天文はかせ幕下

単秒露光画像なしで、星の飽和部を復元する擬似的なHDR合成

はじめに

星の中心部はかなり光っています。調べてみてすこし驚いたのは、例えばデジカメでIso1600の3分程度の露光をかけると、経験的に6等星くらいまでの星の中心部は飽和してしまっています。

飽和した星のプロファイルは、このようにピークが扁平になっています。

これをそのままストレッチすると、こうなります。

飽和部が円盤状になってしまいました。

この問題は、BXT(BlurXTerminator)を使うとさらにひどくなります。BXTは飽和している星の輝度を全て1にするように働くため、そのままストレッチを行うと、こんな風になってしまいます

これはすこし不自然ですね。

「まあ、別にいいじゃん、拡大しなければ判らないし」

というスタンスもあるでしょう。でも天体写真を見る時は200%拡大して星のフォルムや暗部のノイズ、四隅の星像を必ずチェックするというガチな人の存在を気にして、このは抜かりなくやっておきたい。

上の例では、ストレッチにはMaskedStrechをデフォルトの設定で適用しました。このように星が円盤状になる症状は、MaskedStrechでもっとも顕著に表れるようですが、ほかのストレッチでも大なり小なり似たことが起こります。

この問題への対策は昔から行われていて、例えば荒井さんが開発したFlatAideProの「飽和復元合成」がそうです。これは、メインの長秒の露光に加えて、短い露光時間(たいだい5〜10秒程度)で撮影したデータを用意しておいて、飽和した部分を短秒のデータで置き換えるという方法です。Pixinsightにも"HDR Composition"というプロセスがあって、まったく同じことができます。

ですが、その短秒露光のデータを用意するのは意外に面倒です。星のフォルムを修正するだけだたら、わざわざそのようなことをしなくても、なんとかなるのではないかと昔から思っていました。

今回の目的

というわけでちょっと考え、短秒露光のデータ無しで星の飽和部分を自然な形に復元する方法を思いつきましたので、こちらにまとめておきます。かなり単純な方法なので、すでに同じことを考えて実践されている方もいるかもしれません。また、この方法は星にしか使えませんのでご注意ください。

単秒データなしで行う星のHDR処理

手順は以下の通りです

  1. 【元画像を用意する】
    スタック後のマスター画像にBXTをかけた直後のリニア画像をからスタートします。(BXTを使っていない場合は、Repaired HSV Separation スクリプトを適用して、飽和部の色を調整した画像を用意してください。その方法については蒼月城さんのyoutube
     [APTips 012/ PixInsight編] さよなら Pink Star! その原因と対処法
    を参照してください。)
    今回はこちらの星像を例に話を進めます


    元画像は"original.xisf"という名前で適当な場所に保存しておきます。

  2. 【RangeSelectionで星中心部をカラー画像を抽出する】
    Range Selectionプロセスを起動します。Ligntnessのチェックを外し、invertにチェックを入れます。

    この状態で、Realtime Previewを起動(左下の白丸をクリック)します(Realtime Previewは、STFの仮ストレッチをオフにしてから起動したほうが、効果のかかり具合が確認しやすいです。)

    まず、飽和部分とその周辺の色のついた部分が少々選択される程度にUpper limitを0.98くらいに設定します。次に飽和している最も大きい星を参照しながら、中心部から外側にかけて自然に輝度が変化するようにSmoothnessの値を設定します。今回の例の場合、星の飽和部の直径が15pxだったのに対してSmoothnessの値は2pxで十分でした。
    RangeSelectionを元画像へ適用します。range_maskと名のついたこんなカラー画像ができます


    この画像は"range_mask.xisf"という名前で保存しておきます。

  3. HDR compositionで1.と2.の画像を合成する】
    HDR Compositonを起動して、1.と2.の画像ファイルを指定します。

    ひとまずデフォルトの設定で実行し、場合によって、Binarizing Thresholdの値を調整してみてください。
    出力されるHDR画像では、星のピークを基準に輝度の調整が行われるせいか、カラーバランスが崩れている場合があります。これはSPCCなどを使ってカラーバランスを調整すれば問題なく元に戻ります。

結果の比較

下の画像は、今回の処理を適用した後にストレッチを施した結果(左)と、適用せずにストレッチした結果です。

星の断面を2次元プロットも見ておきましょう。処理後では星が円盤状にならず、フォルムがきれいに復元されていることが分かります。

 

それでは以上です。

「ほんのひと手間」的な処理ですが、画角内に明るい星がある場合は、こういう処理をしておくとすこし星がシャープに見えて印象が変わるので、おすすめです。