撮影した画像の周辺減光を修正して、写野の明るさを均一にするのがフラット補正の目的です。
フラット補正は、対象になる元画像の明るさ(輝度)のみに変更を施し、色バランスは不変に保たれる。天体画像処理の各種ソフトウェアはそのように処理をしているのだろう,と顧問はこれまで思っていました。
ところが例えばPixInsightの場合、フラット補正ではRGBの各チャンネル毎に単純に割り算を行なっているようです。そのため、用意したフラット画像に色がついていると、元画像の輝度だけでなく色バランスも変更されてしまいます。もっと広く使われている Deep Sky Stackerも、フラット処理はRGB各チャンネル毎、別々に行なっているようです*1。
「それならば、単純にフラット画像がグレーになるように撮影すればよいではないか。ひょっとこ野郎が。」
と顧問を面罵・排斥する方がおられるかもしれませんが、申し訳ない。これには事情があるのです。というのも天体用のカラーCMOSカメラでは撮影した画像の色バランスがはじめから大きく崩れていることが多いのです。基本的には、灰色の対象を撮影しても、出てくる画像は大きく緑に偏っています。状況によっては、ニュートラルグレーなフラット画像を得るのが難しい場合もあります。そこで、
モノクロのフラットフレーム
話は単純です。フラット画像を純粋なモノクロ画像にしてから、フラット処理を行えばよいはずです*2。
実際には次のようにしました(処理にはPixinsightを使ってます);
- ベイヤー配列のままコンポジットしたフラット画像を用意する。
- そのフラット画像を、ディベイヤーしてカラー化。
- ConvertToGrayscaleの機能で、モノクロ化。32bit fitsで保存。
- 上の画像を、モノクロのマスターフラットとして、キャリブレーションの処理を行う。
というものです。ディベイヤーした画像をつかって、ディベイヤーする前の画像を除算することになる点が、なんとも気色悪いですが、キャリブレーション時にエラーは出ませんでした。
結果(適用例)
まず元画像は以下のとおり。カラーCMOSによる撮影では、このように撮って出しが緑に偏ってます。
用いるフラット画像は、ディベイヤーを施してカラー化すると次の写真のように緑色になっています。
これを「カラーの」フラット画像と呼ぶことにします。このフラット画像で補正を行うと
このように、結果の色バランスが元画像から変化します。
一方で、上で説明したモノクロのフラットを適用すると、次の写真のようになります:
カラーバランスが元画像とほとんど変わっておらず、周辺減光だけ補正されています。モノクロのフラットを使っているのだから当然と言えば当然です。
「フラット補正後のカラーバランスが変わっても、背景がニュートラルになるように調整すれば、結局同じなんじゃないの。ひょっとこ野郎が。」
とおっしゃる方がおられるかもしれません。確かめておきましょう:
結果はこんな感じでした。
どっちが良くてどっちが悪いという話ではなく*3、色のついたフラットを当てたことで、わし星雲の赤の出方が変わってしまったというのは問題です。あまり変なことをしないという意味で、モノクロのフラットフレームを使う方がよいと、顧問は考えております。
今後はモノクロ化したフラットフレームだねと。また一つ、徳を積むことができました、お上人様。
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*1:DSSサイトのFAQ内には"Is it possible to use colored flat frames?"という質問に対して"...because DeepSkyStacker is processing each channel separately..."とある。Light, Dark, Flat, Bias... What are they and how to create them?
*2:たとえばSharpCapには、自動的にマスターフラットを撮影する機能があって、それは基本的にはモノクロのフラットが生成されます。オプションでカラーのフラットを選ぶこともできるけれど、「色のついたフラット画像は、合わせるのが難しいよ」という趣旨のワーニングがでますね。