天文はかせ幕下

「カラーカメラ+光害カットフィルター」のデータをカスタマイズしてSPCCに適用する手続き

LNR-NやLPS-P2などの各種光害カットフィルター、あるいはCometBandPassやL-Extremeなどバンドパス系のフィルターなど...、これらのフィルターをカラーカメラに取り付けて撮影した天体写真に対して、PixinsightのSPCCを適用する場合は、RGB各チャンネルの光の透過率のデータをカスタマイズする必要があります。

その方法についてまとめたいと思います。

1.フィルターのデータをゲットする

まず以下のいずれかのサイトから、フィルター・各種カメラのカラーフィルタのデータをダウンロードしてください:

Pi Filter 2024 - Google ドライブ

リンク先は私のGoogle Driveです。これを書いている2024年6月現在に発売されているフィルターや各種カメラのカラーフィルターのデータが入ったcsv形式*1のファイルが落ちてきます(元のデータは、こちらから落としてきたもので、含まれていなかったSightronのQBPやCBP、DBPのデータをコモンが自作して加えました)。

1-1.欲しいフィルターのデータが含まれていない場合

その場合は、PlotDigitizerなどのグラフから数値を読み取るツールをつかって、各メーカーが公表しているフィルターの透過率と波長のグラフから、データを取得する必要があります。そのデータを、次のようなCSVテキストファイルで保存してください

type,"filter"
name,"xxxxx"
channel,"R/G/B/PAN"
wavelength," 482,483,484,485,...,1000"
transmission,"0.0,0.0,0.05,0.08,...,0.0"

nameは任意、channelは光害カットフィルターなら”PAN”*2、4,5行目がフィルターのデータです。wavelengthの値は小さい順に並んでいる必要があります。これらのcsvファイルは適当なフォルダーに保存しておいてください。

2.フィルターのcsvデータをpixinisightに取り込む

2024年6月現在の最新版(ver.1.8.9-2 buid1605)では、FilterManagerプロセスを使ってフィルターのデータを管理するようになっています。

FilterManagerプロセスの場所

FilterManegerプロセス

FilterManegerを開きましたら、Taskから”Merge CSV filter definitions”を選び、上のcsvファイルを保存してあるフォルダを指定して、●ボタンをクリックすることでフィルタのデータを取り込むことが出来ます。

成功すれば、CurveExplorerから取り込んだ各種フィルターのグラフを参照できます。例えば下のSightronDualBPのデータはコモンが作成して上記のリンクに加えていたものです。

2-1. 注)旧バージョンのPixinsightの場合

build1605以前のPixinisightでは、FilterManegerプロセスは存在せず、SPCC本体と一体になっています。

SPCCのFileManagementの変更

このブログではBuikd1605以降のバージョンを前提にして説明しますが、SPCC内のFileManagementとCurveExplorer機能をつかっても同じことが実行可能です。

3.カメラの特性と、フィルターの透過率を組み合わせる

これ以降は、コモンの撮影データを元に説明しますので、皆さんの撮影環境に置き換えて実行して下さい。下の画像は、ASI294MC-ProにIDAS NBZフィルターを取り付けて撮影したものです。カブリ補正とBackground Neutrizationを済ませています。

SPCCを適用する前

この画像に正しくSPCCをかけるためには、ASI294MC-ProのベイヤーフィルターとNBZフィルターを組み合わせた(透過率を掛け算した)データをRGBについてそれぞれ3つずつ用意する必要があります。

やってみます。再び、CurveExplorerを開きます。

ここから294mcのベイヤーフィルターとNBZフィルターを選ぶわけです。294mcの各ベイヤーフィルターの特性はSony Color Sensor R/G/Bとだいたい対応しています。なので例えばRチャンネルなら、次の図のように(Sony Color Sensor R)と(IDAS NBZ)を二つ選択してオレンジに反転させた状態にします。複数選択はCTRLキーを押しながらクリックで行えます。

そうしたら、左下の右から2番目のアイコンをクリックします。Filter nameとfilter channelを入力する欄が出現するので

Filter name:IDAS_NBZ/SONY_R ←(任意)
filter channel:R

などとしてOkを押します。最後に、FIlterManagerでもういちど●をクリックしてフィルターデータをマージしておきます(忘れやすい)。

4. SPCCの適用結果

以上で準備は整いましたので、SPCCを実行してみましょう。以下のように、R/G/B の各filterに上で組み合わせたフィルターデータを指定します。

QE Curveは”ideal QE Curve”のままで大丈夫です(ここで特定のカメラを指定してしまうと、フィルターの特性を「二度掛け」してしまうことになります)

実行すると次のような結果でした(うーん、ほんのり変化・・・)。

SPCC適用後

ちなみにグラフは以下の通り

B/Gのばらつきが大きいのが気になりますけど、ぜひ皆様の環境でも試してもらえたらうれしいです。

 

アイキャッチ

 

*1:数値や文字列をカンマで区切ったファイル形式のこと

*2:どういう意味?

6年前に卒業したOBが訪問してくれました

先週の日曜日、天文部OBのアベ君が遊びに来てくれました。

彼はいま東京で起業して、オンライン料理教室「シェフレピ」を手掛ける会社のCTOとして頑張っています。

今回は、最近一緒に住み始めたという彼女も連れてきてくれて、コモンも感激しました。とてもかわいい女性で、写真を載せればブログのアクセスも増えること間違いなしですが、自重いたします。

アベ君と一緒に天体写真を撮っていたのは、2017年ごろ。もう7年も前になります。当時はPixinsightのことはまだ知らず、ようやくオートガイドが出来るようになって、よっちゃん氏の動画など見ながらPhotoshopと格闘していました。

今にして思えば、大した作品もものに出来ず、迷走を重ねていたあのころが一番楽しかったかもしれません。

当時のブログの記事も、かなり滅茶苦茶なことを書いていて、なかなか笑えるのでここにまとめておきます。

1)「コミュ障アベ」初登場の回

2)アベといっしょに、はじめてのおーとがいど

3)撮影の誘いを断るアベ、彼女でもできたのか?

4)雲男アベ

5)レンズ落下事件と、実はこの時の犯人だったアベ(笑)

 

アベ君、時間ができたらぜひ3人でまた天体写真を撮りに行きましょう。コメントくださいね

 

蔵王でVixen VSD90SSを試してみました

先週、11日の火曜日。今シーズン初の蔵王に行ってきました。

目的は、星沼会で借りているVSD90SSのレビューです。同じく丹羽さんから借りているASI6200MCを装着して夏の天の川の周辺を撮影しました。

撮影の様子。VSD90SSと私

レビューは星沼会のブログに掲載しました。もしご興味あればご覧ください

 

撮影したのはM16とM17の周辺。初めて使う撮影システムで余裕が無く、構図を工夫できませんでした。定番構図ではありますがさすがに軽く100万円越えの機材だけあって、100分の短い露光時間でも絵になってくれました

M16 and M17

Date: 2024-6-11
Location: Mt. Zao, Yamagata
Camera: ASI6200mc
Lens: Vixen VSD90ss
Exposure: 300s x 20f (total 105min)
Processing: Pixinsight

 

当日は久しぶりに柊二☆さんと。最近の天体写真のモチベーションについて、愚痴を聞いてもらいながらの撮影でした。またツイッターでつながっている @star_rito さんも近くで撮影されていたそうで、こんど蔵王でお見掛けしたらお話ししてみようと思います。

 

赤福について

※若干唐突ですが、最近記事にするネタが枯渇気味なので、無内容な随筆をたまに書いていきます。不評であれば止めます

 

赤福という餅は、とても不快な餅である。箱に1ダースも餅を並べて一人では食べきれないが、かといって二人で食べようにも、そのうちに餅や餡が箱の壁面やヘラにへばりついて、汚らしいことこの上ない。なぜあのようなものが名物として売れているのか。」

などと、職場での昼食の折に同僚Aが話していた。コモンは赤福を比較的好むが、考えてみればその通りかもしれないなと思った。

饅頭とか大福といった菓子は、中身の餡がぐずぐずにならないように餅の皮で包んである。これはけだし合理的である。対して赤福は、本来は外皮であるところの餅が内側にあって、それを中身であるところの餡が包んでいる。

上は頭蓋を脳みそで覆うような愚挙であって、なぜそのようなことをするのか?そのような菓子が他にあるだろうか?

「おはぎがそうなんじゃない?」

もう一人の同僚Bのこの指摘を受けて、コモンは目から鱗が落ちる思いがした。確かに! おはぎ、あるいは牡丹餅は、半殺しにした米をつぶあんで包んだ形状をとっている。しかし今の今まで、私は赤福を食べる時におはぎを想ったことはなく、また逆もしかりだ vice versa.

「なるほど、赤福はおはぎの親戚なんだね!」

しかし赤福を憎む同僚Aの意見は違っていた。

「個人的には、赤福のルーツは餅入り汁粉でかなと思ってる。打ち捨てられ半日ほど放置された汁粉の水分が飛んで、赤福になった……つまり赤福は汁粉の成れの果てだ」

そんな感じで、このような下らない議論はなお30分ほど続いたのであった。

岩手南部で低緯度オーロラ!

はじめに

最近のこもんの対人コミュニケーションは、過半数SNSで占められてしまっています。その偏った世界から見ると5月11日は大オーロラ祭りでした。皆さんはいかがだったでしょうか?

休日だったこともあり、「ひょっとしたら見えるかも?」の期待で家族総出で観測に行ってきました。こちらはその時に撮影したお写真で、オーロラらしきものを撮影できました。

pano

2024-5-11 20:22(JST), a7s Sigma20mmF1.4 DG DN Art, ISO1600, 10秒露光, 1x3パノラマ合成, 室根山山頂

肉眼ではうっすらとしか見えなかったんですけど、以下ではドキュメント形式で遠征の様子をお伝えします。

事の起こり

その土曜日はすこし汗ばむ陽気でした。こもんは近所の筋トレジムで筋トレをしていました。そのとき空の上で「Xクラスフレア」と呼ばれる太陽表面での大規模な爆発が相次いで発生。それにともなって今夜、北海道以南でもオーロラが観測できるのではという話題が、SNSでトレンドになっていました。

こう呟いたら、コメントをくれた かのーぷす さんや柊二☆さんと、さっそく遠征先の相談が始まりました。

栗駒山は北の視界がいまいち」
「田束山は気仙沼のあかりが邪魔ですね」
「室根山の北側はどうでしたっけ」
「すぐ出発するなら種山高原まで行っても良いかも」

つぎつぎと撮影地の候補があがるうちに、こもんはやる気がみなぎってきてしまいました。

筋トレから帰宅して、さっそく家族と遠征の交渉します。「オーロラ」というキーワードが効いたのか、妻や子供たちも乗り気です(意外!) 私の床屋、長男の塾など予定を全てキャンセルし、家族総出で北へ向け長距離のドライブをすることになったのでした。

7年前の苦い思い出

じつは低緯度オーロラの可能性が話題に上ることはそれほど珍しくありません。顧問にとって思い出深いのは、7年ちかく前のこの時の出来事です:

このときも太陽フレア発生の報をうけて、当時1年生だったはたけくんなど強引に連れ出しました。奥州市の衣川国見平スキー場まで出かけて、特に成果なく帰ってきたのでした。

それ以来、東北での低緯度オーロラの観測は難しい。見られてもせいぜい北海度以北なのだな、と思っていました。今回も、

「あまり期待しないでね」

と家族に言い聞かせていました。

当日の記録

撮影地、到着時の様子

撮影地は、岩手県南部一関市の室根山に決定しました。

こちらが室根山の位置です。山頂の標高は800mほどあり、北方向の遠野市までは40kmほど離れています。

16時に名取を出発して、到着は19時ころでした。空は普通の空です。

7年前の失敗が頭をよぎり焦りました。ともかく撮影の準備をします。家族はコンビニ弁当を食べながら呑気に日没を待っています。

時系列の空の変化

以下では薄明終了にかけてのそらの変化を時系列に掲載します。きらら天文台3階のベランダスペースをお借りして撮影しました。写真中央がほぼ真北になります。

19:27 ISO400, 10秒露光, F2.8
普通の夕焼けの空です。SigmaFpで撮影しました

19:42 ISO6400 1秒露光 F1.4
この写真から、赤外改造したSony α7Sでの撮影に切り替え、感度をあげています。東側から星が映るようになっていますが、いつもの夕空です。左下の赤い領域は夕焼けの赤です。

19:50 ISO1600, 10秒露光, F1.4
あたりはかなり暗くなって、春の星空が広がってきました。カメラで撮影すると西空にはわずかに薄明が残っています。真北の方向が薄く紫がかっていますが、街明かりの被りなのか、区別がつきません。肉眼では何も見えませんでした。

20:08 ISO1600, 10秒露光, F1.4
最後に天文薄明終了直前の20時8分の様子。この時刻で、写真に映る空の赤さが通常と違うなとはっきりに認識しました。

こもんのとなりで2名、同じように撮影をされている方々がいて、それぞれのCanonPentaxの(おそらく非改造の)カメラでも同じように赤く写っています。

「うーん、これがオーロラなんですかね?」

肉眼ではほとんど見えないので、みなさん半信半疑でした。

タイムラプスにして初めてオーロラであることが判明

こちらは帰宅後に作成したタイムラプス映像です。SigmaFpにてISO6400、20秒露光F2.8で撮影しました。彩度とコントラストを強調しています

再生していただくと、08秒〜10秒あたりで、縦縞のゆらめきが見て取れます。時刻にして20時30分頃です。これでもって「オーロラ確定」といって良さそうです。

ちなみに、動画の右下でチョコチョコ動いているのが我々家族です。オーロラがピークに達した時間帯、こもんは写真を撮影せず、家族と空を眺めていました。その時にほんのうっすらと空が赤く見えていました。雲抜けの蔵王で、たまに大気光が見えることがありますが、それと同じくらいの淡さでした。人間の目が赤の感度が低いこともあり、低緯度オーロラは、本当に空が暗いところに行かないと観察は難しのだと、実感した次第です。

 

最後にこちらはピーク直後の20時40分に撮影した星景写真with低緯度オーロラで、かつサムネ用です。

orora211

ニュース報道など

今回は突発的な天文現象だったこともあって、ニュース報道も多かったです。Twitterでよくやりとりしている方々も結構たくさん記事に登場しておりました。

僭越ながら私も「だいこもんさん」として取材に協力し、テレビなどでも上のタイムラプス映像を使ってもらいました。

 



 

5月連休は神割崎でアンタレス付近

今年の5月連休は、晴天と新月に恵まれました。神割崎に遠征して名所「アンタレス付近」を撮影することができました。

3年ぶりの撮影でした。

使用鏡筒は前回と変わらず、Mamiya Aposekor 250mmF4.5のツインです。カメラはASI2600MCとMMの並列同架にバージョンアップ(3年前は2台のEOS6Dで撮影)。まずは結果から。3x2の6枚モザイク合成になります

Rho Ophiuchi: in the composition like a hanging scroll

date: 2024-0504
location: kamiwari-saki, miyagi, japan
optics: Mamiya Aposekor 250mm F4.5 x 2
camera: ASI2600mc and ASI2600mm
exposure: 3x2=6 panel mosaic, 180s x 12f(RGB) + 180s x 12f(Lum), total 7.2h, gain=100
processing: Pixinsight, Astropixel processor, Photoshop

暗い左上の領域から、右下の天の川中心部に向けての輝度の変化がアピールポイントです。

画像処理は何度か試行錯誤しました。一回目は分子雲をガリガリに引き出して見ましたら、なんだか美しくない仕上がりになってしまいボツ。気を取り直して2回目はストレッチを控えめにしたら、今度はなんだか物足りません。「うーんコノヤロ、えいや!」と最後に構図を縦に。したらばアンタレス付近の星雲が斜めに垂れる柳の木のような塩梅にみえて、一幅の掛け軸みたくよい感じになりました。

「でもちょっとあざといかなー」

って心配しつつTwitterにアップ。評判はそこそこでした。neko-CAT (@nekoCAT60CB)さんから

とお褒め頂いて、パノラマ撮影の印刷に便利なサイトを教えてもらいました。フレームをDIYするのも楽しそうだし、印刷してみようかなと思っています。それにしても”neko-CAT”というハンドルネーム面白いですよね。私は毎回ツボに入ってしまい、氏をTwitterで見るたびにニヤニヤしてしまいます。

話が逸れてしまいました。下は3年前に飯館村で撮影したアンタレス付近です。これも3x2モザイクで、こちらのほうが淡い部分がよく出ています。これはこれで良いのですが、今になってみてみるとちょっとストレッチがキツイかなーとも感じます。

Rho Ophiuchi cloud complex part 2(2021)

撮影日の覚え書き

ななぜりくんという、Twitterでフォロワーになってくれている若者を連れての遠征でした。彼は元々電車など撮影しており、本格的に暗い空での星の撮影は初めてだったようです。f=70mmくらいのレンズで、小さな銀河がたくさん映りこんでいるのをみて感激している様子でした。連れてきてよかったです。

他にかのーぷすさん、東北大天文部の皆さんもいらしてました。JD君に見せてもらったBORGの屈折を2本並べた双眼鏡は見え味がすばらしく感激。両眼で見ることで、片目では見えない淡い対象が見えてくるということは無いような気がしますが、視野の広いアイピースと合わせて使うことで視界全体に像が広がるのがたまりません。没入感が半端でなく、宇宙に落っこちそうな感覚に襲われました。

モザイク撮影の記録

モザイク撮影についても記録しておきます。まずコチラが構図

撮影はNINAの「高度なシーケンス」にお任せ。撮影順番は西から東へ。フレーム番号で3→6→2→5→1→4の順で30分ずつ撮影ししました。使用したCEM70赤道儀は、NINAの制御と関係なく一定の姿勢に達したら自動的に子午線反転する設定で、そのときだけシーケンスが混乱するので、srew&Centerの命令を頻繁に入れておく必要がありました。それにしてもとんどほったらかしで撮影できるのは本当にらくちんです。

 

モザイク合成の手順は以前コチラにまとめましたので、興味あればご覧ください

今回もほぼこの手順を踏襲しました。2600mmとmcのデータをそれぞれLRGB合成した後、各フレームを並べた様子がこちら。

一番右の2枚のフレームの撮影時に薄雲の影響があり、コントラストが低めだったので、モザイク合成前のストレッチを強めにして、すべてのフレームでヒストグラムの幅がだいたい同じになるようにしました。

ただ、実はここまでしてもつなぎ目が目立つ結果に成ってしまい、最終的には各フレームにGradient Correctionをかけてから合成して、ようやく上手く行きました。

こちらがモザイク合成直後の様子。Gradient Correctionが効きすぎているのか、全体的にのっぺりしすぎているように見えなくもありません。うーん、そらの透明度が低かったせいかなあ。

「やっぱり神割崎でなく、蔵王に行けばよかったかなあ」

「いえいえ、蔵王に言ったら『神割崎がよかったかも』ってボヤいているのだと思いますよ」

って、これは撮影当夜の、私とかのーぷすさんとの会話でした。

サムネ用



 

フラット補正を改善する奇妙な方法(ただし光学系依存)

事の起こり

先日の弓張平でのM106の撮影で、LEDトレース台を忘れて現場でフラットが撮れませんでした。しかた無く、帰宅後にRASA11''にカメラを再度取り付けてフラット画像を取得しました。

それをつかってキャリブレーションをしてみますと補正が上手く行きません。こんなザマです

・・・これはダメかも分らんね。かのーぷすさんにトレース台借りればよかったなあ。

慰めを求めて「フラットが合わないよー」という趣旨のつぶやきをツイッターに書き込んだら、RASA使いの先輩、HUQさんが助けてくれました

あ!そうでした。

確かにカメラを取り付けなおしたときに、クルッと上下逆にしていたかもしれません。ならばフラットを撮りなおせばよいだけの問題です。でもめんどくさいなあ。とウダウダしていたら、サボりのひらめきがありました。

「カメラじゃなくて、マスターフラットを180°回してキャリブレーションしなおせば、いいんじゃね?」

やってみました

「ダメじゃん。」

でも待てよ? 上の二つの画像って、足して2で割ったら相殺しそうな明暗のパターンに見えます。やってみました:

うーん、惜しかった。

翌日にフラットを再取得することにして、この夜はふて寝しました。

撮りなおしても、微妙に合わない

翌日に再度カメラをRASAに取り付けてフラットを取得し、キャリブレーションした結果はこうでした。大幅に良くはなりましたが、まだ微妙に合いません。

慎重に取り付けなおしましたが、それでもカメラの位置が撮影時とズレてしまっていたためでしょう*1*2

それで、賢明な読者のみなさま方は話の続きがもうお分かりと存じます。マスターフラットを180°回して、またキャリブレーションをしてみました。

ちょうど反転した明暗のパターンになってますね。

両者を足し合わせば相殺しそうです。今回は1:2の割合で足し算したらちょうどよい感じになりました。

なぜフラット補正が改善したのか

上のような奇妙な方法でフラット補正が改善した理由を考えてみました。現時点での結論では、上の方法はかなり限定的な状況でのみ成り立つものと考えています。なので以下に示す方法は、かなり強く光学系に依存する話なのでご注意ください。

まず下の絵のようにLightフレームの輝度分布が中心対称になっていることが前提です(条件1)。

楕円は等輝度曲線を表しています。

このライトフレームに対して、フラットフレームの輝度分布の中心がズレていて、かつ回転しているとします(条件2)。「マスターフラット」と「180°反転したマスターフラット」ものは下の絵のような輝度分布になっているはずです。

それぞれのマスターフラットでキャリブレーションした結果は、フラット補正のズレが互いに180°反転しているので、両者を平均すればズレが打ち消し合い、近似的にフラットが合ったのだろうと考えています。あくまで近似的にです。

ちなみに、こちらはRASAのフラットです。

中心の輝度分布が扁平になっている部分をのぞけばだいたい中心対称になっています。これなら上手く行きそうです

対してこちらはチリに置いているR200ssのフラットです。

こちらはピークが右側に大きくずれています。これだと180°の反転でズレが打ち消し合うということが起こりえないので、上手く行きません。実際に試したらダメでした。

実際に前処理に取り入れる方法

上の方法は(条件1)と(条件2)が成立している場合のみ有効と思われ、汎用性は低いです。でも少なくとも我々のRASA11’’に関しては有効そうなので、これを前処理に導入する方法についてもメモしておきます。

 

上記の方法は、WBPPにそのままとり入れることができません。また、すべてマニュアルで前処理する場合は、それぞれのライトフレームにたいして個別にpixel Mathを適用する羽目になってしまい、これは現実的ではありません。

ちょっとウマイ方法は、次のように「補正したマスターフラット」を用意することです。つまり、元々の「マスターフラット」を f、「180°反転したマスターフラット」を f_{ref}としたら、Pixel Mathで

\dfrac{f\cdot f_{ref}}{f+f_{ref}}

という式を入力して得られた画像を、「補正したマスターフラット」として、WEBBに入力すればあげれば良いです。

なぜならライトフレームをLとすれば上に書いた2枚のライトフレームの平均は

 \dfrac{1}{2}\left( \dfrac{L}{f} + \dfrac{L}{f_{ref}} \right)

という計算をしているわけですが、これは

 \dfrac{L}{2\dfrac{f\cdot f_{ref}}{f+f_{ref}} }

と変形できるからです(WEBBのフラット補正で勝手にノーマライズされるので、係数の2は省略できます)。

実際には、「マスターフラット」と「180°反転したマスターフラット」でキャリブレーションした画像を適当な比でブレンドすることになるので、その重みをk>0とすれば、重み付きの「補正したマスターフラット」は、

\dfrac{f\cdot f_{ref}}{f+kf_{ref}}

です。kの値は結果を見ながら調整して、合わせこむことになります。

こんな方法、役に立つの?

(条件1)を満たす光学系に対して、(条件2)のようなことが起こる状況は、今回の

  • マスターフラットの撮りなおしによるカメラのズレ

以外にも

  • ライトフレーム撮影時と、フラットフレーム撮影時の鏡筒の撓みの違い
  • 撮影中に光軸が動いた
  • フラット光源が不均一だった

などありそうで、もしこういう状況になれば、上記の方法で近似的にフラット補正の精度を上げることができるかもしれません。今後さらに検証していく予定です。

 

あと、PixinsightのABE/DBE、最近加えられたGradient Correction(GC)などがあまりに優秀なので、こんな面倒なことしなくても良いのじゃないかという向きもあります。でもこれらのツールは、原則的には光害によるカブリを取り除く機能であって、無暗に使えば本来あるべきライトフレームの情報(淡い分子雲など)を取り除いてしまうことになります。なのでフラット補正の精度を上げる努力は常に行うべきで、ABE/DBE/GCがあるから、こういう方法を考えるのが無駄ということは無いのじゃないかなと思っています。

サムネ用



*1:望遠鏡の場合は、カメラと筒の位置関係を撮影時とまったく同じ位置関係にするのはほぼ不可能です。この辺りが、マウントがしっかりしているカメラと違って難しいところです。

*2:さらに悪いことに、RASAの補正板にマウントを取り付けるパーツがラジアル方向にクリアランスを持っていて、上下左右に1mmちょっと動きます。なので回転だけでなく中心もズレます。