算がされます。

\displaystyle\frac{\rm (Light)-A(MasterDark-MasterBias)-MasterBias}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(2)

もし係数A=1なら(つまり"Optimize"にチェックを入れなければ),(2)式は(1)式と全く等価です。

 

つまり結論としては,"Optimize"機能がうまく働いて,縮面ノイズが解消されたことになります。あとで,撮影者のそーなのかー氏に聞いたところ,ダーク画像を取得する時に温度や露光時間をライトフレームと完全に一致させていないとのことでした。なーるほどそれでか,というわけです。

下の三つの画像は,

 (左)元の縮面ノイズ画像
 (中)"Optimize"にチェックを入れて前処理した画像
 (右)そーなのかー氏による前処理後の画像

です。

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縮面ノイズはあらかた解消したものの,それでも右のそーなのかー氏の処理画像が一番綺麗ですよね。それは氏が採用している「ディベイヤーを行わない前処理の方法」に秘密があるからかもしれません。ちょっと本題からずれました。

ダーク減算の"Optimize"の功罪

"Optimize"オプションについては賛否があって,Pixinsightの海外フォーラムをみると「最悪だから使うな!」という意見が多いようです。これは「楽しい天体観測」のNiwaさんから伝え聞きました。上の例では,露光時間と温度が違うダーク減算について,"Optimize"がうまく働いてくれたようです。センサー温度の制御が厳密に行えないデジカメの場合は,強い味方かもしれません。

いっぽうで今回の共同撮影では,私が294mcで撮影したNGC2903の画像をそーなのかー私に処理してもらいました。すると「なかなかアンプグローが消えなかったのですが,どうやら"Optimize"にチェックを入れていたことが原因だったようです。」という話を伺っています。アンプグローには、露光時間と輝度の間に単純な比例関係がないためでしょう。どうにも"Optimize"には功罪ありということですね。

今回の作品

最後に,今回仕上げたNGC2903の画像を上げて終わりにしたいと思います。

NGC2903

The datas obtained by two different photographers (Wata & Naga) stacked to form a single image.

Wata:
Date: 2021-2-11
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: Canon EOSKissX7(mod)
Optics: R200SS+Extender PH
Mount: EQ6-R+130 mm Guide scope+QHY5L-IIM
Exposure: 120s x 78f ISO: 800

Naga:
Date: 2021-2-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: ASI294mc-pro (no filter!)
Optics: Takahashi ε-200
Mount: CEM70G off-axis Guider+QHY5II174M
Exposure: 240s x 45f gain:120

Processing: Pixinsight, Photoshop

 

294mcのノーフィルターで撮影した私の画像をL画像とし,そーなのかー氏の画像のLと平均したあと,氏のRGBの色情報を使ってカラー化しています。8本の光条が合作の印です!

 

 

*1:ダークからバイアスを減算したフレームのノイズの輝度が露光時間に単純に比例するという規則があって,それを利用しているようです。これはあぷらなーと さんが検証されています

apranat.exblog.jp

温度差の補正はどうやっているのかちょっとわかりません。