天文はかせ幕下

"My Astronomy Picture Of the Year"を、少し贅沢して印刷する

たまに納得のいく天体写真が撮れたときは、フジプリで印刷を発注して、それをハクバのフォトフレームに納め、自宅の壁に飾っておりました。

一方で、年に一度はMAPOY(註:My Astronomy Picture Of the Year)を定め、もっと気合の入った印刷をなして額装し、ビシッと飾るのも悪くないよなあと思っていました。

そこで顧問は2023年のMAPOYを9月に撮影していたM31に定め、こちらの会社で印刷してもらいました。

FLATLABOは、プロ向けの写真プリントを請け負っている印刷所で、美術館で開催されるレベルの個展を数多く手掛けてられています。天体写真にとって重要な"FLAT"という用語が社名に入っている時点で、なんだか信頼したくなります。

昨年に丹羽さんが開いた個展も、ここに印刷をお願いしていたそうです。私が依頼のメールを送ったときも

「丹羽さんにかなり鍛えられてますので、ぜひお任せください」

と力強いお返事をいただきました。天体写真のノウハウもしっかり蓄積されているわけです。

印刷はA3サイズでお願いしました。仕上がりはこんな感じです

自宅の照明が全て電球色なせいで、この写真ではなんだか不自然に見えますが実際はパソコン画面のイメージに近かったです。

こちらは額装の様子。黒のアルミフレームはシンプルで自己主張せず、良い感じです。

気になるお値段ですが、2回の試し刷りと送料含めて27,000円ほどでした。技術者の方と直接やりとりして調整できるわけですし、年に一度の贅沢としてはそれほど高くはないのではという感想です。

こちらは壁に飾った様子(写真が下手ですみません)。家族は一瞥もくれず素通りですが、顧問はとても満足しています。

注文から仕上がりまでのプロセス

今回のM31を例にして、実際にプリントが仕上がるまでのプロセスをまとめておきます。顧問は基本的に雑誌のフォトコンには応募していないので、印刷の経験が薄いです。カラーマネジメントのモニターも所有していません。

やりとりする印刷データは8bitのtifです。初めにFLATLABOに送った画像は以下でした

M31

これは印刷してみると、がっかりな結果でした。特に銀河の中心部の領域が、プリントではモニターと比較して暗く感じられ、輝度の勾配も不自然でした。原因は元データにあって、中心部の色彩を強調しようと意識しすぎたあまり、明るさが弱くなってしまったのでした

大いに反省し、再処理したのがこちらの画像です

M31_reprocessed

銀河の中間から中心にかけて、スムースに輝度が1に近づくように処理し、前回の処理に比較して彩度を控えました。こちらは試し刷りの結果もモニターに比較して遜色なく、またTwitterにアップした時の皆さんの反応も良かったように思います。

まとめ —— プリントの難しさ

今回は、プリントを通して自分の画像処理を見直す良い経験になりました。その上で、写真プリントの難しさは、輝度表現の調整にあるのじゃないかなと思っています。

と言いますのも上の例のように、プリントでは元になる画像データのハイライトがしっかりRGB=(1,1,1)に近づいていないと輝いて見えない場合があるのですが、モニターは自分で発光している分、その辺りの誤魔化しが効きやすいようなのです。

反対に暗部は、モニターではノイズでざらざらして見えていても、プリントするとほとんど目立たなかったりします。これはモニターの方が、暗部の誤魔化しが効かない、といっても良さそうです。

ともかく、こういった輝度表現の差を埋めるには、モニターで編集しながらプリントの結果を予想するしかありません。これはカラーマネジメントモニターを使っていても同じことで、まさに経験で埋めていくしかなさそうです。

顧問は、この辺りの微妙な調整に深入りするのはしんどいなー、プリントするなら外注で済ませたいなーと思っている派です。すみません。

LRGB合成するとき、BXTはどの段階で使えばよいのだろうか?問題

(注意:今回のエントリはまだ結論が出ておらず、考察というよりは心配事の吐露みたいな内容です。最後まで読まれて、「なんだよ、この野郎」とガッカリしないよう、あらかじめお断りしておきます)

はじめに

モノクロカメラで撮影した画像を、LRGB合成へて仕上げる場合に、Blur X Terminator (BXT)の処理をどの段階で使うのが良いのかという問題を考えています。

といいますのも、BXTはリニアな画像に対して実行することになっています。さらに作者のRussel CromanさんによるBXTのリリースノート

の"COLOR"の節によれば

「 BXTのAIプログラムは、カラー画像を正しく補正するように訓練されていて、RGBの各チャンネル間の関係性を考慮して適切な処理を行う。なのでほとんどの場合、モノクロの各チャンネルに別々に作用させるよりも、カラー画像に作用させたほうが良い結果になる。」

つまりBXTは、カラーのリニア画像に作用させるのがベストということですね

 

しかし一方で、LRGB合成はノンリニア画像に対して行うべき処理でした。例えばNiwaさんのブログにあるように、LRGB合成にともなう様々なエラーを回避するためには、実行前に十分に強いストレッチを行うのがよいのです:

この辺りの話は以前に散々議論した話で、その経緯はSamさんのブログにまとまっています。

また蒼月さんのYoutubeでもLRGB合成がノンリニアなプロセスである理由が明確に説明されています。

 

そしてここからが本題でして、LRGB合成で画像を仕上げる場合、カラーの画像が得られた時点で画像はノンリニアだから、BXTを施すタイミングがないのじゃ無いか?困ったぞ。と思ったわけです。

心配な問題点

シンプルに考えるなら、BXTを取り入れたLRGB合成の処理手順の概要は次のようになるだろう思います:

BXTを取り入れたLRGB合成のプロセスその1。ただしDBEなどの傾斜補正や背景補正の処理は省略して書いています

つまりモノクロのLに対してBXTを行って解像度を上げ、RGB画像に対してもBXTを"Correct Only"で施して色収差などを補正した上でSPCCでカラーバランスを整え、それぞれをストレッチした後にLRGB合成を実行する——という手順です。

しかしながら、この手順について2つの心配事があります

  1. "Master Lum"に対してBXTを実行しているが、これはモノクロ画像なので、BXTの効果が十分に発揮されないのでは無いか?
  2. 最後のLRGB合成の前後で画像の色は変わってしまうから、SPCCの結果が忠実に反映されなくなってしまうのでは?

前者の1.については、星沼会のメンバーでいくつか検証してもらった範囲では特に問題は見つからず、Russel氏の「BXTがカラー画像に対して実行されるべき」って話は、色収差の修正に限った話であり、解像度の改善については関係ないのでは無いか?という見解になっています。この辺りはさらに検証を重ねる必要がありそうです。

2.については、確かにRGB Working Spaceの設定によっては色が変わるのですが、それは、各自の画像処理の味付けの範囲内のことであって、そんなに厳密に考える必要はないのじゃ無いかという意見もあり得ます。

でも、顧問はちょっと気になるなーって心配していました

考えられる対策

リニアなLRGB画像を用意する

リニアなLRGB画像を用意できるなら、上記の問題はマルっと解決します。

Pixinsightには、HSI色空間をつかってリニア段階でLRGB合成をする”LinLRGB”というスクリプトが用意されています。ただ問題もあって、顧問が試した範囲では、LinLRGBで得られる結果は、通常のLRGB合成と比べるとMaster Lumが元々持っていた背景の滑らかさが損なわれるようなのです。ちょっともったいない感じになってしまうので、この方法がベストとは言えそうにありません。

マスク処理

リニア段階でのLRGB合成が全くダメということはなくて、合成前にヒストグラムを揃えていれば、エラーが出るのは輝度の高い明るい星の周辺だけです。それなら、星にマスクをかけて、高輝度部のみをLinLRGBで合成した画像を置き換えてエラーを回避するという方法が思い付きます。そしてその後にBXTやSPCCを行えばよろしい。

あるいはもうちょっと複雑ですが、リニアなLRGB画像にBXTをかけた後にストレッチした画像と、通常のストレッチ後にLRGB合成したノンリニアな画像を星マスクをつかって合成するのもあり得る方法です。これは文章にするとわかりにくいのでヒストグラムを作りました:

いかにも面倒臭いプロセスです。今月チリで撮影したNGC3532のデータをこの方法で処理してみました。

NGC3532 (Wishing Well Cluster)

Date: 2024-1-8,12,13,16
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200SS, correctorPH
Camera: ZWO ASI294MM
Exposure: 240s, gain=120
Number of frames: (L,R,G,B,Ha)=(87, 56, 57, 59, 153)
Processing: Pixinsight, Photoshop

ある程度上手くはいっていますが、正直この画像について言えば、普通にストレッチしてからLRGB合成するのと対して結果は変わらず。

BXTの中身がブラックボックスである以上、こういった議論は色々な画像に対して試してみて結果を吟味するしかなさそうです。そういうわけでこのテーマはまたぶり返して登場するかもしれません。

結論

まとまりのない内容になってしまいまして、なんかすみません。こんなエントリはボツにしてもよいのですけど、書くのに1週間くらいかかってしまって、もったいないので上梓します。

2024年の撮り始めは神割崎でエンゼルフィッシュ

秋田県勢のみなさんと賑やかに撮影

冬になりますと、日本海側の天文ファンが晴れ間を求めて太平洋岸までやってきます。1月14日の神割崎での遠征撮影は、そんな秋田県勢の方々をお迎えして賑やかな撮影になりました。

普段より賑わう神割崎の下駐車場

ここに謹んでご紹介いたします:

お気楽ジョガーさんとは、夏のCANP以来の再会です。実はカメラをお借りしていたりと、個人的にとてもお世話になっております。ツイッターリンクはクリックすると、M42まで写った画角でご覧になれますのでぜひ。

永太郎さんとは、2020年の元旦にここ神割崎でお会いしたのが最初でした。あの時はバラ星雲の導入に2時間苦しんでおられてお手伝いしたのですが、あれから急速に技術を磨かれて、最近もとても印象的な作品を仕上げてらっしゃいます。今回のDualBandPass系のフィルターをつかったパノラマも素晴らしいです。仙台の光街で西方向が明るい神割崎で撮ったとは思えません。こちらもクリックすると南の端にうっすらガム星雲まで写っていて、驚きます

もう一人の方は初めてお会いする方で、こちらのブログ主の方でした。 

天文はかせ幕下もご覧になってくれていたそうで、嬉しい限りです。25cm鏡でのライブスタック撮影をメインにされていますが、一晩にたくさんの銀河を撮影していくスタイル、となりで少し見せてもらいましたが、すごくたのしそうでした

長い夜

当日はめずらしく明るいうちに現地入り。長い冬の夜をじっくり味わえました。撮影開始が18時半。ライトフレームを50枚確保した時点でも

「あらら、まだ9時ですよ。今夜はこれからですよ、うひひ」

なんて気色悪くニヤついておりました。皆さんとの雑談の合間に、カレーメシ食べて、コーヒー飲んで、コーンスープ飲んで・・・といろいろやっても、まだ0時前でした。

気温も0℃前後と快適な夜。風が少し強いことは予報であらかじめわかっていて、そのため135mmと250mmの短い焦点距離での撮影です。ガイドエラーの心配がほとんどないので、撮影中まったりできます

撮影中に星空を見上げるワタクシです。こういう写真を撮ると、自分がやたらエラソーな姿勢だったり顔が間抜けだったりで気に入らず、5回くらい撮り直しました。

撮影結果

エンゼルフィッシュ星雲の周辺

f=250mmのカメラレンズ2台にASI2600MMとMCをそれぞれ取り付けてトータル14時間超撮影したエンゼルフィッシュ星雲の周辺です

Angel fish nebula and sh2-263

Date:2024-01-14
Location: Kamiwari-saki, miyagi
Optics: Mamiya Aposekor 250mm F4.5, UV/IR Cut only for 2600MM  
Camera: ASI2600MM/MC
Exposure: 180s x 149f(mono),  180s x 146f(mono), total 14.75h
Processing: Pixinsight and Photoshop

南を上にとる構図を選びました。エンゼルフィッシュの口先から分子雲と散光星雲(sh2-263)がプクプク泡立っているイメージです。右下に写っている明るい星の色を出すのに腐心しました。

この領域について(なんちゃって天文学

星図を書き込んでみました。

この写真に写っている星雲は主に3つで、いづれもSharpless(Sh)カタログ*1に記載されています。左上からSh2-265, Sh2-263, Sh2-264です。

ここで、Sh2-263と264に注目してみましょう

エンゼルフィッシュ星雲Sh2-264の中心にはオリオン座のλ星"Heka"があります(写真右下の青い星)。Hekaは非常に高温で巨大とされるO型の主系列星です。エンゼルフィッシュ星雲は「オリオン座λ星のリング」とも呼ばれていて、この星の放射線をうけて光っているのだそうです。ちなみに、主系列星については以前、このエントリで書きましたのでよければご覧ください

一方で、Sh2-263は比較的小さい星雲で、日本の天文ファンの間では俗に「エンゼルフィッシュの餌」と言われることもあります。中心付近にはやはり明るい星(HIP25041)があって、調べてみるとこれはB型の主系列星です。B型はO型に次いでエネルギーが高い星ですが、それでも温度ではおよそ半分以下、絶対的な明るさでは一桁から二桁以上に暗い星です。

HekaとHIP25041の地球からの距離はどちらも1000光年ほどでした。なので星雲の見かけ大きさから、HekaとHIP25041が放出しているエネルギーの違いを推定できそうな気がします。

写真から見てわかる通り、二つの星雲の視直径の比は20倍ほどです。リニアのR画像を調べた限り、両者の明るさはそれほど変わらないようでしたので、単純に散光星雲の体積がそのまま星の放出するエネルギーに比例していると考えてよさそうです。するとHekaとHIP25041の放射量の比は20^3=8000倍となるでしょうか。うーん、でもHekaが4.3等、HIP25041が5.8等級なので明るさの比は4倍程度しかなく、ちょっと違うかもしれません

 

最後のパラグラフが「なんちゃって」になりますが、こんなふうに撮影した天体写真から、星と星雲の関係を妄想するのが、最近のマイブームであります。

それではまた。

 

*1:Sharplessカタログ。日本語にすると、ぼんやりした天体のカタログ、といった意味でしょうか。

往年?の名機EOS6Dの性能を、Drizzle+BXTで150%引き出す

冒頭の写真は、135mmF2レンズのZeiss Apo Sonnarを取り付けたCanon EOS6Dであります。顧問にとっては以前の定番ザブ機材で、Kenko SkyMemoRに載せて放置撮影をよくやっていました。

135mm+フルサイズセンサーの画角はそこそこ広いです。例えば白鳥座を撮影すれば北アメリカ星雲からサドル付近までがすっぽり入ります。そのため、数シーズンも活用すると、メジャーな対象はあらかたとり尽くしてしまうことになり、実はここ最近、めっきり出番が減っていました。

またEOS6Dも、発売はもう12年前の古いカメラです。近年は天体用冷却CMOSカメラに押されて、国内の天文ファンの中でもこのカメラを使用している方はだいぶん減ってきているのではないでしょうか。顧問も、棚に鎮座している6Dを見るにつけ

ハードオフに売りに行こ🎵ハードオフに売りに行こ🎵」

というメロディーが自然に脳内に浮かんでくるようになっていました。しかし!

「低画素機」の利点と欠点

EOS6Dが天体撮影の人気機種であった理由は、低画素ゆえの高感度性能にあったと思います。フルサイズセンサーで2020万画素ですから、これより画素数の少ないカメラはSony α7sくらいしかありません。

しかし低画素機ではApo Sonnarのような良いレンズの性能を十分に引き出せないことが起こります。これは実際に星空を撮影した結果を拡大してみればよくわかります

この画像は、実際にEOS6DとApoSonnarでの1枚の撮影結果を、強く拡大したものです、小さな星は4~9ピクセル程度の大きさで写っており、星の周辺にマゼンダやオレンジ、緑などの「偽色」が浮いているのがわかると思います。これは「アンダーサンプリング」と言われる状態で、レンズがセンサー面に投影する小さくシャープな星像に対して、センサーの解像度が追い付いていない状態です。

偽色が表れる理由も、図にしてみるとよくわかります。まずこれが星です

6Dのベイヤー配列はRGGBなので、この星を「アンダーに」サンプリングすると、次のようになります。

このように星の大きさに対してピクセルが十分に小さくない場合には、星のエッジの部分で、

  • RとBが感光してGに光が当たらない→マゼンダの偽色
  • RとGが感光してBに光が当たらない→茶色っぽい偽色
  • BとGが感光してRに光が当たらない→シアンっぽ偽色

などということが起こるわけです

低画素機は、Drizzle Integrationが効く!

ところが、6Dのアンダーサンプルなデータの問題点を解決する方法があって、それがDrizzle Integrationです。これは、それぞれで写り方が少しづつ違っている複数枚の画像のデータを利用して解像度を数倍に高める画像処理の技術です。詳しくは蒼月さんのyoutubeをご覧ください。

この方法が、特に6Dの場合はとてもよく効きます。

左が通常の処理、右がピクセル数を縦横2倍にするDrizzle処理を行った結果です。小さな星が密集している部分に注目すると解像度も2倍とまではいかないまでもかなり向上しているのが分かると思います。さらに星の周りの偽色もキレイに消えていますね。

(註:撮影はSkyMemoRのノータッチで行いました。Drizzleに必須なディザリングは行っていません。ガイドエラーがディザリングの効果を出しているようですが、本来ならディザリングをした方が良い結果に成ると予想されます)

さらにBXTが効く!!

BXT(BlurXTerminator)は、AIをつかったDeconvolution処理で、その驚くべき効果については以前紹介しました:

Deconvolutionの原理をおおざっぱに説明します:もし完全に理想的な光学系で撮影し、大気の揺らぎも全く無くガイドも完璧なら、一つ一つの星は1ピクセルの点で写るはずです。しかし現実にはボヤっと広がった楕円形に写るわけです。そのボヤケた星をPSF関数(Point Spread Function)で表現し、それを理想的な点像に近いPSFに戻す変換を、画像全体に掛けることで解像度を回復させよう、というのがDeconvolutionです。

ですのでDeconvolutionでは、星のPSFを正しく評価することが大事になります。しかしながら、上記のアンダーサンプルな撮影では、星がギザギザで偽色も表れてしまっているのでPSF評価が上手く行きません。実際に試してみると次のようになります

左が元画像、右がBXT処理後の結果です。星像は丸く小さくなっていますが、星の周りに暗く落ち込んだリンギングが目立っており、星雲の構造も処理前後であまり変化していませんね。

そこでDrizzleが功を奏します。

Drizzleによって星のPSF測定の精度が向上するので、BXTの結果も良くなるようなのです。

こちらはとても上手く行っています。星の周りの落ち込みも無くなりましたし、星雲の構造もかなり改善されています。毎度ながら、これは本当に驚きます。

Before-Afterギャラリー

あまりに驚くので、元画像と2倍Drizzle+BXTの画像をいくつかの場所で比較してみたいと思います。キャプションは入れるまでもないので省略しました!

クリスマスツリー星団の周辺

バラ星雲の中心部

タツムリ星雲のあたり

名前不明の星団

最後の星団では筋状のアーティファクトが見えているように見えますね。こういうこともあるようですので注意しないと。

リザルト

なんだか蛇足のようになってしまいましたが、今回の神割崎遠征では、強風が予想されていたこともあり、焦点距離が短くガイドが簡単なEOS6DとApo Sonnarのセットを久しぶりに持ち出しました。最後にこのセットを使ったのは2021年10月で、その頃はまだBXTは無かったし、画像のカラー化におけるDrizzleの重要性も認識できていませんでした。

今回は最新の画像処理を適用して、その効果に驚きました。EOS6Dは本来6Kの解像度しかないのですが、下記のFrickrにはモザイクでもないのに8Kの解像度でアップしてます。良ければぜひダウンロードしてご覧ください。

Cone, Rosette and sh2-284

Date: 2023-1-13

Location: kamiwari-saki, miyagi

Camera: Canon EOS6D

Optics: Zeiss Apo Sonner 135mm F2@F2.8

Exposure: 120s x 135frames (total 4h10min), ISO1600

Processing: Pixinsight, Photoshop

冬の天の川を対角構図にして、コーン星雲からバラ星雲にかけてと、さらにその南西に点在するsh2-284,283,282を一枚に据えてみました。

おわりに:EOS6Dはまだまだ現役

Drizzle+BXTで、低画素高感度のEOS6Dの性能を150%以上引き出せたなと感じます。ツインで所有している6D、過去の再処理も含めて、だいじに壊れるまで使っていきたい所存です。

 

エリダヌス座のNGC1269/1291と、銀河の進化

オリオン座の南西、エリダヌス座の方向に見えるNGC1269/1291をチリから撮影しました。

エリダヌスとはギリシャ神話の大河のことだそうです。その1等星アナルケルは南端に位置していて、「川の終わり」という意味であることから、流れは空の北から南に向かっているようです。この銀河は星座の中流から下流のあたりに位置しています。東北の阿武隈川で言えば白石市あたりですね。

日本からの南中高度はわずか15度ほどです。

NGC1269/1291

NGC1269/1291
Date: 2023-11-5~2023-12-3(6days)

Location: El sauce Observatory, Chile
Camara: ASI294MM-Pro
Exposure: L=240s x 287f, R=240s x 69f, G=240s x 85f, B=240s x 91f (Total 35h28min)
Processing: Pixinsight, Photoshop

珍しいことに、NGC番号が二つ振られています。発見した研究者のミスで、カタログに2重に登録されていることがしばらく見落とされていたのだそうです。今でも1269と1291の二つの番号で参照されています。StellariumだとNGC1269と表示されている一方、Wikipediaの見出しはNGC1291となっています。

その不思議な構造

銀河の形って、見るにつけ不思議です。

楕円や渦巻、入り組んだ暗黒帯やスターバースト・・・などなど。基本的には、無数の恒星(とダークマター)がお互いに重力で引っ張り合いながら集団運動することで実現しているだけの構造ですが、そうとは信じられないほどに模様が多彩です。

今回撮影したNGC1269/1291は、明るい円形のコアと、それに比較してかなり淡い周辺部の二重構造を持っています。このような形をした銀河は他にもあって、例えばM77やM94がとてもよく似ています。

上の二つのメシエ天体はどちらも中心核付近の光のスペクトルに特徴があって、それを最初に見出したカール・セイファートさんにちなんで「セイファート銀河」と呼ばれています*1

しかしながら意外なことに、NGC1269/1291はセイファート銀河ではないそうです。単に形が似ているだけのことみたいです。紛らわしいことです。

じゃあ何なの?と思ってさらに調べてみましたら、こちらのサイトにこのような記事を見つけました。下の図はそこからの引用です。

引用元:http://www.galex.caltech.edu/media/glx2007-05f_img01.html

なんでもNGC1269/1291は「過渡的な銀河(Transitional Galaxy)」で、NGC300のような若い渦巻銀河が、年老いた楕円銀河へと変化していくちょうど途中の姿だと考えられているそうです。

NGC300は南天の代表的な銀河で、その姿はちょうどM33によく似ています。楕円銀河は顧問が撮影した範囲だとM87などがその例です。これらを並べてみると次の画像のようになります:

左から、銀河の「青年・中年・壮年」の姿というわけです。

 

では改めて「中年の銀河」NGC1269/1291をクローズアップで見てみましょう:

全体的には黄色っぽく、この銀河を構成する星々が、年老いていることを示唆しています。周辺部にはわずかに青みがかった腕があって、そこにはH2領域も散在しています。

ここは若い渦巻銀河だった頃の名残なのでしょう。

いっぽうで中心部分は、青い要素は全くなく構造も乏しいです。しかしよーく見ると2重の渦巻き構造が見えています。

中心分のクローズアップ。外側の渦巻き(左)と内側の渦巻き(右)

この渦巻きも次第に消えていき、やがて楕円銀河状ののっぺりした構造になるのでしょうか。

 

ちょうど丹羽さんも、最近この銀河を撮影していました。同じく構造の面白さを指摘されています

コチラもぜひ、合わせてごらんください。

それでは。

 

*1:セイファート銀河の代表例はM106です。M106を正面から見たらちょうどM94やM77のような姿をしているというわけですね

Starnet2開発者による、深層学習ノイズ処理プログラムDeepSNRが良い(Pixinsight)

新年あけましておめでとうございます。今年もみなさまのお役に立てる情報を発信できるよう、頑張ってまいります。

 

さて、海外の掲示板をいろいろ斜め読みしていましたら、Pixinsightで利用できるディープラーニングを使ったノイズ処理プログラムを見つけましたので紹介したいと思います。あのStarnetを開発したMikita (Nikita) Misiuraさんが開発されたそうです(あれ?ひょっとして日本の方?<違いました)。

www.deepsnrastro.com

無料版NoiseXTerminatorといった位置づけになるソフトだと思います。インストール方法はそれほど難しくないので後述するとして、まずは効果を検証してみます。

Deep SNRの検証

インストールが済むと、次のようなウインドウで操作ができるようになります。対象画像がリニアかどうかを選ぶチェックボックスと、作用の強さをコントロールするつまみがあるだけです。

さっそく、ASI2600MCで撮影したリニア画像に対して適用してみました。

Strengthはデフォルトの1で適用しています。ノイズはきれいさっぱり処理されたと同時に、背景の淡い分子雲の起伏も良く見えるようになりました。ディティールも失われていないように見えます。

次は、有料ソフト(2024年1月時点で59ドル95セント)のNoiseXTerminator(NXT)と比較してみます。

NXTもデフォルトのDenoise=0.9、Detail=0.15で実行しています。パラメーターの追い込みによって結果は変わるかもしれませんが、DeepSNRはディティールの処理もかなりのもので、まるでBXTとNXTを同時に掛けたような効果です。ただしこの結果だけを見る限りですが、無い星が発生してしまっているようでもあり、この辺りはさらに検証が必要そうです。

だいじな注意点

元サイトの注意書きを見ると、DeepSNRは、現時点ではモノクロカメラを使ってRGB合成したカラー画像にしか適用できないとあります。つまりOne Shot Color(OSC)カメラの画像に対しては使えないということです。この辺りは、どんな画像でも処理してくれるNXTとの差になっています。

しかしながら、上のNXTとの比較はOSCカメラであるASI2600MCで行っています。顧問が検証した範囲では、どうやらワンショットカラーのカメラでもCFADrizzleでカラー化行えば十分に良い結果が得られるようでした。

下の比較はASI2600MCのデータについて、CFADrizzleでカラー化した画像と、通常のDebayerでカラー化した画像に対して、それぞれDeepSNRを実行した結果の比較です。

みると判るようにDebayerで処理した画像では、ノイズ処理が上手く行っていないように見えます。

 

インストール方法

こちらのサイトから必要なファイルを落とします

すでにStarnetをPixinsightにインストール済みの場合とそうでない場合で、ダウンロードするファイルが異なるので注意してください。インストールの方法は同梱のReadme.txtに書いてありますが、Windowsの場合のみ方法をメモしておきます:

  1. Pixinsightを閉じる
  2. ダウンロードしたフォルダに含まれるファイルを、すべて
    C:\Program Files\PixInsight\bin\
    にコピー。
  3. Pixinsightを起動して、Process>Modules>Install Module...を実行

  4.  

    開いたウインドウで ”Search”をクリックすると、DeepSNRが表示されるので、つづいて”Install”をクリックすれば完了。

以上です。

 

2023年の締めくくりにカモメ星雲を撮影しました

「全天で最も美しいHα領域の散光星雲を3つ挙げよ」と言われたら、皆さんは何を選ぶでしょうか? うーん、私ならランク付きで

  1. カモメ星雲
  2. 馬頭星雲
  3. なし
  4. なし
  5. 猫の手星雲から干潟星雲かけて

を挙げます。「3、4がなくて」ってやつです。皆さんのランク付けも、良ければコメントで教えてください!

そのカモメ星雲を、今年の締めくくりに撮影しました。

IC2177 three panel mosaic

Date:2023-12-7,11,12,19

Location: El sauce Observatory, Chile

Camera: ZWO ASI294MM-pro

Optics: Vixen R200ss corrector PH

Exposure: 240s, gain120 (R,G,B,L)=(16,16,16,40)frames, 3 panels, total 17.6hours

Processing: Pixinsight, Astro pixel processor, Photoshop

 

ちょうど南北に長く広がっている星雲で、横長の屏風構図に綺麗にハマってくれました。フォーサーズセンサー+760mmの画角で、こんな感じの3枚モザイクとなっています

 

天文マニアなら、どんな星雲にだって美しい要素を見出せる——ということは必ずしもなくて、退屈であまり撮影する気になれない星雲も正直あります。

反対に、何度も撮影したくなるような美しい散光星雲もあります。そういった星雲が備えている要素として、以下の三つがあると顧問は思っております:

  1. 暗黒帯を伴う特徴的な構造がある。
  2. 青い星が、赤い星雲に対するアクセントとして輝いている。
  3. O3成分の分布が、赤一辺倒にならない色の変化を与えている。

カモメ星雲はこれらの要素をすべて備えていると思うんです。

1. 暗黒帯を伴う特徴的な構造

まずはカモメの頭部です。

「目」のように見える恒星はHIP34116の番号が振られているB型の主系列星で、そこから帯状に暗黒帯が伸びているのがカモメの口のようにみえるのでしょうか。周辺のガスがこの星に照らされている様子もよくわかり、立体的な構造が想像できますね。

次は右腕の「ひじ」のあたり。

この領域単独で「Parrot星雲」と名前がついています。暗黒帯が周辺の青い星に照らされているようで、青黒く光っているように見えます。写真右側の照明弾を打ち上げたような小さな構造も面白いです。

最後に、右腕の先端部分。

星雲全体を通していちばん明るい領域です。中心の星はB型の主系列星で、その放射線で周辺が複雑な構造に輝いています。

2. アクセントになる青い星

例えば、右脇あたりに輝いているこの星の周辺が印象的です。

光星雲は、星間ガスが周辺の星から放射線を受けて、それぞれの物質特有の光(水素ならHα線)を発しているわけですが、星に近い領域はその星の色そのもので光って見えることがあります。あまりに近いために、単純な散乱光がHα光上回るのでしょうか。星から離れるにつれて青から赤へのグラデーションが現れて、美しさの要因になっています。

3. O3成分の分布

翼の下側(方角では西方向)では、赤からマゼンダへの色の変化が見えます

この辺りは下(西)にいくほどO3の成分が濃くなっていて、星雲全体が単調な赤い色にならず色彩の豊富なグラデーションが現れます。同じような色の変化は、北アメリカ星雲の内陸部などが同じ傾向ありますが、カモメ星雲では翼のフォルムがグラデーションとして現れているように見えて、美しさが引き立っているように感じます。

終わりに

「今年のまとめ」はやらずに、この記事を持って、2023年を締めくくりたいと思います。今年はM42やM31など、比較的メジャーな対象をたくさん撮り、後半では天体写真の芸術性について考えたりもしました。

来年はとっても淡いマイナー路線を頑張ってみようと思っております。