天文はかせ幕下

彗星を撮る:計画から実際の撮影まで —— ポン・ブルックス彗星編

以下では、今回の12P/Pons-Brooks彗星の撮影について計画から撮影場所選び、実際の撮影までをまとめました。今年の秋にはツチンシャン(紫金山)・アトラス彗星も大いに期待されてますし、その時の撮影の参考になれば幸いです。

彗星が見える位置の確認

彗星の位置確認には、ステラリウムという無料のプラネタリウムソフトが便利です。以下からダウンロードできます

インストールした直後では、彗星の情報はソフトに登録されていませんので、プラグインで彗星情報を追加する必要があります。その方法はこちらのブログにわかりやすく書かれています。

これが済んだら、彗星の符号(今回なら"12P/Pons-Brooks”)をソフトで検索します

画面1 彗星の検索画面

選択し検索を実行すると、彗星の位置が下の写真のように赤いカーソルで表示されます。

画面2 検索結果

彗星は、毎日少しづつ動いていますので注意してください。

構図の確認

構図は、

  • 彗星の尾の長さ
  • 構図に取り入れたい周辺の天体
  • 地上の風景

を考慮して決めます。それらの確認にも、ステラリウムが便利です。「画面2」(a)に示したスパナのマークから、カメラのセンサーサイズとレンズの焦点距離を登録できるようになっています。

画面3 レンズの登録

画面4 センサーサイズの登録

それを済ませたの上で、(b)をクリックすると選択したセンサーとカメラレンズでの構図が赤枠で表示されます(画面3)。

画面5 構図決め

このとき、ステラリウムの「赤道儀モード」をオンにしておきます(写真下部の黄色の丸)。もし新星景の手法で撮影するなら、写野の長編を北に対して何度傾けておくと、日没時に写野の短辺が水平になるか、などもソフト上で画面をぐりぐり動かせば分かります。


彗星の尾がどのくらい伸びているか?を知るのは、はなかなか難しいです。SNSなどを調べて、他のマニアの方々が撮影された直近の画像を確認するしかありません。私のこれまでの経験では「予想以上に尾が長かった」というケースの方が多いです。

撮影場所選び

これが一番大変で、かつ楽しい作業です。

彗星は太陽に近づいてから明るくなるので、見頃の時期には明け方・夕方の低空に見えていることがほとんどです。なので地平線付近まで見晴らしの良い撮影場所を探し出す必要があります。

今回のポン・ブルックス彗星が見えている、北西の低空が見晴らしのよい場所を探します。参考になるのはLight Pollusion Mapです。

画面4

この時期、晴れる可能性の低い日本海側を除外して、今回は福島・宮城県境の宇多川湖(写真の赤丸のあたり)を選びました。

こちらは薄明後の様子。彗星が沈んだ位置は、福島市の光害からすこし北方向に離れていて、撮影には良好でした。

薄明終了後のダム湖の様子

つれを探す

どうでも良いことかもしれませんが、初めての撮影場所ではトラブルもありますし、天体写真を撮影する場所は薄気味悪いところが多いです。事前にツイッターなどで

「明日は彗星撮りに行こうかな」

などと呟き、付き合ってくれる人をさがしておくと良いでしょう。今回顧問は、普段飛行機の写真を熱心に撮っている部員のT君を誘いました。

T君と顧問

T君、星の写真を撮るのも感激していた様子で、良い勧誘になりました。

現地での撮影

彗星撮影に関しては、リモート天文台を複数所有している中東の富豪であろうと、宮城県名取市在住の庶民である私であろうと、誰にとっても与えられた時間は同じです。なので一般の天体写真にまして、光学系の明るさが勝負になります。

今回の撮影ではZeissのApo-SonnerをF2開放で用い、カメラはEOS6Dを使いました。撮影地の宇多川湖は十分に空が暗い場所ですが、低空の撮影ではISO1600の30秒露光で、ヒストグラムが50%くらいになりました。

薄明が終了した直後から25分程度追尾撮影したところで、彗星が山の稜線ギリギリにきましたので、そこで赤道儀のスイッチを切り、固定撮影で20分ほど地上の風景を露光しました。

画像処理

画像処理については、特に新星景の手法には詳しくなく、簡単にまとめておきます。今回の処理では、地上風景の撮影時に空が曇ったために偶然に上手く行った側面がありますので、あまり参考にならないかもしれません。

下の画像の左は、追尾撮影をした彗星とM31、右側は固定撮影した地上風景です。

彗星とM31の画像は適当にストレッチし、地上風景の画像は空がギリギリ白く飛ぶ程度に処理しています。こうするとマスクなどを用いなくても、単純に二つの画像を乗算合成するだけで良い感じに合成することができました(単純に考えると、比較暗合成をしたくなるところですが、試してみると山の稜線が不自然になり、乗算合成よりも劣る結果でした)。

最後に結果です

12P/Pons-Brooks and M31

Date:2024-3-10
Camera:Canon EOS6D
Lens: Zeiss Apo-sonner 135mm F2
Exposure: 30s x 55f, ISO1600, F2(Sky), 30s x40f, ISO1600, F2(land)
Processing: Pixinsight, Photoshop

新星景写真ではありますが、あまり現実離れしないように強調処理は控えめにしてみました。地上風景も単に植林された山と平凡ですが、反対にリアリティがあるような気もして、とてもお気に入りの一枚になりました。