チリリモート作品第5弾になります、タランチュラ星雲です。22.8時間露光です。
Date: 2023-1-14~26
Location: El Sauce, Chile
Optics: Vixen R200ss, CorrectorPH, Astrodon LRGBHaO3 E-series
Camera: ASI294MM-pro
LRGB=151,56,56,55 frames x 120s, gain120
Exposure:
HaO3=82,101 frames x 240s, gain200
Processing: Pixinsight and Photoshop
タランチュラ星雲の中心は緑?
大マゼラン星雲に近くにあるタランチュラ星雲。悩んだのは色です。北半球には、顧問の知る限り、こんな奇妙な色をした散光星雲は、見当たりません。
何が特殊か?それはRGB合成直後の画像をみるとわかります
これはSPCCで色合わせを行った直後の画像で、中心部が緑です。
色合わせが間違っているのかと疑って星沼会で議論したところ、そーなのかーさんや丹羽さんの撮影結果でも、同様に緑になるとのこと。原因はO3の強さではないかという話に落ち着きました。
下の写真は、HaとO3のナローバンド撮影の結果を並べたものです。どちらもバンド幅は5nmです。
なるほど、O3がすごく強い星雲であることが分かります。Linear Fitでそろえた後の中心部の輝度を比べると、O3はHaの3倍ほど明るいです。
O3ってどんな色なのでしょう。波長は約500nmくらいですから、下のスペクトルを参考にするとシアンと緑の中間くらいです。青緑ですね。
では、青緑のO3と赤いHaを混ぜたらどんな色になるのか?それは「色度図」を使うとわかりやすいです。これについてお勉強しましたので、以下でまとめます
色度図で光の混色を考える
これが色度図です。この図の見方を整理しておきます:
まず上に凸の大きな弧がλ=450~650の可視光の波長と色の関係、白い中心部に向かっている曲線が黒体輻射の温度と色(=星の色)を表しています。
縦軸Yと横軸Xの意味:横軸XはB→Rと向かう「赤さの度合い」、縦軸YはB→Gと向かう「緑色の度合い」を表しています。
度合い、というあいまいな表現を具体的に説明すると、以下のようになります:
任意の色はR,G,Bの各値で表されるので、3次元空間上の各点がそれぞれの色に対応します。しかし、各R,G,Bは勝手に好きな値をとることができるわけではなく、輝度の最大値(=白)を
R=G=B=1/3
と定めたとしたら、R+G+Bは1以上にはなりません。つまり
R+G+B < 1
である部分の空間ですべてのRGB色が表されるわけです。上の色度図はR、G、Bの3次元空間をR+G+B=1で切り取った平面上の色を表しています。ムリヤリ図にすると、次のような形です。
(R,G,B)と(R',G',B')の混色は、この二つのベクトルの和(R+R', G+G', B+B')の直線と、R+G+B=1の平面の交点に位置することになります。
HaとO3の混色は、上図のように、それぞれの色の結んだ線分上の色になります。つまり、それぞれの輝度が同じなら混色はほぼ白になります。O3が強ければ青緑、Haが強ければ赤紫ですね。タランチュラ星雲の中心部が緑色になるのは正しかったわけです。
しかしながら、「緑色の星雲かー、嫌だなあー」と顧問は熟考し、O3をBに大目に割り振りました。最終的な作品は冒頭のような仕上げになりました。
いったい何のための勉強だったのか?すみません。