天文はかせ幕下

星沼会リレーレビュー:サイトロンジャパンの高性能屈折SJH-75UFで撮影しました!

はじめに

このたび、サイトロンジャパンのスタッフの皆様から、星沼会あてにリレーレビューのご依頼をいただきました。昨年販売された屈折望遠鏡SJH-75UFを我々でリレーして、自由にレビューしちゃってください、とのことなのです。

「え、いいんですか?まじで」

って顧問も一枚加わらせていただき、先日蔵王で作例を撮影してきました。

そんなわけでばっちりレビューしますので、どうぞよろしくお願いします

まず、SJH-75UFとは?

口径75mm、焦点距離375mm(F5)の屈折アストログラフです。現時点*1で、10cm以下の屈折として世界最高峰の光学設計であると断言できます。その詳細は、サイトロンジャパンの特設サイトでとても分かりやすくまとめられています。

一番の特徴は、その星像の鋭さです。SJH-75UFのスポットダイアグラム半径は、中心で0.67μm、フルサイズ周辺で1.31μmと、レイリー限界をはるかに下回るムチャクチャな設計値です。スポットダイアグラムは、小さければ小さいほど細かな構造を写し出す分解能が高いことを意味します。顧問の見立てでは、国内外で販売されている10cmクラスの高性能屈折鏡筒に匹敵する分解能を持つだろうと考えています。

こまかな註:レイリー限界やシーイングの影響にかかわらず、スポットダイアグラムは小さければ小さいほど、撮影結果の分解能は高くなります。そのあたりの理屈は以前の記事

星像のサイズを計算してみよう! SJH-75UFを例に深掘りする分解能の話 - 天文はかせ幕下

でまとめていますので、ご興味あればご覧ください。

今回のレビューで、顧問が注目すること

今回のレビューでは

  • 撮影現場での使用感
  • 撮影結果の評価と画像処理後の仕上がり

の2点をメインに扱おうと思います。鏡筒の機械的・機構的なな面についてはあまり触れていません。そこは、自分よりも星沼会のほかのメンバーが得意とするところですので、彼らに任せようと思います。

撮影の現場で使ってみて

設営

撮影は、宮城県蔵王連峰の賽の河原駐車場で行いました。標高1250m、撮影日の7月17日は、気温20℃~23℃ほどでした。

設営して月没を待つ

組み合わせた赤道儀はCEM70Gです。2.5kgのウエイトをシャフトの真ん中につけてバランスが取れました。カメラはAPS-CセンサーのASI2600MMとMCで撮影を行いました*2

設営時に戸惑った点がありました。次の写真は赤道儀に取り付けた鏡筒を横から見ています

この状態で、ピントノブが赤道儀の台座に接触してしまい回すことができないのです。CEM70Gのアリミゾはロスマンディとビクセンのデュアルになっていて、ビクセンアリミゾが深めなことと、台座自体が大き目なのでこういうことが起ってしまうようでした。

当夜、誰も居ない駐車場でひとり頭を抱えました。しかし冷静になれば解決は簡単で↓。筒をバンドの中で回してピントノブを上側にすればよいだけです*3

ちなみに、たとえばEQ6R赤道儀なら台座は小さく、フォーカサーを取り付けた状態でもピントノブが干渉することはありませんでした。

そーなのかーさん撮影

ピント合わせ

ピント合わせはバーティノフマスクをつかってマニュアルで行いました。下はデネブを中心に入れてピントを合わせて撮影した画像です。

中心と周辺部を並べてみても、どちらも同じ回折像になっていました(下)。スケアリングも問題無いようです。

左が中心のデネブ、右は周辺の5等星のバーティノフ像

さらに下は10秒露光での中心と最周辺の128px切り出しです。この点も問題なく中心から周辺まで点像でした

また、当夜は薄明後の気温が23℃、明け方は20℃ほどでした。その範囲で撮影中のピントのずれは確認できませんでした。そもそも、当日の下界の最高気温は35℃でした。そこから山の上に鏡筒を運び上げてきてわけですが、設置した時には鏡筒の温度変化はすでに落ち着いていたようで、順応にはそれほど気を使う必要を感じませんでした。

回転装置を回してもピントはズレない

顧問は、カメラの縦と横を間違えることが良くあります。ピントを合わせてから対象を導入して一枚目の撮影結果を確認すると、

「あれ、なんか違うな」

って。この日の撮影でもやっちゃってました。

SJH-75UFには回転装置がついています。それをヌルっと90°回して、念のためにもう一度デネブを導入してピントを確認したところ、中心から周辺にかけて、バーティノフマスクの回折像に変化は見られず。

一晩で多くの対象を撮影する場合も、あまりシビアに考えずに回転装置をクルクル回して大丈夫なんじゃないかなと思います。

ガイド

撮影時は、つねに3~5m/sの西風のあるコンディションでした。もし、鏡筒がRASA11だったらガイドはほぼ無理なコンディションです。

今回は、ガイドが2~3秒角程度に収まって優秀な結果でした。鏡筒がコンパクトで風に強いのは、取れ高の面でも大きなメリットだと思います(このコンパクトさで10cmクラスの屈折に匹敵する分解能を有しているのは大きいです)

撮影結果(NGC6888を例に)

対象は、NGC6888クレセント星雲の周辺を選びました。

  • 密集する天の川の微光星を中心から周辺まで、いかに描出できるか?
  • クレセント星雲本体が持つ微細な構造を、どれほど分解できるか?

などがポイントになる、高性能屈折鏡筒を試すのに格好の領域だと考えました。

画像処理した最終的な仕上げ画像は最後に披露いたします(とても納得のいく作品が仕上げられました)。

まずはスタック直後のRGB画像をみて行きます

スタック直後のRGB画像

RGB画像は、ASI2600MCのフィルター無し、180秒露光x42枚=2時間6分露光の結果です。スタック直後、背景をニュートラルにカラーバランス調整し、STFのオートストレッチを掛けただけの画像を次に示します。もちろんBXTは適用してません。

ピクセル等倍の高解像度画像はコチラからご覧いただけます。

中心と周辺の256ピクセル切り出しはこんな結果でした(下)

微光星はアンダーサンプリング

SJH-75UFの中心部のスポットダイアグラムは0.67μmで、エアリーディスクとシーイングを加味するとおよそ5.6μmと見積もることができます*4。ASI2600MCのピクセルサイズは3.76μmでしたから、カメラセンサーによる星のサンプリングは、だいたい下の図のような感じになります:

太い四角が1ピクセルの大きさで、その中にRGGBのベイヤー配列があるわけですからかなりのアンダーサンプリングが予想できます。つまり、星像の小ささにセンサーのピッチが追い付いていない状態です。

実際に中心部の星像を強拡大して見てみましょう

中心部の星像、若干横に延びてるのは風によるガイドエラーです(細かい註:撮影の前半は、ガイド鏡にフードを付けていたため、ガイドエラーが大きかった)

星の四隅にでている偽色が、撮影がアンダーサンプリングになっていることを表しています。

鏡筒の性能をさらに引き出すためには、さらに小さなピクセルサイズのカメラを選ぶか、Drizzle Integrationがオススメとなります。実際のところ、現状のカメラをさらに下回る小さいピクセルピッチはあまり現実的でないと思われ、Drizzleを行うのが妥当だと考えます。

Drizzle2倍の効果

下の画像は、Drizzleなしの通常の画像と、スタック時に2倍のDrizzleを行った結果の比較です。Drizzleを行うと星像のカクカクが無くなって自然な円形になるだけでなく、偽色も緩和されています。

拡大しないと分からない小さな差ではありますが、星を小さくする処理などを行い結果をさらにシャープに見せたいような場合には、両者に差がでてくると思います。

最終画像はコチラです!

NGC6888

date:20260720
location: saino-kawara, Zao mountain range
optics: Sightron SJH75UF(f=375mm F5)
camera: ASI2600MM/MC
Exposure: total 5.45h
   - 180s x 42f 2600MC, no filter
   - 180s x 36f 2600MC, L-extreme
   - 180s x 31f 2600MM, L-extreme
Processing: x2 Drizzle, PixInsight, Photoshop

 

キャプションに書いたように、ノーフィルターで撮影したRGB画像に加えて、L-Extremeフィルターを使って撮影した結果をブレンドしています。クレセント星雲本体のO3のベールや、周辺の淡いHαの構造を引き出すためです。鏡筒のレビューですので、もちろんBXTは使っていません。ただしAIのノイズ処理と、2倍のDrizzleは行っています。総露光時間は5時間半です。

 

気になる領域を拡大して見てみましょう。以下では、APS-C換算でf=1500mm程度の拡大をしてみます:

(1)まずはクレセント星雲本体です。O3の淡いガスに透けて細かな構造をもつHαの星雲が良く写っていると思います。

(2)画像下端に分布している暗黒帯。この辺りは星雲の色の変化が豊富で美しいです

(3)例のバブルもごくうっすらと写っていました(中心にうっすら丸い構造が見えています)

(番外編)Drizzle2倍+BXTでブースト

さて、ここまではSJH-75UFの素の性能を見るために、BXTを使わずに処理した結果を見てきました。もしBXTをしたらどうなるのかは気になると思います。

顧問のこれまでの経験では、特にアンダーサンプリングに取得されたデータにはDrizzleとBXTがとても良く効きます。

以下は、L-Extremeフィルターをつけて撮影したモノクロ画像について、スタック直後の元画像と、x2のDrizzle+BXTの処理をした画像について、BXTのあり・なしを比較したものです。NGC6888の一部を拡大した画角でgifアニメにしました。

Drizzle+BXTはかなりの効果と思います。

まとめです!

SJH-75UFを、撮影から画像処理まで通して使ってみました。10cm高性能屈折クラスの分解能と表現力を、手軽にフィールドへ持ち出せる究極のコンパクト・アストログラフとして、とても優秀だと思いました。

明るさについて、F5は決して明るいとは言えません。ただ、一晩で可能な露光時間(今回は5時間半でした)の範囲でも、最近の画像処理技術(AIによるノイズ処理を含む)とフィルターワークを用いれば、淡い領域を十分に描写することが出来ました。今回の作例をご覧いただければ、それがわかると思います。

ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 極めて鋭い星像と高分解能: 口径75mm とは思えないシャープさがあり、微光星や星雲の細かな構造を詳細に描写できました

  • 風に強く、取り回しが良い: 鏡筒自体がとてもコンパクトなため、今回のような風のあるコンディションでもガイドが安定していました。遠征撮影での安心感は抜群で、車の中で熟睡できます

  • デジタル処理(Drizzle + BXT)との相性がGood!: 星像が極めてシャープでアンダーサンプリング気味になるからこそ、2倍DrizzleやBXTを適用した際の解像感の伸びしろが大きいです。焦点距離で換算1000mmくらいのクロップにも十分耐えると思います。

今回はAPS-Cセンサー(ASI2600MM/MC)での検証でした。フルサイズではどうなのか?そちらの検証は、星沼会メンバーのAramisさんやそーなのかーさんのレビューにバトンタッチしたいと思います。ぜひそちらも楽しみにしていてください。

最後に、素晴らしい鏡筒をお貸し出しいただき、レビューの機会をくださったサイトロンジャパンの皆様に感謝いたします。ありがとうございました!

*1:2026年7月

*2:フルサイズでの評価はAramisさんやそーなのかーさんがやってくれる予定です

*3:こんな簡単なことでも、現場で焦ると思いつかないものです、わたしだけ?

*4:星像のサイズを計算してみよう! SJH-75UFを例に深掘りする分解能の話 - 天文はかせ幕下

オメガ星雲をさつえいしますた

天の川の中心部、いて座からたて座にかけての夜空には、とても明るい散光星雲や球状星団が分布しています。M8干潟星雲や、M16ワシ星雲などはとても明るく観望会でも人気の対象です。

今回のM17オメガ星雲って、撮影する人にとっては少し存在感薄いような気がするんですよね。これも明るい星雲にもかかわらず、これ単独でさつえいされることってあまりない。

いて座からたて座にかけての星野(Gravity Astroのスカイサーベイより作成)。オメガ星雲はわし星雲といっしょに縦にならんでいて、バンビの横顔星雲の口から立ち上る白い息みたいです。

今回はそんなオメガ星雲をチリで撮影しました。

左がLRGB合成で仕上げたものです。右はナローバンドですが、天候不順で撮影できなかったHαをRで代用したSRO合成です。

LRGBのカラーバランスはSPCCで決定し、SROはLinearFitで各色を揃えただけです。この二つをブレンドします。細かい方法は省略しますが基本的な方針として

  • 星の色はLRGBのまま
  • ナローバンドの青(O3)が活きるように
  • 赤い星雲はなるべくそのままになるように自然な感じを残す

を心がけました。

そんなわけで結果はコチラ

M17

レビューに付き合ってくれた丹羽さんのアドバイスで、とても明るい中心部分の輝度をなるべく抑えることで構造が潰れないように気をつけてます。

 

ナローバンドをブレンドは、HαがO3に透けてみえるような透明感が演出できるのが魅力だとおもっています。ただ、もっと透明感出したいのと、星雲の彩度が部分的に破綻しているようにみえるのもあって、不満はたくさん。しかしやり直しする気力もなく、とりあえずブログにしました。

CNAP2026@京都、に参加してきました。

2026年のCANPは、7月4日、5日の日程で京都で開催されました。今回、岡野さんからトークの依頼を受け、日頃から「積極的受け身で生きる」を標榜している顧問としてはYES一択。京都へ二泊三日の天文出張をして参りました。

CANPは、CCD Astronomy Network Partyの略で、CCDカメラによる天体撮影の黎明期からずーっと続いている、おそらく日本では最も歴史の古い天体写真の研究会です。

天体写真を始めた頃から、そういった集まりがあることはうっすら知っていましたが、月日が経ち、まさか自分がトークをすることになるとは。とっても光栄&感慨ひとしおであります。

会場では、自分が昔から天体写真のお手本や目標にしていたたくさんの方々や、またありがたくも拙著(PixInsightの使い方応用編)を買ってくださった方々とお話しすることができました。何人かの方はわざわざ本を持ってきてくださって、お恥ずかしくもサインなどさせてもらいました。

公演中は近江商人さんが(おいでおいで)って感じで誘ってくれて隣に座らせてもらいました。

近くに座っていらしたヨーダさんが撮影してくれました。あまり写真を撮る余裕もなかったのでありがたかったです。

それでは、みなさんのトークについて、顧問が理解できた範囲でご紹介したいと思います

山下さん「光害地からの惑星状星雲・銀河ラッキーイメージング」

大阪北部の光害環境にある自宅天文台から、C14を用いた惑星状星雲や銀河のラッキーイメージングについてのトークでした。1枚10秒程度の短時間露光データを大量に取得し、なんと基本的には目視で選別していくとのこと。かなり小さくてマニアックな惑星状星雲の組写真は圧巻でした。どの天体も素晴らしい解像度だったのですが、特にM51やM64の結果などは、後の蒔田さんの講演で紹介されたサイディングスプリングでのリモート撮影に匹敵するものでした。自分もチリのデータで撮り溜めていたM104をもう少し選別してみようかと思った次第です。

BXTについても、エラーが生じる事例を複数紹介されてました。単秒露光で星が少ないと、PSFを正しく測定できなくてアーティファクトが出るケースが多いようです。

ちなみにラッキーイメージングでは、画像の保存形式はPNGの8bitでも結果に大差ないとのこと。また長年続けていても良シーイングを予測するのは難しく、結局は「運」という言葉が印象に残った。やっぱりそうかあ。

蒔田さん「画像システムと画像処理」

前半では、ディスプレイ表示とγ(ガンマ)変換の話を中心とした講演でした。sRGB規格では、カメラ側とディスプレイ側で行われているγ変換によって、は最終的に「人間にとって自然な明るさ」の画像が表示されており、画像はノンリニアが基本。いっぽう天体写真ではデバイス(天体CMOSカメラ)が出力したデータをリニアのまま扱うので、画像の表示について問題が出るのでは?とのことです。(顧問の理解が不十分で間違っているかも知れません)

RGBWSの値の輝度依存性グラフなど、初めて見るデータも多く刺激的な内容でした。

左部さん「OM SYSTEMの天体撮影戦略」

なぜOM SYSTEMがここ数年で天体向けカメラを相次いで投入したのか、その背景やマーケティング戦略について紹介でした。開発チームには天文初心者の左部さんと元天文少年の池田さんが参加しているとのことで、ユーザー目線を意識した製品開発が行われていることが伝わってきた。

特に印象的だったのは「手持ちハイレゾ」と「手持ち撮影アシスタント」。撮影中の手ブレ情報をリアルタイムに可視化する機能はまさに失われた手法「手動ガイド」のリバイバルって感じで面白かったです。あれは池田さんのアイデアなのだろうか?

永弘「PixInsightで天体写真の楽しいPost-processing」

顧問のトークです。内容は、丹羽さんとのyoutubeライブでお話ししようと思います。3年前に実行委員長をやった時も思ったのですが、CANPの参加者の方々はみなさん良い雰囲気で、顧問のたいしたことのないジョークでも気持ちよく笑ってくれます。とても気持ちよく話すことができました。

上坂さん「宇宙映像制作の舞台裏」

映画における宇宙表現のメイキングの紹介でした。月面基地やローバーの挙動、ロケット打ち上げ時の噴煙シミュレーションなど、リアルな宇宙描写を実現するための物理演算など。CGのレンダリングってすごいですね。
印象的だったのは、物理的な正しさをそのまま再現すれば良いわけではない、という話。月面重力を厳密な1/6で再現するとかえって違和感が生じるため、あえて地球側に寄せる調整をしているという。こちらは天体写真の画像処理にも通じなあと思いました。

山﨑さん「太陽高解像度撮影の世界」

太陽の高解像度撮影に関するためのノウハウのお話し。顧問は太陽観測の経験があまりなく、全てを理解できたわけではありませんが、エタロンではフィルターの温度まで制御して特性を安定化させていることとか、ローリングシャッターとグローバルシャッターで、結果に違いを感じたことがないなど、驚く内容が多かったです。

可視光では光球を、Hαでは彩層を観察できる理由など、講演後にしつこく質問させてもらい、とても丁寧に答えてくださいました。ありがとうございます。

原野さん「188cm望遠鏡観望会レポート」

岡山天体物理観測所の口径188cmF18の反射望遠鏡を貸し切って行われた「伝説の観望会」の報告。利用料20万円は多数の参加者で分担すれば決して高くないが、大型望遠鏡特有の事情でキャンセルポリシーがかなりシビアなためギャンブル要素が強い。それでもたくさんの人が集まったとのこと。

前半は、観望会実現のためのさまざまな苦労話。顧問はとにかくああいったイベント企画がとっても苦手なので、原野さんの情熱には平身低頭です。

M57がM27並の大きさと明るさで見えるとか、土星衛星の色の違いまでわかるなど、アマチュアの天体望遠鏡では到底味わうことのできない188cmでの眼視の世界、生きている間に経験することができるかなあ。

山口さん「撮影スタイルの多様化とリザルトシェア」

遠征撮影、リモート撮影、リザルトシェアなど、近年の天体撮影スタイルの変化を俯瞰的に紹介する講演。それぞれの長所と短所を整理しながら、天リフが進めているリザルトシェア構想について説明を聞くことができました。
「リザルトシェアは面白いのか?」という問いに対して、どう答えるのかなと注目していたのですが、これについては「天文好きなら絶対面白いはず」と単純明快な回答。(うん、そうだよね)って思いました。共同長時間露光のプラットフォームの構築や画像処理講座、コンテンツパートナー制度など、天リフならではのアイデアも数多く考えられていて、自分も微力ながらお手伝いできればなと思います。

まとめ

やっぱり人間は実際にあって話をすることが重要だなあと改めて感じました。天文界隈でこういったリアルな交流の場を用意してくださっているCANの皆さんにはただただ感謝です。

今回のCANPについては、たまにこちらにコメントを下さるUTOさんもレポートを書いてくれています。ぜひご一読を

oozoraashiato.blog.fc2.com

また、山口編集長の当日の講演はyoutubeでも同じ内容のものを視聴できます。こちらも併せてご覧ください。

www.youtube.com

それではまた。

サムネ用

 

 

RGB合成でG(緑)を一番多く撮るアプローチ!

註)今回の記事は、一般的な色覚特性にもとづく話です。色覚には個人差があるため、人によってはそのまま当てはまらない場合がありますが、アプローチ自体はそれぞれの特性に合わせて最適化可能だと考えています。

概要

モノクロカメラとRGBフィルターを使って天体写真を撮影する場合、各色で同じ程度の枚数が撮影される場合が多いと思います。しかしながら、緑を最も明るく感じる人間の目の特性を考えると、Gチャンネルのノイズを最も小さくするべきではないかと考えました。つまり、Gの枚数を最も多く撮影し、反対にBとRは少なくても良いという考え方です。NGC300銀河の作例で試してみると、この方法は(LRGB合成でなく)RGB合成で画像を仕上げる際には有効なようでした。

「見た目のノイズ」は、緑が強く感じられる

はじめに簡単な実験をしてみましょう。ベースとなるモノクロ画像(L=0.2)に、それぞれ全く同じ大きさのガウスノイズを与えた画像を3枚用意します*1

これらをR・G・Bの各チャンネルに割り当てて合成すると、次のような人工的なノイズを持つカラー画像が出来ます。

上の画像をじっと見た時、何色のノイズが強いと感じるでしょうか? きっと、緑色が一番目立って見えるはずです。元々の3枚には全く同じ強さのノイズを与えていたにもかかわらずです。これは人間の目が、緑を最も強く感じるためです。

その感覚の比は、たとえばPixInsightのRGBWorkingSpaceに与えられています

この三つの数字は、カラー画像をモノクロ化するときに使われる値です。つまりモノクロの明るさLを

 L=0.22R+0.72G+0.06B

の比で決めるのです。そうすることで、カラー画像から感じる明るさにマッチするモノクロ画像が生成できると言われています。この値を元にすれば、人間の目は緑を青の10倍以上、赤の3倍以上明るく感じるのです。これが、上の画像で緑のノイズが一番目立って見えた理由です。

緑がもっとも明るく感じられる人間の目の特性を踏まえれば、Gチャンネルのノイズを優先して抑えるべきです。そのためにはGの枚数を最も多くし、反対にもっとも暗く感じるBの枚数は少なくても良い、という考えが有効そうです。

実際にそうなるのか? またそうなるとしたら、具体的にR,G,Bそれぞれを何枚づつ撮るべきでしょうか? 今回はこれらを検証していこうと思います。

はじめに結論から

トータルの露光時間を75分、1フレーム当たり1分露光とします。今回の検証から、見た目のノイズを最も抑える組み合わせは、およそ

R : G : B=1.7 : 4.8 : 1.0

の比になると結論しました。合計で75枚になるように枚数になおすと

R=17枚、G=48枚、B=10枚(合計75枚)

となります。

これに対して、各チャンネルを均等に撮影した場合:

R=25枚、G=25枚、B=25枚(合計75枚)

の画像を用意して、RGB合成後の結果をGIFアニメで比べてみます。(NGC300銀河の画像を例に、色合わせを行った後に全く同じ強さのストレッチを行った2枚を比較しています)

腕の周辺部

何もない背景部分

銀河の中心部

如何でしょうか?どの領域においてもR=17枚、G=48枚、B=10枚のほうが大幅にノイズが軽減して見えると思います。

R:G:B=17:48:10の根拠

RGBWorkingSpaceの値をそのまま使うとうまくいかない

天体写真に支配的なショットノイズは、露光枚数をN倍にすると1/√N倍に減少します。RGBWorkingSpaceの値をそのままつかって、RGB合成後の各チャンネルの「見た目のノイズ」が均等になるように枚数を決めると、

R:G:B=13:137:1

とGを137枚に対してBは1枚でよいというかなり極端な計算になってしまいます。

人工的なノイズの画像の「見た目」で比を決める

おそらく、RGB別の明るさの知覚以外にも、視覚周りの色々な性質でノイズの感じ方が決まってくるのだろうと思います。そこで以下のような人工的なノイズ画像をたくさん作って「見た目のノイズ」の強さを判断する実験をしました。

下の画像では、RGBの各チャンネルのノイズの強さが等しい一番左から出発して、右に行くにつれてGチャンネルのノイズだけをだんだんと小さくした画像を並べています。

(1)右に行くほどGのノイズが弱い

この並びの中で、どのくらい小さくすると、緑のノイズと他の色のノイズが同じくらいの強さに見えるかを、自分の目で判定しました。

同じことを赤と青についても行います。次の二つの画像では、右に行くにつれてRチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像と、Bチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像です。

(2)右に行くほどBのノイズが強い

(3)右に行くほどRのノイズが強い

私の視覚では、一番上の(1)で、Gのノイズが48%に弱まった場合にR/Bと同じ強さに見えました。また(2)ではBのノイズが206%に強まったあたりでGと同じ強さに見え、(3)ではRのノイズが173%に強まったあたりで、Gのノイズと同じ強さに見えました。

以上から、(見た目では無く実際の)Gチャンネルのノイズの強さが1であるとき、Rのノイズが1.73、Bのノイズが2.06くらいの時に、「見た目のノイズ」が各チャンネルで均等になると言えそうです。

以上の考察から、冒頭のフレーム枚数の比 R:G:B=17枚 : 48枚 : 10枚 を導きました。あくまで、顧問の色覚が標準的(多数派)であるという仮定の下の話ですが、星沼会のみなさんにも見てもらって、だいたい同じ結果を確かめています)

ただし、LRGB合成では効果は限定的

比較的良質なL画像を用意し、前の節で示したRGB合成後の画像に対して、それぞれLRGB合成を行ったとします。すると、上で示した色によるノイズの知覚の差は、ほとんどなくなります。

実際、1分x75枚で用意したL画像でLRGB合成を行った後、両者を比較すると、ノイズの差はほとんど感じられなくなりました。

LRGB合成後の比較

GのノイズがR/Bにくらべて強く感じられるのは、輝度ノイズの問題であって、LRGB合成後のノイズはほぼL画像だけで決まるからだと思われます。

ですので今回の方法が有効なのは、RGB合成で画像を仕上げる場合のみであるようです。

まとめ

緑色を最も明るく感じる人間の知覚に着目し、RGB合成の最適な枚数比率を検証しました。トータルの露光時間が一定(合計75枚)の条件で見た目のノイズを最も小さく抑えるのには「R:17枚 / G:48枚 / B:10枚」の比率が良いだろう、という結論を得ました。

このアプローチは、カラーカメラのセンサーにおいて、人間の視覚特性に合わせて緑(G)の画素が赤(R)や青(B)の2倍配置されている(RGGBのベイヤー配列)事実とも合致する結果です。これは「人間の視覚特性に合わせるため」と良く説明されますが、本当のところは緑のノイズをなるべく抑えることが目的なのだろうと思っています。

ただしこの方法は、LRGB合成を前提とすると効果は限定的でした。これはLRGB合成後のノイズはほぼL画像で決まってしまうためです。Gを多くとるアプローチがこれまであまり語られてこなかった理由はこの点にあるのだろうと思います。ですが、繊細な色表現を実現したい場合にはLRGB合成よりもRGB合成のほうが優れている場合もあるので、その様な場合には、有効であると思います。

 

アイキャッチ



 

*1:ここでは大きさが0.03のガウスノイズを与えました

6月の蔵王で最高の眼視体験

もくじ

眼視観望への想い

顧問にとって、これまでの最高の眼視体験の思い出は高専の2年生だったころにさかのぼります。

天文同好会のOBに同行させてもらい、八ヶ岳で行われていた星祭りに参加した時のことです。知らないオジサマに彼の40cmドブソニアンを使わせてもらったのが、衝撃でした。何もなさそうなところを適当に動かしているだけで、ちいさな銀河がたくさん入ってきて、どれも見たことがないような姿だったのです。こんな世界が隠されていたんだ、って痛感したのでした。

それから年月がたって興味も移ろい、今は撮影メインでやっておるわけですが、大口径ドブソニアンへの憧れは消えてはおりません。有名な沖田博文さんのサイト「趣味の天文」も以前から拝見していました。

「もしハワイに旅行する機会があったら、この方のところに押しかけてマウナケアで観望させてもらおう」

と以前から狙っていたのです。なんとなく、突然押しかけても快く迎えてくれそうな気がしていたのですよね(私の一方的な思い込み)

しかし、その機会は突然におとづれたのです。

沖田さん、蔵王に来る

「今夜、蔵王へ行く予定があるのですがご一緒にいかがですか?」

昨日のお昼前、沖田さんからお誘いをいただいたのです。思わず

「な、なんだってー!」

と机からひっくり返りました。

数年前に、顧問は天体運動のking's rateについて調べ物をしていた際、沖田さんに相談に乗っていただいて知り合いになっていました。近くにいらしたら誘ってくださいー、とお願いしてはいたのです。

ともかくいくつかの家庭内ヘコヘコ運動を実施後、急遽で蔵王に出かけることにしたのでした。

そして数時間後、蔵王の駒草平に到着した顧問の眼前にはあの76cmドブソニアンが立っていました。

どおおーーーん

画像って、絶望的になるくらい実際の大きさが伝わらないです。極小に折りたたんだ状態でNBOXの荷台にギリギリ納まる筐体は、展開すると全日本プロレスの斉藤ブラザーズ3ブラザーズぶんくらいの体積はあったと思います。

この夜に集まっていた東北大の天文部、仙台天文同好会のみなさんと一緒に、観望会が始まります。いつも、かのーぷすさんやそーなのかーさんと黙々と撮影している時とは、全然違う雰囲気です。

最高の眼視体験

眼視の素晴らしさは言葉で伝えるしかありません。観望会は、薄明の中のM3からスタートします。光害のない暗い空で見る76cmドブソニアンの別世界。記憶が鮮明なうちに、(画像を使わず言葉だけで)天体の感想を時系列に書いておきます。

M3

球状星団は、双眼鏡で見れば少しぼんやりと広がったシミ。大きめの望遠鏡では「円板状」にひろがったつぶつぶの集まりです。76cmドブでみたM3は本当の意味で「球状」に見えました。つまり、周辺に散在している星の「手前側」と「奥側」が感じられたのです! これは脳内補正なのでしょうけれど、通常とは段違いの高倍率がそういう錯覚を感じさせてくれたのかも知れません。片目で見ているにも関わらずとても不思議な立体感がありました。

M104

ソンブレロ銀河って言ったら、眼視でも撮影でも土星状の小さな姿です。アイピースをのぞいた瞬間、それが視野いっぱいに広がっているというだけで、「マジかよ!」と叫んでしまい、唾が主鏡に飛び散ってしまったのではと心配になりました(低空なので大丈夫だったと思います)。銀河のコアは恒星状に集光していて、暗黒帯は極太の筆で一気呵成に一文字を書いたようにはっきり見えていました。さらにソンブレロの円盤に注目して、例のうねうねを見ようと試みましたが、それは流石に見えませんでした。

M51

この夜の観望で、驚きにランクをつけるとしたら、堂々の第3位はM51でした。M51は「子持ち銀河」と呼ばれ、比較的小さな銀河なんです。その親の方の渦巻きが、視野いっぱいに十分なコントラストで見えました。それぞれの腕はずんぐりむっくりした印象で、太いグレーの蛇が数匹集まってトグロを巻いているみたい。

ドブのフレームを掴んで、ちょっと視野を動かすと、はみ出ていた子ども銀河が視野に入ってきます(驚きの高倍率!)。子ども銀河を両断するように分布している暗黒帯がはっきりとわかりました。

M63

「ひまわり銀河は、案外に退屈なんですよ」そう言って、ヒョイっと導入してくれました。M63の手動導入って結構難しそうなんですが、流石に慣れてらっしゃいます。M51を見たあとだったので「ほうほう・・」くらいの印象でしたが、南側にある特徴的な暗黒帯が、はっきり見えました。眼視での銀河は、画像よりも暗黒帯が太めに見えるような気がします。中心の集光は鋭く、「ひまわりの種」が並んだような周辺の細かい模様は流石に見えず。

M57

「あっ、ドーナッツの穴が緑色だ!」って叫びました。まさに写真で見た姿です。ドーナッツ自体は薄いオレンジ色に見えていたような気がしました。もうすこし目を凝らすと、中心星が表れては消え、表れては消えってかんじでチラチラと見えました。沖田さんによれば、シーイングの関係でそういうふうに明滅して見えることがあるそうです。

M17

この夜の驚きランキング第1位はM17オメガ星雲です。「はぁ?ナニコレ!?」って笑い出してしまいました。自分が何を見ているのかよく分からなかったのです。およそ今まで見たことがない構造で、天体写真から感じる印象とはかけ離れていました。写真とは違いO3とHβの光を感じているせいなのかも知れません。岩石に析出した水晶の連なりのように星雲がパキパキの構造を持って見え、その全体の姿は、ちょうどS字をした白鳥の頭部のように見えました。

M27

この辺で驚きに少し疲れてきます。「いやー、もうアイピースを覗くのが怖いわー。M27なんてみたらどうなってるの?」って感じで観望したM27の姿は「普通」でした。これがこの天体の特徴なのかも知れませんが、これまで見たことのある姿がそのまま拡大して見えていました。やっぱりHαは見えないのですね。O3の光だけが見えていたと思います。

NGC6992

驚きランキング、僅差の第2位は網状星雲(西側)です。もともと、網状星雲は写真にしか写らないと思っていました。浄土平のような暗い空で観望すると、本当にうっすらと眉毛のような姿が確認できることを、最近になって知ったのです。沖田さんのスケッチでは、天体写真と変わらないような姿が記録されているのですが、正直「これは流石に盛ってるでしょ?」って思っていました(スミマセン)。昨晩の観望では、そのスケッチと同じ姿がアイピースを覗いた瞬間からはっきり見えました。目の暗順応が進むとようやく見えてくるってわけじゃないのですね。

網状星雲も完全にはみ出していて、ドブのフレームを掴んで視野を移動すると、網状の構造が川の流れのようにどこまでもどこまでも連なって続いていました。あなおそろし。

M31

夏の観望会らしく、最後は秋の銀河M31アンドロメダで締めとなりました。ぼわーっと楕円状の構造が視野からはじ出しています。光芒の分布がとても滑らかに見え、ひょっとしてつぶつぶに分解しているのじゃないか?と思いましたけど、流石にそれはありませんでした。仙台市の光害の影響があったので、次回は天頂付近で見てみたいです。

おわりに

他にも、ステファンの五つ子とか、マニアックな惑星状星雲などたくさん見せてもらいました。フォーカスノブを動かした時のピントのピークがとてもわかりやすいこととか、経緯台の動きが非常に滑らかなことなども驚きでした。

「私も導入してみたいのですけど」とお願いしたら、快くOKしてくださり、M51とM15の手動導入を体験させてもらいました。これもとても楽しかったです。

 

高さ2mくらいのところにあるアイピースを覗くために、フラフラする脚立を登っていく緊張感が忘れられませんね。とんでもない経験をしてしまいました。これ以上の眼視体験は、もうなかなかないのじゃないかなあ。(とはいえ、自分が所有している8cm双眼鏡で見る天体の姿にはすっかり退屈、ってわけでもなく、同じものを何回でもみたくなってしまうのが眼視観望の不思議なところです。)

沖田さん、ありがとうございました。

 

フラット補正後に残る円形ムラの謎がとけた

はじめに

みなさま、フラット補正のあとに何故か円形の輝度のムラが残ってしまったご経験はないでしょうか? 私はあります。ちょうど下の画像のような感じです

画像1:円形のムラの例1、Zeiss Aposonner + EOS6Dで撮影

画像2:円形のムラの例2、SIGMA APO 70-200mm F2.8 EX HSM + EOS6Dで撮影。ななぜり君提供

画像1はアンタレス付近、画像2は先日のパンスターズ彗星の画像になります。いづれもフラット補正を行った後、ABEやDBEを用いて低空の光害カブリを取り除いた直後の様子です。撮影時にカメラ本体を直接赤道儀に固定し、鏡筒バンドのようなレンズを支えるパーツは使用していませんでした。

そもそもフラット補正はムズカシイ。思いつく限りで失敗の原因を挙げてみますと

  • フラット取得に用いる光源が十分に均一でない
  • ダーク・フラットダークを適切に減算していない
  • フラット取得時に迷光が入り込む
  • フラット画像が暗すぎる/明るすぎる
  • フラット取得時のフォーカスやカメラの取り付け角度のズレている

などなど。しかし、上の円形ムラの原因は上記のいずれにも当てはまらず、これは顧問にとって長らく未解決問題でした。

今回それを解決することが出来たので、記事にしておこうと思ったわけです。結論を先に申しますと、その原因とは、

  • フラット取得時とライト取得時の姿勢差による、光学系の撓み

でした。その詳細を簡潔に報告します。

カメラの姿勢とフラットの違い

以下では画像1で使用した光学系について話しを進めます。フラットを撮影するとき、顧問はこんな風にしています

フラット取得時のイメージ

基本的に、天頂に向けた時を基準にフラットを取得していたわけです。明るい反射望遠鏡ならいざ知らず、カメラレンズでの撮影なら姿勢差は全く気にしていませんでした。

今回、ふと思いついてアンタレス付近を撮影しているときのカメラの姿勢を再現して、フラットを取得してみたのです。

フラット取得(南中したアンタレス付近の撮影を想定)

それぞれのフラットを並べて比較してみます

ほとんと違いは分かりませんが、LinearFitで両者の明るさをそろえた後、「差の絶対値」をみてみるとこうなりました

おおっと、上の画像1と同じムラがでていますね。これはビンゴっぽいです。

というわけで、撮影時とカメラの姿勢をそろえたフラット画像を当てて、アンタレス付近の前処理をやり直しました。結果はコチラです↓

円形ムラがほぼ消えました。

ただし、厳しく見てみるとまだわずかに残っています。ライトフレームの取得時は日周運動にともなってレンズの姿勢が少しづつ変わっているので、そのあたりは仕方ないかもしれません。

おわりに

今回取りあげた円形ムラは、出る時と出ない時がありました。実は、アポゾナーで低空を撮影していた時にこの現象が起こっていたのです。分かってみると、なぜ今まで気づかなかったのだろうって話です。すでに「知ってた」というかたも読者の中にはいらっしゃるかもしれません。

RASAで主鏡の固定ネジを締め忘れて青い馬星雲を撮影してしまったときも同じようなことが起っていました

snct-astro.hatenadiary.jp

RASAの場合、固定ネジを締めさえすればフラットのズレは起こらないのですが、カメラレンズで姿勢差がでるとは、ちょっと意外でした。

本来なら、K-ASTECのバンドなどを使ってしっかりレンズを把持して赤道儀に固定し撮影するのが良いのでしょう。だけど取り回しが悪くなるし、そこまでしなくてもいいかーと手を抜いていたのです。むしろ、今回やったような雑な姿勢の再現である程度フラットがあうのだから、これで十分かなと思います。(追記:ただし、使用する光学系によっては、撮影後に同じ姿勢でフラットを撮っても、レンズ内の各可動部が同じ状況に再現するとは限らないので、注意は必要です)

光害地での撮影などで、さらに厳密にフラットを合わせる必要がある場合は、1時間に1回ほどの頻度で、パネルを使って複数のフラットを撮影中に取得するなどの方法が考えられます。それはひょっとしたら部員のななぜり君がトライしてみてくれるかもしれません。

2026年シーズンの初蔵王撮影で、NGC5566のあたり

5月になりました。

なんだか今年は、春先から晴天が続く日が多い気がします。先日の週末も見事な天候に恵まれて、今シーズン初めての蔵王に遠征してきました。

比較的に小さな相互作用銀河、NGC5566, 5560, 5569を撮影しました。先日、部員といっしょに宇田川湖へ行った折に2時間ほど取得していたL画像に、蔵王でのLRGBを加えて二晩のデータをスタックしています。トータルで7時間半の露光です。NGC5566,5560,5569

NGC5566,5560,5569
date: 2026-05-15
location: Mt. Zao, Yamagata
exposure: 120s x 104f (208min), ISO1600
camera: Canon EOS6D(mod)
optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2@2.8, Takahashi MT-200 F6
processing: PixInsight and Photoshop

 

構図は「西が上」にしました。こうすると白と黄色の二つの恒星が良いアクセントになってより魅力的になったと思います。ちなみに通常の「北が上」だとこんな感じで、こちらはすこしパッとしないような気がします。

「北が上」にした場合

ご覧になればなんとなくわかるかと思いますが、NGC5566はかなり小さい銀河で、最終画像では面積で15%くらいにクロップしています。

一枚のL画像は下のような写りで、撮影中は「こんな対象選ぶべきじゃなかったか」と不安になりました。

2026年の春の銀河まつりはこれにて終了となりそうです。今後もこういうマニアックな小さい銀河をもうちょっと撮ってみたく思っています。

以下は、当日の撮影の記録です:

撮影日の記録

金曜日の夜、お仕事を早退して近所の55レンタカーの配車場へ向かいます。55レンタカーは、5500円で24時間借りられるお得なレンタカー屋さんです。家庭の事情で自家用車が使えない夜は、躊躇なくレンタカーを借りることにしています。

日没ころに撮影地に着けるように名取を出発。

蔵王遠征では、蔵王町に入ったあたりに広がっている田園でいつも山頂の様子をチェックしています。文句なく晴れていますが、少し霞のかかって透明度低めです。赤い矢印のあたりがいつもの撮影地ですね。

ここから30分ほどで目的の駐車場に到着しました。風も無く、悪くない条件です。

やがてかのーぷすさんと永太郎さんが合流して、いろいろ雑談しながら撮影しました。他に天体写真を撮っている方は見当たりません。

ひだりからカノープスさん、だいこもん、永太郎さん。下方通過のカシオペア座と一緒に収めました。透明度が良くないせいか、山形と仙台の光が結構目立っています。絶好の星空とまではいかない様子。

 

こちらは自撮り。

 

この日は天文薄明開始が2:30ころ。夜中に風が出てきて、寒さをしのぐために車内へ避難。いつの間にかぐっすり寝てしまい、起きたら一人でした。さらにもう一眠りして明るくなってから撤収しました。

帰り道、放射冷却のせいか、宮城県側はすっかり雲に覆われていました。これなら昨晩の空も、そんなに悪くなかったのかもしれません。

 

最低気温は10℃くらいとそんなに寒くなかったんですが、それでも体がだいぶん冷えてしまいました。7時まで時間をつぶして、遠刈田のまほろばの湯に浸かって帰りました。なかなか最高な遠征でした。

 

 

 

新入生歓迎観望会のはずが。。。

きっとどこの学校でも似た状況であろうとは思うのですが、我々天文部においては一部のガチ勢が撮影や観測に熱心な一方、残りの大多数はゆるふわです。日々の活動も、集まって雑談する程度で終わってしまいます。

ですので4月に天文部員が入ってくると、

「なんだこの部は、お茶会やってるだけやないか」

と思われ、あっというまに嘗められてしまいます。そこで表題の、新入部員歓迎観望会を企画し、毎年ゴールデンウイーク明けごろに実施をしておるわけです。

開催地は「浜吉田」と呼ばれる海岸地域にある駐車場。学校からは車で30分そこそこの距離です。そこでドブソニアンなどを覗きつつ1~2時間ほど星空を楽しんで帰ってくるのが毎年のパターン。

とはいえ、夜中に未成年を郊外へ連れ出すわけですから、いくつかの書類上の手続きが必要になります。新学期のちょっとだけ忙しい最中、顧問はそんなのをチマチマと済ませまして、当日を迎えました。

ところが今回は少しざんねんな事態が。

直前になって都合が悪くなったとか体調を崩したとか出すべき書類を出してないなどの新入部員が続出したのです。参加者がたったの4人になってしまいました泣

しかも4人のうち2名は、いつものガチ勢2人です。

バカモノ、これじゃ新歓にならないではないか!顧問は激怒し

「もうやめやめ!やめた!!」

と叫びました。すぐさま目的地をゆるふわな浜吉田から、宇田川湖へ変更

新入生歓迎は二の次にして、深銀河のガチ撮りをすることにしました。

10日の夕方に集まった新入部員2名には以下のように説明しました:

「ちゃんと話してませんでしたが、実は仙台高専の天文部(の一部と顧問)はスポーツの部活動で例えれば全国大会レベルの強豪なんですよ。今夜はいつもの撮影をするので、準備のあいだちょっと待っててね。撮影が始まったら、星空など案内するから」

2人はポカンとしておりました。

「天文に強豪とか弱小とか、意味わかんないんですけど」

って思っていたかもしれません

 

さておき、ななぜり君はマルカリアンチェーン、T君は星野や天の川の星景、顧問はNGC5566の撮影を準備します。新入部員2名はこんな感じですこしさみしい春の星座を眺めておりました。

このあとドブソニアンで春の銀河を観望しました。M51を見せた時、平均的な新入部員よりもリアクションがよかったので、この二人は見込みがありそうです。

露光を開始してのち、ふざけるガチ部員2名

新入部員を自宅まで送迎する都合上、天の川が昇ってくる時間帯にお開きとしました。最後に記念写真をパチリ。

それではまた今度。



 

19日未明のパンスターズ彗星(C/2025 R3)、30°にわたる長い尾が!

19日の未明、パンスターズ彗星(C/2025 R3 PanSTARRS)を撮りに、宮城県北部の田束山へ遠征しました。天文部員のななぜりくん、りんごあめくんと一緒です。

今回は入念に計画を立て、撮影場所と撮影方法を準備しました。その甲斐あって、30度以上もたなびく見事なダストトレイルを写し出すことが出来ました。その顛末を報告いたします!

C/2025 R3 PanSTARRS in twilight

date:2026-4-19 3:10~3:41(JST)
location: Mt. Tatsugane, Miyagi, Japan
exposure: 106f x 60s ISO1600
camera: Canon EOS 6D (3 cameras) and SigmaFp(single camera)
optics: 70-200mm@70mm F2.8
processing: PixInsight

計画

2026年の早春、近日点で崩壊してしまったMAPS彗星の影に隠れるように増光していたパンスターズ彗星。4月に永太郎さんがポストされた姿を見て、なんと見事な尾でしょう、これは撮影しなければと焦りました。

やるからには、全力で行きます。撮影に熱心な部員のななぜり君とりんごあめ君を呼び出し作戦会議を開きました。

まず撮影場所は、田束山(たつがねさん)を選びました。明け方に彗星が昇ってくる東の空が暗いだけでなく、500mが標高があって春霞の影響を避けることができます。

次に撮影方法です。今回の彗星は、空が明るくなるまでの数十分ほどしか撮影時間がありません。なるべく長い露光を稼ぐために複数台カメラによる同時撮影をすることにしました。

ちょうどよいタイミングで、ななぜりくんがSigmaの古い70-200mmF2.8のズームレンズをメルカリで手に入れていました。故障品が6000円で出品されていたのを購入し、ゴニョゴニョやっていたら修理できてしまったとのことです。さらにはりんごあめ君がNikkorの初代70-200mmF2.8を金持ちの友人から強引に借りてきていました。これに部のSigma70-200mmF2.8と、顧問の私物のSigmaの70mmF2.8マクロを合わせて、4台同時撮影が可能になったわけです。

今回撮影につかったカメラとレンズ達

カメラはななぜりくんの6Dに顧問の私物の6D2台、SigmaFpを使うことにしました。

ズームレンズは単焦点にくらべて光学性能が劣る欠点はありますが、彗星のような撮ってみないと尾の長さなどがわからない対象を撮るときは便利です。今回も、前日までにSNSに上がってくる彗星の様子を確認してから、撮影時の焦点距離を決めようという話になりました。

結局、一番広角側の70mmでってことで話がまとまり、いざ撮影です。

道中~撮影準備

4月18日の夜は、弱い高気圧が西から東北地方に広がって晴れの予報。若干湿度が高めの空気が広がっていました。22時に学校を出発し、北東へ車を走らせます。

目的地の田束山までは2時間ほどです。手前の山道でアナグマを見かけました。この山は小動物が結構多いようです。

さて、撮影地に到着したのは0:30ころでした。すでに東には天の川が横たわっておりましたが、ずいぶん霞んでいます。まるでフォトショップの「かすみの除去」を-20くらいかけたような空です。

「ああー、これはダメでおじゃるな」

顧問は直感的にそう思いました。車を降りた部員二人は、「すげー!」って、暗い星空に感心しきりです。ふだんは閖上の海岸とかで撮影しているようで、それに比べればはるかによい空が広がっていたのは確かです。

準備を始めます

左からKenkoSE2赤道儀に載せた6Dが2台、SkyMemoRに載せたSigmaFp、SkyMemoSに載せたななぜりくんの6D

計画通り4台のカメラを東に向けます。書いてて初めて気づきましたが、赤道儀が全部Kenkoですねえ。すべてオートガイド無しで撮影しました。

撮影開始

彗星の核が地平線から姿を現すのは3:15ころ。当初の期待としては、その30分くらい前から、巨大な尾が

「ズゴゴゴゴゴ・・・」

って音を立てるように昇ってくる……。そういう心象風景を頭に描いておりました。実際はそんなわけはなく、予定を過ぎてもカメラに写るのは霞と人工衛星の光跡ばかり。

ようやく彗星の姿を確認できたのは3:20ころでした。

これはよくある、お わ か り い た だ け た だ ろ う か ……状態です(泣。

ここから30分くらい露光を続けましたが、終始手ごたえのない状態が続きました。

記念写真を撮って撤収しました

リザルト

日曜の朝に帰宅して寝て起きて、顧問はぼんやりしていました。複数台のカメラで撮影した彗星の画像をCometAlignmentして一枚にスタックするのはなかなか面倒な作業で、どうにもやる気が湧いてこないのでした。

夕方ごろ、ななぜりくんから、彼の6D一台で撮影したデータを処理した衝撃の結果が上がってきました

かなり強引な処理で浮かび上がってきた尾は、フルサイズ70㎜の画角からはみ出しています。しかも途中で大きく屈曲しており、いったい何があったのかという姿です。

ここから慌てて処理に取り掛かりました。しかし彗星の尾はきわめて淡く、背景の薄明のグラデーションとの両立には無理があると判断。淡い姿と、炙りだした姿を併記する冒頭の仕上げでSNSにアップしました。

ここではななぜりくんが処理した結果も紹介しておきます

今後の課題

彗星の尾があのような屈曲した姿を見せたのは、短い時間帯だったようです。ネット上を見渡しても、同じ姿をとらえた例はそれほど多くないようでした*1

こういうことが起るのが彗星撮影が、DeepSky撮影とは一線を画して面白いところです。

大西先生の宿題

X(旧ツイッター)にアップした画像について、いろんな方から反応いただきました。長野の大西さんからは、「STEREO-Aに受かっている同時刻の構造から、イオンテールの3次元構造を推定できるのでは?」という宿題をもらいました。論文になるかどうかというのはなかなか難しいところはあると思うのですが、面白そうなので目下取り組み中です!

*1:同じ日に撮影されていたお気楽ジョガーさん、中国の水晴雨さんが同様の結果を得られていて、Xにアップされていました。
https://x.com/hiroshi_xy/status/2046433771273220313?s=20
https://x.com/ena1_mizuki/status/2046294918596096429?s=20

Manual Image Solverが使いやすくなって帰ってきました!

概要

PixInsightで星景写真に星図を書き込みたい、あるいはSPCCで色合わせをしたい、という方にとって、朗報です。Manual Image Solver(MIS)が使いやすくなって帰ってきました。

MISは画像の星を手動で選択して、プレートソルブを行うツールです。広角で撮影された天体写真は、周辺の歪みが激しいために全自動のImageSolverではほとんどプレートソルブができません。そのためPixInsightには、手動で画像を解くことができるMISが用意されていました。ところが、ver. 1.9あたりのアップデートでMISはなぜか廃止されてしまい、それ以来、広角の画像をプレートソルブできない状況が続いていたのです。

Manual Image Solverを復活させてくれたのは、日本初のCertified PixInsight Developerに認定されたysmr3104さん(さとしさん)です。ありがとうございます!

この記事ではさとしさんによる、Manual Image Solverを紹介します。

導入方法

PixInsightのResourcesメニューから"Manage Repository"を実行してリポジトリに

https://ysmrastro.github.io/pixinsight-scripts/

を追加してください。そのあと同じくResourcesメニューから”Check for update”を実行してPixInsightを再起動すると、スクリプトがインストールされます。成功すれば
Script>Astrometry

にManualImageSolverが追加されています

こちらが実行画面です

Manual Image Solverの使い方

すごく簡単です。スクリプト画面上でめぼしい星を選択して、星の座標を登録していきます。満遍なく星を選択したら、右下の"Solve"をクリック。成功したらば"Apply to Image"を押せば完了です。プレートソルブの情報が画像に書き込まれます。

詳しくは、さとしさんのgithubに説明がありますので下記のリンクをご覧ください。

実際に使ってみました

スクリプトはとてもユーザーフレンドリーに作り込まれています。下の画面は実際にMISで星を指定している様子です。画像の星をクリックして、右側のメニューからその星を検索、ダブルクリックで星の座標を書き込んでいきます。

MISの実行の様子

正確にプレートソルブするには、なるべくたくさんの星を指定した方がベターですが、これがちょっとめんどくさいんです。便利なことに、さとしさんのMISはいくつかの星を選択してSolveを行えば、周辺の星の推定位置をオレンジで示して星を探す手間を省いてくれます。同時にプレートソルブの精度の確認にもなります。

Solveが成功したらApply to Imageをクリックすればプレートソルブの情報が画像に書き込まれます。あとはスクリプトを閉じて大丈夫です。

下の画像は、同じく
Script>Astrometry

のAnnotateImageスクリプトで星図を書き込んだ様子です。うーんええ感ええ感。

Annotate Imageのトラブルシュート

MISではなくてAnnotateImageスクリプトにバグ?があり、星図を書き込むとグレーの画像や色が変になった画像が出力される場合があるようです。

その時は、AnnotateImageのインスタンスを書き出して(例の三角マークをワークスペースにドラッグ&ドロップ)、スクリプトを閉じ、インスタンスを画像にドラッグ&ドロップすることでカラーの画像が出力されます。

またAnnotateImageの"Apply STF before annotation"や"Drop shadow"をオフにすると解決したという情報もありました。

おわりに

いやー、それにしてもすばらしい。

以前のMISは、星図を生成して、手動でアライメントして、それから解く、って3ステップの手続きでかなり大変だったんです。

これに比べて、さとしさんのMISはとても使いやすくなっています。

もう一つ、密かなメリットがあって、MISを使い込むと2等星の名前を覚えられるんです。そうすると

「ほら、Alderraminの西側あたりですよ。」

なんて会話が星仲間と成立するようになって、とてもお得です。赤道儀で2starsや3starsのアライメントをするときもスムースになりますね。

顧問は覚えてる星が少ないので、どんどんつかっていこうと思います

星図と比べながら、星を選んでいきます