天文はかせ幕下

2023年の締めくくりにカモメ星雲を撮影しました

「全天で最も美しいHα領域の散光星雲を3つ挙げよ」と言われたら、皆さんは何を選ぶでしょうか? うーん、私ならランク付きで

  1. カモメ星雲
  2. 馬頭星雲
  3. なし
  4. なし
  5. 猫の手星雲から干潟星雲かけて

を挙げます。「3、4がなくて」ってやつです。皆さんのランク付けも、良ければコメントで教えてください!

そのカモメ星雲を、今年の締めくくりに撮影しました。

IC2177 three panel mosaic

Date:2023-12-7,11,12,19

Location: El sauce Observatory, Chile

Camera: ZWO ASI294MM-pro

Optics: Vixen R200ss corrector PH

Exposure: 240s, gain120 (R,G,B,L)=(16,16,16,40)frames, 3 panels, total 17.6hours

Processing: Pixinsight, Astro pixel processor, Photoshop

 

ちょうど南北に長く広がっている星雲で、横長の屏風構図に綺麗にハマってくれました。フォーサーズセンサー+760mmの画角で、こんな感じの3枚モザイクとなっています

 

天文マニアなら、どんな星雲にだって美しい要素を見出せる——ということは必ずしもなくて、退屈であまり撮影する気になれない星雲も正直あります。

反対に、何度も撮影したくなるような美しい散光星雲もあります。そういった星雲が備えている要素として、以下の三つがあると顧問は思っております:

  1. 暗黒帯を伴う特徴的な構造がある。
  2. 青い星が、赤い星雲に対するアクセントとして輝いている。
  3. O3成分の分布が、赤一辺倒にならない色の変化を与えている。

カモメ星雲はこれらの要素をすべて備えていると思うんです。

1. 暗黒帯を伴う特徴的な構造

まずはカモメの頭部です。

「目」のように見える恒星はHIP34116の番号が振られているB型の主系列星で、そこから帯状に暗黒帯が伸びているのがカモメの口のようにみえるのでしょうか。周辺のガスがこの星に照らされている様子もよくわかり、立体的な構造が想像できますね。

次は右腕の「ひじ」のあたり。

この領域単独で「Parrot星雲」と名前がついています。暗黒帯が周辺の青い星に照らされているようで、青黒く光っているように見えます。写真右側の照明弾を打ち上げたような小さな構造も面白いです。

最後に、右腕の先端部分。

星雲全体を通していちばん明るい領域です。中心の星はB型の主系列星で、その放射線で周辺が複雑な構造に輝いています。

2. アクセントになる青い星

例えば、右脇あたりに輝いているこの星の周辺が印象的です。

光星雲は、星間ガスが周辺の星から放射線を受けて、それぞれの物質特有の光(水素ならHα線)を発しているわけですが、星に近い領域はその星の色そのもので光って見えることがあります。あまりに近いために、単純な散乱光がHα光上回るのでしょうか。星から離れるにつれて青から赤へのグラデーションが現れて、美しさの要因になっています。

3. O3成分の分布

翼の下側(方角では西方向)では、赤からマゼンダへの色の変化が見えます

この辺りは下(西)にいくほどO3の成分が濃くなっていて、星雲全体が単調な赤い色にならず色彩の豊富なグラデーションが現れます。同じような色の変化は、北アメリカ星雲の内陸部などが同じ傾向ありますが、カモメ星雲では翼のフォルムがグラデーションとして現れているように見えて、美しさが引き立っているように感じます。

終わりに

「今年のまとめ」はやらずに、この記事を持って、2023年を締めくくりたいと思います。今年はM42やM31など、比較的メジャーな対象をたくさん撮り、後半では天体写真の芸術性について考えたりもしました。

来年はとっても淡いマイナー路線を頑張ってみようと思っております。