註)今回の記事は、一般的な色覚特性にもとづく話です。色覚には個人差があるため、人によってはそのまま当てはまらない場合がありますが、アプローチ自体はそれぞれの特性に合わせて最適化可能だと考えています。
概要
モノクロカメラとRGBフィルターを使って天体写真を撮影する場合、各色で同じ程度の枚数が撮影される場合が多いと思います。しかしながら、緑を最も明るく感じる人間の目の特性を考えると、Gチャンネルのノイズを最も小さくするべきではないかと考えました。つまり、Gの枚数を最も多く撮影し、反対にBとRは少なくても良いという考え方です。NGC300銀河の作例で試してみると、この方法は(LRGB合成でなく)RGB合成で画像を仕上げる際には有効なようでした。
「見た目のノイズ」は、緑が強く感じられる
はじめに簡単な実験をしてみましょう。ベースとなるモノクロ画像(L=0.2)に、それぞれ全く同じ大きさのガウスノイズを与えた画像を3枚用意します*1。

これらをR・G・Bの各チャンネルに割り当てて合成すると、次のような人工的なノイズを持つカラー画像が出来ます。

上の画像をじっと見た時、何色のノイズが強いと感じるでしょうか? きっと、緑色が一番目立って見えるはずです。元々の3枚には全く同じ強さのノイズを与えていたにもかかわらずです。これは人間の目が、緑を最も強く感じるためです。
その感覚の比は、たとえばPixInsightのRGBWorkingSpaceに与えられています

この三つの数字は、カラー画像をモノクロ化するときに使われる値です。つまりモノクロの明るさLを
の比で決めるのです。そうすることで、カラー画像から感じる明るさにマッチするモノクロ画像が生成できると言われています。この値を元にすれば、人間の目は緑を青の10倍以上、赤の3倍以上明るく感じるのです。これが、上の画像で緑のノイズが一番目立って見えた理由です。
緑がもっとも明るく感じられる人間の目の特性を踏まえれば、Gチャンネルのノイズを優先して抑えるべきです。そのためにはGの枚数を最も多くし、反対にもっとも暗く感じるBの枚数は少なくても良い、という考えが有効そうです。
実際にそうなるのか? またそうなるとしたら、具体的にR,G,Bそれぞれを何枚づつ撮るべきでしょうか? 今回はこれらを検証していこうと思います。
はじめに結論から
トータルの露光時間を75分、1フレーム当たり1分露光とします。今回の検証から、見た目のノイズを最も抑える組み合わせは、およそ
R : G : B=1.7 : 4.8 : 1.0
の比になると結論しました。合計で75枚になるように枚数になおすと
R=17枚、G=48枚、B=10枚(合計75枚)
となります。
これに対して、各チャンネルを均等に撮影した場合:
R=25枚、G=25枚、B=25枚(合計75枚)
の画像を用意して、RGB合成後の結果をGIFアニメで比べてみます。(NGC300銀河の画像を例に、色合わせを行った後に全く同じ強さのストレッチを行った2枚を比較しています)
腕の周辺部

何もない背景部分

銀河の中心部

如何でしょうか?どの領域においてもR=17枚、G=48枚、B=10枚のほうが大幅にノイズが軽減して見えると思います。
R:G:B=17:48:10の根拠
RGBWorkingSpaceの値をそのまま使うとうまくいかない
天体写真に支配的なショットノイズは、露光枚数をN倍にすると1/√N倍に減少します。RGBWorkingSpaceの値をそのままつかって、RGB合成後の各チャンネルの「見た目のノイズ」が均等になるように枚数を決めると、
R:G:B=13:137:1
とGを137枚に対してBは1枚でよいというかなり極端な計算になってしまいます。
人工的なノイズの画像の「見た目」で比を決める
おそらく、RGB別の明るさの知覚以外にも、視覚周りの色々な性質でノイズの感じ方が決まってくるのだろうと思います。そこで以下のような人工的なノイズ画像をたくさん作って「見た目のノイズ」の強さを判断する実験をしました。
下の画像では、RGBの各チャンネルのノイズの強さが等しい一番左から出発して、右に行くにつれてGチャンネルのノイズだけをだんだんと小さくした画像を並べています。

この並びの中で、どのくらい小さくすると、緑のノイズと他の色のノイズが同じくらいの強さに見えるかを、自分の目で判定しました。
同じことを赤と青についても行います。次の二つの画像では、右に行くにつれてRチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像と、Bチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像です。


私の視覚では、一番上の(1)で、Gのノイズが48%に弱まった場合にR/Bと同じ強さに見えました。また(2)ではBのノイズが206%に強まったあたりでGと同じ強さに見え、(3)ではRのノイズが173%に強まったあたりで、Gのノイズと同じ強さに見えました。
以上から、(見た目では無く実際の)Gチャンネルのノイズの強さが1であるとき、Rのノイズが1.73、Bのノイズが2.06くらいの時に、「見た目のノイズ」が各チャンネルで均等になると言えそうです。
以上の考察から、冒頭のフレーム枚数の比 R:G:B=17枚 : 48枚 : 10枚 を導きました。あくまで、顧問の色覚が標準的(多数派)であるという仮定の下の話ですが、星沼会のみなさんにも見てもらって、だいたい同じ結果を確かめています)
ただし、LRGB合成では効果は限定的
比較的良質なL画像を用意し、前の節で示したRGB合成後の画像に対して、それぞれLRGB合成を行ったとします。すると、上で示した色によるノイズの知覚の差は、ほとんどなくなります。
実際、1分x75枚で用意したL画像でLRGB合成を行った後、両者を比較すると、ノイズの差はほとんど感じられなくなりました。
LRGB合成後の比較

GのノイズがR/Bにくらべて強く感じられるのは、輝度ノイズの問題であって、LRGB合成後のノイズはほぼL画像だけで決まるからだと思われます。
ですので今回の方法が有効なのは、RGB合成で画像を仕上げる場合のみであるようです。
まとめ
緑色を最も明るく感じる人間の知覚に着目し、RGB合成の最適な枚数比率を検証しました。トータルの露光時間が一定(合計75枚)の条件で見た目のノイズを最も小さく抑えるのには「R:17枚 / G:48枚 / B:10枚」の比率が良いだろう、という結論を得ました。
このアプローチは、カラーカメラのセンサーにおいて、人間の視覚特性に合わせて緑(G)の画素が赤(R)や青(B)の2倍配置されている(RGGBのベイヤー配列)事実とも合致する結果です。これは「人間の視覚特性に合わせるため」と良く説明されますが、本当のところは緑のノイズをなるべく抑えることが目的なのだろうと思っています。
ただしこの方法は、LRGB合成を前提とすると効果は限定的でした。これはLRGB合成後のノイズはほぼL画像で決まってしまうためです。Gを多くとるアプローチがこれまであまり語られてこなかった理由はこの点にあるのだろうと思います。ですが、繊細な色表現を実現したい場合にはLRGB合成よりもRGB合成のほうが優れている場合もあるので、その様な場合には、有効であると思います。

*1:ここでは大きさが0.03のガウスノイズを与えました




















































