天文はかせ幕下

彗星写真3態

全く期待していません、C/2019 Y4には。もし予想が外れて明るくなれば、5〜6月には学内外で市民観望会や撮影会など、忙しくなってしまいますからね。

3月中旬、C/2019 Y4は急激な増光をみせつつ、まだ等級は7〜8等台。暗いうちに撮影してきました。光学系はRASA 11" + ASI294MC-pro。Gain200で90秒x30枚。撮影時刻は1日本時間で18日の22:06~22:50。

同じ元画像を3種の方法で処理した結果をご紹介いたします。

(1)一つ目:彗星核基準スタック

Comet ATLAS (C/2019 Y4)

彗星は太陽系の中で移動してます。なので、ある程度の時間撮影していると、恒星との位置関係が少しづつ動いてしまいます。この写真は彗星を中心に固定して、スタックした画像です。44分の撮影時間の間に、見かけにしておよそ1.6分角ほど彗星が移動していることが、恒星の軌跡からわかります。

 記録写真としては、こういった写真があるべき姿ですが、やっぱり星も点になってほしいところ。書籍Inside Pixinsightに紹介されていた方法で、星と彗星が丸くなる写真をこさえました。

(2)恒星基準スタックと彗星基準スタックの合成

Comet ATLAS (C/2019 Y4) with round stars


画像の作り方の詳細は所々に紹介されてますので、Pixinsightでの処理の概要のみ紹介します

  1. 彗星核基準のスタック画像を用意する
  2. 彗星核基準でStar Alignした各画像から彗星核基準のスタック画像を減算してから、恒星基準でスタックすることで、彗星が消えた恒星だけの画像を用意する(この機能はPixinsightのCometAlignmentに用意されている)。
  3. 1と2をpixel mathで合成する。

というものです。ポイントはそれぞれのスタックにκσ-clippingという手法を用いていることです。このアルゴリズムは、あるピクセルの平均と分散(=σ)を計算しておいて、その分散の値のκ倍よりも大きく外れたピクセルを、平均から除外します。これによって、彗星核基準でスタックすれば恒星が消え、反対に恒星核基準でスタックすれば彗星が消えるわけです。

とはいっても、この方法では完全に恒星が消えてくれず、わずかな残余が彗星の移動方向い縞状のノイズとなって現れています。また、2.のプロセスで彗星核基準の画像を減算するときに、周辺の星雲もいっしょに減算されてしまうようです。今回の画像では、淡い北天の分子雲がすこし減衰してしまっています。気に入りません。そこで三つめの方法です。

(3)photoshopで切り貼り合成

C/2019 Y4 ATLAS(reprocessing)

これは恒星基準でスタックした画像に、あとから彗星の画像を切り取って貼り付けました。最も記録的価値の低い、あくまで観賞用の写真です。「インチキするなー」という声が聞こえてきますが、でも彗星を綺麗に合成するの、結構難しいのです。備忘録として、「レシピ」を紹介します(非常に込みいっていて、こんがらがるかとおもいます。)

  1. κσクリップを用いて、恒星基準スタック(a)と、彗星基準スタック(b)を用意する。上手くいけば(b)では恒星がだいたい消えて彗星のみの画像になっています。一方(a)では彗星の跡があるかなり残留しています(彗星が淡く広がっているため)。
  2. それぞれの画像を、同党の強度であらかじめストレッチしておく。
  3. Starnet++を利用して、(a)から恒星を消去。彗星の跡だけが写った画像(c)ができます。
  4. (c)に写っている彗星の跡をPSのお絵かきで消去した画像をつくる(d)。(c)から(d)を減算して、彗星の跡から背景を取り除いた画像を作る(e)。(a)から(e)を減算して、完全に彗星が消えた恒星基準スタック画像を作る(f)。
  5. 一方で、(b)に対して4.と同じ方法を適用して彗星のみの画像から背景を取り除いた画像を作る(g)。
  6. (f)に(g)を「覆い焼きリニア(加算)」で重ねて、各レイヤーをトーンカーブなどで微調整して、それっぽく仕上げる。おわり。

合成画像を作った後に、ストレッチすると、「ほころび」が浮き出てきてしまいます。2.のステップであらかじめ十分なストレッチを行った後に合成し、そのあとは彩度強調やノイズ処理のみにしておくことをオススメします。