天文はかせ幕下

仙台高専天文部の顧問が、日々の天文活動や天文情報を綴っています。

2024-01-01から1年間の記事一覧

Pixinsightの最新版、Multiscale Gradient Correction (MGC)の導入

先日、Pixinsightのメジャーアップデートがありまして、ver.1.9.0 LOCKHERTになりました。 追加された機能の目玉は、Multiscale Gradient Correction (MGC)です。 これはPixinsightの開発チームが、スペインの天文台で収集している全天のMARS (Multiscale Al…

浜吉田で観望会(撮影は無し)

12月8日に、近場で観望会をしました。 最近は、合宿を除けば部員を引き連れての徹夜の観望会はほとんどやらなくなりました。今回の観望会のスケジュールも 夕方、部員は最寄りの駅に集合 顧問が運転する車(公用車)で、観測地まで移動(数往復する場合も…

加齢による色彩感覚の低下と彩度のヒストグラム

あと数年で齢50に達しようという顧問でありますが、最近密かに恐れていることがありまして、それは加齢による色彩感覚の低下です。念のために調べてみますと、ソースたくさん見つかります GILBERT JG. Age changes in color matching. J Gerontol. 1957 Ap…

いったいどうすればIOTDが取れるのだろうか

Astrobinへの投稿が最近調子がよくて、"Top pick Nommination"(銅メダル)や、"Toppick"(銀メダル)が貰えています。 この表彰の審査の仕組みが階層的になっていて、中二心をくすぐる楽しさがあります。以前も書きましたがざっくり説明しますと 50名ほどの…

GHSをつかった最近の後処理のフロー

はじめに ストレッチについての個人的な悩み 作例:NGC417とNGC1931 スタック直後の処理、ストレッチ、LRGB合成まで リニア段階の色調整・カブリ補正など GHSを用いたLRGB合成前のストレッチ LRGB合成 LRGB合成以降の処理 Pixinsightでの処理 Photoshopでの…

晩秋のはやま湖で洞窟星雲(sh2-155)

11月の新月期、星沼会のみなさんは喜界島へ星空観望に行かれていました。天候にも恵まれて楽しい時間を過ごされたようです。 masahiko.me aramister.blog.fc2.com 顧問はと言いますと、まあ。ちょっと悔しいので理由はつまびらかにいたしませんが、宮城県に…

RICOHの天体撮影サービスの利用レビューです

ちょっとしたご縁があって、最近RICOHの方が立ち上げられた天体写真サービスをモニター利用させてもらいました。 RICOH社天体撮影サービスとは? このサービスでは、オーストラリアに設置されたリモート望遠鏡での天体撮影を、時間あたりの料金を支払って「…

Tsuchinshan-ATLASは大彗星に認定です。バン!(ハンコを押す音)

(概要)明け方に見えていた表題の彗星が、太陽の方向に消えていった10月9日前後、NASAのSOHO衛星の視野に飛び込んできたその姿は眩しいほどで「-5等級に達した」との報もありました。ところが12日の夕刻にようやく再会できた彗星の姿はライブビュー画面のシ…

C2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星、前半まとめ(後半も期待大です!)

これを書いている現在は10月6日。Tsuchinshan-ATLAS彗星は、見た目で太陽の方向へ近づいて観察がしにくくなってきました。当初の予想は良い方向に外れ、彗星は増光をつづけています!これまでの撮影をまとめました。 9月中旬から下旬、チリにて 9月19日,20日…

C2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星を撮影しました

10月にはマイナス等級に達し、2020年のNeowise彗星以来の肉眼彗星になるだろうと予想されていたC2023/A3(Tsuchinshan-ATLAS)彗星。数か月前に専門家のセカニナ氏によって「崩壊しつつある」という観測が発表され、一時は急速に期待がしぼみました。 しかし今…

夏合宿の作品

前回と前々回に、夏合宿の顛末を報告しました その際の撮影結果をを紹介してませんでした。今回はうれしいことに、部員のT君が作品を仕上げてくれたので、そちらを紹介します。 まずはM31アンドロメダ星雲です。 Date: 2024-09-04Location: Takayu-Onsen(Ste…

2024年、天文部夏合宿報告その2

前回のあらすじ: 台風10号が列島に停滞する中、天文部の夏合宿の日程がやってきました。初日は浄土平まで移動するも霧でNG。夜半過ぎに訪れた数時間の晴れ間の中、すこしだけ観望しました。天気予報によると二日目は天気が回復しそうです 第二日目(昼) …

2024年、天文部夏合宿報告その1

9月3日から二泊三日の日程で、仙台高専天文部の合宿を実施しました。 まずは合宿報告のテンプレート、「合宿晴れない問題」の記録です。ひと月以上前から計画する合宿はなかなか晴天に恵まれません。以下はこれまでの苦渋の記録です 2013年 初日晴れ、二日目…

ChatGPTに教えてもらった銀河、NGC7793

チリのリモート天文台で、天体写真の構図を決めるのに、最近は少し困るようになってきました。 いつもは、満月を一週ほど過ぎた頃に次回の撮影対象を考え始めます。ところがイータ・カリーナやタランチュラといったメジャーな対象は、共同運用の仲間たちと自…

子ぎつね座 NGC6823,LBN136,137,138 and 139

先日の蔵王では、絶好の撮影コンディションに恵まれました この夜は、Sharpstar15028HNTを持ち出して、子ぎつね座のNGC6823付近を撮影しました。 NGC6823,LBN136,137,138 and 139Date: 2024-08-01 Location: Daikokuten, Mt.Zao, Miyagi Optics: Sharpstar15…

8月1日、蔵王雲抜け

東北の夏は、雲抜け*1。 特に低層雲が厚く広がると、蔵王山では、東側の仙台から白石市にかけての町明かりがほぼ遮られることがあります。そういう夜は、空がとても暗くなるのです。 ここ数年の経験からすると、東北での雲抜けの発生はそれほど珍しい気象条…

NGC6250と’’名前のない''星雲

春の中ごろから6月にかけて、我々のリモート天文台があるチリのel sauceも、しばらく曇天が続いて全く取れ高が上がらずにおりました。この時期は日本も天候が悪いし、困ったものであるよなあ、と毎夜ビールをあおっていたところ、7月に入ってチリはめでたく…

追尾速度と大気差:40年前の天文ガイド掲載の謎グラフをめぐる議論

事の起こり 以下の概要: 大気差とは 大気差があると星が動く速度が変わる(直感的説明) 修正版「追尾速度図」 天頂でも星の移動が遅くなる理由(20240717 追記) 大気差が追尾速度に与える影響(ガチ計算) 事の起こり ある日のこと。星沼会のSWATユーザー…

Vicent Peris氏考案ののMultiscale Gradient Correctionを試してみました

この記事で紹介したMultiscale Gradient Correctionの方法は、2024年12月のver1.9へのアップグレードで実現し、Processメニューから使えるようになりました。詳しくは次の記事をご覧ください はじめに Pixinsightのウェブページに、現在、開発チームがすすめ…

「カラーカメラ+光害カットフィルター」のデータをカスタマイズしてSPCCに適用する手続き

LNR-NやLPS-P2などの各種光害カットフィルター、あるいはCometBandPassやL-Extremeなどバンドパス系のフィルターなど...、これらのフィルターをカラーカメラに取り付けて撮影した天体写真に対して、PixinsightのSPCCを適用する場合は、RGB各チャンネルの光の…

6年前に卒業したOBが訪問してくれました

先週の日曜日、天文部OBのアベ君が遊びに来てくれました。 彼はいま東京で起業して、オンライン料理教室「シェフレピ」を手掛ける会社のCTOとして頑張っています。 今回は、最近一緒に住み始めたという彼女も連れてきてくれて、コモンも感激しました。とて…

蔵王でVixen VSD90SSを試してみました

先週、11日の火曜日。今シーズン初の蔵王に行ってきました。 さて、今夜は蔵王へ出発お新香手前の鏡筒の試用と、かんむり座Tの監視をします pic.twitter.com/yOOp7J5xNi — だいこもん (@pochomskii) 2024年6月11日 目的は、星沼会で借りているVSD90SSのレビ…

赤福について

※若干唐突ですが、最近記事にするネタが枯渇気味なので、無内容な随筆をたまに書いていきます。不評であれば止めます 「赤福という餅は、とても不快な餅である。箱に1ダースも餅を並べて一人では食べきれないが、かといって二人で食べようにも、そのうちに…

岩手南部で低緯度オーロラ!

はじめに 事の起こり 7年前の苦い思い出 当日の記録 撮影地、到着時の様子 時系列の空の変化 タイムラプスにして初めてオーロラであることが判明 ニュース報道など はじめに 最近のこもんの対人コミュニケーションは、過半数SNSで占められてしまっています。…

5月連休は神割崎でアンタレス付近

今年の5月連休は、晴天と新月に恵まれました。神割崎に遠征して名所「アンタレス付近」を撮影することができました。 3年ぶりの撮影でした。 使用鏡筒は前回と変わらず、Mamiya Aposekor 250mmF4.5のツインです。カメラはASI2600MCとMMの並列同架にバージョ…

フラット補正を改善する奇妙な方法(ただし光学系依存)

事の起こり 先日の弓張平でのM106の撮影で、LEDトレース台を忘れて現場でフラットが撮れませんでした。しかた無く、帰宅後にRASA11''にカメラを再度取り付けてフラット画像を取得しました。 それをつかってキャリブレーションをしてみますと補正が上手く行き…

弓張平でM106を撮影しました

4月の新月期は、山梨県の弓張平に出かけてM106を撮影しました。その顛末の報告です。 撮影地 結果 撮影方法 フラットはモノクロのみ取得 ピントは意外に動かない 画像処理 前処理 後処理 硬調に仕上げたい DeepSNRのノイズ処理 おわりに 撮影地 弓張平公園は…

NGC3621を撮影しました

2月から3月にかけてのチリリモートでは、うみへび座のNGC3621を撮影しました Date: 2024-2-21.29,3-4,3-8,3-16,4-1Location: El sauce, ChileOptics: Vixen R200SS, correctorPHCamera: ZWO ASI294MMExposure: 240s, gain=120(LRGB), 240s, gain200(Ha,O3)…

単秒露光画像なしで、星の飽和部を復元する擬似的なHDR合成

はじめに 星の中心部はかなり光っています。調べてみてすこし驚いたのは、例えばデジカメでIso1600の3分程度の露光をかけると、経験的に6等星くらいまでの星の中心部は飽和してしまっています。 飽和した星のプロファイルは、このようにピークが扁平になっ…

彗星を撮る:計画から実際の撮影まで —— ポン・ブルックス彗星編

以下では、今回の12P/Pons-Brooks彗星の撮影について計画から撮影場所選び、実際の撮影までをまとめました。今年の秋にはツチンシャン(紫金山)・アトラス彗星も大いに期待されてますし、その時の撮影の参考になれば幸いです。 彗星が見える位置の確認 彗星…