天文はかせ幕下

弓張平でM106を撮影しました

4月の新月期は、山梨県の弓張平に出かけてM106を撮影しました。その顛末の報告です。

撮影地

弓張平公園は、月山のふもとにある美しい公園です。

標高は600mほどで、街灯のない広い駐車場があって天体写真撮影にもとても良いところです。高速道路のICがとても近くアクセス良好なのも嬉しい。

じつは、前回ここに来たのはもう5年以上前です。その時は見事な曇天に撮影を阻まれ、かのーぷすさんと一緒に雲を数時間眺めて撤収したのでした。盆地のような地形と湖が関係しているのか、どうも「雲が湧きやすい場所」というイメージがあります。

春休み最後の週末のこと。我々は熟慮を重ねた末に月山周辺の天候がベストと結論します。それで今回もかのーぷすさんと現地で落ち合う予定を立てました。ところが大事なことを見落としていたのです

「雪が積もっていて駐車場に入れません」

先発していた氏からDMで連絡が。なんと!4月だというのにアスファルトの駐車場まで根雪で埋め尽くされているとは・・・。地元の方にとってみれば「月山なんだから当たり前だろ」という話なのでしょうけど、数年つづく暖冬傾向にすっかり油断してました。

結局、除雪されていた建物わきの駐車スペースをかのーぷすさんが見つけてくれていて、何とか撮影できたという顛末です。

コチラが撮影地。南側が開けていて暗く、雪山と星空の対比がなかなか美しい場所でした。空はすこし霞んでいて、0時過ぎには曇ってしまい、撤収となりました。それでも4時間は露光できたので、良しとしましょう。

結果

コチラです。

around M106

Date: 2024-04-05
Location: Yumihari-daira, Yamagata, Jpn.
Optics: Celestron RASA11'', ASI2600mc & ASI2600mm
Exposure: 180s x 45f gain100 (OSC), 180s x 33f (Mono), total 3.9h
Processing: Pixinsight & Photoshop

黒潰れに気をつけながら、背景を暗くして星と銀河の色彩を際立たせることができたと思います。RASAでやってしまいがちな擬似スパイダーの光条のずれも見えませんよね。うまくいったと思います。

以下、今回の撮影方法や処理についてまとめておきます。

撮影方法

以前のエントリで書いたように、RASA11''での撮影では、撮影の途中にモノクロカメラとカラーカメラを交換する方法で、LRGB撮影をしています。

これは、対物側にカメラを取り付けるRASAの構造上、フィルターホイールが使えないために考えた苦肉の策です。

撮影の手順は以下の通りです:

  1. カラーカメラ(ASI2600MC)を取り付けて、ピント合わせ → 撮影(1時間〜2時間くらいを目安)。後のモノクロ撮影でUV-IRカットフィルターを使う場合は、あらかじめフィルタードロワーにフィルターを入れておくことで、カメラ交換時のピント移動を抑えます。
  2. 子午線反転のタイミングを目安に、モノクロカメラ(ASI2600MM)に交換。ピントは一応確認するだけ(これまでの経験ではカメラを交換してもピントは動かない)。できれば3時間くらい撮影したい。
  3. モノクロカメラを装着したまま、パネルの照明でフラット撮影。(おわり)
フラットはモノクロのみ取得

フラットフレームは、モノクロカメラでのみ撮影し、それをカラー画像とモノクロ画像の両方に適用することにしました。カメラを交換する前にカラーカメラのフラットを取得するのは避けています。夜中にパネルを発光させるのは眩しくてイヤなのと、遠征中の作業はなるべく最小限にとどめたいためです。モノクロのフラットさえあっていれば、カラーのフラットがずれていてもLRGB合成後の影響はそれほど大きくないという判断もありました。

なお、PixinsightのWBPPで、カラー画像に対してモノクロのマスターフラットが指定できないようでした。なのでキャリブレーションのみ、ImageCalibrationプロセスを使用してマニュアルで行っています。

ピントは意外に動かない

これまでこの方法で2回撮影を行っています。F2.2のRASAを使っているにも関わらず、カメラ交換の前後にピントの移動はなかったです(バーティノフマスクで確認してます)。これは嬉しい誤算で、撮影がだいぶん楽です。ただし、ピントは2台のカメラのバックフォーカスがどれくらいの精度で合致しているかにもよる話で、たまたまアタリだったのかもしれません。それともZWOの機材の精度がすばらしいのかも。

画像処理

前処理

カラー画像の処理では、PixinsightのWBPP内Post-Calibrationタブにある"Channels configuration"を以下の設定にしています。これによって、Integration後に出力される画像がカラー画像ではなく各R,G,Bチャンネルのモノクロ画像になります。

ちなみにこの機能は、昨年末くらいにPixinsightのフォーラムで議論されていて最近WBPPに実装されました。Debayer補間による画質の劣化を避け、各チャンネルを別々にアライメントすることで大気差や色収差の影響も補正できるのが大きなメリットです。じつはこの方法、そーなのかー氏が3年前にすでにやっていた方法と同じなんです

さすが!そ氏!あと、同じ方法をあぷらなーとさんも独立に思いついていたようです。さすが!あ氏!

上記によって、L,R,G,Bの4枚のマスターライトが得られるので、Weigjht Optimizerスクリプトを使ってウエイトを計算した後に、スタックして1枚のL画像を作ります。ただ最近WOスクリプトがエラーでうまく動きません。Pixinsightのフォーラムでもそのことが指摘されていて、現在対応中だそうです。WOを使わなくてもPSF Weightでスタックしてもある程度良い結果が得られます。

後処理

最近、後処理で悩むことが増えてきました。特に今回のM106のようなメジャーな対象で、自分なりの個性を出そうと欲張るために、ふと手が止まって何をして良いのか分からなくなってしまうのです

硬調に仕上げたい

それで今回は「硬調」な銀河の画像を目指しました。海外の作例で、背景をかなり強く切り詰めた画像を目にします。つねに「硬調」が良いわけではもちろんないですが、星や星雲の色彩が引き立つ効果を狙いました。

星沼会のカタログで、メンバーが撮影した系外銀河の画像を見てみると、背景の値は256階調で25〜35くらいが多く、その辺りが自然な落とし所だとおもいます。今回の画像では、20以下を目指します。

単に背景を切り詰めるだけでは不自然になることが多いです。おそらく背景ノイズやフラット補正の誤差で、輝度が落ちているピクセルが先に黒潰れしてしまうからでしょう。そうならないように十分に背景を整える必要があるわけですが

DeepSNRのノイズ処理

今回は(というか最近の画像処理では)以前紹介したノイズ処理プログラム ”DeepSNR” が良い仕事をしてくれました。

このプログラム、適用する画像の種類によって全く効かないことがあるからか、いまいち流行っていないような気がします。これまで色々試した結果、おそらく「1倍のDrizzleでスタックしたカラー画像」のみに効果を発揮するようです。モノクロ画像やDrizzleしてないカラー画像、2倍以上のDrizzle画像に適用しようよすると、上手く行きません。

このように使いにくい部分はあるのですが、DeepSNRが良いのは、NoiseXTerminatorやTopazDenoiseと違って、ノイズ処理にシャープ化が伴わない点です。思い切り強く適用しても、シャープ化のために星がギザギザになるということがなく、純粋にノイズだけを取り除いているように見えます。こちら適用例です

かなり良いように思います(公平な比較のためのパラメータ調整が面倒なので、NXTとの比較は載せませんが、この画像に適用した範囲ではDeepSNRのほうが良い結果に感じました)

おわりに

こんな感じに思いついたことすべて、だらだら書いてしまいました。最近、チリでの撮影に比較して、国内での遠征撮影で「これは」という結果が得られていなかったのですが、今回のM106は満足いく結果に成りました。

 

サムネ用