天文はかせ幕下

チリリモート作品第一号:NGC253銀河

はじめに

始まりました、チリに設置したリモート望遠鏡での撮影生活。

4名の共同利用で4日に一度回ってくる撮影日の朝は、まだちょっと緊張します。そんな日のスケジュールはだいたい次の通りです

  • 朝8時頃:AnyDeskで現地のパソコンにログイン、諸処の設定をして撮影開始(所要10分くらい)
  • 昼12時ころ:再導入して子午線反転(所要3分)
  • 午後14時ころ:対象が低くなったら、sh2-308に切り替えて、撮影(所要10分)
  • 夕方5時ころ:カメラを温めて、望遠鏡をParkingの位置に戻す。必要に応じて薄明フラットを撮る。

現在は慣れているAstro Pphotography Toolを使っていますが、ゆくゆくはNINAに切り替え、シーケンサー制御によるオートマチックな撮影するようにしたいです。

結果の第一号!

10月の新月期は、NGC253を撮影していました。22日から月末にかけて、19時間分のデータを集めました。いつものようにPixinsightとPhotoshopで処理をします。

NGC253

NGC253
Location: El Sauce Observatory Chile
Optics: R200SS + Corrector PH (760 mm, F3.8), ASI294mm-pro Astrodon LRGB
Camera: ASI294MM + Gain 120, Offset 5, -10 deg.
L: 242*120 s R: 69*120 s G: 67*120 s B: 66*120 s Ha: 67*240s
(Total: 1150 min)

 

この作品が仕上がる前に,トータル5時間ほど露光した段階でいちど画像処理していました.そのときはほとんど見えていなかった銀河周辺のハローが、19時間の露光で浮かび上がってきたことは感動でした.遠征撮影ではなかなか到達できない長時間露光.その威力は絶大です.あまりみたことのない絵になって満足しています.

こちらはクローズアップです。

さらに拡大しちゃいます

周辺にも無数の銀河が小さく見えていて、手前味噌ながら,惚れ惚れしてしまいます

議論

画像処理

L画像を8時間分、RGB画像をそれぞれ2時間分撮影しました。それぞれのマスターファイルを作成したあと、RGBのカラー画像から輝度情報L'を取り出し、8時間のL画像とPSF  Weightsで加算平均した結果をあらためてL画像として採用しています.

ストレッチは,L画像にMaskedStretch,RGB画像にAsinhStretchをかけるLCSストレッチです.銀河の画像処理は最近もっぱらこれです.

また構造の強調は,リニア画像段階でのDeconvolutionと,ノンリニアでのHDRMTとLHEで行いました.周辺の銀河ハロをBackGroundEnhanceですこし強調しています.

最終段階でHaの赤ポチを加えたあと,Photoshopに持ち込んで,背景にすこしDenoiseAIを適用し,レベル補正やハイライト補正,彩度調整をして仕上げました.StarReductionは今回は無しで済みました.

リモートでの撮影の感想

この時期のチリは特に晴天が多いらしく,全く天気の心配をせず「朝から晩まで」撮影できます。するとあっという間に露光が10時間以上になります.もし毎日撮影できるとなると,それこそ画像データの消化不良を起こしそうで,4人の共同利用での4日に一回の観測時間は,なかなかちょうど良いと感じます.

一方で撮影した写真への愛情や思い入れは,遠征撮影に比べると薄れるようです.数年したら

「あれ,こんなの撮影してたっけ?」

ってなるかもしれません.その物足りなさは,遠征撮影で補填していきましょう.

遠征では過度に結果を期待せず,今後はより星空を楽しめるようになる気がします.あくまでポジティブに考えるのです.

 

今回のリモート撮影を通じて、長い露光時間による撮影によって、いままでよりも硬調な仕上がりを目指せるのではと感じました。硬調という言葉の意味を正確に理解できてるか自信ないですが、私の理解では、それは背景の輝度値が低くてダイナミックレンジの広い写真のことです。

長時間露光で極めて滑らかな画像を得ることで初めて、背景輝度を落としても黒つぶれに見えない画像を得ることができるのではと、予想してます。

この意味で、このごろ顧問が目標にしているのはアメリカのプロゴルファー、Jimmy Walker氏の天体写真です。

 

https://www.darkskywalker.com/

 

氏の作品群は基本的に硬調です。これに比べると、今回のNGC253もまだもうちょっと露光が足りないかな。でも全く手な届かない領域ではなくなったとも感じてます。

今後も少しづつ、精進してまいります。