天文はかせ幕下

自宅のSQM値を測定してみる

先日、星沼会のウェブ会議に宙ねこ(@sora5tm)さんをお呼びして、デジカメのノイズや、空のSQM値を測定する方法を教えてもらいました。

忘れないうちに、実習をしよう。というわけで、自宅の庭でデータをとってSQMの値を調べてみました。方法も含めてまとめておきます

以下の方法は、宙ねこさんからの教授に基づきますが、不十分な点があるとしたら、それはだいこもんの理解が不十分なためです。

SQMとは?

Sky Quality Meter の略で、夜空の背景がどのくらいの明るさで光っているかを表す量です。Light Pollution Map にて凡例を2015年に合わせるとその値を知ることができます

空の背景の1平方秒角の明るさを、星の等級に換算した値がSQMの定義です。1平方秒角は相当小さくて、F=1200mmくらいの望遠鏡で撮影してもせいぜい数ピクセル程度の大きさです。たとえばSQM18.0なら、夜空が18.0等級の星で埋め尽くされているというイメージになります。

データの取得

使用カメラ:ASI294mc-pro
露光時間:1,2,4,6,8,10秒(固定撮影で1枚づつ撮影)
Gain  :120
露光時刻:23:00~23:01
冷却温度:5℃(梅雨なのでビビっている)
撮影領域:アルタイル付近

註)ほんとは追尾したほうが良いけれども、今回は手抜きで固定撮影でした。ピントはややボカして飽和を防ぎました

データの解析

使用ソフト:スバル画像処理ソフト マカリィ

註)マカリィは下記のサイトから無料で落とせます。fitsファイルしか扱えないので、デジカメで測定する場合は、Raw2fitsを使って撮影画像を変換します

1)夜空の背景の明るさを取得

各露光時間のフレームをダーク減算しますダーク減算が済んだ画像をマカリィで読み込み、背景の明るさを測定します。

背景の測定には、”測光>矩形測光”として、画面の中心付近の何もない領域を選択します。「平均カウント」の値を各露光時間について記録します。

上のグラフは、縦軸がマカリィで算出した平均カウント値、横軸は露光時間です。傾き
 L_{\rm sky}=51.64[{\rm counts/pixel\cdot s}]
が、我々の光学系が取得した夜空の明るさになります。

2)平方秒角あたりの明るさに換算する

上のL_{\rm sky}の値は、使用するレンズとカメラのピクセルサイズに依存してしまっています。そこで、空の1平方秒角あたりの明るさに換算します。まず次を計算して、1ピクセルが何平方秒角なのか計算しておきます

\theta_{\rm pixel}=3600\times 2\arctan\left(\displaystyle\frac{\rm SensorPixelSize}{2\times\rm focalLength}\right)

私が使用したASI294mcと135mmレンズの組み合わせでは \theta_{\rm pixel}=7.1秒角でした。よって1平方秒角あたりの明るさ {L_{\rm sky}}'

 {L_{\rm sky}}'=51.64/(7.1)^2=1.02[\rm counts/(arcsec^2\cdot s)]

となります。

3)星の測光から、SQM値を算出する

各露光時間の画像について、マカリィの開口測光を用いて星の明るさを測定します。今回は4.7等のタラセド星を対象としました。デフォルトの「自動」で星を選択し、表示される値の3行目の”count=4252313”を記録します。

場合によっては、恒星径(マゼンダの円)が星をうまく取り囲まない場合があります。その場合は正しく測光できないので、「半自動」モードで「恒星径」「SKY内径」「SKY幅」を調整します。この辺はどのように調整するのかよくわかっていませんが、恒星径の値を星を取り囲むように設定した後、スカイ内径(水色の内側の円)を数ピクセル大きくとり、スカイ幅(水色の2重〇の幅)を5ピクセルくらいにとって、うまくいきました。

各露光時間の画像に対して同じ作業を行い、横軸が露光時間、縦軸がカウント値のグラフを作ります

このグラフの傾き{L_{\rm star}}=2.0\times 10^6[\rm counts/s]が星の明るさです。このグラフの線形性が悪い場合は,雲の影響や星の飽和,測光の誤差が原因かもしれません.その場合は他の星を選んでやり直します.初めから複数の星を測光しておいて,測光がうまく行っているデータを選ぶ方がいいと思います.

SQMは以下の式を計算して求まります

 {\rm SQM}=2.5\log_{10}\displaystyle\frac{{L_{\rm star}}}{{L_{\rm sky}}'}+4.7

最後の4.7は選んだ星の等級です。

結果

今回の値を代入すると

{\rm SQM}=2.5\log_{10}\displaystyle\frac{2.0\times 10^6}{1.02}+4.7=18.4[\rm Mag.]

となりました。実際には4つほどの星を測光して、それらの結果を平均しましたが、今回は結果変らず

名取市自宅のSQM値=18.4等

を結論とします。数年前に環境省の「夜空の明るさ調査」に投稿した時も、あちらの方が解析した結果は偶然同じ18.4等でした。その点では、けっこうリーズナブルな結果と言えるかもしれません。

ちなみに、Light Pollution Mapを参照すると、自宅付近は20.01等とかなり暗い値が記録されています。この値は衛星データから何らかのモデルを用いて算出した値のはずで、実測値と一致しないとしてもそれほど不思議ではないと思います。

 

今後は、蔵王、はやま湖、神割崎などでデータを取得して、自前の”Light Pollution Map”を作りたいと考えております。

 

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