はじめに
以前このブログで、「シーイングを考慮した望遠鏡の口径と分解能の関係(理論・考察編)」という記事を書きました。その中で、以下の2点について触れました
- 非常に短秒の露光(0.01秒程度)では、小口径望遠鏡のほうが、大口径を上回る分解能を示すことがある。
- 観測波長が長いほど、シーイングの影響を受けにくい
このうち2番目の内容については、HIROPONさんが月面撮影において色々なフィルターをつかって検証してくださり、「可視光よりも赤外での撮影の方が分解能が向上する」結果が得られました。
一方で1.の「小口径が有利になるケース」は未検証です。
月面撮影ではシャッタースピードを10ms程度まで短くできるため、この条件で開口を絞った状態と絞っていない状態を比較すれば、小口径による分解能の逆転現象が確認できるかもしれません。
検証の方法
以下の機材で実験してみました。
使用鏡筒:Takahasi MT-200 (口径200mm, 焦点距離=1200mm)
カメラ:ZWO ASI174MM
このセットアップでは、カメラの1ピクセルあたりの角分解能は約1秒角。一方、日本の平均的なシーイングは約4秒角とされているため、撮影結果の分解能は基本的にシーイングで決まるはずです。短秒露光であれば、開口を絞ることで分解能が改善する可能性があると考えました。
そこで、MT-200の開口部に取り付ける絞り環を自作し、絞りの有無による差を調べてみることにしました。

次の四つのケースで撮影テストを行いました。
| ケース | フィルター | 絞り環 |
|---|---|---|
| (A) | なし | なし |
| (B) | 赤外フィルター | なし |
| (C) | なし | あり |
| (D) | 赤外フィルター | あり |
検証前の予想では、「分解能がシーイングに支配されている状況」であれば、(D)のケースが最も良い結果になるはずです。
結果
結論から申し上げると、どのケースでも明確な差はほとんど見られませんでした。
目を凝らしてよく見ると、わずかに A および C の方が B や D よりもシャープに見えるような気もしますが、その差は非常に小さなものでした。
a)スタックの結果
SharpCap 4.0 を使用して撮影し、露光時間はすべて10ms。ヒストグラムが揃うように Gain を調整し、それぞれ2000フレームを撮影。Autostakkert! 4 でスタックしました。シャープ処理は行っていません。

b)それぞれの動画を切り出したもの
720p60fでの閲覧を推奨します
天気図
念の為当日の天気図も付記しておきます。
シーイングは普通か少し悪いくらいの状況だったと思います。上で引用したHIROPONさんの検証でも当日の天気図が記録されていて、気圧配置はその夜とかなり似ていました。

考察
画像・動画を見ていただければわかる通り、今回の結果ではほとんど差が見られませんでした。むしろ動画を見ると、絞りやフィルターを入れたケースの方が揺れが早くなっているようにも感じられ、これはHIROPONさんの結果とは正反対です。
ではなぜ、期待に反する結果となったのか。考えられる要因は以下の通りです:
-
そもそも検証当日のシーイングがそこまで悪くなかった?
→ ただ、動画を見る限りでは月面の揺れはそれなりに大きく、シーイングは悪かったように思えます。 -
MT-200(f=1200mm)とASI174MMの組み合わせでは、解像力がシーイングに届かず、影響が出にくい?
→ HIROPONさんはEdgeHD800 + QHY5III585M(1px ≒ 0.3秒角)を使用されており、今回の私の検証(1px ≒ 1秒角)より高解像です。理屈上は1秒角でも足りているはずなのですが、現実的には他の要因で、結果が異なってくる可能性があります(この説が一番ありそう?)。 -
フィルターや絞りを入れたことでGainを上げる必要があり、厳密な比較になっていない?
→ ただし、ノイズの差は画像にほとんど見られなかったため、あまり可能性は高くないと思われます。 -
今回作成したオフセットありの絞りでは、理想的な“絞り”効果になっていない?
→ 個人的には問題ないと思いますが、今後再検証の余地はあるかもしれません。
終わりに
というわけで、今回の記事はオチ無しでここで終わりです。
意にそぐわない(仮説に反する)結果になりました。だからといってボツにしてしまうのも科学的な態度でないので、めんどくさい気持ちを押し殺してまとめました。
検証方法についても皆さんから指摘などもらえれば改善して、もう一度チャレンジしたいと思います。