天文はかせ幕下

往年?の名機EOS6Dの性能を、Drizzle+BXTで150%引き出す

冒頭の写真は、135mmF2レンズのZeiss Apo Sonnarを取り付けたCanon EOS6Dであります。顧問にとっては以前の定番ザブ機材で、Kenko SkyMemoRに載せて放置撮影をよくやっていました。

135mm+フルサイズセンサーの画角はそこそこ広いです。例えば白鳥座を撮影すれば北アメリカ星雲からサドル付近までがすっぽり入ります。そのため、数シーズンも活用すると、メジャーな対象はあらかたとり尽くしてしまうことになり、実はここ最近、めっきり出番が減っていました。

またEOS6Dも、発売はもう12年前の古いカメラです。近年は天体用冷却CMOSカメラに押されて、国内の天文ファンの中でもこのカメラを使用している方はだいぶん減ってきているのではないでしょうか。顧問も、棚に鎮座している6Dを見るにつけ

ハードオフに売りに行こ🎵ハードオフに売りに行こ🎵」

というメロディーが自然に脳内に浮かんでくるようになっていました。しかし!

「低画素機」の利点と欠点

EOS6Dが天体撮影の人気機種であった理由は、低画素ゆえの高感度性能にあったと思います。フルサイズセンサーで2020万画素ですから、これより画素数の少ないカメラはSony α7sくらいしかありません。

しかし低画素機ではApo Sonnarのような良いレンズの性能を十分に引き出せないことが起こります。これは実際に星空を撮影した結果を拡大してみればよくわかります

この画像は、実際にEOS6DとApoSonnarでの1枚の撮影結果を、強く拡大したものです、小さな星は4~9ピクセル程度の大きさで写っており、星の周辺にマゼンダやオレンジ、緑などの「偽色」が浮いているのがわかると思います。これは「アンダーサンプリング」と言われる状態で、レンズがセンサー面に投影する小さくシャープな星像に対して、センサーの解像度が追い付いていない状態です。

偽色が表れる理由も、図にしてみるとよくわかります。まずこれが星です

6Dのベイヤー配列はRGGBなので、この星を「アンダーに」サンプリングすると、次のようになります。

このように星の大きさに対してピクセルが十分に小さくない場合には、星のエッジの部分で、

  • RとBが感光してGに光が当たらない→マゼンダの偽色
  • RとGが感光してBに光が当たらない→茶色っぽい偽色
  • BとGが感光してRに光が当たらない→シアンっぽ偽色

などということが起こるわけです

低画素機は、Drizzle Integrationが効く!

ところが、6Dのアンダーサンプルなデータの問題点を解決する方法があって、それがDrizzle Integrationです。これは、それぞれで写り方が少しづつ違っている複数枚の画像のデータを利用して解像度を数倍に高める画像処理の技術です。詳しくは蒼月さんのyoutubeをご覧ください。

この方法が、特に6Dの場合はとてもよく効きます。

左が通常の処理、右がピクセル数を縦横2倍にするDrizzle処理を行った結果です。小さな星が密集している部分に注目すると解像度も2倍とまではいかないまでもかなり向上しているのが分かると思います。さらに星の周りの偽色もキレイに消えていますね。

(註:撮影はSkyMemoRのノータッチで行いました。Drizzleに必須なディザリングは行っていません。ガイドエラーがディザリングの効果を出しているようですが、本来ならディザリングをした方が良い結果に成ると予想されます)

さらにBXTが効く!!

BXT(BlurXTerminator)は、AIをつかったDeconvolution処理で、その驚くべき効果については以前紹介しました:

Deconvolutionの原理をおおざっぱに説明します:もし完全に理想的な光学系で撮影し、大気の揺らぎも全く無くガイドも完璧なら、一つ一つの星は1ピクセルの点で写るはずです。しかし現実にはボヤっと広がった楕円形に写るわけです。そのボヤケた星をPSF関数(Point Spread Function)で表現し、それを理想的な点像に近いPSFに戻す変換を、画像全体に掛けることで解像度を回復させよう、というのがDeconvolutionです。

ですのでDeconvolutionでは、星のPSFを正しく評価することが大事になります。しかしながら、上記のアンダーサンプルな撮影では、星がギザギザで偽色も表れてしまっているのでPSF評価が上手く行きません。実際に試してみると次のようになります

左が元画像、右がBXT処理後の結果です。星像は丸く小さくなっていますが、星の周りに暗く落ち込んだリンギングが目立っており、星雲の構造も処理前後であまり変化していませんね。

そこでDrizzleが功を奏します。

Drizzleによって星のPSF測定の精度が向上するので、BXTの結果も良くなるようなのです。

こちらはとても上手く行っています。星の周りの落ち込みも無くなりましたし、星雲の構造もかなり改善されています。毎度ながら、これは本当に驚きます。

Before-Afterギャラリー

あまりに驚くので、元画像と2倍Drizzle+BXTの画像をいくつかの場所で比較してみたいと思います。キャプションは入れるまでもないので省略しました!

クリスマスツリー星団の周辺

バラ星雲の中心部

タツムリ星雲のあたり

名前不明の星団

最後の星団では筋状のアーティファクトが見えているように見えますね。こういうこともあるようですので注意しないと。

リザルト

なんだか蛇足のようになってしまいましたが、今回の神割崎遠征では、強風が予想されていたこともあり、焦点距離が短くガイドが簡単なEOS6DとApo Sonnarのセットを久しぶりに持ち出しました。最後にこのセットを使ったのは2021年10月で、その頃はまだBXTは無かったし、画像のカラー化におけるDrizzleの重要性も認識できていませんでした。

今回は最新の画像処理を適用して、その効果に驚きました。EOS6Dは本来6Kの解像度しかないのですが、下記のFrickrにはモザイクでもないのに8Kの解像度でアップしてます。良ければぜひダウンロードしてご覧ください。

Cone, Rosette and sh2-284

Date: 2023-1-13

Location: kamiwari-saki, miyagi

Camera: Canon EOS6D

Optics: Zeiss Apo Sonner 135mm F2@F2.8

Exposure: 120s x 135frames (total 4h10min), ISO1600

Processing: Pixinsight, Photoshop

冬の天の川を対角構図にして、コーン星雲からバラ星雲にかけてと、さらにその南西に点在するsh2-284,283,282を一枚に据えてみました。

おわりに:EOS6Dはまだまだ現役

Drizzle+BXTで、低画素高感度のEOS6Dの性能を150%以上引き出せたなと感じます。ツインで所有している6D、過去の再処理も含めて、だいじに壊れるまで使っていきたい所存です。