天文はかせ幕下

秋の蔵王でvdb14とvdb15

10月に入りあたりもすっかり秋めいてきますと、夏につづいていた悪天候が打って変わって、好天の日が増えてきました。スポーツの日(旧体育の日)の3連休直前の金曜日の夜、蔵王は駒草平へ撮影に行きました。

おそらく蔵王は今シーズンが最後。来週には、ここから少し下ったところにある賽の河原のゲートが閉じて、エコーラインは夜間通行止めになります。

 

さて。遠征前に撮影対象を悩むことが増えてきました。秋には必ず撮影していたケフェウス座の周辺も、散々撮ったのでちょっと飽き気味です。どうせならあまり撮影されていなくて、かつ派手でインパクトの強い領域が今回の気分でした。

そこで、キリン座の反射星雲vdb14とvdb15の周辺を選びました。赤緯が60°あって一晩中高度が高いことから、RASA11''でもって1対象に絞って撮影すれば何とかなるだろうって作戦です。

ところでRASA11''、重くて持ち出しが大変なのは筋トレでムキムキマッチョに変貌することで克服したのですが、風が吹くとガイドがガタガタになるのは筋肉では解決できません。最近稼働率が上がらず、前回使ったのはなんと1年前の11月でした。うーん、それは勿体ない。今回は何としても成功させたい。風よ吹かないでと祈りながら出発しました。

うぇーい

風はそこそこで何とか撮影できました。いつもご一緒のかのーぷすさんと、最近Pentax125SDP75SDHFを入手したNaoさんが来てました。東北大天文同好会のJD君もチラッと姿を見せて「今シーズン最後の蔵王ですねえ」なんてしばらくいろんな思い出を話しました。来春は修士を卒業して、宮城を離れるのだそうです。「蔵王にはまた来ますけどね」って少し寂しそうでしたけど、我々はいつでも居りますよ!

 

そんなわけでリザルトです:                                                                                                                                                                                                                       

Vdb14,15

date:2026-10-09
location: Mt. Zao, Komakusa-daira
camera: ASI2600MC/MM
exposure: L 95f x 180s, RGB 36f x 180s, total 6h31min
optics: Celestron RASA11
Processing: PixInsight, Affinity

フム!反射星雲の青、その青とHαの散光星雲の混色でピンクに染まっていると思しき分子雲が明瞭に写せて、この結果は大満足。ええんで内科医です。

 

ところでこの夜も、蔵王から望んだ仙台は靄に覆われていました。宮城県全域で晴れの予報で、はじめは沿岸部の神割崎での撮影も考えていました。この霞の下から撮影していたと考えるとやっぱり標高稼ぐのは大事だなと思った次第です

「今夜は透明度がイマイチだな」って夜は、上空から見ると案外こんな感じなのかもしれません。

 

 

 

十両昇進のお知らせ

最近は「PixInsightの使い方 応用編」を出版したり、公共天文台で天文講演会講師を務めるなど、活動内容が準プロ化しておりました。それに伴って、お小遣い程度ではありますが、いくばくかお給金・ご印税をいただく機会も増えています。

お金が発生するとなれば、責任も伴います。

なのにブログのタイトルは「幕下」なんつって
「僕はアマチュアですぅ」
って顔をしているのは、それは責任の放棄なのではないかと、識者からのご指摘をいただきました。

そこで、原因と結果に若干の時間のずれはございますが、本日2026年10月13日をもちまして、ブログのタイトルを「十両」に昇進させました。

前回の幕下昇進から、ちょうど5年が経過しており、顧問も番付のことはすっかり忘れておりました。ここで新たに気を引き締め、自覚を持って天文を楽しんでいきたい所存です。どうぞよろしくお願いいたします

 

パレット天文講演会で講演をすることになりました

冒頭から個人的な話で恐縮ですが、顧問はいままでいろいろな趣味に取り組んできました。ギターとかゴルフとか日曜大工とか。そのどれもが、素人に毛が生えたレベルか、頑張ってもせいぜい中級者どまり。いつかは、

「趣味が高じて・・・」

って言ってみたい or 言われてみたいものであるよなあ、と思っていました。

だがしかし、天文に関してはそろそろ言っちゃっても良いのかもしれません。今回、宮城県のパレットふるしんホールという大崎市にあるプラネタリウム館で、天文に関する講演会をすることになりました。

りっぱなポスターまで作ってもらい、しかもソロイベントってことで今からかなり緊張してはいます。顧問が撮影した天体写真を18mのプラネタリウムドームに全天投影しつつ、自分がいままで天体写真を撮ってきて「面白い!」って感じたことをそのまま全力でお話ししようと思います。だから面白いはず!

入場無料、申し込みはこちらからどうぞ

www.osakikoiki.jp

 

 

月夜のHOO撮影、Foraxxパレットで上手く行きました

天候不順で、2か月ものあいだ撮影から遠ざかっていました。

9月のシルバーウィークも終盤にかかった22日の夜は月齢11。いつもだったらたとえ晴れていようと自宅でビール飲んでふにゃふにゃしています。星仲間のかのーぷすさんのツイートをみて撮影に行こうと決意しました。

結果、本当に行って良かったってリザルトが得られて、氏には感謝です。

 

では、蔵王へgo。

到着しますと、月が強烈に明るいです。映画のナイトフィルターみたいです。

これが、約7時間後の月没のあとはこうなります(↓下↓)

いつもはこんな真っ暗ななかで撮っているのですねえ。

 

こんな夜でしたので以下のような作戦で撮影しました:

  • 月のあるうちは、モノクロカメラにL-extremeフィルターを取り付けてひたすら露光を続ける
  • 月が沈みかけたころから、カラーカメラに交換して撮影を継続。
  • 最後にフィルターを外して通常のRGB撮影を少々(星の置き換えのため)

空が明るい時間帯は、モノクロカメラでHαとO3を両方撮影して、とにかくSNを稼ぐ作戦です。

リザルトはSh2-132ライオン星雲です:

sh2-132

date: 2026-09-22 location: komakusa-daira, zao optics: sharpstar15028HNT, L-Extreme camera: ASI2600MM/MC exposures: ASI2600MM + L-Extreme:180s x 102f, ASI2600MC + L-Extreme:180s x 34f, ASI2600MC(no filter):180s x 9f, total 7.25h processing: PixInsight, Photoshop

Foraxxパレットは良い

HαとO3を透過するデュアルバンドパス系のL-extremeをつかった撮影は、光害に強い反面色彩が単調になるのが難点です。

今回はForaxxパレットがとても良い効果を発揮してくれました。(導入方法などについては、以前の紹介記事をご覧ください)

このパレットについてちょっと復習しておきます。通常のHOO合成では以下のように色を割り当てます。

  • R=Hα
  • G=O3
  • B=O3

この方法はどうしても色が単調になりがちです。例えば今回のSh2-132で単純なHOO合成をしたばあい、どうしても2色刷りのような貧弱な色彩になってしまいます

対してForaxxパレットは、GチャンネルにSynthetic Green(人造的な緑)を割り当てているのがポイントです

  • R=Hα
  • G=O3とHαの”ブレンド”
  • B=O3

ここでGのブレンドは:

O3とHαが両方明るい:Hαを多め、O3少なめのブレンド
それ以外:
O3多め、Hα少なめのブレンド

ってことをやっています。要するにHaやO3の「濃度」を色に置き換えて、色の情報を補っているのです。

この方法が今回のSh2-132では上手く行って、星雲全体を青、白、オレンジ、赤と多彩に描き出すことが出来ました。以下、多少強引ですが、Foraxxパレットの数式をそれぞれの領域を分割して解釈してみました

 

1)まず、ライオンの胴体部分。ここは主にO3が分布しています。

ここでは

  • R=ほぼ無し
  • G=弱められたO3
  • B=O3

となって、青色になります(上の結果では色相を青緑→青とシフトも利用)

2)次にライオンの頭部分。こちらはHαがメインで薄くO3も広がっています

この場合は

  • R=Hα
  • G=弱められたHα
  • B=薄いO3(ほぼ寄与なし)

となって、Rに若干のGが重なってオレンジ色になります。

3)今回、もっともよい表現になっているなと感じたのがコチラの頭と胴体の間の領域です。ここはHαとO3のグラデーションになっていて、中心付近で両者の明るさが釣り合っています。

この場合は

  • R=Hα
  • G=弱めの(Hα+O3)
  • B=O3

みたいな感じになっていて、白っぽいオレンジになるようです。

4)最後にこの領域は、ごく薄いHαのみが分布しています。

ここでは

  • R=Hα
  • G=弱めたO3(ほぼ寄与なし)
  • B=O3(ほぼ寄与なし)

となってちゃんと赤が出ます。

こんな風に、HαとO3の濃度ごとに様々な色彩が出てくれて、HOO合成の欠点を見事に補ってくれます。

ちなみにもう一つ利点があって、星の色もかなり自然になります。上の結果では星をRGBで置き換えていますが、やらなくても大丈夫なくらいでした。

蔵王では、月の影響もそれほど大きくない

蔵王での月夜、地上の風景は新月期の自宅周辺よりも明るいくらいですが、星はそれよりも良く見えていました。秋の天の川もうっすら見えるくらい。

こちらは薄明後の撮影地で仙台市方向を撮影した画像です。

低空にねずみ色のもやが見えています。このもやは、いつも必ずと言っていいほど見えているのです。もやはある高さで、クッキリした境界を見せて消失していて、標高1300mほどのこの撮影地は、もやの上に出ているように思います。

地上付近では、このもやで月明かりがより強く散乱されて、空のコントラストを下げていそうです。そういうわけで、標高の高いところでの撮影では、月明かりの影響もだいぶん軽減されるのではと思いました。

(おわり)

2026年夏、天文部山籠もり(合宿)報告

はじめに

夏合宿の時期がやってまいりました。

今年はなんとペルセウス座流星群に合わせて合宿日程を組むことができました。夏合宿の定番と言える同流星群の観測をちゃんと計画したのは、顧問が天文部の顧問になった2012年以来初めてのことです。

拠点は、福島県高湯温泉のステラポート・ユースホステルです。

ここは、福島市から浄土平へ向かう標高800mほどの山合にあるコテージです。天文ファンのオーナーが経営されているので、サービスも深夜の観測に合わせて最適化されています。

2年前にも我々はここで合宿を行いました。

夏の合宿は晴れない

東北地方での夏合宿の必勝法は、標高を稼いで雲の上に出ることを期待するか、思い切って日本海側の沿岸近くに遠征地を選ぶかの二択と思っています。今回は前者を選んだわけですが、結果的に後者が正解だったようです。

今年のペルセ群の日程は、2夜連続で雨が降り続きました。雲は終始空を覆って、わずかな隙間さえ見せなかったのです。

そういうわけで残念ながら、天体写真の成果も無く、これ以上書くことがありません。ステラポートでの暇つぶしの様子をちょっと書いて終わりにしたいと思います。

合宿のようす

初日の夜

昼・夕(眠いので朝食は抜き)の食事が提供されるというのは、とても嬉しいものです。

初日の夜は大気が不安定で、ザーッと雨が来ては止みの繰り返し。雨雲は分厚く、たとえ浄土平まで移動したとしても雲の上に出る可能性はほぼゼロでした。

徒歩5分ほどのところにある共同浴場「あったか湯」でひと風呂浴びたり、部員たちは2階の共同スペースでトランプなどして時間が過ぎていきます。就寝時間のない修学旅行状態です。

2日目の朝

朝はコーヒーが出ます。森の緑を眺めながらのゆったりしたひと時。

窓際には双眼鏡が置かれていて、野鳥の観察が出来ます。

別棟の軒先ではオオルリが営巣していて、オスの姿も見られるのだそう。そういうのが大好きなななぜり君と2時間くらい巣の周りで粘ってみましたが、あの藍色の美しい鳥の姿を見ることはかないませんでした。

スマホの電波も届かない山間部で(コテージの中央棟ではWiFiあり)、ダラダラと弛緩した時間が過ぎていきます。2日とも曇ることを見越して、勉強会のネタでも用意しておくのだったと顧問は反省。部員はひたすら寝たり遊んだりしていました。

2日目の夜

相変わらず大気は不安定というか、昨晩にもまして荒れていました。同夜、千葉県では一晩に500mm以上の災害級の集中豪雨があり(令和8年8月千葉豪雨)、その巨大な積乱雲は福島県の北部まで腕を伸ばしていたのです:

この夜、男子部員は昆虫採集を、女子部員は工作みたいなことをしていました。

ミヤマクワガタのメス。顧問は子供のころ、メスのクワガタを「ブーチン」と呼んでいたが部員には通じなかった

部員が暇つぶしに持ち込んでいた知育(?)菓子「おすしやさん」。砂糖の塊でできたイクラは美味しかった

おわりに

そんなわけで最終日。朝食を頂いたあと「このまま帰るのもアレなので」ってことで、近くの道の駅にお土産を買いに行きました。最後に記念写真をパチリ。

天気は全く残念でしたが、終始楽しそうな様子でしたので、まあよかったです。それではまた。



 

 

 

星沼会リレーレビュー:サイトロンジャパンの高性能屈折SJH-75UFで撮影しました!

はじめに

このたび、サイトロンジャパンのスタッフの皆様から、星沼会あてにリレーレビューのご依頼をいただきました。昨年販売された屈折望遠鏡SJH-75UFを我々でリレーして、自由にレビューしちゃってください、とのことなのです。

「え、いいんですか?まじで」

って顧問も一枚加わらせていただき、先日蔵王で作例を撮影してきました。

そんなわけでばっちりレビューしますので、どうぞよろしくお願いします

まず、SJH-75UFとは?

口径75mm、焦点距離375mm(F5)の屈折アストログラフです。現時点*1で、10cm以下の屈折として世界最高峰の光学設計であると断言できます。その詳細は、サイトロンジャパンの特設サイトでとても分かりやすくまとめられています。

一番の特徴は、その星像の鋭さです。SJH-75UFのスポットダイアグラム半径直径は、中心で0.67μm、フルサイズ周辺で1.31μmと、レイリー限界をはるかに下回るムチャクチャな設計値です。スポットダイアグラムは、小さければ小さいほど細かな構造を写し出す分解能が高いことを意味します。顧問の見立てでは、国内外で販売されている10cmクラスの高性能屈折鏡筒に匹敵する分解能を持つだろうと考えています。

こまかな註:レイリー限界やシーイングの影響にかかわらず、スポットダイアグラムは小さければ小さいほど、撮影結果の分解能は高くなります。そのあたりの理屈は以前の記事

星像のサイズを計算してみよう! SJH-75UFを例に深掘りする分解能の話 - 天文はかせ幕下

でまとめていますので、ご興味あればご覧ください。

今回のレビューで、顧問が注目すること

今回のレビューでは

  • 撮影現場での使用感
  • 撮影結果の評価と画像処理後の仕上がり

の2点をメインに扱おうと思います。鏡筒の機械的・機構的なな面についてはあまり触れていません。そこは、自分よりも星沼会のほかのメンバーが得意とするところですので、彼らに任せようと思います。

撮影の現場で使ってみて

設営

撮影は、宮城県蔵王連峰の賽の河原駐車場で行いました。標高1250m、撮影日の7月17日は、気温20℃~23℃ほどでした。

設営して月没を待つ

組み合わせた赤道儀はCEM70Gです。2.5kgのウエイトをシャフトの真ん中につけてバランスが取れました。カメラはAPS-CセンサーのASI2600MMとMCで撮影を行いました*2。

設営時に戸惑った点がありました。次の写真は赤道儀に取り付けた鏡筒を横から見ています

この状態で、ピントノブが赤道儀の台座に接触してしまい回すことができないのです。CEM70Gのアリミゾはロスマンディとビクセンのデュアルになっていて、ビクセンアリミゾが深めなことと、台座自体が大き目なのでこういうことが起ってしまうようでした。

当夜、誰も居ない駐車場でひとり頭を抱えました。しかし冷静になれば解決は簡単で↓。筒をバンドの中で回してピントノブを上側にすればよいだけです*3

ちなみに、たとえばEQ6R赤道儀なら台座は小さく、フォーカサーを取り付けた状態でもピントノブが干渉することはありませんでした。

そーなのかーさん撮影

ピント合わせ

ピント合わせはバーティノフマスクをつかってマニュアルで行いました。下はデネブを中心に入れてピントを合わせて撮影した画像です。

中心と周辺部を並べてみても、どちらも同じ回折像になっていました(下)。スケアリングも問題無いようです。

左が中心のデネブ、右は周辺の5等星のバーティノフ像

さらに下は10秒露光での中心と最周辺の128px切り出しです。この点も問題なく中心から周辺まで点像でした

また、当夜は薄明後の気温が23℃、明け方は20℃ほどでした。その範囲で撮影中のピントのずれは確認できませんでした。そもそも、当日の下界の最高気温は35℃でした。そこから山の上に鏡筒を運び上げてきてわけですが、設置した時には鏡筒の温度変化はすでに落ち着いていたようで、順応にはそれほど気を使う必要を感じませんでした。

回転装置を回してもピントはズレない

顧問は、カメラの縦と横を間違えることが良くあります。ピントを合わせてから対象を導入して一枚目の撮影結果を確認すると、

「あれ、なんか違うな」

って。この日の撮影でもやっちゃってました。

SJH-75UFには回転装置がついています。それをヌルっと90°回して、念のためにもう一度デネブを導入してピントを確認したところ、中心から周辺にかけて、バーティノフマスクの回折像に変化は見られず。

一晩で多くの対象を撮影する場合も、あまりシビアに考えずに回転装置をクルクル回して大丈夫なんじゃないかなと思います。

ガイド

撮影時は、つねに3~5m/sの西風のあるコンディションでした。もし、鏡筒がRASA11だったらガイドはほぼ無理なコンディションです。

今回は、ガイドが2~3秒角程度に収まって優秀な結果でした。鏡筒がコンパクトで風に強いのは、取れ高の面でも大きなメリットだと思います(このコンパクトさで10cmクラスの屈折に匹敵する分解能を有しているのは大きいです)

撮影結果(NGC6888を例に)

対象は、NGC6888クレセント星雲の周辺を選びました。

  • 密集する天の川の微光星を中心から周辺まで、いかに描出できるか?
  • クレセント星雲本体が持つ微細な構造を、どれほど分解できるか?

などがポイントになる、高性能屈折鏡筒を試すのに格好の領域だと考えました。

画像処理した最終的な仕上げ画像は最後に披露いたします(とても納得のいく作品が仕上げられました)。

まずはスタック直後のRGB画像をみて行きます

スタック直後のRGB画像

RGB画像は、ASI2600MCのフィルター無し、180秒露光x42枚=2時間6分露光の結果です。スタック直後、背景をニュートラルにカラーバランス調整し、STFのオートストレッチを掛けただけの画像を次に示します。もちろんBXTは適用してません。

ピクセル等倍の高解像度画像はコチラからご覧いただけます。

中心と周辺の256ピクセル切り出しはこんな結果でした(下)

微光星はアンダーサンプリング

SJH-75UFの中心部のスポットダイアグラムは0.67μmで、エアリーディスクとシーイングを加味するとおよそ5.6μmと見積もることができますSJH-75UFの中心部のスポットダイアグラムは半径直径0.67μmで、エアリーディスクと日本での標準的なシーイングを加味すると中心部の星像はおよそ直径5.6μm5.5μmと見積もれます*4(後日修正:半径と直径がごっちゃになってました。図も差し替えました。 7/28:半径と直径を追加修正、図も差し替えました)。ASI2600MCのピクセルサイズは3.76μmでしたから、カメラセンサーによる星のサンプリングは、だいたい下の図のような感じになります*5:

太い四角が1ピクセルの大きさで、その中にRGGBのベイヤー配列があるわけですからかなりのアンダーサンプリングが予想できます。つまり、星像の小ささにセンサーのピッチが追い付いていない状態です。

実際に中心部の星像を強拡大して見てみましょう

中心部の星像、若干横に延びてるのは風によるガイドエラーです(細かい註:撮影の前半は、ガイド鏡にフードを付けていたため、ガイドエラーが大きかった)

星の四隅にでている偽色が、撮影がアンダーサンプリングになっていることを表しています。

鏡筒の性能をさらに引き出すためには、さらに小さなピクセルサイズのカメラを選ぶか、Drizzle Integrationがオススメとなります。実際のところ、現状のカメラをさらに下回る小さいピクセルピッチはあまり現実的でないと思われ、Drizzleを行うのが妥当だと考えます。

Drizzle2倍の効果

下の画像は、Drizzleなしの通常の画像と、スタック時に2倍のDrizzleを行った結果の比較です。Drizzleを行うと星像のカクカクが無くなって自然な円形になるだけでなく、偽色も緩和されています。

拡大しないと分からない小さな差ではありますが、星を小さくする処理などを行い結果をさらにシャープに見せたいような場合には、両者に差がでてくると思います。

最終画像はコチラです!

NGC6888

date:20260720
location: saino-kawara, Zao mountain range
optics: Sightron SJH75UF(f=375mm F5)
camera: ASI2600MM/MC
Exposure: total 5.45h
   - 180s x 42f 2600MC, no filter
   - 180s x 36f 2600MC, L-extreme
   - 180s x 31f 2600MM, L-extreme
Processing: x2 Drizzle, PixInsight, Photoshop

 

キャプションに書いたように、ノーフィルターで撮影したRGB画像に加えて、L-Extremeフィルターを使って撮影した結果をブレンドしています。クレセント星雲本体のO3のベールや、周辺の淡いHαの構造を引き出すためです。鏡筒のレビューですので、もちろんBXTは使っていません。ただしAIのノイズ処理と、2倍のDrizzleは行っています。総露光時間は5時間半です。

 

気になる領域を拡大して見てみましょう。以下では、APS-C換算でf=1500mm程度の拡大をしてみます:

(1)まずはクレセント星雲本体です。O3の淡いガスに透けて細かな構造をもつHαの星雲が良く写っていると思います。

(2)画像下端に分布している暗黒帯。この辺りは星雲の色の変化が豊富で美しいです

(3)例のバブルもごくうっすらと写っていました(中心にうっすら丸い構造が見えています)

(番外編)Drizzle2倍+BXTでブースト

さて、ここまではSJH-75UFの素の性能を見るために、BXTを使わずに処理した結果を見てきました。もしBXTをしたらどうなるのかは気になると思います。

顧問のこれまでの経験では、特にアンダーサンプリングに取得されたデータにはDrizzleとBXTがとても良く効きます。

以下は、L-Extremeフィルターをつけて撮影したモノクロ画像について、スタック直後の元画像と、x2のDrizzle+BXTの処理をした画像について、BXTのあり・なしを比較したものです。NGC6888の一部を拡大した画角でgifアニメにしました。

Drizzle+BXTはかなりの効果と思います。

まとめです!

SJH-75UFを、撮影から画像処理まで通して使ってみました。10cm高性能屈折クラスの分解能と表現力を、手軽にフィールドへ持ち出せる究極のコンパクト・アストログラフとして、とても優秀だと思いました。

明るさについて、F5は決して明るいとは言えません。ただ、一晩で可能な露光時間(今回は5時間半でした)の範囲でも、最近の画像処理技術(AIによるノイズ処理を含む)とフィルターワークを用いれば、淡い領域を十分に描写することが出来ました。今回の作例をご覧いただければ、それがわかると思います。

ポイントをまとめると以下の通りです。

  • 極めて鋭い星像と高分解能: 口径75mm とは思えないシャープさがあり、微光星や星雲の細かな構造を詳細に描写できました

  • 風に強く、取り回しが良い: 鏡筒自体がとてもコンパクトなため、今回のような風のあるコンディションでもガイドが安定していました。遠征撮影での安心感は抜群で、車の中で熟睡できます

  • デジタル処理(Drizzle + BXT)との相性がGood!: 星像が極めてシャープでアンダーサンプリング気味になるからこそ、2倍DrizzleやBXTを適用した際の解像感の伸びしろが大きいです。焦点距離で換算1000mmくらいのクロップにも十分耐えると思います。

今回はAPS-Cセンサー(ASI2600MM/MC)での検証でした。フルサイズではどうなのか?そちらの検証は、星沼会メンバーのAramisさんやそーなのかーさんのレビューにバトンタッチしたいと思います。ぜひそちらも楽しみにしていてください。

最後に、素晴らしい鏡筒をお貸し出しいただき、レビューの機会をくださったサイトロンジャパンの皆様に感謝いたします。ありがとうございました!

*1:2026年7月

*2:フルサイズでの評価はAramisさんやそーなのかーさんがやってくれる予定です

*3:こんな簡単なことでも、現場で焦ると思いつかないものです、わたしだけ?

*4:星像のサイズを計算してみよう! SJH-75UFを例に深掘りする分解能の話 - 天文はかせ幕下

*5:ここでの直径は半値全幅をもちいることで、スポットダイアグラムがRMSで表示されているのにあわせています。よく使われるレイリー限界の式D=2.44λFは第一暗線を基準にしていて、半値全幅とは異なります。

オメガ星雲をさつえいしますた

天の川の中心部、いて座からたて座にかけての夜空には、とても明るい散光星雲や球状星団が分布しています。M8干潟星雲や、M16ワシ星雲などはとても明るく観望会でも人気の対象です。

今回のM17オメガ星雲って、撮影する人にとっては少し存在感薄いような気がするんですよね。これも明るい星雲にもかかわらず、これ単独でさつえいされることってあまりない。

いて座からたて座にかけての星野(Gravity Astroのスカイサーベイより作成)。オメガ星雲はわし星雲といっしょに縦にならんでいて、バンビの横顔星雲の口から立ち上る白い息みたいです。

今回はそんなオメガ星雲をチリで撮影しました。

左がLRGB合成で仕上げたものです。右はナローバンドですが、天候不順で撮影できなかったHαをRで代用したSRO合成です。

LRGBのカラーバランスはSPCCで決定し、SROはLinearFitで各色を揃えただけです。この二つをブレンドします。細かい方法は省略しますが基本的な方針として

  • 星の色はLRGBのまま
  • ナローバンドの青(O3)が活きるように
  • 赤い星雲はなるべくそのままになるように自然な感じを残す

を心がけました。

そんなわけで結果はコチラ

M17

レビューに付き合ってくれた丹羽さんのアドバイスで、とても明るい中心部分の輝度をなるべく抑えることで構造が潰れないように気をつけてます。

 

ナローバンドをブレンドは、HαがO3に透けてみえるような透明感が演出できるのが魅力だとおもっています。ただ、もっと透明感出したいのと、星雲の彩度が部分的に破綻しているようにみえるのもあって、不満はたくさん。しかしやり直しする気力もなく、とりあえずブログにしました。

CNAP2026@京都、に参加してきました。

2026年のCANPは、7月4日、5日の日程で京都で開催されました。今回、岡野さんからトークの依頼を受け、日頃から「積極的受け身で生きる」を標榜している顧問としてはYES一択。京都へ二泊三日の天文出張をして参りました。

CANPは、CCD Astronomy Network Partyの略で、CCDカメラによる天体撮影の黎明期からずーっと続いている、おそらく日本では最も歴史の古い天体写真の研究会です。

天体写真を始めた頃から、そういった集まりがあることはうっすら知っていましたが、月日が経ち、まさか自分がトークをすることになるとは。とっても光栄&感慨ひとしおであります。

会場では、自分が昔から天体写真のお手本や目標にしていたたくさんの方々や、またありがたくも拙著(PixInsightの使い方応用編)を買ってくださった方々とお話しすることができました。何人かの方はわざわざ本を持ってきてくださって、お恥ずかしくもサインなどさせてもらいました。

公演中は近江商人さんが(おいでおいで)って感じで誘ってくれて隣に座らせてもらいました。

近くに座っていらしたヨーダさんが撮影してくれました。あまり写真を撮る余裕もなかったのでありがたかったです。

それでは、みなさんのトークについて、顧問が理解できた範囲でご紹介したいと思います

山下さん「光害地からの惑星状星雲・銀河ラッキーイメージング」

大阪北部の光害環境にある自宅天文台から、C14を用いた惑星状星雲や銀河のラッキーイメージングについてのトークでした。1枚10秒程度の短時間露光データを大量に取得し、なんと基本的には目視で選別していくとのこと。かなり小さくてマニアックな惑星状星雲の組写真は圧巻でした。どの天体も素晴らしい解像度だったのですが、特にM51やM64の結果などは、後の蒔田さんの講演で紹介されたサイディングスプリングでのリモート撮影に匹敵するものでした。自分もチリのデータで撮り溜めていたM104をもう少し選別してみようかと思った次第です。

BXTについても、エラーが生じる事例を複数紹介されてました。単秒露光で星が少ないと、PSFを正しく測定できなくてアーティファクトが出るケースが多いようです。

ちなみにラッキーイメージングでは、画像の保存形式はPNGの8bitでも結果に大差ないとのこと。また長年続けていても良シーイングを予測するのは難しく、結局は「運」という言葉が印象に残った。やっぱりそうかあ。

蒔田さん「画像システムと画像処理」

前半では、ディスプレイ表示とγ(ガンマ)変換の話を中心とした講演でした。sRGB規格では、カメラ側とディスプレイ側で行われているγ変換によって、は最終的に「人間にとって自然な明るさ」の画像が表示されており、画像はノンリニアが基本。いっぽう天体写真ではデバイス(天体CMOSカメラ)が出力したデータをリニアのまま扱うので、画像の表示について問題が出るのでは?とのことです。(顧問の理解が不十分で間違っているかも知れません)

RGBWSの値の輝度依存性グラフなど、初めて見るデータも多く刺激的な内容でした。

左部さん「OM SYSTEMの天体撮影戦略」

なぜOM SYSTEMがここ数年で天体向けカメラを相次いで投入したのか、その背景やマーケティング戦略について紹介でした。開発チームには天文初心者の左部さんと元天文少年の池田さんが参加しているとのことで、ユーザー目線を意識した製品開発が行われていることが伝わってきた。

特に印象的だったのは「手持ちハイレゾ」と「手持ち撮影アシスタント」。撮影中の手ブレ情報をリアルタイムに可視化する機能はまさに失われた手法「手動ガイド」のリバイバルって感じで面白かったです。あれは池田さんのアイデアなのだろうか?

永弘「PixInsightで天体写真の楽しいPost-processing」

顧問のトークです。内容は、丹羽さんとのyoutubeライブでお話ししようと思います。3年前に実行委員長をやった時も思ったのですが、CANPの参加者の方々はみなさん良い雰囲気で、顧問のたいしたことのないジョークでも気持ちよく笑ってくれます。とても気持ちよく話すことができました。

上坂さん「宇宙映像制作の舞台裏」

映画における宇宙表現のメイキングの紹介でした。月面基地やローバーの挙動、ロケット打ち上げ時の噴煙シミュレーションなど、リアルな宇宙描写を実現するための物理演算など。CGのレンダリングってすごいですね。
印象的だったのは、物理的な正しさをそのまま再現すれば良いわけではない、という話。月面重力を厳密な1/6で再現するとかえって違和感が生じるため、あえて地球側に寄せる調整をしているという。こちらは天体写真の画像処理にも通じなあと思いました。

山﨑さん「太陽高解像度撮影の世界」

太陽の高解像度撮影に関するためのノウハウのお話し。顧問は太陽観測の経験があまりなく、全てを理解できたわけではありませんが、エタロンではフィルターの温度まで制御して特性を安定化させていることとか、ローリングシャッターとグローバルシャッターで、結果に違いを感じたことがないなど、驚く内容が多かったです。

可視光では光球を、Hαでは彩層を観察できる理由など、講演後にしつこく質問させてもらい、とても丁寧に答えてくださいました。ありがとうございます。

原野さん「188cm望遠鏡観望会レポート」

岡山天体物理観測所の口径188cmF18の反射望遠鏡を貸し切って行われた「伝説の観望会」の報告。利用料20万円は多数の参加者で分担すれば決して高くないが、大型望遠鏡特有の事情でキャンセルポリシーがかなりシビアなためギャンブル要素が強い。それでもたくさんの人が集まったとのこと。

前半は、観望会実現のためのさまざまな苦労話。顧問はとにかくああいったイベント企画がとっても苦手なので、原野さんの情熱には平身低頭です。

M57がM27並の大きさと明るさで見えるとか、土星衛星の色の違いまでわかるなど、アマチュアの天体望遠鏡では到底味わうことのできない188cmでの眼視の世界、生きている間に経験することができるかなあ。

山口さん「撮影スタイルの多様化とリザルトシェア」

遠征撮影、リモート撮影、リザルトシェアなど、近年の天体撮影スタイルの変化を俯瞰的に紹介する講演。それぞれの長所と短所を整理しながら、天リフが進めているリザルトシェア構想について説明を聞くことができました。
「リザルトシェアは面白いのか?」という問いに対して、どう答えるのかなと注目していたのですが、これについては「天文好きなら絶対面白いはず」と単純明快な回答。(うん、そうだよね)って思いました。共同長時間露光のプラットフォームの構築や画像処理講座、コンテンツパートナー制度など、天リフならではのアイデアも数多く考えられていて、自分も微力ながらお手伝いできればなと思います。

まとめ

やっぱり人間は実際にあって話をすることが重要だなあと改めて感じました。天文界隈でこういったリアルな交流の場を用意してくださっているCANの皆さんにはただただ感謝です。

今回のCANPについては、たまにこちらにコメントを下さるUTOさんもレポートを書いてくれています。ぜひご一読を

oozoraashiato.blog.fc2.com

また、山口編集長の当日の講演はyoutubeでも同じ内容のものを視聴できます。こちらも併せてご覧ください。

www.youtube.com

それではまた。

サムネ用

 

 

RGB合成でG(緑)を一番多く撮るアプローチ!

註)今回の記事は、一般的な色覚特性にもとづく話です。色覚には個人差があるため、人によってはそのまま当てはまらない場合がありますが、アプローチ自体はそれぞれの特性に合わせて最適化可能だと考えています。

概要

モノクロカメラとRGBフィルターを使って天体写真を撮影する場合、各色で同じ程度の枚数が撮影される場合が多いと思います。しかしながら、緑を最も明るく感じる人間の目の特性を考えると、Gチャンネルのノイズを最も小さくするべきではないかと考えました。つまり、Gの枚数を最も多く撮影し、反対にBとRは少なくても良いという考え方です。NGC300銀河の作例で試してみると、この方法は(LRGB合成でなく)RGB合成で画像を仕上げる際には有効なようでした。

「見た目のノイズ」は、緑が強く感じられる

はじめに簡単な実験をしてみましょう。ベースとなるモノクロ画像(L=0.2)に、それぞれ全く同じ大きさのガウスノイズを与えた画像を3枚用意します*1。

これらをR・G・Bの各チャンネルに割り当てて合成すると、次のような人工的なノイズを持つカラー画像が出来ます。

上の画像をじっと見た時、何色のノイズが強いと感じるでしょうか? きっと、緑色が一番目立って見えるはずです。元々の3枚には全く同じ強さのノイズを与えていたにもかかわらずです。これは人間の目が、緑を最も強く感じるためです。

その感覚の比は、たとえばPixInsightのRGBWorkingSpaceに与えられています

この三つの数字は、カラー画像をモノクロ化するときに使われる値です。つまりモノクロの明るさLを

 L=0.22R+0.72G+0.06B

の比で決めるのです。そうすることで、カラー画像から感じる明るさにマッチするモノクロ画像が生成できると言われています。この値を元にすれば、人間の目は緑を青の10倍以上、赤の3倍以上明るく感じるのです。これが、上の画像で緑のノイズが一番目立って見えた理由です。

緑がもっとも明るく感じられる人間の目の特性を踏まえれば、Gチャンネルのノイズを優先して抑えるべきです。そのためにはGの枚数を最も多くし、反対にもっとも暗く感じるBの枚数は少なくても良い、という考えが有効そうです。

実際にそうなるのか? またそうなるとしたら、具体的にR,G,Bそれぞれを何枚づつ撮るべきでしょうか? 今回はこれらを検証していこうと思います。

はじめに結論から

トータルの露光時間を75分、1フレーム当たり1分露光とします。今回の検証から、見た目のノイズを最も抑える組み合わせは、およそ

R : G : B=1.7 : 4.8 : 1.0

の比になると結論しました。合計で75枚になるように枚数になおすと

R=17枚、G=48枚、B=10枚(合計75枚)

となります。

これに対して、各チャンネルを均等に撮影した場合:

R=25枚、G=25枚、B=25枚(合計75枚)

の画像を用意して、RGB合成後の結果をGIFアニメで比べてみます。(NGC300銀河の画像を例に、色合わせを行った後に全く同じ強さのストレッチを行った2枚を比較しています)

腕の周辺部

何もない背景部分

銀河の中心部

如何でしょうか?どの領域においてもR=17枚、G=48枚、B=10枚のほうが大幅にノイズが軽減して見えると思います。

R:G:B=17:48:10の根拠

RGBWorkingSpaceの値をそのまま使うとうまくいかない

天体写真に支配的なショットノイズは、露光枚数をN倍にすると1/√N倍に減少します。RGBWorkingSpaceの値をそのままつかって、RGB合成後の各チャンネルの「見た目のノイズ」が均等になるように枚数を決めると、

R:G:B=13:137:1

とGを137枚に対してBは1枚でよいというかなり極端な計算になってしまいます。

人工的なノイズの画像の「見た目」で比を決める

おそらく、RGB別の明るさの知覚以外にも、視覚周りの色々な性質でノイズの感じ方が決まってくるのだろうと思います。そこで以下のような人工的なノイズ画像をたくさん作って「見た目のノイズ」の強さを判断する実験をしました。

下の画像では、RGBの各チャンネルのノイズの強さが等しい一番左から出発して、右に行くにつれてGチャンネルのノイズだけをだんだんと小さくした画像を並べています。

(1)右に行くほどGのノイズが弱い

この並びの中で、どのくらい小さくすると、緑のノイズと他の色のノイズが同じくらいの強さに見えるかを、自分の目で判定しました。

同じことを赤と青についても行います。次の二つの画像では、右に行くにつれてRチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像と、Bチャンネルのノイズだけをだんだん大きくした画像です。

(2)右に行くほどBのノイズが強い

(3)右に行くほどRのノイズが強い

私の視覚では、一番上の(1)で、Gのノイズが48%に弱まった場合にR/Bと同じ強さに見えました。また(2)ではBのノイズが206%に強まったあたりでGと同じ強さに見え、(3)ではRのノイズが173%に強まったあたりで、Gのノイズと同じ強さに見えました。

以上から、(見た目では無く実際の)Gチャンネルのノイズの強さが1であるとき、Rのノイズが1.73、Bのノイズが2.06くらいの時に、「見た目のノイズ」が各チャンネルで均等になると言えそうです。

以上の考察から、冒頭のフレーム枚数の比 R:G:B=17枚 : 48枚 : 10枚 を導きました。あくまで、顧問の色覚が標準的(多数派)であるという仮定の下の話ですが、星沼会のみなさんにも見てもらって、だいたい同じ結果を確かめています)

ただし、LRGB合成では効果は限定的

比較的良質なL画像を用意し、前の節で示したRGB合成後の画像に対して、それぞれLRGB合成を行ったとします。すると、上で示した色によるノイズの知覚の差は、ほとんどなくなります。

実際、1分x75枚で用意したL画像でLRGB合成を行った後、両者を比較すると、ノイズの差はほとんど感じられなくなりました。

LRGB合成後の比較

GのノイズがR/Bにくらべて強く感じられるのは、輝度ノイズの問題であって、LRGB合成後のノイズはほぼL画像だけで決まるからだと思われます。

ですので今回の方法が有効なのは、RGB合成で画像を仕上げる場合のみであるようです。

まとめ

緑色を最も明るく感じる人間の知覚に着目し、RGB合成の最適な枚数比率を検証しました。トータルの露光時間が一定(合計75枚)の条件で見た目のノイズを最も小さく抑えるのには「R:17枚 / G:48枚 / B:10枚」の比率が良いだろう、という結論を得ました。

このアプローチは、カラーカメラのセンサーにおいて、人間の視覚特性に合わせて緑(G)の画素が赤(R)や青(B)の2倍配置されている(RGGBのベイヤー配列)事実とも合致する結果です。これは「人間の視覚特性に合わせるため」と良く説明されますが、本当のところは緑のノイズをなるべく抑えることが目的なのだろうと思っています。

ただしこの方法は、LRGB合成を前提とすると効果は限定的でした。これはLRGB合成後のノイズはほぼL画像で決まってしまうためです。Gを多くとるアプローチがこれまであまり語られてこなかった理由はこの点にあるのだろうと思います。ですが、繊細な色表現を実現したい場合にはLRGB合成よりもRGB合成のほうが優れている場合もあるので、その様な場合には、有効であると思います。

 

アイキャッチ



 

*1:ここでは大きさが0.03のガウスノイズを与えました

6月の蔵王で最高の眼視体験

もくじ

眼視観望への想い

顧問にとって、これまでの最高の眼視体験の思い出は高専の2年生だったころにさかのぼります。

天文同好会のOBに同行させてもらい、八ヶ岳で行われていた星祭りに参加した時のことです。知らないオジサマに彼の40cmドブソニアンを使わせてもらったのが、衝撃でした。何もなさそうなところを適当に動かしているだけで、ちいさな銀河がたくさん入ってきて、どれも見たことがないような姿だったのです。こんな世界が隠されていたんだ、って痛感したのでした。

それから年月がたって興味も移ろい、今は撮影メインでやっておるわけですが、大口径ドブソニアンへの憧れは消えてはおりません。有名な沖田博文さんのサイト「趣味の天文」も以前から拝見していました。

「もしハワイに旅行する機会があったら、この方のところに押しかけてマウナケアで観望させてもらおう」

と以前から狙っていたのです。なんとなく、突然押しかけても快く迎えてくれそうな気がしていたのですよね(私の一方的な思い込み)

しかし、その機会は突然におとづれたのです。

沖田さん、蔵王に来る

「今夜、蔵王へ行く予定があるのですがご一緒にいかがですか?」

昨日のお昼前、沖田さんからお誘いをいただいたのです。思わず

「な、なんだってー!」

と机からひっくり返りました。

数年前に、顧問は天体運動のking's rateについて調べ物をしていた際、沖田さんに相談に乗っていただいて知り合いになっていました。近くにいらしたら誘ってくださいー、とお願いしてはいたのです。

ともかくいくつかの家庭内ヘコヘコ運動を実施後、急遽で蔵王に出かけることにしたのでした。

そして数時間後、蔵王の駒草平に到着した顧問の眼前にはあの76cmドブソニアンが立っていました。

どおおーーーん

画像って、絶望的になるくらい実際の大きさが伝わらないです。極小に折りたたんだ状態でNBOXの荷台にギリギリ納まる筐体は、展開すると全日本プロレスの斉藤ブラザーズ3ブラザーズぶんくらいの体積はあったと思います。

この夜に集まっていた東北大の天文部、仙台天文同好会のみなさんと一緒に、観望会が始まります。いつも、かのーぷすさんやそーなのかーさんと黙々と撮影している時とは、全然違う雰囲気です。

最高の眼視体験

眼視の素晴らしさは言葉で伝えるしかありません。観望会は、薄明の中のM3からスタートします。光害のない暗い空で見る76cmドブソニアンの別世界。記憶が鮮明なうちに、(画像を使わず言葉だけで)天体の感想を時系列に書いておきます。

M3

球状星団は、双眼鏡で見れば少しぼんやりと広がったシミ。大きめの望遠鏡では「円板状」にひろがったつぶつぶの集まりです。76cmドブでみたM3は本当の意味で「球状」に見えました。つまり、周辺に散在している星の「手前側」と「奥側」が感じられたのです! これは脳内補正なのでしょうけれど、通常とは段違いの高倍率がそういう錯覚を感じさせてくれたのかも知れません。片目で見ているにも関わらずとても不思議な立体感がありました。

M104

ソンブレロ銀河って言ったら、眼視でも撮影でも土星状の小さな姿です。アイピースをのぞいた瞬間、それが視野いっぱいに広がっているというだけで、「マジかよ!」と叫んでしまい、唾が主鏡に飛び散ってしまったのではと心配になりました(低空なので大丈夫だったと思います)。銀河のコアは恒星状に集光していて、暗黒帯は極太の筆で一気呵成に一文字を書いたようにはっきり見えていました。さらにソンブレロの円盤に注目して、例のうねうねを見ようと試みましたが、それは流石に見えませんでした。

M51

この夜の観望で、驚きにランクをつけるとしたら、堂々の第3位はM51でした。M51は「子持ち銀河」と呼ばれ、比較的小さな銀河なんです。その親の方の渦巻きが、視野いっぱいに十分なコントラストで見えました。それぞれの腕はずんぐりむっくりした印象で、太いグレーの蛇が数匹集まってトグロを巻いているみたい。

ドブのフレームを掴んで、ちょっと視野を動かすと、はみ出ていた子ども銀河が視野に入ってきます(驚きの高倍率!)。子ども銀河を両断するように分布している暗黒帯がはっきりとわかりました。

M63

「ひまわり銀河は、案外に退屈なんですよ」そう言って、ヒョイっと導入してくれました。M63の手動導入って結構難しそうなんですが、流石に慣れてらっしゃいます。M51を見たあとだったので「ほうほう・・」くらいの印象でしたが、南側にある特徴的な暗黒帯が、はっきり見えました。眼視での銀河は、画像よりも暗黒帯が太めに見えるような気がします。中心の集光は鋭く、「ひまわりの種」が並んだような周辺の細かい模様は流石に見えず。

M57

「あっ、ドーナッツの穴が緑色だ!」って叫びました。まさに写真で見た姿です。ドーナッツ自体は薄いオレンジ色に見えていたような気がしました。もうすこし目を凝らすと、中心星が表れては消え、表れては消えってかんじでチラチラと見えました。沖田さんによれば、シーイングの関係でそういうふうに明滅して見えることがあるそうです。

M17

この夜の驚きランキング第1位はM17オメガ星雲です。「はぁ?ナニコレ!?」って笑い出してしまいました。自分が何を見ているのかよく分からなかったのです。およそ今まで見たことがない構造で、天体写真から感じる印象とはかけ離れていました。写真とは違いO3とHβの光を感じているせいなのかも知れません。岩石に析出した水晶の連なりのように星雲がパキパキの構造を持って見え、その全体の姿は、ちょうどS字をした白鳥の頭部のように見えました。

M27

この辺で驚きに少し疲れてきます。「いやー、もうアイピースを覗くのが怖いわー。M27なんてみたらどうなってるの?」って感じで観望したM27の姿は「普通」でした。これがこの天体の特徴なのかも知れませんが、これまで見たことのある姿がそのまま拡大して見えていました。やっぱりHαは見えないのですね。O3の光だけが見えていたと思います。

NGC6992

驚きランキング、僅差の第2位は網状星雲(西側)です。もともと、網状星雲は写真にしか写らないと思っていました。浄土平のような暗い空で観望すると、本当にうっすらと眉毛のような姿が確認できることを、最近になって知ったのです。沖田さんのスケッチでは、天体写真と変わらないような姿が記録されているのですが、正直「これは流石に盛ってるでしょ?」って思っていました(スミマセン)。昨晩の観望では、そのスケッチと同じ姿がアイピースを覗いた瞬間からはっきり見えました。目の暗順応が進むとようやく見えてくるってわけじゃないのですね。

網状星雲も完全にはみ出していて、ドブのフレームを掴んで視野を移動すると、網状の構造が川の流れのようにどこまでもどこまでも連なって続いていました。あなおそろし。

M31

夏の観望会らしく、最後は秋の銀河M31アンドロメダで締めとなりました。ぼわーっと楕円状の構造が視野からはじ出しています。光芒の分布がとても滑らかに見え、ひょっとしてつぶつぶに分解しているのじゃないか?と思いましたけど、流石にそれはありませんでした。仙台市の光害の影響があったので、次回は天頂付近で見てみたいです。

おわりに

他にも、ステファンの五つ子とか、マニアックな惑星状星雲などたくさん見せてもらいました。フォーカスノブを動かした時のピントのピークがとてもわかりやすいこととか、経緯台の動きが非常に滑らかなことなども驚きでした。

「私も導入してみたいのですけど」とお願いしたら、快くOKしてくださり、M51とM15の手動導入を体験させてもらいました。これもとても楽しかったです。

 

高さ2mくらいのところにあるアイピースを覗くために、フラフラする脚立を登っていく緊張感が忘れられませんね。とんでもない経験をしてしまいました。これ以上の眼視体験は、もうなかなかないのじゃないかなあ。(とはいえ、自分が所有している8cm双眼鏡で見る天体の姿にはすっかり退屈、ってわけでもなく、同じものを何回でもみたくなってしまうのが眼視観望の不思議なところです。)

沖田さん、ありがとうございました。