天文はかせ幕下

仙台高専天文部の顧問が、日々の天文活動や天文情報を綴っています。
本を出版しました!→PixInsightの使い方[応用編]

新入部員、20年前のカメラと30年前の望遠鏡で銀河を撮影するの巻

事の起こり

赤道儀を貸してくれませんか?」

4月に入ってきた新入部員の一人、TS君からそう頼まれました。なんでも、自分の望遠鏡とカメラで銀河を撮影してみたいとのこと。顧問は彼の申し出に正直驚きました。最近の天文部員の多くは眼視観望派で、積極的に撮影に挑戦しようとする人はとても少ないからです。

しかしそのあと、TS君の機材を見せてもらってもっと驚きました。出てきたのは、なんと20年前の一眼レフカメラと30年前の反射望遠鏡だったのです。

カメラはNikon D50。そのセンサーは610万画素のAPS-Cで、常用の最大ISOは1600だそうです。望遠鏡はVixenのスーパーハレーSR-1000。焦点距離1000mmのF10と最近ではすっかり見かけないスペックです。TS君はこれらの機材を、合わせて1万円ちょっとで手に入れたそうです。

「うーん、それで撮影は難しいかも…」

顧問はそう言いかけて、言葉を飲み込みました。そうです、天文写真の楽しさは機材のスペックと撮影結果だけで決まるものではありません。特にTS君のような始めたての初心者にとっては、天文部で貸し出した良い機材でうまくいくより、自分の道具で一枚の作品を得ることに意味があるはず。そうでないと「できた!」という実感が得にくいかもしれません。

というわけで、彼の機材だけでひとつ銀河を撮ってみようではありませんか、という話になりました。

撮影当日

連休前の土曜日。我々はひっそりと集結しました。空は若干透明度が低く霞んでいましたが、乾燥してサッパリと晴れています。

TS君のD50です。相当年期が入っています。

 

こちらがスーパーハレー。うーん、この細長いシルエットからは「昭和の天文少年」感がビンビンと伝わってきます。見てるとわくわくします。

スパイダーは3本で、これも昭和っぽいです。

「光軸は、レーザーコリメータでだいたい合わせたつもりです」

とのこと。どうやら自分で情報収集して実践しているようで、そのあたりからも本気度が感じられます。

ちなみに赤道儀はKenkoのSE2を使ってもらうことにしました。

はやま湖にて

今回は機材も機材だし、始めは近場の空でテストをして……。

って段取りでも良かったのですが、基本せっかちな我々はいつもイキナリ本番です。空が暗いはやま湖まで出かけてきました。

現地では、同行していたT君が手伝っていたこともあり、赤道儀の設置、極軸合わせ、カメラの取り付けとスムースに作業が進んでいる様子です。

T「アライメントはどうする?」
TS「2スターアライメントでいいんじゃない?」
「キュイイイイイン(赤道儀が動く音)」
T「ピントは・・」
TS「ごにょごにょ」
T「むにゃむにゃ・・・」

この辺りで、ちょっと心配になり、顧問は口を出してしまいました

顧問「ピント合わせはできた?」
TS「あ、バーティノフマスクをちゃんと作ってきました」
顧問「おお、やるではないですか。じゃあ、アルクトゥールスでも導入して」
T「もう入ってるんですけどね…」

と、ここで衝撃の事実が判明します。

顧問「(デジカメの)ライブビュー見せてくれる?」
TS「無いですよ」
顧問「は?ライブビューだよ?」
TS「このカメラはライブビューは無いです」
顧問「え?この液晶画面はなに?」
TS「これはライブビューじゃないです。単なる液晶画面です*1
顧問「・・・」

なんと!D50には今ならアタリマエのライブビューが無いのです!じゃあ、どうやってピント合わせるのでしょうか。

TS君がとった方法は涙ぐましいものでした。つまり、一枚撮影してはSDカードをカメラから取り出してスマホで読み込んで星像を確認、またSDカードをカメラに戻してはピントを調節し…という作業を繰り返すわけです。そういうの大好きです。

 

何とかピント合わせもできた(っぽく)、撮影に入ります。狙いはM51、子持ち銀河です。赤道儀のハンドコントローラで導入します。

「キュイイイイイン……」

赤道儀が対象に向っていきます。もちろんプレートソルブなどありません。焦点距離は1000mm、状況的にこれで導入できていなかったら、ほぼ詰み。そこからどうして良いか分かりません。

恐る恐るシャッターを切りました。ISO1600(最大)で30秒。SDカードを取り出してスマホに表示させます。出てきた画像がコチラです(jpg撮って出し)

おわかりいただけただろうか。

ちゃんと導入できてました! 実際は、はじめからど真ん中ではなかったのですが、そこはTS君がまたSDカードを何度も抜き差ししながら調整を繰り返し、真ん中に導入しました。

そしたらあとはひたすら撮影です。オートガイドなしでしたが、60秒露光でおおよそ点像に映すことが出来ているようでした*2。めでたし

撮影結果

35枚のライトフレームを確保し、DeepSkyStackerをつかって画像処理しました。その結果がコチラです。ででん!

うん!しっかり写っています。ピントも上々です。今後、ひとつづつ問題をクリアして、ステップアップしていくのが楽しみになります。ともかくもこれがTS君にとって記念すべき初作品になりました。

おわりに

上のM51を見ていると、自分が天体写真を始めたばかりのころを思い出します*3ザラザラのノイズも左上のアンプグローも愛おしいです(^^。

天体写真撮影に限らず趣味一般に言えることですが、「次回はもっと良くなるはず」と思えている頃が最も楽しいものです。カメラにも鏡筒にも改善の余地がたくさん残されています。TS君もこれからどっぷりハマっていくことでしょう。

 

 

*1:液晶画面は再生が出来ますが小さすぎてピントは確認できませんでした。そのためスマホで拡大してます

*2:この辺りから、SE2赤道儀の優秀さを痛感します

*3:もう12年前!ちなみにこちらが私の初作品でした。