天文はかせ幕下

Sigma fp 天体ファーストライト! & レビュー

目次:

はじめに

ひょんなことから,顧問は自費でSigmaのfpを購入しました。先月発売されたフルサイズのミラーレスカメラです。純正のEF to Lマウントアダプタを使えば,Canonのレンズ資産が活かせるというのが,購入の大きな動機でした。

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昨日,このカメラで星のテスト撮影をして来ましたので,レビューをまとめます。高感度耐性やHαの感度はいかに?

撮影前夜(準備編)

まだ発売したばかりのカメラですから,天体撮影に用いるにはいくつか乗り越えなければならない障壁がございました。簡単にまとめときますので,導入を検討されている方は,ご参考まで。

タイマーレリーズが存在しない(2019年11月現在)

fpのレリーズ端子は,動画撮影用のマイク端子と共用になっている特殊な仕様で,今(2019年11月)の所,純正でもサードパーティでもタイマー付きのレリーズが手に入りません。Sigmaの提供している専用カメラコントールソフト”Sigma Capture Pro”もfpには対応していない様子です。

これだと,多数枚コンポジットを前提とした天体撮影は難しい・・。

そこで,純正のタイマーなしレリーズを手に入れて,いろいろ調べてみたところ,3.5mm 4極のステレオジャックのうち2極がレリーズ端子として使われていて,シャッター全押しで約5kΩで通電する仕様のようでした。CanonEOS用のレリーズは2.5mm 3極のステレオジャックが使われてますから,無線屋さんでパーツを揃えて,以下の配線図のようなアダプタを自作しました:

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実際に作ったのはこんな感じ:

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これで問題なく,指定した露光時間でバルブ撮影ができるようになりました。

液晶画面は露光中Offにならない仕様

ミラーレスカメラの場合,この問題は仕方ない面もありますね。今(2019年11月)の所,露光中の液晶画面オフになりません。これだとバッテリーの消耗が心配ですし,なによりも,対物レンズがわにカメラが配置されるRASAでの撮影ではかなりの工夫をしないと使えそうにありません。RASAに使っても遮蔽レスで撮影できると期待していたのですが。これは次回のファームウェアアップデートでの改善を期待するのみです。

長時間露光は5分まで

バルブ撮影での最長露光時間は5分までだそうです。シャッターボタンを押したままでも,5分で自動的にシャッターが落ちます。まあ,5分あればいいかな。

EF to Lマウントのアダプタは特に問題なし

fpのマウントはLマウント。これにCanonのEFマウントレンズを取り付ける純正のマウントアダプタが用意されています。サポートされているのはSigma製のCanonマウントレンズだけですが,Canon製のレンズも接続できて,絞り制御やオートフォーカスが使えます。

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これがマウントアダプタ。三脚座もついてます。

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正面から見ますと,こんな感じです。ケラレの具合はどうなのかなと思いまして,Zeissの135mmレンズを取り付けた際の,EOS6Dのフラット画像と比べて見ました。

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とくに問題は見当たりません。(よかった)

三脚への固定

fpはコンパクトでボディ底面の面積が狭いため,ボディを直接三脚に固定しての撮影は少々不安があります。そこでグリップを購入して,私の場合はマウントアダプタの三脚座を利用して

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こんな風にプレートをとりつけて三脚に固定してます。

ファーストライト! 

それで先日,はやま湖にでかけてファーストライトして来ました。もちろん,fpはまだ無改造です

けっこう写るぞHα!

まずは手頃な位置にあったカリフォルニア星雲「撮って出し画像」をご覧ください:

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ISO3200, 120秒露光,Zeiss Apo sonner135mmF2(2.8絞り)

もうひとつ,

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これは同じ135mmレンズでオリオン座を撮影して,M42と馬頭星雲のあたりだけトリミングしたものです。Canonのノーマル機だとM42周辺のトラベジウムのあたりがすこし青っぽく写るものですが,fpの結果は改造機の風合いに似ていますねえ。

(11/21追記:比較のために,先月27日に撮影していた,HKIR改造の6DとF4 70mmレンズで 180秒,ISO3200で露光したのカリフォルニア星雲を下に載せておきます。

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露光が若干違うのでカリフォルニア北側の輝星(εPer)の周辺で両者とも (r,g,b)=(129,129,127)  になるようにカラーバランスと輝度を調整してます(7x7px平均)。その上で星雲のハイライト部はfpの画像が(r,g,b)=(153,141,150)に対して,6Dでは(r,g,b)=(167,134,149)でした。単純計算では赤の感度がHKIR改造の6Dに対してfpは63%と言うことになります)

 

カリフォルニア星雲の画像をフラット補正して14枚コンポジット。レベル補正とトーンカーブ調整のみで強調した結果,以下のような仕上がりになりました:

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レタッチでは彩度強調や選択的な赤の強調は一切やってません!レベル調整とトーンカーブのみです。 これだけHαが出るなら,改造いらないかなと感じます。HKIR改造の6Dなどと比べると,流石にすこし落ちますがそれでも十分なHα感度だと感じました。

高感度耐性

撮って出し(DNGをPSで読み込んで,ノイズ処理やシャープ処理をoffにしてjpg出力)のピクセル等倍画像をISO1600の180秒露光を基準にして,ISO25600まで並べて比較して見ました。

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ISO6400くらいまで使えそうですね。ISO12800以上になると,液晶画面に表示されるプレビューでは星食い的な,微光星の潰れが認められましたが,DNG画像では大丈夫でした。ちなみに撮影時のセンサー温度は約9℃でした(外気温1~2℃)。

EOS 6Dとの比較をやろうとしたところで曇ってしまいました。それはまた後日。

まとめ

そのた,書ききれなかった点も含めてまとめます:

 

天体撮影目線で,良い点:

  • Hαの感度についてはCanonなどのノーマル機との定量的な比較は行ってないが,印象としては高いと感じる。
  • センサーにヒートシンンクがついていて,温度が上がらないようになっている。
  • 外気温1~2℃程度の環境で90分ほど電源入れっぱなしで撮影を続けたところ,バッテリーの消耗率は40%ほどだった(充電100%から60%くらいまで減)。純正のバッテリーパックが2000円弱で手に入ることも考えると,これは良いかも。

天体撮影目線で,現時点の問題点:

  • タイマー付きレリーズが今の所ない(自作アダプタで対応可能ではある)
  • 露光中に液晶ディスプレイOffにならない
  • ピント合わせは必ずしもやりやすくない。マニュアルフォーカスでの液晶ディスプレイの倍率は8倍で小さい。また拡大する場所も自由に選べないので,その位置に星を導入しにくい。
  • DNG形式のRawファイルは,今の所,RStackerやステライメージ で読み込むことができなかった(追記(2020/1/9):DNGをphotoshopなどで読み込み、バージョンを1.3まで落とすと、RStackerでの処理も可能になります)(2020/1/9打ち消し,検証中です)。PSやDSSでは読み込み可能。
  • バルブでの露光時間は5分までに制限されている。

中間的な点:

  • 高感度特性については,まだ他カメラとちゃんとした比較をしていないので,はっきりしたことは言えない。今後検証。

個人的な点:

  • 買ってよかったと思ってます!

満月期の工作

今後、イプシロン200にもフィルターを入れられるようにしたい。そこでTリングと補正レンズの間のアダプタ

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の内側にM48のネジを切りました。

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こんな形でフィルターを入れられるように。

ねじ切りは学校の旋盤をつかって。でもあまり上手くいかず、締め込みすぎると取れなくなるかもしれない・・・

 

ぎょしゃ座、IC405とIC410周辺

11月の新月期の撮影は、本命の対象が何かしら失敗つづきで、サブのほったらかしがある程度形になるという結果が続いてます。最後に画像処理を終えたのが、ぎょしゃ座の周辺を135mmと6Dで撮影したこの対象です

Reprocessing: Auriga and the Flaming Star Nebula

date: Nov. 1th, 2019
location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
optics: Zeiss apo sonner 135mm F2(F2.8)
camera: EOS6D
mount: Kenko skymemoR without auto guide
Exposure:ISO3200, 180sec x 40flames

Starnet++で気軽に星消し画像を作れるようになったおかげで、最近は星の色をうまく引き出すことができるようになって来ました。勾玉星雲の場合、なんといっても大事なのが、中心部の五つ星。そのなかでも白・青・赤と並ぶ輝星の存在感だと思います。

今年はもうちょっとアップにして、もう一度撮って見ましょうかと考えてます。

ASI294MC-pro:ポカミス顛末報告とか、正しい処理フローのまとめなど。

前口上

今年の夏から天文部に導入したASI294MC-pro。これまで主に使っていたcanonデジからの移行に手こずり続けております。

とくにフラット補正が成功せずにいました。これについては、2か月ほどまえにホワイトバランスとの関係を疑っていて、その打開策も含めて

にまとめていました。

この度上記の記事は顧問のポカミスが原因の間違いであることがわかりましたので、訂正して顛末報告いたします。マジ、すみませんでした

顛末書

先日撮影したM31を例に、事情をなるべく簡潔に説明します。ASI294MCで撮影したライトフレームに対して、ダーク・フラット処理を施したあとベイヤー変換でカラー化すると、周辺に緑が浮いてくるという結果に悩んでおりました。

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わかりやすいようにPSで彩度を+60ほどあげています。ぱっと見、フラット補正に失敗しているように見えます。これについて、顧問は何度もフラット補正のやり方を見直したり、twitterで喚いて助言いただいたりしていました。が、あとからわかったところによると、実は原因はダーク減算のポカミスだったのです。

ダーク画像を取得するときは、M48のマウントに樹脂製の簡易なキャップをして光が入らないようにしていました。このキャップ、よくある2インチアイピースのキャップと同じサイズなので、部内ではそこらへんにたくさん転がっているのです。で、顧問はどうもチープなキャップを使ってダークを撮影してしまったようなのです。よくよくマスターダーク画像を確かめてみますと

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なんと周辺が赤くなっていました*1周辺の緑浮きの原因は、どうやらこれだったようです。デジカメのマウントキャップではこんなことは起こらないので、どうも足をすくわれました。

というわけで、正しくダークをと取り直してフラット補正してみたところ

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こんな風にフラットがきれいに決まるようになりました。失礼いたしました。

ASI294MCでの撮影から前処理まで:現時点でのまとめ

上記のフラットの緑浮きについては、顧問が最近始めたtwitter経由で、何人かの方からアドバイスをいただいてました*2。それを受けて、いろいろと画像をいじくっているうちに、このカメラでの撮影から前処理にあたってのパラメータ調整やファイルの扱いについて、あるていど素地が出来上がってきたように思います。現段階での我々の方法について,備忘録もかねて、ここにまとめておきます。

撮影時

  • Gain:200前後、brightness:30前後とする。SharpCapでのWhiteBalance(WB)はRとBのみ調整できるようになっている。この調整スライダは、RとBチャネルのハイライト側レベル調整になっている。R=B=50とするとRGBの最大輝度のレンジがそろう。なのでR=B=50とすべきと思う。(gain値は,390で多数枚の方法と,120で長時間露光の方法の2通りあるみたい。)
  • UV/IRカットフィルターを入れないと、黄色が出にくいとのこと。
  • フラット画像・ダーク画像取得時は、WhiteBalanceのRとBの値をライトフレームと合わせるのがよい。
  • フラット画像の輝度値は、ヒストグラムのピークが50%かそれ以上になるようにするとよい。
  • フラット画像がカラーであるべきかモノクロのほうが良いかは要検証(SharpCapのフラット取得機能を使うと、「カラーのフラットは合わせにくいよ」という英語のメッセージが出る)
  • フラット画像のgainをライトフレームに合せるべきかどうかはまだ検証していない。gainを合わせたうえで露光時間が10秒ほどになるようにしたほうがよいという情報もあり。

画像の前処理の流れ

  1. ステライメージでfitsを読み込んだら、ベイヤー変換前にダーク減算とフラット補正を行う。
  2. RGGBのベイヤー配列を指定して、カラー化。WB調整してから、そのあとコンポジット*3
  3. コンポジットした画像をfitsで保存。
  4. fitsをflatAideProに読ませて、対数現像(あるいはステライメージでデジタル現像でもよいかもしれないが、ちゃんとした比較はできていない。また対数現像のパラメター調整のコツもあまりつかめていない)。16bitのtiff出力
  5. PhotoShopで処理。

いまのところ、こんな感じ(2019.11.12)

 

*1:これは結露防止ヒータの磁場の影響とかも疑いましたが、どうも単純に光漏れのようです。twitter経由のBooKuuさんからの情報ではASI294MCの純正のキャップは光が漏れないようにしっかり作られているようです。

*2:こたろうさん、宮路さん、あぷらなーとさん、たかsiさん、いづもさん、ありがとうございました

*3:カラー化する前にコンポジットしてはだめ

奇妙な関係、あるいは雲の通過時はオートガイドをOFFにせよ

奇妙な関係

なにか趣味を始めると、その周辺で新しい友人ができます。さらに最近、顧問は代表的なSNSの一つであるTwitterを開始したこともあって、少し奇妙な友人が増えております。

先日の神割埼での撮影でも、埼玉からいらしていた方とお会いしました。その方は拙ブログもたまに読んでくださっていたようで、懇意になっていろいろと教わりました。

しかし通常の友人関係と比較して妙な点があります。といいますのも、彼らとお会いするのは、月のない深夜の、さらに町明かりの届かない山奥や海辺だったりするものですから、暗くてお顔を拝見できないのです。日本人の特性で、会ったらまず名を名乗るということもあまりしないので、苗字かTwitterのハンドルネームしかわからなかったり。

「顔も名前も知らない友人」です。妙なことです。そんな友人たちと、年末には忘年会を致しましょう、なんて話も持ち上がっております。

クワガタ星雲,NGC7365,M52,失敗の図

今回の撮影では、撮影地でのおしゃべりに夢中になりすぎて、大きな失敗をしてしまいました。そこから得られた教訓は「対象が雲に遮られたら、オートガイドをOFFにすること!」です。

え?あたまえですか?

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Date: 4th Oct. 2019 
Location: Kamiwari-saki, miyagi
Camera: Canon EOS 60Da, EOS Kiss X5 twin
Optics: Mamiya Apo-sekor 250mm F4.5
Exposure: 360sec. x 20 x 2
Guide: Kenko SEII, PHD2 guiding

クワガタ星雲の周辺ですが、撮影中に雲の襲来がありました。

「あ、また嫌な雲がきたな」なんて皆さんと雑談に花を咲かせておった間、オートガイドが暴走しつづけていて、構図がずれてしまっていました。それに気づかず2時間以上も露光をしつづけてしまい、上記のような無残な写真が出来上がったのでした。

飛び去るモチベーションを引き留めつつ,レタッチしましたがクワガタ星雲って淡いですね。

上弦の月のモザイク撮影

昨日,部長のヒヨリくんやその他みんなで,月のモザイク撮影に挑戦しました。最近,お誘い合わせで入部(?)したショウタロウくんが望遠鏡を操作。MeadeのLX200 F10の鏡筒にF6.3のレデューサーを取り付けると,ASI174MMでもった3x1コマモザイクで月が入ります。

部員たちは最近,AutoStackkert!やRegistaxを覚えましたので,画像処理もすべて彼らが行いました。メールにて送られてきたtif画像を掲載しますね。

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date: Nov. 5th, 2019
location: Natori-city, Miyagi, Japan
Optics: Meade LX200 3048mm F10 (with reducer F6.3), baader CCD filter R
camera: ASI174MM
Exposure:gain 100, 2.9μs x 2000flames (25% stack) 

 

細かく見ると,つなぎ目のエラーもありますし,スタックもすこしうまくいっていないようでブレがあります。これはPSの「ブレの軽減」を使っても,解消できませんでした。スマホで見るくらいだと,違和感ありません。

 

顧問としては,「月なんて明るし簡単でしょう」と思っていたのですが,なかなか難しいですね。

ヒアデス、プレアデス、カリフォルニア

先月の27日にRASA11で撮影していたM31は、Lフィルターの入れ忘れなどあって、いまいちな結果。その横でほったらかし撮影していたおうし座付近の画像も、終始うす雲に邪魔されていて、その結果にはあまり期待していませんでした。

三連休に、ちまちまと画像処理していましたら、そこそこみられる結果になったので、ブログにアップいたしましょう。

Hyades, pleades and california

date: Oct. 27th, 2019

location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan

optics: Sigma 70mm Macro F2.8(F4)

camera: EOS6D

mount: Kenko skymemoR without auto guide

Exposure:ISO3200, 180sec. x 20flames + 180sec. x 12 flames, 2x1 moz

シグマの旧カミソリマクロを使った2枚モザイクです。うーん、モザイクの継ぎ目、ばれてしまうかな。モザイクの下半分の撮影では、薄雲の影響が終始あってスタック枚数が少なくなっています。上下の不均衡のせいで、これ以上分子運をあぶれなかったのですが、薄雲のソフトフィルター効果でヒアデス星団がちょっと印象的な感じにもなって、こういうのもありかなと思います

この旧カミソリは、カリカリにシャープな一方、ジャスピンでかなりの青ハロがでることでも知られています。この撮影では、若干ピントをずらしてハロを抑えつつ、Starnet++の星消し画像から生成した「星だけ画像」に強めのハロ処理を加えて、星消し画像に重ねるという手法で、きれいに青ハロを処理できました。ただ、青ハロ処理はあまり強くやりすぎると、青い星が白くなってしまうので、その辺はすこし気を使うところです。ある程度は青ハロを生かして、青い星を強調するのもありか?