天文はかせ幕下

エリダヌス座のNGC1269/1291と、銀河の進化

オリオン座の南西、エリダヌス座の方向に見えるNGC1269/1291をチリから撮影しました。

エリダヌスとはギリシャ神話の大河のことだそうです。その1等星アナルケルは南端に位置していて、「川の終わり」という意味であることから、流れは空の北から南に向かっているようです。この銀河は星座の中流から下流のあたりに位置しています。東北の阿武隈川で言えば白石市あたりですね。

日本からの南中高度はわずか15度ほどです。

NGC1269/1291

NGC1269/1291
Date: 2023-11-5~2023-12-3(6days)

Location: El sauce Observatory, Chile
Camara: ASI294MM-Pro
Exposure: L=240s x 287f, R=240s x 69f, G=240s x 85f, B=240s x 91f (Total 35h28min)
Processing: Pixinsight, Photoshop

珍しいことに、NGC番号が二つ振られています。発見した研究者のミスで、カタログに2重に登録されていることがしばらく見落とされていたのだそうです。今でも1269と1291の二つの番号で参照されています。StellariumだとNGC1269と表示されている一方、Wikipediaの見出しはNGC1291となっています。

その不思議な構造

銀河の形って、見るにつけ不思議です。

楕円や渦巻、入り組んだ暗黒帯やスターバースト・・・などなど。基本的には、無数の恒星(とダークマター)がお互いに重力で引っ張り合いながら集団運動することで実現しているだけの構造ですが、そうとは信じられないほどに模様が多彩です。

今回撮影したNGC1269/1291は、明るい円形のコアと、それに比較してかなり淡い周辺部の二重構造を持っています。このような形をした銀河は他にもあって、例えばM77やM94がとてもよく似ています。

上の二つのメシエ天体はどちらも中心核付近の光のスペクトルに特徴があって、それを最初に見出したカール・セイファートさんにちなんで「セイファート銀河」と呼ばれています*1

しかしながら意外なことに、NGC1269/1291はセイファート銀河ではないそうです。単に形が似ているだけのことみたいです。紛らわしいことです。

じゃあ何なの?と思ってさらに調べてみましたら、こちらのサイトにこのような記事を見つけました。下の図はそこからの引用です。

引用元:http://www.galex.caltech.edu/media/glx2007-05f_img01.html

なんでもNGC1269/1291は「過渡的な銀河(Transitional Galaxy)」で、NGC300のような若い渦巻銀河が、年老いた楕円銀河へと変化していくちょうど途中の姿だと考えられているそうです。

NGC300は南天の代表的な銀河で、その姿はちょうどM33によく似ています。楕円銀河は顧問が撮影した範囲だとM87などがその例です。これらを並べてみると次の画像のようになります:

左から、銀河の「青年・中年・壮年」の姿というわけです。

 

では改めて「中年の銀河」NGC1269/1291をクローズアップで見てみましょう:

全体的には黄色っぽく、この銀河を構成する星々が、年老いていることを示唆しています。周辺部にはわずかに青みがかった腕があって、そこにはH2領域も散在しています。

ここは若い渦巻銀河だった頃の名残なのでしょう。

いっぽうで中心部分は、青い要素は全くなく構造も乏しいです。しかしよーく見ると2重の渦巻き構造が見えています。

中心分のクローズアップ。外側の渦巻き(左)と内側の渦巻き(右)

この渦巻きも次第に消えていき、やがて楕円銀河状ののっぺりした構造になるのでしょうか。

 

ちょうど丹羽さんも、最近この銀河を撮影していました。同じく構造の面白さを指摘されています

コチラもぜひ、合わせてごらんください。

それでは。

 

*1:セイファート銀河の代表例はM106です。M106を正面から見たらちょうどM94やM77のような姿をしているというわけですね