天文はかせ幕下

夏合宿の作品

前回と前々回に、夏合宿の顛末を報告しました

その際の撮影結果をを紹介してませんでした。今回はうれしいことに、部員のT君が作品を仕上げてくれたので、そちらを紹介します。

まずはM31アンドロメダ星雲です。

M31Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Camera: Nikon D4
Optics: AF-S 70-300 ED VR @300mm F5.6
Exposure: 130sec x 3frames, ISO3200
Processing:Sequator
Mount: SkyMemoR

使用カメラのNikonD4は入学記念に中古のものを買ってもらったとか言っていました。当時は50万ちかいカメラも今では10万円弱で手に入るようですね。フルサイズで4920x3280画素なので、EOS6Dよりも画素ピッチが若干大きく、天体向けなのかもしれません。このカメラで撮影された作例をあまり見たことがないのですが、どうなのでしょう。

露光は130秒の3枚スタックとまだまだ短めです。顧問は撮影中のT君に

「もうすこし長く撮影したら? 1時間くらい」

と声をかけたような気がしますが、「いやいや。。。」という反応でした。短時間でいろんな対象を撮影したくなる気持ちはとても良く分かります。

NGC6992

Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Camera: Nikon D4
Optics: AF-S 70-300 ED VR @240mm F5.6
Exposure: 150sec x 5frames, ISO3200
Processing:Sequator
Mount: SkyMemoR

こちらは網状星雲。この星雲は非改造機で撮るのが面白いですね。新鮮な色合いです。

画像処理については詳しく効いていませんが、おそらくSequatorをつかってスタックしたのだと思います。空が暗いのと強調が控えめなおかげで、周辺減光などはそれほど気になりません。これからいろいろと覚えてもらいましょう。

 

最後にまことに蛇足ながら、顧問の作品も紹介します

The Cygnus Wall
Date: 2024-09-04
Location: Takayu-Onsen(Stella port), Fukushima, Jpn
Optics: Celestron RASA11, 620mm F2.2
Camera: ASI2600MC, ASI2600MM
Exposure: RGB 180s x 20f + Lum 180s x 13f (total 99min), 
Coolong Temp.: -5deg
Gain: 100
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

RASA11で撮影したCygnusWall付近です。「短め」の99分露光でも、ほぼノイズ感なく滑らかに仕上げることが出来ました。ハドソン湾の暗黒帯が黒つぶれしないように気を付けながら、全体的にしっとりした仕上がりを目指しました。

久しぶりにとても満足で、これは印刷候補です。

 

それではまた。

 


2024年、天文部夏合宿報告その2

前回のあらすじ:

台風10号が列島に停滞する中、天文部の夏合宿の日程がやってきました。初日は浄土平まで移動するも霧でNG。夜半過ぎに訪れた数時間の晴れ間の中、すこしだけ観望しました。天気予報によると二日目は天気が回復しそうです

第二日目(昼)

翌朝は美しく晴れていました。

昨晩に前線の雲が南へ下がっていき、東北地方は秋の高気圧に覆われたようです。空気が乾燥してとてもさわやか。

顧問はダイニングでコーヒーをすすりながら、チリのパソコンにアクセスして昼間の撮影です。その様子を天文マニアのご主人に自慢したりして。

部員たちは2階の談話室でトランプしたりゲームをしたりで時間をつぶしていました

こんな風にして、寝不足で少し気怠い午前が過ぎていきます。

昼下がりには、温泉です(2回目)。硫黄の匂いがする酸性のお湯が最高です。

 

宿に戻って、まだ13時。夜まで特にすることはありません。そこで、カメラ好きの新入部員T君と野鳥を探しに森の中を散策しました。

こんな豊かなブナの森なのに、鳥の鳴き声はすれど姿は見えずで、特に成果なし。小さな蛇を見つけただけでした

ヤマカガシのようです

第二日目(夜)

夕方にかけて徐々に雲が広がっていき、すっかり鉛色の空になってしまいました。ひとまず明るいうちに機材を設置。

ちょっと不安ですが、駐車場に機材を放置

夕食を済ませた後、ハイエースに戻ってウトウトと気持ちよく眠りました。そして目が覚めたらもう晴れていました。やったぜ。

まずは部員たちと電視観望です。

筒先が向く空とパソコン画面を見比べながら観望しております

M27、北アメリカ星雲、網状星雲、ガーネットスター、M31などを皆で見ました。RASA11とASI2600MCでの電視はなかなか迫力があります。

しかしパソコン画面ばかり見ているのもアレですので、ほどほどに電視は切り上げ、実際の星空を観望しました。

先日サイトロンのセールで買った顧問の私物双眼鏡(左上)が活躍

ひとり黙々と撮影をするT君

標高800mの高湯温泉でも西の空はほとんど光害の影響が見えません

2時ごろに急に雲が広がって、観望はお開きとなりました。今回は天候的にとても良い合宿になりました。

 

翌日、福島駅で解散しました。

次はツチンシャン・アトラス彗星を見に遠征できるとよいなと願っております

左で手を振っているのは今回都合で不参加の部長。最後だけ合流しました

2024年、天文部夏合宿報告その1

9月3日から二泊三日の日程で、仙台高専天文部の合宿を実施しました。

まずは合宿報告のテンプレート、「合宿晴れない問題」の記録です。ひと月以上前から計画する合宿はなかなか晴天に恵まれません。以下はこれまでの苦渋の記録です

そして今年はどうだったかと言いますと

  • 2024年 初日曇り一時晴れ、二日目ほぼ晴れ時々曇り 

でした。二日目にある程度安定した晴れ間に恵まれ、撮影もできたのです。これは実に9年ぶりでした。

はじめに

浄土平は東北での天体撮影のメッカとして有名です。そのふもとに位置する福島県高湯温泉が今回の合宿地です。宿泊先はステキなブナ林に囲まれた「ログキャビンステラポート」

ここは天文マニアのご主人が経営されている、天文合宿にオプティマイズされたお宿なのです。カップラーメンの夜食のサービスがあったり、空待ちのための談話室が夜通し解放されていたり、朝食と昼食の切り替えが自由だったりと、嬉しいことがいっぱいです。いくつかの機材の貸し出しを受けることもできます。

カップラーメン(150円)と空待ちの談話室の様子

第一日目

迷走した台風10号が、まだどこにいるのか判然としない様子で列島にくすぶっている割には、天気予報はそれほど悪くありませんでした。

ステラポートへの到着は夕方4時ころ。チェックインを済ませたら、近くの公衆浴場「あったか湯」でサッパリし、もう気分は上々です。この時点では、ばっちりの曇り空。時間をかけて食事を頂きました。ハンバーグが美味しかったです。

アチコチに天体写真の飾られたダイニングで夕食

「特にする事もないし、浄土平まで様子を見に行ってきましょうか。」

宿より800m高い位置にある浄土平は、ひょっとしたら雲の上に出ているかもしれません。20時ごろに移動してみました。

浄土平の駐車場は霧の中でした。怖いです

はい。ダメですね。

帰りに不動沢橋に寄り道して、写真を撮って遊びました

不動沢橋からは福島市が一望できます。雲が分厚いです

なかなかエモーショナルな分厚い雲です。

「さて、帰って寝ましょう」

って戻ってみると、宿のご主人が言います

「日付が変わるころに晴れると思う」

「マヂですか。」

顧問は正直、少し疲れてもいたのですが、土地の方の予想をないがしろにするわけにはいきません。談話室にて空を待つことにしました。

開放的な二階の談話室。セミナーもできそうです

はたして、日付がかわるころにしっかり晴れてくれました。「わーーーっ」って感じで皆で駐車場に向かいます。

晴れました!スマホで星を探す部員たち

スマホを夜空に向けているのは、星図ソフトで星の位置を確認しているのですね。

時々に雲の通過もあって、安定して撮影ができるほどではありませんでした。しばらく双眼鏡などで観望したあと、記念写真をとって2時ごろには就寝したのでした。

最後に記念写真をパチリ。明日の夜に期待しましょう

第2日目に続きます。

snct-astro.hatenadiary.jp

ChatGPTに教えてもらった銀河、NGC7793

チリのリモート天文台で、天体写真の構図を決めるのに、最近は少し困るようになってきました。

いつもは、満月を一週ほど過ぎた頃に次回の撮影対象を考え始めます。ところがイータ・カリーナやタランチュラといったメジャーな対象は、共同運用の仲間たちと自分が、ここ1年半ほどであらかた撮り尽くしてしまいました。もちろん、撮影すべき対象はまだまだたくさんあるのだと思いますが、南天の星空のイメージがあまりないので、具体的に何も思いつかないのです。

Telescopiusの全天データを参考に探しても、あれは写真の繋ぎ目がけっこう荒いので、淡い対象を含む構図を考える時はイマイチ参考になりません。きっと50mmとか135mmのレンズで自分で空を撮影して、画像処理をとおしてその領域にじっくり向き合った経験があるとだいぶん違うのでしょう。もし南天に旅行に行くことがあったら、いろんなところを135mmレンズで撮ってみたいです。

さておき、そんな7月の新月期。明日は撮影日だというのに構図を決められなくて、顧問は困っておりました。仕方ないので、最近サブスクで始めたChatGPT4.0に質問しました。

「この時期に、800mm+フォーサーズレンズの画角で撮影するのに良い、南天の天体写真の対象を教えてください。できればメジャーな対象ではなく、すこしマニアックな天体が良いです。」

なんて質問したらば

焦点距離800mmのフォーサーズセンサーで、あまり撮影されていないマイナーな天体を撮影するのは面白い試みです。以下は、南天に位置し、あまり知られていない銀河で、細部をクローズアップして捉えることが可能です:

  1. NGC 1316(ふたご座A銀河) - ふたご座に位置する相互作用銀河で、非常に興味深いダストレーンとジェットが観測されます。この銀河は、過去の銀河同士の合併の証拠が豊富に含まれており、800mmの焦点距離でその複雑な構造を探るのに適しています。

  2. ....

なんて、答えてくれます。NGC1316はふたご座ではなく、ろ座の銀河ですけど、確かにこの時期の南天で撮影しやすい対象です。

そんな前置きで、今回はchatGPTに教えてもらったNGC7793銀河です。

NGC7793

NGC7793
Date: 2024-7-2,6,10,14 (4 nights)

Location: El sauce, Chile
Camera: ASI294MM-Pro
Optics: Vixen R200ss
Exposure: LRGB=(4h48m, 2h12m,2h12m,2h24m),
total 11h36min
Processing: Pixinsight, Photoshop

大きさはちょうどM63ひまわり銀河くらい、そして銀河の腕の様子や淡い部分の広がりなどはM33に似ています。とても綺麗な銀河だなと思いました。Astrobinの作例もそんなに多くなく、マニアックさも十分でした。

でもChatGPTには負けてられないぞ。自分でも構図を探してみよう。一生懸命に考えて決めた構図がこちら

NGC6231という青い散開星団とその周りに薄く広がるHa、下側の赤と青の明るい星を並べてみたんですけど、ちょっと構図が窮屈になってしまい失敗でした。カメラを90°回転できるなら良かったのですが、こちらは撮影データも省略しつつ、ここで供養しておきます。

 

子ぎつね座 NGC6823,LBN136,137,138 and 139

先日の蔵王では、絶好の撮影コンディションに恵まれました

この夜は、Sharpstar15028HNTを持ち出して、子ぎつね座のNGC6823付近を撮影しました。

NGC6823,LBN136,137,138 and 139
NGC6823,LBN136,137,138 and 139
Date: 2024-08-01
Location: Daikokuten, Mt.Zao, Miyagi
Optics: Sharpstar15028HNT 420mm F2.8
Camera: ASI2600MC, ASI2600MM
Exposure: RGB 180s x 47f + Lum 180s x 61f (total 5.4h),
Coolong Temp.: -5deg
Gain: 100
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

子ぎつね座は白鳥座とや座の中間にある目立たない星座で、これは今まで知りませんでした。f=135㎜にフルサイズの画角で、同日に撮影した周辺のようすを見てみましょう:

黄色い枠が今回の構図です。NGC6238とLBN136~139は、有名なM27の南方向、ちょうど天の川の暗黒帯中心部にある目立たないH2領域です。

 

想像していたよりもずっと淡く、せっかく訪れた絶好のコンディションだっただけに結果にはちょっと不満足です。まあでも、こういう領域もあるってことで、次回以降の撮影のお勉強になりました。

 

サムネ用

 

8月1日、蔵王雲抜け

東北の夏は、雲抜け*1

特に低層雲が厚く広がると、蔵王山では、東側の仙台から白石市にかけての町明かりがほぼ遮られることがあります。そういう夜は、空がとても暗くなるのです。

ここ数年の経験からすると、東北での雲抜けの発生はそれほど珍しい気象条件ではないようです。やませと呼ばれる太平洋からの湿った海風が吹き込めば、かなりの高確率で発生します。正確ではありませんが、夏の間は週に1回くらいは雲抜けで、奥羽山脈の上が晴れているような気がします。

以前も似たことを書きましたが、我々の雲抜け判断は3ステップです。

  1. MeteoBlueのMeteogramで雲頂高度を確認。下の例では木曜から金曜にかけての夜がチャンス

  2. windytyで風向きと低層雲の分布を確認。太平洋側に雲が出ていればオッケー

  3.  出発前に、蔵王お釜ライブカメラで様子を確認

ライブカメラは最後の確認で、meteoblueとwindytyの予報がオッケーなら、予定を確認して撮影に出かける感じです。

今回のエントリは遠征レポートです。作品は次回にアップします。いつもより写真多めでお送りします。

というわけで、行ってきました!

8月1日は、チャンスありの予報でした。ただ、MetelBlueが示す雲長高度が若干高かったのがちょっと気がかりではありました。

ふもとの蔵王町から眺めた空は、いつもより雲が厚くて不安になりました。このまま西に進んで、エコーラインに入るとすぐに濃い霧に包まれます。標高1300mの駒草平駐車場あたりまで広がっていた濃い霧は、1400mの大黒天駐車場のあたりで突然に晴れ、頭上に青空が広がったのでした。

この日は、そーなのかーさんが先着して陣取っていた大黒天駐車場を撮影地に選びました(山頂駐車場は風が強いことが多いためあまり使いません)。

機材の設営を終え一息つくと、下界がすっぽり雲に覆われていました。

雲海の上に、カシオペア座アンドロメダ銀河が見えました

気温は17℃ほどで、酷暑の下界が夢だったかのようです。風も無くて、素晴らしい星空を堪能しました。美味しい飲み物も飲みつつ。

撮影もつつがなく進み、車の中で1時間ほど寝ました。目を覚まして外に出ると、下界の雲はいつの間にか晴れていて、夜景が一望にできました。星空は若干悪くなりますけど、夜景もキレイです。

雲海が晴れて、星空は悪化。町明かりの上にスバルが見えています

この夜の薄明は3時ころでした。東の空が赤みがかかった頃、おうし座の周りに火星と木星が並んでいて、いつも違う星の並びを鑑賞します。そーなんかーさんはフラットの撮影中。

ほどなく皆さんお帰りになりました。自分はもう一眠りして、朝7時から営業している青根温泉の共同浴場に寄り道するつもりです。

しかしながらあまり上手く眠れず、そのまま夜明けを迎えました。疲労に呆然とするワタクシが映っています。

翌朝は晴天。ぐんぐんと気温が上がっていきます。

こちら、じゃっぽの湯ですっかりふやけて、気分もスッキリしました。ここから自宅までは1時間弱。特に眠気に襲われることも無く安全運転で帰宅できました。何かに感謝。

今年の8月新月期は雲抜けアタリ月でした

翌日(8月2日)の夜、やっぱり蔵王にでかけた友人の木人さんも、雲抜けで最高の星空を堪能されたそうです。

天体写真大先輩の木人さんをして、「自分史上一番かも」とのこと!いやー、私が遠征を勧めたのですよ。やったぜ。

さらに翌々日(8月3日)の夜、浄土平に出かけたM&Mさんも、雲抜けの良い条件で撮影ができたとか。

よかったよかった。

このような条件の良い場所が車で1時間圏内にある宮城県とても恵まれています。@kaerupapa 氏のいう通り、天体観測に好適な「天文県」だなとあらためて思いました(福島県も)。

 

この夜の成果はコチラです:

snct-astro.hatenadiary.jp

 

サムネ用





 

 

*1:山頂が低層雲の上にでて、雲海になる状態。市街地の明かりが遮られて天体観測にとって絶好の条件になる

NGC6250と’’名前のない''星雲

春の中ごろから6月にかけて、我々のリモート天文台があるチリのel sauceも、しばらく曇天が続いて全く取れ高が上がらずにおりました。この時期は日本も天候が悪いし、困ったものであるよなあ、と毎夜ビールをあおっていたところ、7月に入ってチリはめでたく梅雨明け(というのかどうか?)しました。そうするともう毎日のように快晴が続きます。

4夜ほどかけて、NGC6250という星団の周辺を撮影しました。

NGC6250

NGC6250 & FeSt2-238

Date: 2024-7-2,6,10,14 (4 nights)
Location: El sauce, Chile
Camera: ASI294MM-Pro
Optics: Vixen R200ss
Exposure: LRGB=(9h40m, 4h52m,5h00m,5h28m), total  25h
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

写真中央からやや右下のあたりにある青い星の集まりがNGC6250です。この散開星団と、写真左上にある赤紫と薄青色の淡い星雲を並べて撮るのが、今回の構図の狙いでした。作品としては、「まあ、こんなものかな」という感想です。

しかし、この星雲のカタログ番号が分かりません。

この星雲のカタログ番号が分かりません

ちなみに場所は、さそり座のしっぽから、更に南のあたりです。下の画像の白枠が構図になります

GoogleだけでなくChatGPTに聞いてみたりもしましたが、情報が出てきません。そこで、Twitterに投稿すれば、だれかが教えてくれるだろうと呼び掛けました。すると、ひの@星空さんが反応してくれて、同様の天体が"unnamed nebula"としてastrobinに投稿されていたことを教えてもらいました。

作品のリンクはこちらhttps://astrob.in/7y76pg/0/です。私の撮影よりも素晴らしく鮮やかに色が出ていて、Image of the dayの受賞作でした。

そのコメント欄によれば、FeSt2-238はこの星雲の暗黒帯部分を指すのだそうです。それで写真のタイトルも”NGC6250 & FeSt2-238”としたのでした。しかし星雲自体にはとくにカタログ番号は振られていないのかもしれません。

 

そういえば、おうし座のNGC1333付近に、よく似た星雲がありますね。これです:

これは結構有名な星雲ですけど*1、やっぱりカタログ番号が見つけられませんでした。共通して見落とされがちな理由でもあるのでしょうか?

*1:「くさった桃」とか呼ばれることがありますが、あまりイメージが良くないのでそういう呼び名は好きではありません。

追尾速度と大気差:40年前の天文ガイド掲載の謎グラフをめぐる議論

事の起こり

ある日のこと。星沼会のSWATユーザーである、うーちゃんと丹羽さんが、Discord上で謎の議論をしていました。キングスレートとか赤道儀の低空モードがどうとかこうとか言っています。

キングスレート?は初めて聞く言葉です。話題になっていたのはSWATブログのこのエントリでした

上のリンクに掲載されていたグラフを、ブログ主の加曽利さんの許可を得て、ココに転載します。

40年以上前に海外で発表されたデータを元に当時の天文ガイド誌が記事にしたもののトレースです。その肝心の元記事が見つからず、正確な見方がよくわかりませんが、…(SWATブログより引用)

とのことですが、加曽利さんによれば、これは大気差の影響を考慮した赤道儀の追尾速度を表すグラフなのだろうとのこと。つまりこのグラフがあれば、撮影する天体の時角と赤緯から、各瞬間での赤道儀の最適な追尾速度をはじき出せるわけです。

ちなみに、うーちゃんと丹羽さんが話していたキングスレートの86190秒とは、多くの天体の撮影に対して平均的に、恒星時(86164秒)*1よりも妥当と言える追尾速度を表していると思われます。

上のグラフの正式名称が知りたいところですが、分かりません。このエントリーでは「追尾速度図」と呼ぶことにしましょう。それにしても、40年以上前の謎のグラフ...、なんだかロマンがあるではないですか。俄然興味が湧いてきました。

以下の概要:

結論から申しますと、上のグラフには一部間違いがあることが分かりました。そのために解釈にも混乱が生じていたようです。専門家の沖田博文さんと議論していただき、グラフを修正して、その解釈についても確認することが出来ましたので、報告します。またSWATブログでもこの結果についての記事を加曽利さんが書いてくださいました。

(20240729追記)

ブログ「ほんのり光房」のみゃおさんから有益なコメントをいただきました。またいかの記事にて、大気差の追尾速度の影響についてより高範囲な条件でプロットしたグラフをご覧いただけます。結果は我々の考察とも一致しており、沖田さんの計算の正しさも裏付けられたと思います。

https://kuusou.asablo.jp/blog/2024/07/27/9704605

大気差とは

星の光が地球の大気に入ると、レンズのようにその進路がわずかに曲がります。それによって我々が観測する星の位置は、実際の方向よりも角度Rだけ天頂方向にズレて見えます。この角度Rのことを大気差と言います。

大気差によって星は上方に浮かび上がって見える

大気差Rの大きさは角度で表すことが出来ますが、その値は気圧や気温、大気の状態などによって変化するので正確に定めることはできません。しかし詳細な測定から、観測する天体の高度hとRの関係を表す近似式が知られています。それによれば

 R=\dfrac{A}{\tan h} \hspace{20pt}(1)

であり、Aは地上1気圧0℃の条件で60.0615秒角になります*2。次のグラフは上の式をプロットしたものです

このように大気差は天体の高度が上がるほどにその影響が小さくなります。ただしこの式は、h<15°あたりで精度が落ちるので注意が必要です。

たとえば、h=60°あたりで30秒角ですので、135mmレンズをASI2600MCにつけて撮影した場合、5pxほどのズレとなります。

大気差があると星が動く速度が変わる(直感的説明)

このような大気差が存在すると、見かけの天体の動きが遅くなったり、速くなったりします。下の図はそれを直感的に説明したものです

星の動きが変化する理由。左は南の空、右は北の空を表す

左の図は、南中前後の天体の1時間の動きを表しています。実際の星は東から西へ約15°動きます。しかし大気差によって、天体は天頂方向に一定角度浮かび上がって見えていますので、図から分かるように、見かけの星の1時間の動きは15°よりも小さくなります。よって、この場合は動きが遅くなります。

ほとんどの場合、大気差によって見かけの天体の運動は遅くなります。しかし興味深いことに、天体が北極星の下側を回る場合のみ反対のことが起こります。

右の図は北の空での天体の1時間の動きを表しています。大気差によって天体が浮かび上がると、見かけの星の1時間の動きは15°よりも大きくなります。よって、この場合は動きが速くなります。

うえの追尾速度図で言えば、天体の見かけの動きが遅くなる場合は、縦軸の値が恒星時よりも長くなり、また見かけの動きが速くなる場合は、縦軸の値が恒星時よりも短くなります。

修正版「追尾速度図」

上の直感的説明を踏まえて、SWATブログに掲載された追尾速度図を見てみますと、赤緯が+55°と+80°の曲線の振る舞いが奇妙であることに気づきます。グラフは北緯40°のデータですので、この2本の曲線は、北の空で地平の下に沈まない天体を示していますが、その場合、追尾速度が恒星時より短くなるのは、時角12h付近のみであるはずです。しかしグラフでは、0hでも追尾速度が恒星時より短くなっています。

これを理解するために、ノート「導入エラーの定量的評価」を公開されている沖田博文さんに不躾にも連絡を取り、教えてもらいました。

https://www.astr.tohoku.ac.jp/~h-okita/research/airt40/pointing/pointing_error.pdf

巨大自作ドブソニアンによる眼視スケッチで有名な沖田さんです

沖田さんは数日間にわたって、理解が遅い私との議論にトコトン付き合ってくれました。本当にありがとうございました。どさくさに紛れて、「いつか、自作のドブソニアンで星を見せてくださいー」って約束までしちゃいました。

おっと話がそれました。

上のノートには、大気差の時角方向成分を与える式が計算されていて、その変化率から極軸が一回転するのに要する時間を計算できます。その値を時角についてプロットすることで、上記の「謎のグラフ」に対応する曲線が得られることがわかりました。

その結果、SWATブログに掲載のオリジナルのグラフは、やっぱり子午線付近の値が間違っているだろうと結論しました。結果として得られた修正版の「追尾速度図」はこうなります。

ででん!

このグラフは、上の(1)式で表される大気差をRをもとに純粋に数学的な計算を行い、プロットしたものです(計算は沖田さんがやってくれました)。我々に勘違いが無ければ、これが正しい追尾速度図になるはずです。

観測地点を北緯40°として、赤緯-40°から+80°の曲線を10°刻みでプロットしました。ただし赤緯50°の曲線は、北の空で天体が地表に接するために除外しています。横軸が追尾する天体の時角で0hが子午線を表しています。縦軸はその局所的な移動速度から算出した極軸1回転に要する時間です。例えば赤緯+40°(黄の実線)の天体が時角6hの位置にあるときの移動速度から、天体は86250秒で極軸を一周することになります。

このグラフから分かることを箇条書きにしておきます。

  • 追尾速度が恒星時を下回るのは、赤緯+60°以上、時角12h付近のみである。
  • (興味深いことに)天頂付近でも大気差の影響はあり、追尾速度は恒星時よりも遅い。
  • キングスレートは、赤緯0℃から+40°、時角-3hから+3hの広い範囲にわたって、とても妥当な追尾速度になっている。
  • SWATブログに示されていた「低空モード」86230秒は、赤緯-25°付近の天体を追尾するにあたっては、やはり妥当である。

天頂でも星の移動が遅くなる理由(20240717 追記)

天頂では大気差 R がゼロになるにもかかわらず、追尾速度は恒星時よりも遅くなります。その理由は、高校の物理で勉強するスネルの法則を使って説明することが出来ます。

下の図をご覧ください。観測する星が南中直前の位置にあるとします。その大気差を考慮した「見かけの星」の位置が天頂から小さな角度 β だけ手前にあったとしましょう。「実際の星」が角度 α にあるとすると、スネルの法則から

 \alpha = n\beta

です(ここで n は大気の屈折率で、15℃ 1気圧でおよそn=1.0003です)。

さて、天頂では大気差がゼロですから、上の図の状態から一定時間が経過したのち、「見かけの星」と「実際の星」は同時に天頂に到達するはずです。よって、「見かけの星」は「実際の星」よりも \dfrac{\beta}{\alpha}=\dfrac{1}{n} だけ遅く動いていることになります。

恒星時とは「実際の星」が極軸を一周するのに要する時間のことでした。「見かけの星」が上の図の瞬間での移動速度を保って極軸を一周として、それに要する時間は恒星時の n 倍になります。ところでキングスレートの値を思い出すと、恒星時との比が

86190/86162=1.0003

となって、なんと大気の屈折率にピッタリ一致します。つまり分かってみれば単純なことですが、キングスレートとはスネルの法則の現われに過ぎなかったのでした。

大気差が追尾速度に与える影響(ガチ計算)

上のグラフを得るための計算についても書いておこうと思いますが、ここで体力が尽きました。

一言注意しておきますと、上の沖田さんのノートでは、ある一つの式が間違っていました。今回の私との議論で、沖田さんがそれに気づき、間違いを修正して得られたのが上のグラフです。

なので修正版の計算を記録しておこうと思います。記事が出来上がったら以下にリンクを貼りますので、お待ちを(2024年7月16日)

*1:恒星時:大気差が無い場合に天体が極軸を一周するのに要する時間

*2:参考:大気差 - Wikipedia

Vicent Peris氏考案ののMultiscale Gradient Correctionを試してみました

はじめに

Pixinsightのウェブページに、現在、開発チームがすすめているというMARS(Multiscale All-sky Reference Survey)プロジェクトの情報があります

MARSは、光害などの影響を取り除いた全天の輝度分布情報を取得する取り組みである(とのことです)。その目的は、より正確な勾配補正ツールの実現にあります。

従来のDBEやGraXpert、Gradient Correctionなどの勾配補正ツールは、あくまで天体写真の構図の範囲内で、見た目がフラットになるように補正するだけもので、必ずしも夜空の本来の輝度分布を再現するものではありませんでした。とくに構図が星や天体で埋め尽くされて背景が無い場合は、かなり正確さが犠牲になるはずです。

しかし、MARSプロジェクトが実現すると、これまでとは一線を画した100点満点に近い勾配補正ツールが実現することになります。その基本は

「対象の天体写真よりも広い構図をカバーするMARSデータを参照して勾配を補正する」

という考え方で、その具体的な手続きはPixisight開発チームのVicent Preis氏のアイデアが元になっています。詳細は、Multiscale Gradient Correction(MGC)としてPixisightのウェブページに紹介されています。

中身は結構単純で、真似できそうです。個人の撮影でも、例えば500mmの鏡筒である領域を撮影するとき、その周辺を135mmのカメラレンズで同時に撮影しておけば、MARSのデータが無くても実現できます。

以下に紹介する方法は、近々Pixinsightのプロセスに取り入れられるはずで、すぐに無用になってしまうかもしれません。ですが、その考え方を理解する意味でも、自分で試してみました、というのが今回の内容です

Multiscale Gradient Correction

0)基本的な考え方

2年前の蔵王で、焦点距離420mm+APS-Cの組み合わせで撮影した干潟星雲と、70mm+フルサイズの画角で撮影したいて座付近を例にします。

勾配補正を行う干潟星雲周辺の画像(左)と、より広範囲の天の川画像(右)

左の画像のカブリ補正を行うのに、右の広角画像を使うのがMGCの基本的な考え方です。これ以降、ガブリ補正の対象画像を「T1」、広角の画像を「T2」と呼ぶことにします。

ここで、どちらの画像にも光害に伴うカブリがあることに注意します。しかし広範囲の「T2」から「T1」部分を切り取った画像「T2_registered」のカブリは、「T1」そのもののカブリよりもずっと単純であることが重要な点です。実際比較してみますそれが良く分かります

左が「T1」画像、右が「T2」の該当部分をクロップしたもの

そこで、あらかじめ「T2」画像に対しておおざっぱなカブリ補正を実行しておけば、そこから「T1」部分を切り取った「T2_registered」画像は十分にフラットで、「T1」のカブリ補正を行う際の正確なリファレンスとして使えるだろう、というわけです。

具体的な手続きを、以下に説明します:

1)準備

まず

・必要に応じて「T2」に1次のABE(Automatic Background Extraction)を実行し、カブリ補正をする。

・「T1」「T2」の両方にSPCCやCCなどで、色補正をする。

をやっておきます。すると下のようになりました

準備が終わったあとの画像

2)「T1」を基準にして「T2」を位置合わせ

StarAlignmentツールを使って、「T1」を基準にして「T2」を位置合わせします。その際、「T2」のプレビューで「T1」部分をなるべく正確に指定しておき、”Restrict to preview”オプションをオンにしておくと上手く行きます

位置合わせが済んだ画像に「T2_registered」と名前を付けます。さらに「T1」のクローンを作って「model」と名前を付けておきます。

左から「model」「T1」「T2_registered」

3)Multiscale Median Transformで大きな構造を取り出す

Multiscale Median Transformプロセスを起動して、Layersを9とし、1~9のレイヤーにバツマークを付けて無効にし、のこりのRを有効にした状態で、「T2_registered」と「model」に実行します。

MMTの実行

MMTの実行後

MMTで取り除くレイヤーの大きさは、天体写真の内容によってことなるのでその都度調整する必要がありそうです。だいたい、レイヤー8~9までを取り除けば上手く行くそうです。

4)PixelMathでカブリのモデルを作る

カブリのモデルは、

「model」ー(「T2_registered」の中央値からの変化量 )

を引き算することで作ります。Pixel Mathを起動して

symbol: k
RGB/K: model - k*( T2_registered - med( T2_registered) )

と入力します。このとき「model」に残っている星雲の構造がしっかり消えるようにkの値を調整します。下に、kを0.01から0.03まで変えた場合の結果を示します。

k=0.01,0.02,0.03のそれぞれの結果

k=0.01では星雲の構造が少し残っていて、0.03では星雲を引きすぎています。ここではk=0.02を採用しました。

得られたカブリのモデル画像

5)PixelMathで「T1」から「model」を引き算する

そして最後のカブリ補正は

「T1」ー(「model」の中央値からの変化量 )

を計算して実行します。ふたたびPixelMathを起動して

RGB/K: T1 - ( model - med(model) )

と入力し、「T1」に対して実行します。以上で完了です。

結果の比較

元画像、MGC、Gradient Correction、DBEと並べました。

どの結果も、十分フラットになっているように見えて、甲乙はつけがたい結果でした。また、DBEとMultiscale Gradient Correctionの結果が多少コントラスト高めに見えるのは、どちらも構造が多少引き算されてしまった結果かもしれません。

終わりに

以上紹介しましたとおり、MGCは、ある程度手数のかかる方法ではあります。ですが、非常に淡い構造を描出する場合や、光害の酷い環境での撮影、あるいは構図全体が星雲に覆われていて背景のない画像を処理する場合などには有力な方法になりそうです。ある意味でセルフフラット補正に似た処理なので、MMTのレイヤー値をうまく調整すれば、センサーについたゴミも補正できてしまうのが大きいです。

一方で、MMTで取り除くレイヤー値や、PixelMathでのパラメータ値(上の説明での”k”の値)の設定によっては、カブリだけでなく天体の構造を差し引いてしまう可能性があって、完全なカブリ補正と言えるためには、そのあたりの調整が必要そうです。近くPixinsightに追加されるプロセスでは、これがどのように解決されているかも、注目したいところです。

MGCのリファレンス画像は、おおざっぱな構造だけが参照されるので、星が流れていたり、星に収差があったりしても特に問題ありません。撮影中、使わなくなった古いカメラとレンズをポタ赤に載せて、ノータッチで同じ領域を撮って得られた画像で十分ですし、さらに言えばガイドカメラで撮影された画像がいくつか保存されていれば、それで事足りるようにもおもいます(PHD2はガイド画像を保存できたのでしたっけ?)

ともかく、近々MARSプロジェクトが完成してPixinsightに導入されれば、ワンタッチで実行できる強力な手法になるのは間違いなさそうで、同時に画像処理がすべてオートマチック化される日がまた一歩近づきつつあるように感じます

 

アイキャッチ

 

「カラーカメラ+光害カットフィルター」のデータをカスタマイズしてSPCCに適用する手続き

LNR-NやLPS-P2などの各種光害カットフィルター、あるいはCometBandPassやL-Extremeなどバンドパス系のフィルターなど...、これらのフィルターをカラーカメラに取り付けて撮影した天体写真に対して、PixinsightのSPCCを適用する場合は、RGB各チャンネルの光の透過率のデータをカスタマイズする必要があります。

その方法についてまとめたいと思います。

(SPCCの基本的な事柄や使い方についてはコチラを参照ください)

1.フィルターのデータをゲットする

まず以下のいずれかのサイトから、フィルター・各種カメラのカラーフィルタのデータをダウンロードしてください:

Pi Filter 2024 - Google ドライブ

リンク先は私のGoogle Driveです。これを書いている2024年6月現在に発売されているフィルターや各種カメラのカラーフィルターのデータが入ったcsv形式*1のファイルが落ちてきます(元のデータは、こちらから落としてきたもので、含まれていなかったSightronのQBPやCBP、DBPのデータをコモンが自作して加えました)。

1-1.欲しいフィルターのデータが含まれていない場合

その場合は、PlotDigitizerなどのグラフから数値を読み取るツールをつかって、各メーカーが公表しているフィルターの透過率と波長のグラフから、データを取得する必要があります。そのデータを、次のようなCSVテキストファイルで保存してください

type,"filter"
name,"xxxxx"
channel,"R/G/B/PAN"
wavelength," 482,483,484,485,...,1000"
transmission,"0.0,0.0,0.05,0.08,...,0.0"

nameは任意、channelは光害カットフィルターなら”PAN”*2、4,5行目がフィルターのデータです。wavelengthの値は小さい順に並んでいる必要があります。これらのcsvファイルは適当なフォルダーに保存しておいてください。

2.フィルターのcsvデータをpixinisightに取り込む

2024年6月現在の最新版(ver.1.8.9-2 buid1605)では、FilterManagerプロセスを使ってフィルターのデータを管理するようになっています。

FilterManagerプロセスの場所

FilterManegerプロセス

FilterManegerを開きましたら、Taskから”Merge CSV filter definitions”を選び、上のcsvファイルを保存してあるフォルダを指定して、●ボタンをクリックすることでフィルタのデータを取り込むことが出来ます。

成功すれば、CurveExplorerから取り込んだ各種フィルターのグラフを参照できます。例えば下のSightronDualBPのデータはコモンが作成して上記のリンクに加えていたものです。

2-1. 注)旧バージョンのPixinsightの場合

build1605以前のPixinisightでは、FilterManegerプロセスは存在せず、SPCC本体と一体になっています。

SPCCのFileManagementの変更

このブログではBuikd1605以降のバージョンを前提にして説明しますが、SPCC内のFileManagementとCurveExplorer機能をつかっても同じことが実行可能です。

3.カメラの特性と、フィルターの透過率を組み合わせる

これ以降は、コモンの撮影データを元に説明しますので、皆さんの撮影環境に置き換えて実行して下さい。下の画像は、ASI294MC-ProにIDAS NBZフィルターを取り付けて撮影したものです。カブリ補正とBackground Neutrizationを済ませています。

SPCCを適用する前

この画像に正しくSPCCをかけるためには、ASI294MC-ProのベイヤーフィルターとNBZフィルターを組み合わせた(透過率を掛け算した)データをRGBについてそれぞれ3つずつ用意する必要があります。

やってみます。再び、CurveExplorerを開きます。

ここから294mcのベイヤーフィルターとNBZフィルターを選ぶわけです。294mcの各ベイヤーフィルターの特性はSony Color Sensor R/G/Bとだいたい対応しています。なので例えばRチャンネルなら、次の図のように(Sony Color Sensor R)と(IDAS NBZ)を二つ選択してオレンジに反転させた状態にします。複数選択はCTRLキーを押しながらクリックで行えます。

そうしたら、左下の右から2番目のアイコンをクリックします。Filter nameとfilter channelを入力する欄が出現するので

Filter name:IDAS_NBZ/SONY_R ←(任意)
filter channel:R

などとしてOkを押します。これをGとBチャンネルについても同様に行います。最後に、FIlterManagerでもういちど●をクリックしてフィルターデータをマージしておきます(忘れやすい)。

4. SPCCの適用結果

以上で準備は整いましたので、SPCCを実行してみましょう。以下のように、R/G/B の各filterに上で組み合わせたフィルターデータを指定します。

QE Curveは”ideal QE Curve”のままで大丈夫です(ここで特定のカメラを指定してしまうと、フィルターの特性を「二度掛け」してしまうことになります)(ベイターフィルターの透過率には、センサーの量子効率のデータも含まれているので、ここで特定のカメラを指定してしまうと、量子効率を「二度掛け」してしまうことになります)

実行すると次のような結果でした(うーん、ほんのり変化・・・)。

SPCC適用後

ちなみにグラフは以下の通り

B/Gのばらつきが大きいのが気になりますけど、ぜひ皆様の環境でも試してもらえたらうれしいです。

 

アイキャッチ

 

*1:数値や文字列をカンマで区切ったファイル形式のこと

*2:どういう意味?