(概要) 明け方に見えていた表題の彗星が、太陽の方向に消えていった10月9日前後、NASA のSOHO衛星の視野に飛び込んできたその姿は眩しいほどで「-5等級に達した」との報もありました。ところが12日の夕刻にようやく再会できた彗星の姿はライブビュー画面のシミ。「こんなもんかあ」と失望したその翌日、全く予想しない劇的な展開が待っていたのです。
Tsuchinshan-ATLAS彗星後半戦、時系列でレポートします!
これまでのダイジェスト
Tsuchinshan-ATLAS彗星は、その発見時から2020年のNeowise彗星以来の肉眼彗星として大いに期待されていました。しかし今年の7月には「大彗星にはならない」という考察が専門家から発表されます
たしかに当時の姿は、水木しげる の漫画にでてくるタマシイのようでした。
そんな情けない姿だった彗星は、しかしじわじわと増光し9月末には3等台まで成長します。チリの望遠鏡や、明け方の蔵王 で初めて撮影した姿は、なかなかに立派なものでした。そのあたりの経緯は前回のエントリにまとめております。
ただ残念だったのは、彗星は肉眼では良く見えなかった のです。
SOHO衛星に現れた彗星の姿と前方散乱
10月の上旬ころ、地球からの見かけで彗星は太陽の方向に近づき、SOHO衛星の視界に入ってきました。
VIDEO
動画の左端に少し明るく写っているのが水星です。これがおおよそ-1等級から-2等級ですから、右端からにゅるっと巨大ウツボ のように出てきた彗星は、とんでもない明るさということになります。吉田誠一さんのサイト によれば、瞬間的に-5等級くらいに増光していたとのことでした。
ちなみに、SOHO衛星の画像はこちらから簡単にダウンロードできます。結構楽しいので試してみてください。
話題を戻します。-5等級とはちょっとトンデモナイ明るさで、界隈はにわかに沸き立ちました。しかしながらこれについては
「今明るいのはミー散乱の前方散乱振幅のピークを見ているからで、夕空に観測できるようになる頃には、すでに減光してるから。あんまり煽るなよ」
なんて意見もありました。つまり彗星のチリは「逆光」で見る時が一番明るく太陽の光を反射し、それは一瞬のことだというのです。この前方散乱については今度考えることにして、西の空に回った彗星はどんな姿だったのか、続きを見てみましょう。
西の空に回った彗星の姿
彗星の近地点通過が10月13日。その前後が北半球からの観測好機になります。折しも日本はスポーツの日(旧体育の日)の3連休です。体育の日といえば晴天率が高いことで有名ですが、実際に12日~13日にかけて日本海 からの高気圧が張り出し、多くの地域が晴天に恵まれたのでした。やったぜ
12日夕刻のショボい姿
よっしゃ、快晴だ!
ってことで夕方、顧問は自宅を抜け出し学校の屋上でカメラを構えました(天文部員にも声をかけたのですけど、誰も来ませんでした(あれ?))そして撮影したのがこの写真です!ででん!
Date:2024-10-12 18:06(JST ) Location: Natori-city, Miyagi Camera: Canon EOS6D Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2@F2 Exposure: 3sec. (ISO200)
ええと、彗星はどこかな?
これですか。(スカイメモRのスイッチが南半球になっていて、彗星が流れています)
名取よりちょっと空が暗い北の方の町で、そーなのかーさんも同じく彗星を撮影していたそうです。やはり「画面のシミのようなショボい姿だった」とのこと。
おいー、-5等級はどこ行ったんだよー泣。
しかし13日夕刻には大変化が!
翌日も朝から良い天気。数日前から本命の観測日は13日と狙いをつけていて、家族で蔵王 に出かける予定を立てていました。
「しかし昨夕の姿では、ちょっと期待できないなあ」
まあどうせ見えなくてもいいか。高山ピクニックだとおもって皆でカップ ラーメンでも食べて帰ってきましょう、ってことで2時半ころ出発。
折しも蔵王 は紅葉シーズンの最終盤。山頂へ続くエコーラインは大渋滞でした。こんなの初めてです。
赤い表示の起点から終点まで、普段なら10分の道のりに1時間を要しました。動かない車の中で、太陽が没するのを見た時はさすがに焦りました。
観測場所は刈田リフト駐車場です。すでに、Nasu88-STARRYさん、かのーぷすさん、そーなのかーさんが集まっていて、柊二さんもあとから合流します。ほかにも50名くらいのかたが集まっていて、みなさんカメラやスマホ を構えつつ、西の空に注目していました。
やがて、空のシミのような彗星の姿が双眼鏡で見え始めます。昨晩の位置より高度が高いです。一日の彗星の移動距離を考えても高い。これはひょっとして……?! 皆が横並びでカメラを構え構図を合わせ始めました。
タイマーレリーズの設定をおえ液晶画面から目を離したその時です。顧問の目に、真に驚くべき光景が飛び込んできたのです。
「あ、あ…!みえる!」
そう、彗星の姿が、白っぽくしかしはっきりと肉眼で見えていたのです。これには本当に驚きました。尾の長さは腕を伸ばした握りこぶしほどで、これは10°くらいは広がっていました。
普段、淡い天体を見慣れていない下の娘にも見えていたようで
「星がシューって落ちていくのが見えた」
と言っていました。
下の写真はフルサイズカメラに20mmの広角レンズを付けてさつえいしたものですが、こんなに大きく写っています
ワーッとあたふたしている間に、じわじわと彗星は高度を下げ、やがて低空の雲に隠れて見えなくなってしまいました。月明かりに照らされた駐車場全体に興奮の余韻が残っていたようでした
こちらは135mmのレンズで撮影したものです。ホント興奮していたんですね、ピントを合わせるのをすっかり忘れていました。おかげで結構ピンボケです。
Date and time: 2024-10-13 9:25~9:29(UTC ) Location: Mt. Zao, Miyagi, Japan Camera: Canon EOS6D(mod) Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2@F2 Exposure: 8s(ISO400) x 20 frames
1日に明け方に撮影した時よりも、だいぶんダイナミックな姿です。イオンテイルは見えませんが、4重ほどのシンクロニックバンドに加えて、「ネックライン」と呼ばれる細い筋状の構造が、尾と反対方向に見えています。これについてはTwitter 上でHitoshi Hasegawaさんやおののきもやすさんと議論して、なかなか有意義な結論が得られたので、次回以降の記事でまとめたいと思います。
撮影の反省と今後の課題!
今回の撮影ではいろいろ失敗しましたので、反省点を書いておきます:
撮影の前日には、地上風景を入れるか、彗星を単独で写すかなど、しっかり計画を立てておかねばなりません。
撮影開始の90分くらい前には撮影場所に到着し、ゆっくりと準備が出来るようにしておかなければなりません。ピント確認忘れや赤道儀 の設定ミスなど、もっての外です。
いろんな方が公開されている彗星のシミュレーションなどを参考にし、尾がどの方向に主に広がっているか、事前にあたりをつけたうえで構図を考えなければなりません。特に13日の撮影では、尾はそれほど伸びていないことは分かっていたのですから、核をもっと構図の中心付近に寄せるべきでした。
またデジカメで撮影したデータの画像処理については、現在解決すべきジレンマを抱えています。というのはPixinsightで彗星核基準のスタックをする場合は、debayerによるカラー化もPixinsightでやることになり、これだと特に夕焼けの色がかなり変になります。色再現を優先するならPsでRaw現像するのが良いのですが、そうするとデータに時刻がうまく埋め込まれず、PixinsightのCometAlignmentができません。
DeepSkyStackerとかを使った方が手っ取り早いかもしれず、これは次回の大彗星が来るまでの課題です。