天文はかせ幕下

仙台高専天文部の顧問が、日々の天文活動や天文情報を綴っています。
本を出版しました!→PixInsightの使い方[応用編]

「小口径が大口径より分解するケース」を(再)検証しました

これまでの経緯

(悪シーイング&短時間露光)の状況では、8cm程度の小口径の光学系のほうが、大口径よりも分解する――。この意外な逆転現象の理論的な背景を、以前書きました

そのあと、実際に月を撮影して検証してみました。ところが、20cmの反射望遠鏡をつかい、8cmの絞りを抜き差しして比較したところ、意外なことに口径の差がはっきりしなかったのです。

やり方がまずかった可能性も残されており、今回別のアプローチで再検証をしました。

前回の反省点と今回の方法

前回の反省点は次の2点です

  • 8cmと20cmの比較では、口径差が中途半端だった
  • 検証を行った夜はシーイングがあまり悪くなく、口径差が出にくかった

つまり、もっとシーイングが悪い状況において、さらに大きな口径差で比較を行わなければならなかった、と考えたわけです。そこで学校の屋上にあるMeadeのシュミカセ(口径30cm)を使い、10km以上離れた人工物を昼間に撮影し、比較をすることにしました。地表の熱と気流により、昼の地上の風景は非常に強く揺らめいて見えるので、天頂の月を撮影するよりシーイング条件はかなり悪いと思われます。

算出したグラフをつかって、今回と前回の比較を図にすると、こうなります

ではやってみましょう。

検証方法

口径30cmのMeadeのシュミカセを使って、そのまま撮影した場合と、段ボールで作った口径8cmの絞りを入れた場合で比較します。

開放の場合(左)、と絞りを入れた場合(右)。補正版が汚くてすみません

その他の撮影条件は以下の通り

  • カメラ:ASI174MM
  • 露光時間:2ms gain 0(解放)、2ms gain 200(8㎝絞りを入れた場合)
  • 記録:16bit MONO Ser形式で1000コマ撮影
  • 処理:Autostackkert4!ですべてのフレームをスタック。若干のwavelet処理

撮影対象は、学校から10kmほど離れた鉄塔とホテルです。

結果と考察

動画の比較

(1a)遠くの鉄塔、30㎝開放

 

(1b)遠くの鉄塔、8㎝絞り

 

(2a)仙台市のホテル、30㎝開放

 

(2b)仙台市のホテル、8㎝絞り

 

(3a)遠くの電波塔、30㎝開放

 

(3b)遠くの電波塔、8㎝絞り

 

以上、鉄塔・ホテル・電波塔と三つの対象を撮影しました。すべてにおいて30cm開放での撮影と、8cmの絞りを入れた撮影で、写りに大きな差があるように見えました。

  • 30cm開放:画面の広い範囲がゆっくりと揺らめいていて全体的にはぼんやりとしている。
  • 8cm絞り:30cm開放で見られた広い範囲にわたるゆっくりした揺らめきは消えて、より細かな速い振動が顕著になる。全体像は比較的にシャープ。

もう一つ興味深い違いは、シーイングの時間的な変化の様子です。つまり

  • 30cm開放:時おり、揺らめきが収まってシャープに見える瞬間がある
  • 8cm絞り:揺らめきの様子はほぼ一定に見える

ようでした。するとスタックするフレームを選別し、良像だけ選んでスタックする場合は30cm開放の場合に大きい改善が見込めるのかもしれません。

このシーイングの時間的な変化については、ちょうど昨日Samさんも記事を書かれていましたのでリンク貼っておきます。

スタック後の静止画の比較

動画はぞれぞれ1000コマ撮影し、100%すべてスタックした後、pixinsightのwavelet処理で若干のシャープ化を行っています。waveletのパラメータはすべての写真で共通です。

(4a)遠くの鉄塔、30㎝開放

 

(4b)遠くの鉄塔、8㎝絞り

 

(5a)仙台市のホテル、30㎝開放

 

(5b)仙台市のホテル、8㎝絞り

 

(6a)遠くの電波塔、30㎝開放

 

(6b)遠くの電波塔、8㎝絞り

 

以上、鉄塔・ホテル・電波塔と三つの対象を撮影しました。三つの対象すべてにについて、8cmの絞りを入れたほうがシャープに写っています。

また、スタック枚数を選別し10%のフレームをスタックすると、結果はさらに良くなりました。しかしここでも8cm絞りの結果の方が断然シャープです。

終わりに

8cm程度の小口径が大口径よりも分解能において優位になるケースを確かめることが出来ました。動画でゆらめきの様子に差が出てた結果と推察できるので、絞ったことで光学系の性能が向上した結果の反映ではないはずです。ただし以上は短秒露光のスタック&悪シーイングの場合の結果です。長秒露光では今回のような光景と分解能の逆転現象は起こらないはずです。

では、通常の天体撮影でおこなうような、数分の長秒露光なら大口径の方が分解するかというとそうとも限りません。比較的にシーイングが良い空でも、口径20㎝くらいから分解能は頭打ちになるというのが、冒頭で紹介した記事での結果でした。これはあながち机上の空論ではなくて、10cmクラスの高性能屈折望遠鏡で撮影した銀河の構造が、30cmクラスの大口径で撮影した結果に肉薄している、という話はよく聞きます。

ですがはっきりと分からないこともあります。惑星撮影をされている方の結果を見ると、C14など大口径の筒を使って、明らかに小口径を上回るすさまじい結果を出されている方をよく見ます。あれはどう理解したらよいのでしょう?

思いつく答えは、分解能の差ではなくて明るさが効いている可能性です。つまり、焦点距離が同じなら大口径の方が明るいために、1フレームの露光時間を短くできます。うえの動画を見ると、シーイングの様子は数秒単位で目まぐるしく変化しているので、スタック時の良像の選別で、大口径が優位のではないでしょうか。