天文はかせ幕下

加齢による色彩感覚の低下と彩度のヒストグラム

あと数年で齢50に達しようという顧問でありますが、最近密かに恐れていることがありまして、それは加齢による色彩感覚の低下です。念のために調べてみますと、ソースたくさん見つかります

  • GILBERT JG. Age changes in color matching. J Gerontol. 1957 Apr;12(2):210
  • Ohta Y, Kato H. Color perception changes with age: test results by P-N anomaloscope. Mod Probl Ophthalmol. 1976;17:345-2.
  • 佐藤千穂. 加齢に伴う色の見えの変化. 照明学会誌, 1998, 82.8: 530-537.

ChatGPTで要約しただけでソースを全て読んだ訳ではないですが、感覚の低下は50歳くらいから進行するみたいで、あなおそろし。

年齢とともに視力も衰えるのは「それはそうだよね、仕方ないよね」ってことではあります。ですが、歳をとるにつれて知らず知らずのうちに天体写真が厚化粧(=彩度上げすぎ)なんてなことになったら、それは嫌であるよなあ、と思うわけです。

そういった事態を防ぐためにはTwitterなどのSNSをフルに利用。若い方々の天体写真をよく見て学び、自分の作と比較するのが良さそうに思えます。ですがこれはダメで、そもそも若者の適切なカラーリングと、自分の彩度上げすぎ作品が同じく見えてしまうのが、「感覚の低下」なのでした。

なので、画像全体の彩度を客観的に評価できる指標、たとえば彩度のヒストグラムみたいなものがあったらいいよね、と思う訳です。

 

と、ここまで書いておいて顧問は絶望。今思い出した!何年か前に同じことを書いているじゃないか。

まったく色彩の感覚がどーのこーの言う以前に、はやくも脳みそが衰えているようで話にならない感じですが、このリンクで紹介した彩度のヒストグラムを使って、今後は自分の作品を反省していこうと思っている次第です。おわり。

 

いったいどうすればIOTDが取れるのだろうか

Astrobinへの投稿が最近調子がよくて、"Top pick Nommination"(銅メダル)や、"Toppick"(銀メダル)が貰えています。


この表彰の審査の仕組みが階層的になっていて、中二心をくすぐる楽しさがあります。以前も書きましたがざっくり説明しますと

  • 50名ほどのSubmitterのうち3名以上に選ばれると”Top pick Nommiation”の銅メダル以上が確定
  • ”Top pick Nommiation”に選ばれた後、さらに30名ほどの"Reviewer"のうち3名以上に選ばれると”Top Pick”の銀メダル
  • ”Top pick”に選ばれた後、さらに10名の”Judge”のうち一人から選ばれると”Image Of The Day”の金メダル

って感じです「10名の”Judge”」いったい何者なん?って。腕組みして傲然と横並びしてるのでしょうか。ゴゴゴゴゴゴ…、とか音立てながら。

さておき。私のこれまでの受賞傾向はと言いますと、2年前の神割崎でSharpStar15028とEOS6Dを使って撮影した青い馬星雲

がTop pickになったまでは調子よかったのが、それ以降ずーーっと不調で、さらにはチリで長時間露光した作品をアップするようになってからもサッパリでした。とくにそーなのかーさんの膨大な露光データを頂いてコラボ作品として仕上げた会心のイータ・カリーナ星雲6枚モザイク

が「すーーん」って感じでスルーされて遺憾千万。詰まらないから課金止めるわ、って一時期辞めたくらいです。

そんな調子だったのが、最近は投稿のたびにメダルがつくようになって、とくに先日のはやま湖で撮影したIC417の銀メダルは、遠征で撮影した作品としては2年半ぶりでした。

でもそろそろ、一枚でいいから金メダル”Image Of The Day”が取りたいなーって思います。しかし一体どうすれは”Image Of The Day”が取れるのだろうか。

特に最近は先鋭化が顕著で、「そこどこ?」っていう領域をPlanewaveのスゴい筒をつかってリモートで100時間なんて作品が多い。そういうのはムリ。としたら、撮影しつくされた星空のスキマを狙ったような構図を、攻めた画像処理で仕上げるって作戦になるのですけど、まあそれもやっているつもりではあるのです。

取れたらラッキーくらいの気持ちで、続けてみますかね。そのうち皆さんの意表を突くような構図も思いつくかもしれないし

GHSをつかった最近の後処理のフロー

はじめに

この記事では、最近Pixinsightに実装されたGHS (Generalized Hyperbolic Strech)をつかった最近の画像処理フロー(後処理)の前半部分についてまとめています。前半部分というのは、具体的にはリニア画像からLRGB合成までです。後半部分は処理する画像によってフローが変わってしまうため、さらっとだけ書いています。

ストレッチについての個人的な悩み

スタックが済んだ後のストレッチについて、顧問はずっと悩んでおりました。といいますのは、リニア画像からの初期段階のストレッチがいつもトライアル&エラー的になってしまうために、結果が安定しないのです*1

GHSが登場する以前は、以下のプロセスを組み合わせてストレッチをしていました

  1. MaskedStretch
  2. AsinhStretch
  3. PixelMathをつかった対数ストレッチ(参考)
  4. HistogramTransformation

これらはそれぞれ一長一短なので、あるときはMaskedStretchを、または対数ストレッチとAsinhStretchの合わせ技を使う、場合によっては画像をカラーとモノクロに分けてそれぞれ別々にストレッチする。なんて感じで、いつもバラバラ。よって結果も画像ごとに一定になりません。

そんな状況を解決してくれたのが、Pixinsightの新プロセスGHS (Generalized Hyperbolic Strech)でした。

参考:GHSの解説

 

はじめのうち顧問は、このプロセスを「単なるS字のトーンカーブ調整ツールではないか」と考え、あまり使っていませんでした。しかしそれは思い違いで、GHSの白眉は、これまであまりに自由度が高すぎたトーンカーブ調整の曲線を「Generalized Hyperbolic Function(一般化双曲線関数)」で特徴づけることで、たった3つのパラメータに落とし込んだ点にある、と考えています。その三つとは

  • Stretch factor (ln(D+1))
  • Local Intensity b
  • Symmetry point SP

です。これらを目的に応じて調整することで、試行錯誤を極力抑えて画像のストレッチが出来るようになりました。さらに、これまでAsinhStrechでのみ使用可能だった彩度を保存するストレッチが、”colour mode options”機能によって任意の強度で調整可能になり、彩度のコントロールまで含めて、ほぼこのプロセス一本ででストレッチを完結できるようになりました。

今回は、GHSを中心にして、最近ようやく安定してきた自分の画像処理のフローをまとめてみたいと思います。

作例:NGC417とNGC1931

先日はやま湖で撮影してきた2作品目、ぎょしゃ座のIC417とNGC1931付近の星野を作例として自分のプロセスを説明したいと思います。下の画像は、今回のフローで仕上げた最終結果です。なかなか良い結果になったとおもっています。

 

IC417 and NGC1931
Date: 2024-11-03 23:04~2024-11-04 4:44
Location: Hayama-ko, Fukushima
Optics: Celestron RASA11" ASI2600MM-pro, ASI2600MC-Pro
Exposure: 180s x 40f, gain100(RGB), 180s x 60f (Lum)
Mount: iOptron CEM70G Processing: Pixinsight, Photoshop

 

それでは本題に入ってまいります。

スタック直後の処理、ストレッチ、LRGB合成まで

上の作例は、ASI2600MCとASI2600MMで撮影して仕上げています。ですのでRGB画像とL画像それぞれに対して行っている処理を説明します。OSCカメラを使っている方にとっては、RGB画像に対して行っている処理を参考にしていただけると思います。

リニア段階の色調整・カブリ補正など

コチラが、スタック直後のL画像とRGB画像(にSTFの仮ストレッチをかけたもの)です。

スタック直後のL画像(左)とRGB画像(右)

まず、それぞれに以下のプロセスを実行していきます(この辺りはある程度「お決まり」だと思います)。

L画像に以下を行います

  • L1) Dynamic Crop
  • L2) Automatic Background Extractor(1次関数適用、subtraction)
  • L3) Blur X Terminator (Sharpen Stars=0.2, Adjust Star Halos=0.6, Sharpen Nonstellar=0.66)

RGB画像に以下を行います

  • RGB1) Dynamic Crop
  • RGB2) Background Neutlization
  • RGB3) Automatic Background Extractor(1次関数適用、subtraction)
  • RGB4) Blur X Terminator (correct only)
  • RGB5) Spectrophotometric Color Calibration(WR=Average Spical Galaxy)
  • RGB6) DeepSNR(Strength=1.0, LinearDataにチェック)

ここで、記載していないパラメータはデフォルト値とします(以下同様)。

L2)とRGB3)について”Gradient Correction”を使っていないのは、こだわりによるものではなく、今回は1次関数による最も単純な補正で十分と判断したためです。”Gradient Correction”を使うこともあります。

L3)BXT適用後のL画像(左)とRGB5)SPCC適用後のRGB画像(右)

RGB6)のDeepSNRは以前コチラで紹介したAIベースのノイズ処理プロセスです。LRGB合成後の色ノイズを抑える目的でこの段階で使っています。下のようにほとんど星雲のディテールを損なうことなくノイズの処理ができています*2

GHSを用いたLRGB合成前のストレッチ

L画像に以下を行います

  • L4) HistogramTransformation( Shadows=0.00076 )
  • L5) GHS (StretchFactor=3.9, LocalIntensity=3.5) 

RGB画像に以下を行います

  • RGB7) HistogramTransformation( Shadows=0.0016 )
  • RGB8) GHS (StretchFactor=6.19, LocalIntensity=2.47, mode=Colour, Colour Brend=0.81) 

ここはどちらもほぼ同じ処理なので、RGB画像を例に説明します。

まず、RGB7)はHTによるシャドウクリッピングです。これをGHSの前に行います

HistogramTransformationによるシャドウクリッピング

Shadowsのスライダを右に動かして行って、下の画像の赤線部に表示されている輝度がゼロに張り付いてしまったピクセルの割合が0.01%程度を目安にします*3

 

つぎに、RGB8)のGHSでのストレッチです。

GHSによるストレッチ

顧問の場合、以下のような手順で行っています。

  1. まずStrech Factorを動かして、ヒストグラムのピークを適当な位置(ここでは1/8程度)に持ってくる
  2. 画面の中の明るい星が映っている場所を選んでPreviewを指定
  3. 上のpreviewを表示した状態で右下の白丸○をクリックして、リアルタイムプレビューを起動する。

    リアルタイムプレビュー

     

  4. Local intensityの値を正の範囲で動かして、明るい星の鋭さが好みの状態になるように調整する(ここではb=2.5付近が良いと判断しました。それより小さい値では星が大きすぎ、大きい値では星の周りのハロの輝度が抑えられすぎては初めから飽和している部分が円盤状に目立って不自然と判断しました)

    Local Intensityの調整。値を大きくしていくと星が鋭くなっていく
  5. (Local intensityを動かしたことで、ヒストグラムのピークが少し動くので)再びStrech Factorを動かして輝度を調整して終了。

以上のように、Strech Factorでヒストグラムのピークを決め、Local intensityで明るい星の鋭さを調整する、という流れで処理をしています*4

  • 註1)ここでは事前にシャドウクリッピングを行っているため、Symmetry Pointの値を調整する必要はありません。事前のシャドウクリッピングを省略して、GHSのSymmetry Pointを画像の最も暗い位置に選んでからストレッチを行っても、ほぼ同じ結果が得られます。しかし、画像のどこが一番暗い場所かはぱっと見で分からない場合もあるので、シャドウクリッピングを使った方ががエラーが少ないと思います。
  • 註2)Local intensityは、Symmetry Point付近でのストレッチの強さ(トーンカーブの傾き)を表すパラメータですが、これを大きくすることで相対的に明るい星の周りの輝度の強い部分のストレッチが弱くなります。これによって星の「シャープさ」が調整できます。

LRGB合成

下が、GHSによるストレッチを終えた後のL画像とRGB画像です。

GHS適用後のL画像(左)とRGB画像(右)

この二つをLRGB合成します。LRGBCombinationプロセスのパラメータは特に調整せずデフォルトのままで行う場合が多いです。LRGB合成後の画像は以下のようになりました。

LRGB合成後

LRGB合成以降の処理

後処理がルーティン化できているのはここまでで、これ以降の処理は撮影対象ごとに個別の各論になってしまい詳述がしにくいです*5

以下はあまり参考にならないような気がしていますが、おおざっぱな方針だけ記しておこうと思います。

全体としては画像をみて「何が足りないか?」を考えながら処理を進めていきます。Pixinsightで構造の強調やスターリダクション、ノイズ処理をやったあと、Photoshopで最終的に仕上げるのがいつものパターンです

Pixinsightでの処理

あらためてLRGB合成後の今回の画像ではだいたい以下の操作を実行しました(詳しくは書きませんが、以下の各処理では適宜マスクを利用し、明るい星や星雲のハイライトが破綻しないように注意しながら進めています)

  1. GHSをもう一度かけてコントラストを強調(Stretch factor=0.45, LocalIntensity=3, Mode=Colour, Colour Blend=1)
  2. Local Histogram Equilizationで星雲のハイライト部分の構造を強調
  3. Background Enhanceスクリプトで、中心のIC417付近のガスを強調
  4. Curves Transformationで彩度上げ
  5. HistogramTransformationでシャドウクリップ
  6. Starnet++の星消し画像を作って、星を小さく
  7. Noise X Terminatorでノイズ処理

ここまでやったところで、「次の一手」が思いつかなくなります。そのタイミングで16bit Tiffで保存してPhotoshopに移行します。

Photoshopでの処理

Photoshopではあまり大したことはしておらず、主にCameraRawを利用して

  1. 「シャドウ」「黒レベル」「ハイライト」「露光」などを動かして、全体のコントラストを整える
  2. 「明瞭度」を上げてディテールを強調
  3. 「自然な彩度」で彩度を少し上げる
  4. 「カラーミキサー」で各色の色相を動かして、赤や青を好みの色に動かす

といったことをやっています。最後に

  1. 「スマートシャープ」で星の周りの輪郭をすこしシャープにする
  2. 必要に応じて、グラデーションマスクを利用して周辺の明るさ、ハイライト部分の明るさを調整する

などして仕上げていきます

最終的な結果がコチラになります(再掲載)

IC417 and NGC1931

終わりに

以上でおしまいです。
LRGB合成後の処理はまだまだ安定しないのが自分にとって課題で

  • その日の体調
  • 処理する時間帯
  • お酒の酔いぐあい

などで結果が若干変わってしまったりします。また星雲ばっかり見ていて気づいたら微光星が破綻していた、なんてミスもいまだに良くやります。

皆さん同じことをおっしゃっていますが、地味に重要なのは自分の目をあまり信用しないことで、

  • 処理が終わったら、しばし画像を「寝かせる」
  • 納得がいかなかったら、数日放り出してからはじめからやり直してみる。そのうえで再度仕上げた結果を、以前の結果と比較したり良いとこ取りしたりする

なんてことをしながら、じっくり取り組むのが良いのだろうなと思っています。

 

 

 

*1:これは実は顧問が天体写真を始めたころから、10年以上の未解決問題でした。

*2:DeepSNRは無料ですが、有料のNoiseXTerminatorと比較しても処理によって微光星が消えにくいのが優れていると思います。ただし、適用できる画像が限られていて、顧問の試した範囲ではDrizzle1xのカラー画像でしか上手く動きません。

*3:これは蒼月城さんが動画で良く用いられている方法です

*4:このLocal intensityでの星の調整が、顧問は一番気に入っており、このエントリを書くモチベーションにもなっています

*5:この辺りが個性が発揮できるところであり、また腕の見せ所でもありますが、それすら将来的にはAIによって自動化される未来もそろそろ見えてきてしまってます。

晩秋のはやま湖で洞窟星雲(sh2-155)

11月の新月期、星沼会のみなさんは喜界島へ星空観望に行かれていました。天候にも恵まれて楽しい時間を過ごされたようです。

masahiko.me

aramister.blog.fc2.com

顧問はと言いますと、まあ。ちょっと悔しいので理由はつまびらかにいたしませんが、宮城県に待機。でも、文化の日の夜に福島県飯館村のはやま湖で撮影ができたのは幸いなことでした。

オバケが出そうで怖いはやま湖。最近はすっかり足が遠のいていて、前回の訪問は1年9か月も前です。一人で行くのは恐ろしすぎて、今回はかのーぷすさんをDMで誘いご一緒しました。もともとは蔵王に行く予定だったのを、顧問の誘いをうけて変更してくれたのです。持つべきものは星友ですね。蔵王寒そうですし。

はやま湖にて(24年11月)

ところが撮影開始後、ちょっと困ったことになります。かのーぷすさんの機材にトラブルが発生し、リカバリーが難しい状況に。考えた末、今夜は早めに切り上げますというのです。

「えー、帰っちゃうんですか?(泣」

と顧問は泣き言いって氏を困らせてしまいます

「まあでも、昔はここで一人で撮影していたんですよね」

なんてブツブツいっている私を不憫に思ってくれたのか、鏡筒を切り替えて撮影を続行してくれました(よかった&すみません)。顧問がお貸ししたUSBハブも役立ったようです。

そんなやり取りをしているうちに、東北大の天文同好会のみなさんもやって来て、結局は賑やかな遠征撮影になったのでした。

洞窟星雲(Sh2-155)を撮影

11月ともなるとだいぶん夜が長くなって、一晩に2つの対象を狙ってもある程度の露光時間が確保できます。今回は前半に表題の洞窟星雲、後半にぎょしゃ座のIC417を撮影しました。今回は洞窟星雲の結果を紹介いたします。

sh2-155
The cave nebula (sh2-155)
(L)
Date: 2024-11-03 20:46~23:00
Location: Hayama-ko, Fukushima
Optics: Celestron RASA11" ASI2600MM-pro
Exposure: 180s x 41f, gain100
Mount: iOptron CEM70G

(RGB)
Date: 2022-08-28 21:20~26:07
Location: Komakusa daira, Mt. Zao, Miyagi.
Optics: Celestron RASA11" ASI2600mc-pro
Exposure: 120s x 132f, gain100
Mount: iOptron CEM70G
Preprocessing: Pixinsight, Photoshop

この作品、実はちょっとサボっています。2年前にASI2600MCをつかって撮影していたカラー画像と、今回ASI2600MMで撮影したL画像を合わせてLRGB合成しました。Lが2時間、OSC(One Shot Color)カメラのRGBが4時間ちょっと。それでも今回撮影したL画像のほうが若干質が良いようでした。

画像処理では、RGB画像にDeepSNRをかけて(かなり強烈な)ノイズ処理をしたあと、GHSで彩度とのバランスを取りながらコントラスト強調をしました。同じくBXT済みのL画像にもGHSをかけた後、LRGB合成しています。特にGHSのcolorモードでのストレッチがとても便利で、これを覚えてからはAsinhStretchもMaskedStretchも使わなくなりました。

ケフェウス座のこの領域は、様々な色にあふれていてとても魅力的です。洞窟星雲本体の散光星雲には若干O3が混じっているようで、中心部から周辺にかけて朱色と紫がグラデーションをなしています。その周りにはオレンジと青の散光星雲が点在し、それらをグレーの分子雲と真っ黒な暗黒帯が取り巻いています。色のオンパレードです。今回はその様子を上手く描出することが出来て満足しています。

 

ちなみに2年前にOSCのASI2600MCで仕上げた結果がコチラでした

The cave nebula(Sh2-155)

当時、星沼会の丹羽さんやグラスノスチ君と議論して、何度もやり直して懸命に処理したのを覚えてますけど、全体的な発色がもう一歩という印象です。

 

後半に撮影したIC417は、これを書いている現在まだ未処理です。次のエントリで記事にしたいと思います。

撮影後記

機材を片付けて車のトランクに詰め終わった頃には、すっかり夜が明けていました。皆さんとっくに帰られて、顧問は一人です

湖面に気嵐がたっていました。昨晩の結露はひどかったなあ。

明るくなった駐車場のあちこちに、空き缶やら吸い殻が落ちているのが目につきました。うーん、ではちょっと陰徳を積み増しいたしますかって、軽くゴミ拾いをさせていただきましたよ。

これでまた、極楽浄土への道が近づいたのでした。いくぜ、極楽浄土。

 

 

 

RICOHの天体撮影サービスの利用レビューです

ちょっとしたご縁があって、最近RICOHの方が立ち上げられた天体写真サービスをモニター利用させてもらいました。

RICOH社天体撮影サービスとは?

このサービスでは、オーストラリアに設置されたリモート望遠鏡での天体撮影を、時間あたりの料金を支払って「注文」することが出来ます。撮影機材はPlanewave社製口径50cmの大望遠鏡(Planewave20"CDR)に、FLI社製の36mm角センサーの冷却CCDカメラ(PL09000)が取り付けられた超ハイエンド。撮影地も有名なサイディング・スプリング天文台の近くにあり、素晴らしい環境です。

注文フォームから撮影の構図と露光時間を指定すれば、数日後にキャリブレーション済みのライトフレームが送られて来る、という仕組みです。観測タイムが与えられて、望遠鏡を直接扱えるわけでないですが、研修も操作方法を覚える必要もないので、気軽に利用できるメリットもあります。

似たサービスとしてよく知られているiTelescopeに対して、お金のやり取りやサポートが日本語なのも安心です。またほかにも、撮影した写真の額装や後処理の代行、教育機関向けの電視観望などのオプションのサービスも注文できる点は新しいと思います。

以上がざっくりとした説明です。詳しくはコチラのサイトをご覧ください

https://ivory663814.studio.site/

また、蒼月城さんの動画でもわかりやすい説明を視聴することができます

youtu.be

Kさん、まつのりさんのブログでも、同サービスを利用しての感想が記事になってますので、そちらも併せて参考にしていただければと思います

asphotogirl.blog.jp

morinoseikatsu2.hatenablog.com

今回のモニター期間は、今年の12月まで延長中とのことです。コチラから申込できますのでご興味あればぜひご検討下さい

https://indigo257803.studio.site/

実際に利用してのレビュー

撮影カメラのPL09000は36mm角の正方形のセンサーを搭載しています。この時期、画角にぴったりな対象としてくじら座のM77とNGC1055を選びました。

これらは比較的に淡い銀河で、画角外のくじら座γ星の迷光の影響をうける可能性もあり、結構厳しめの課題です(実はそれと意識したわけでなく、撮影を依頼した後に気づいた次第です)。単純な日の丸構図でない点も、画像処理でのゴマカシを難しくします。

撮影データは、Lを85分、RGBを各40分、トータル200分を提供していただきました。早速、結果はこちらになります。

M77 and NGC1055 (BXT used)

date: 2024-10-6,7
location: Siding spring, Australia
Optics: Planewave 20" CDK (RICOH 天体写真 service)
Camera: FLI PL09000
(RICOH 天体写真 service)
Exposure: 180s x 28f(L), 180s x 13f(RGB), -25deg.
Processing: Pixinsight, Photoshop

全体像だけだと分かりにくいので、各銀河をアップで見ていきましょう。撮影データは2倍のDrizzle処理をしております、

まずはNGC1055です。BXT使用済みと未使用でそれぞれ見てみます。

おおー、これはズゴイです。口径50cmの威力をまざまざと感じます。暗黒帯の詳細がかなりしっかり出ていて、露光時間が90分の割には周辺の淡い腕もよく出ていると思います。銀河の左側にホットピクセルの消え残りが目立っていました。これはCosmetic Correctionを使えば消えてくれると思います(今回はやっていませんでした)。

 

次にM77です

こちらも暗黒帯の詳細がよく出ています。この銀河は、中心部と周辺の腕の輝度差がかなり大きいので、銀河だけを選択するマスクを施した上でPixinsihtのHDR Multiscale Transformを適用して輝度を圧縮しています。BXTありの方はいい感じに見えますが、ちょっとシャープネスを上げすぎだったかもしれません。なしとありの中間くらいに調整した方がよかった。

 

NGC1055近くの明るい星もアップにしてみました

小さい星をみると、BXTなしの方は歪みがあるのがわかります。光条はBXTなしでもとても綺麗で、色の干渉縞の感覚も適度に長く彩度強調がしやすいです。あとこれは最後に触れますが、CCDセンサーの特性なのか色のりがすごく良く感じました。

まとめ

マチュアの撮影機材とは一線を画す性能

私にとって、50cmもの大口径の望遠鏡で撮影したデータに触れるのは初めての経験で、特に銀河の細部の描写では普段使っている20cmクラスの筒との大きな差を感じました。まあそれは当然と言えば当然ですね。

それに対して意外だったのは、冷却CCDカメラPL09000の特性です。普段使っている冷却CMOSカメラ(ASI294MMや2600MM)と比較して画像処理での色の出方が全く違いました。PL09000の方が色がよく出ます。このカメラは1ピクセルが12μmと非常に大きく、その分ダイナミックレンジが広いので、明るい星の色が残りやすいのかもしれません。それ以外にも(理由ははっきりしませんが)発色が全然違う印象があって、彩度の強調をしなくても色が自然に出てくると思いました。PL09000と最近のASIカメラの性能差ははっきりしないのですが、FLIの冷却CCDカメラが利用できるのもとても魅力的だと感じました。

モニター利用で感じた現状の問題点

一方で、まったく問題がないわけではありませんでした。データのキャリブレーションが完全でなく、いただいたデータでは背景の輝度ムラが目立ちました。これについては、上に示したリンク先で蒼月さんやKさん、まつのりさんも指摘されています。とくに残念だなと思ったのは、RAWデータとキャリブレーション済みのデータを比較すると、後者の方がSNRが悪化していることです。また、くじら座γ星からの迷光の影響もありました。しかしこれらは致命的な欠点では決してなくて、我々のフィードバックによって十分に解決が可能な問題だと思います。

今回示した作例では、エラーが目立たない程度の控えめな画像処理に抑えています。もしエラーがなければ、同じデータをつかって遥かに豊かな銀河の姿を描出できたと思います。つまり、まだまだ撮影データのポテンシャルを出しきれておらず、100%のデータが得られるようになればいったいどんな結果に成るのかも楽しみです。その意味で、ぜひもう一度利用してみたいところです

天体写真を「注文」する感覚について

自分で体を動かして撮影するのではなく、お金を払ってデータだけを買うというシステムは味気ないのではないか? これは今回利用したサービスに限った話ではなくて、私がチリでのリモート撮影を始める前にも感じていたことです。正直に言えば私にとって、リモート撮影で得られたデータへの愛着は、遠征のそそれよりも弱いです。ですが自分の場合、遠征だけでなく画像処理そのものも十分に楽しんでいて今ではそれが生活の一部でもあると感じています。

ツイッターでこんなことを書いてみたら、少し反響があって「私も画像処理だけ楽しんでいるよ、他人の撮影結果でも処理したい」とか「画像処理よりも撮影の方が苦しいし楽しくない」なんて反応すらありました。そういう方にとってはRICOHの天体写真サービスを利用して、アマチュアでは到底手の届かない機材を使って天文を楽しむという趣味のあり方*1も、十分にアリだろうなと思います。

それでは以上ですー。

 

サムネ用

 

*1:有名なAdam Block氏も、実はそういうスタイルなのだと、どこかで聞いたことがあります

Tsuchinshan-ATLASは大彗星に認定です。バン!(ハンコを押す音)

(概要)明け方に見えていた表題の彗星が、太陽の方向に消えていった10月9日前後、NASAのSOHO衛星の視野に飛び込んできたその姿は眩しいほどで「-5等級に達した」との報もありました。ところが12日の夕刻にようやく再会できた彗星の姿はライブビュー画面のシミ。「こんなもんかあ」と失望したその翌日、全く予想しない劇的な展開が待っていたのです。

Tsuchinshan-ATLAS彗星後半戦、時系列でレポートします!

これまでのダイジェスト

Tsuchinshan-ATLAS彗星は、その発見時から2020年のNeowise彗星以来の肉眼彗星として大いに期待されていました。しかし今年の7月には「大彗星にはならない」という考察が専門家から発表されます

たしかに当時の姿は、水木しげるの漫画にでてくるタマシイのようでした。

そんな情けない姿だった彗星は、しかしじわじわと増光し9月末には3等台まで成長します。チリの望遠鏡や、明け方の蔵王で初めて撮影した姿は、なかなかに立派なものでした。そのあたりの経緯は前回のエントリにまとめております。

ただ残念だったのは、彗星は肉眼では良く見えなかったのです。

SOHO衛星に現れた彗星の姿と前方散乱

10月の上旬ころ、地球からの見かけで彗星は太陽の方向に近づき、SOHO衛星の視界に入ってきました。

動画の左端に少し明るく写っているのが水星です。これがおおよそ-1等級から-2等級ですから、右端からにゅるっと巨大ウツボのように出てきた彗星は、とんでもない明るさということになります。吉田誠一さんのサイトによれば、瞬間的に-5等級くらいに増光していたとのことでした。

ちなみに、SOHO衛星の画像はこちらから簡単にダウンロードできます。結構楽しいので試してみてください。

話題を戻します。-5等級とはちょっとトンデモナイ明るさで、界隈はにわかに沸き立ちました。しかしながらこれについては

「今明るいのはミー散乱の前方散乱振幅のピークを見ているからで、夕空に観測できるようになる頃には、すでに減光してるから。あんまり煽るなよ」

なんて意見もありました。つまり彗星のチリは「逆光」で見る時が一番明るく太陽の光を反射し、それは一瞬のことだというのです。この前方散乱については今度考えることにして、西の空に回った彗星はどんな姿だったのか、続きを見てみましょう。

西の空に回った彗星の姿

彗星の近地点通過が10月13日。その前後が北半球からの観測好機になります。折しも日本はスポーツの日(旧体育の日)の3連休です。体育の日といえば晴天率が高いことで有名ですが、実際に12日~13日にかけて日本海からの高気圧が張り出し、多くの地域が晴天に恵まれたのでした。やったぜ

12日夕刻のショボい姿

よっしゃ、快晴だ!

ってことで夕方、顧問は自宅を抜け出し学校の屋上でカメラを構えました(天文部員にも声をかけたのですけど、誰も来ませんでした(あれ?))そして撮影したのがこの写真です!ででん!

Date:2024-10-12 18:06(JST)
Location: Natori-city, Miyagi
Camera: Canon EOS6D
Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2@F2
Exposure: 3sec. (ISO200)

ええと、彗星はどこかな?

これですか。(スカイメモRのスイッチが南半球になっていて、彗星が流れています)

名取よりちょっと空が暗い北の方の町で、そーなのかーさんも同じく彗星を撮影していたそうです。やはり「画面のシミのようなショボい姿だった」とのこと。

おいー、-5等級はどこ行ったんだよー泣。

しかし13日夕刻には大変化が!

翌日も朝から良い天気。数日前から本命の観測日は13日と狙いをつけていて、家族で蔵王に出かける予定を立てていました。

「しかし昨夕の姿では、ちょっと期待できないなあ」

まあどうせ見えなくてもいいか。高山ピクニックだとおもって皆でカップラーメンでも食べて帰ってきましょう、ってことで2時半ころ出発。

折しも蔵王は紅葉シーズンの最終盤。山頂へ続くエコーラインは大渋滞でした。こんなの初めてです。

赤い表示の起点から終点まで、普段なら10分の道のりに1時間を要しました。動かない車の中で、太陽が没するのを見た時はさすがに焦りました。

観測場所は刈田リフト駐車場です。すでに、Nasu88-STARRYさん、かのーぷすさん、そーなのかーさんが集まっていて、柊二さんもあとから合流します。ほかにも50名くらいのかたが集まっていて、みなさんカメラやスマホを構えつつ、西の空に注目していました。

やがて、空のシミのような彗星の姿が双眼鏡で見え始めます。昨晩の位置より高度が高いです。一日の彗星の移動距離を考えても高い。これはひょっとして……?! 皆が横並びでカメラを構え構図を合わせ始めました。

タイマーレリーズの設定をおえ液晶画面から目を離したその時です。顧問の目に、真に驚くべき光景が飛び込んできたのです。

「あ、あ…!みえる!」

そう、彗星の姿が、白っぽくしかしはっきりと肉眼で見えていたのです。これには本当に驚きました。尾の長さは腕を伸ばした握りこぶしほどで、これは10°くらいは広がっていました。

普段、淡い天体を見慣れていない下の娘にも見えていたようで

「星がシューって落ちていくのが見えた」

と言っていました。

下の写真はフルサイズカメラに20mmの広角レンズを付けてさつえいしたものですが、こんなに大きく写っています

C/2023A3 2024-10-13

ワーッとあたふたしている間に、じわじわと彗星は高度を下げ、やがて低空の雲に隠れて見えなくなってしまいました。月明かりに照らされた駐車場全体に興奮の余韻が残っていたようでした

こちらは135mmのレンズで撮影したものです。ホント興奮していたんですね、ピントを合わせるのをすっかり忘れていました。おかげで結構ピンボケです。

Comet Tsuchinshan-ATLAS

Date and time: 2024-10-13 9:25~9:29(UTC)
Location: Mt. Zao, Miyagi, Japan
Camera: Canon EOS6D(mod)
Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2@F2
Exposure: 8s(ISO400) x 20 frames

1日に明け方に撮影した時よりも、だいぶんダイナミックな姿です。イオンテイルは見えませんが、4重ほどのシンクロニックバンドに加えて、「ネックライン」と呼ばれる細い筋状の構造が、尾と反対方向に見えています。これについてはTwitter上でHitoshi Hasegawaさんやおののきもやすさんと議論して、なかなか有意義な結論が得られたので、次回以降の記事でまとめたいと思います。

撮影の反省と今後の課題!

今回の撮影ではいろいろ失敗しましたので、反省点を書いておきます:

  • 撮影の前日には、地上風景を入れるか、彗星を単独で写すかなど、しっかり計画を立てておかねばなりません。
  • 撮影開始の90分くらい前には撮影場所に到着し、ゆっくりと準備が出来るようにしておかなければなりません。ピント確認忘れや赤道儀の設定ミスなど、もっての外です。
  • いろんな方が公開されている彗星のシミュレーションなどを参考にし、尾がどの方向に主に広がっているか、事前にあたりをつけたうえで構図を考えなければなりません。特に13日の撮影では、尾はそれほど伸びていないことは分かっていたのですから、核をもっと構図の中心付近に寄せるべきでした。

またデジカメで撮影したデータの画像処理については、現在解決すべきジレンマを抱えています。というのはPixinsightで彗星核基準のスタックをする場合は、debayerによるカラー化もPixinsightでやることになり、これだと特に夕焼けの色がかなり変になります。色再現を優先するならPsでRaw現像するのが良いのですが、そうするとデータに時刻がうまく埋め込まれず、PixinsightのCometAlignmentができません。

DeepSkyStackerとかを使った方が手っ取り早いかもしれず、これは次回の大彗星が来るまでの課題です。

 

C2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星、前半まとめ(後半も期待大です!)

これを書いている現在は10月6日。Tsuchinshan-ATLAS彗星は、見た目で太陽の方向へ近づいて観察がしにくくなってきました。当初の予想は良い方向に外れ、彗星は増光をつづけています!これまでの撮影をまとめました。

9月中旬から下旬、チリにて

9月19日,20日に、日本よりも条件の良いチリで撮影した姿を報告しました。

その後も彗星は順調に増光します。同じチリの望遠鏡を運用しているそーなのかー氏による26日の姿です。

つづく9月28日は現地早朝の天候が安定していたことから、初のRGBカラー撮影に挑戦しました。

C/2023 A3 (2024-09-28)

Date: 2024-09-28, 9:35(UTC)
Location: El sauce obsavatory, Chile
Camera: ASI294MM
Optics: Vixen R200ss
Exposure: R=10s x 24f, G=10s x 24f, B=10s x 24f, gain=120

中心核から尾に沿って僅かに見えている暗線は、シンクロニックバンドと呼ばれるものでしょうか。太陽光の圧力で吹き飛ばされているダストの粒粒の、微妙な相互作用でこういう特徴的な構造が現れることがあるそうです。

この画像、核から下方向に細く小さな尾が出ているように見え、一部で物議を醸してしまったんですが、これはアーティファクトでした。おそらく隣の望遠鏡が被っていて、その影響が余計な光条として現れてしまったものと思われます。

10月初旬、日本にて

さて話をチリから日本に戻します。こちらで毎回問題になるのは天気。彗星の撮影では低空までスッキリ晴れる必要があるため、条件はシビアです。9月末は、関西方面が良く晴れており、宮城県の我々は遠方から届く撮影成功の報を恨めしく聞いておりました。

そんな10月1日、ようやくチャンスが回ってきました!

お決まりのツイートをしつつ、夜中の2時に自宅をでました。撮影地は、東の空が開けている大黒天駐車場を選びました。現地にはそーなのかー氏、柊二氏、かのーぷす氏に加え、東北大天文同好会のjdさんやNaoさんなど皆同じ目的でにぎわっていました。下の駒草平には仙台天文同好会のさらさん達も来ていたそうですね。

 

計算では、ココから岩沼市の上空方向に彗星が昇ってくるはずです。皆でカメラを構えますが、まだ何も写りません。

「何もないですね…」
「今日の条件では無理なのかな」

恐らく全員が不安になっていたと思います。どれだけ経験を重ねても、まだ見ぬ彗星の姿は想像がつかないものです。

やがて、水平線上にたなびく雲の割れ目から、薄明光線のように淡い何かが見えてきました。こちらは赤道儀で地平線下の彗星を自動導入し、「とらえているハズ」のカメラの画像です。うっすら何か見えますでしょうか?

Date: 2024-09-30, 9:14(UTC)
Location: Mt. Zao, Miyagi, Japan
Camera: CANON EOS6D(mod)
Optics: Mamiya Apo-sekor 250mm F4.5
Exposure: 20sec. ISO1600

まもなくはっきりと集光した核が見えてきました。皆が自身のカメラで捕らえるたびに

「おおー」

「これかー」

と歓声が上がります。楽しい瞬間です。

核が雲から昇ってきて薄明に消えるまでのタイプラプスを作ってみました。

このタイムラプスのうち、4:17~4:20の3分間のフレームをスタックし、「作品」として仕上げたのが次になります。なかなか上手く行きました。135mmレンズにフルサイズの画角でちょうどよく収まる立派な彗星の姿です。

C2023A3(2024-09-30)Date: 2024-09-30, 9:17(UTC)
Location: Mt. Zao, Miyagi, Japan
Camera: Sony α7s(mod)
Optics: Zeiss Apo sonner 135mm F2
Exposure: 10s x 11f, ISO1600

 

さらに広角の画像では、細い月とのランデブーでした。彗星は淡いので、拡大して探してみてください。

後半に期待

明けの彗星は、早起きが必要でガチ勢以外には敷居が高いです。10月も中旬になれば西の空で太陽を追いかけるようにふたたび彗星が姿を現します。

今現在、観測された光度は事前の予想を上回り続けています。その後半戦は、天文部員たちや家族を連れて、また観望いたしましょう。楽しみです!

C2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星を撮影しました

10月にはマイナス等級に達し、2020年のNeowise彗星以来の肉眼彗星になるだろうと予想されていたC2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星。数か月前に専門家のセカニナ氏によって「崩壊しつつある」という観測が発表され、一時は急速に期待がしぼみました。

しかし今、近日点をまえにしてじわじわと増光中です。

「ソコソコ見られる彗星になるかもね」
「いやひょっとしてマイナス等級あるか?」

って感じに、期待が戻りつつあります。

C2023/A3は地球から見て太陽の向こう側からこちらに近づいてきています。北半球から見た時、現在は太陽系の軌道面の下側(南側)にあって、近日点通過後に上側(北側)に抜ける軌道です。つぎのTony Dunnさんの動画が分かりやすいです。

なので現在は南半球のほうが観測しやすい状況です。そこで、チリのリモート望遠鏡で撮影しました。

まずは2024年9月19日、現地時間明け方6時50分ころの様子です

Date: 2024-09-19 09:50(UTC)
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS
Camera: ASI294MM
Exposure: 30s x 2frames
Pricessing: Pixinsight

撮影中にドームが閉まってしまい、30秒2枚だけしか撮影できなかったんですが、しっかりと尾を引いた姿をとらえることが出来ました。何度撮影しても、彗星の初対面には、いつもハッとする感動があります。

 

撮影では、薄明が始まる前に東の低空にある適当な星を導入してプレーソルブを済ませておきます。彗星が高度5°くらいまで昇ってくるころはすでに薄明が始まっていて、プレートソルブが効かない可能性があります。こうすることによって単純な自動導入でも、彗星をほぼ中心にとらえることが出来ました(以上は撮影前にそーなのかー氏からアドバイスしてもらいました)。

翌日の9月20日もチャンスがあり、同じく撮影しました。

Date: 2024-09-20 09:45~09:51(UTC)
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS
Camera: ASI294MM
Exposure: 30s x 12frames
Pricessing: Pixinsight

こちらは12枚、6分分の露光をすることが出来ました。後述の理由により、あまり写りが良くないものの、昨日と比較すると確実に増光しているように見えます。

2枚の画像のストレッチの強度を(なんとなく)そろえて、並べました:

画像

たしかに明るくなっているように見えます。よしよし、このままマイナス等級まで突き進んでほしいものです。

あまり写りが良くなかった理由

ちなみにの話ですが、今回の撮影では共同利用のリモート天文台に在りがちなトラブルに見舞われていました。下の写真は彗星撮影中の我々の望遠鏡の様子です。

このように、大きなスライディングルーフにたくさんの機材が並んでいるせいで、そもそも低空の撮影には向かないんですね。どうやら撮影中、東隣にある大きい筒が邪魔しちゃっていたようなんです。まあしかたないですよね。

西隣の筒は小さなR130Sfなので、10月中旬に彗星が西に回れば良い条件で撮影できるかもしれません(笑)。

 

夏合宿の作品

前回と前々回に、夏合宿の顛末を報告しました

その際の撮影結果をを紹介してませんでした。今回はうれしいことに、部員のT君が作品を仕上げてくれたので、そちらを紹介します。

まずはM31アンドロメダ星雲です。

M31Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Camera: Nikon D4
Optics: AF-S 70-300 ED VR @300mm F5.6
Exposure: 130sec x 3frames, ISO3200
Processing:Sequator
Mount: SkyMemoR

使用カメラのNikonD4は入学記念に中古のものを買ってもらったとか言っていました。当時は50万ちかいカメラも今では10万円弱で手に入るようですね。フルサイズで4920x3280画素なので、EOS6Dよりも画素ピッチが若干大きく、天体向けなのかもしれません。このカメラで撮影された作例をあまり見たことがないのですが、どうなのでしょう。

露光は130秒の3枚スタックとまだまだ短めです。顧問は撮影中のT君に

「もうすこし長く撮影したら? 1時間くらい」

と声をかけたような気がしますが、「いやいや。。。」という反応でした。短時間でいろんな対象を撮影したくなる気持ちはとても良く分かります。

NGC6992

Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Camera: Nikon D4
Optics: AF-S 70-300 ED VR @240mm F5.6
Exposure: 150sec x 5frames, ISO3200
Processing:Sequator
Mount: SkyMemoR

こちらは網状星雲。この星雲は非改造機で撮るのが面白いですね。新鮮な色合いです。

画像処理については詳しく効いていませんが、おそらくSequatorをつかってスタックしたのだと思います。空が暗いのと強調が控えめなおかげで、周辺減光などはそれほど気になりません。これからいろいろと覚えてもらいましょう。

 

最後にまことに蛇足ながら、顧問の作品も紹介します

The Cygnus Wall
Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Optics: Celestron RASA11, 620mm F2.2
Camera: ASI2600MC, ASI2600MM
Exposure: RGB 180s x 20f + Lum 180s x 13f (total 99min), 
Coolong Temp.: -5deg
Gain: 100
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

RASA11で撮影したCygnusWall付近です。「短め」の99分露光でも、ほぼノイズ感なく滑らかに仕上げることが出来ました。ハドソン湾の暗黒帯が黒つぶれしないように気を付けながら、全体的にしっとりした仕上がりを目指しました。

久しぶりにとても満足で、これは印刷候補です。

 

それではまた。

 


2024年、天文部夏合宿報告その2

前回のあらすじ:

台風10号が列島に停滞する中、天文部の夏合宿の日程がやってきました。初日は浄土平まで移動するも霧でNG。夜半過ぎに訪れた数時間の晴れ間の中、すこしだけ観望しました。天気予報によると二日目は天気が回復しそうです

第二日目(昼)

翌朝は美しく晴れていました。

昨晩に前線の雲が南へ下がっていき、東北地方は秋の高気圧に覆われたようです。空気が乾燥してとてもさわやか。

顧問はダイニングでコーヒーをすすりながら、チリのパソコンにアクセスして昼間の撮影です。その様子を天文マニアのご主人に自慢したりして。

部員たちは2階の談話室でトランプしたりゲームをしたりで時間をつぶしていました

こんな風にして、寝不足で少し気怠い午前が過ぎていきます。

昼下がりには、温泉です(2回目)。硫黄の匂いがする酸性のお湯が最高です。

 

宿に戻って、まだ13時。夜まで特にすることはありません。そこで、カメラ好きの新入部員T君と野鳥を探しに森の中を散策しました。

こんな豊かなブナの森なのに、鳥の鳴き声はすれど姿は見えずで、特に成果なし。小さな蛇を見つけただけでした

ヤマカガシのようです

第二日目(夜)

夕方にかけて徐々に雲が広がっていき、すっかり鉛色の空になってしまいました。ひとまず明るいうちに機材を設置。

ちょっと不安ですが、駐車場に機材を放置

夕食を済ませた後、ハイエースに戻ってウトウトと気持ちよく眠りました。そして目が覚めたらもう晴れていました。やったぜ。

まずは部員たちと電視観望です。

筒先が向く空とパソコン画面を見比べながら観望しております

M27、北アメリカ星雲、網状星雲、ガーネットスター、M31などを皆で見ました。RASA11とASI2600MCでの電視はなかなか迫力があります。

しかしパソコン画面ばかり見ているのもアレですので、ほどほどに電視は切り上げ、実際の星空を観望しました。

先日サイトロンのセールで買った顧問の私物双眼鏡(左上)が活躍

ひとり黙々と撮影をするT君

標高800mの高湯温泉でも西の空はほとんど光害の影響が見えません

2時ごろに急に雲が広がって、観望はお開きとなりました。今回は天候的にとても良い合宿になりました。

 

翌日、福島駅で解散しました。

次はツチンシャン・アトラス彗星を見に遠征できるとよいなと願っております

左で手を振っているのは今回都合で不参加の部長。最後だけ合流しました