天文はかせ幕下

LRGB合成の基本的なことと、トラブル対策など

はじめに

天体写真撮影を始めて10年弱。顧問はこれまで、もっぱらカラーカメラで撮影してきました。

ところが最近、チリに設置した機材がASI294MMであることもあり、本格的にモノクロカメラのLRGB撮影に向き合う必要性が出てきました。やってみるとこれ、案外難しい。単に教科書通りに行うだけでは、色がズレたり飽和してしまったりと言ったエラーが頻出します。

このエントリーでは、顧問がこれまでに理解した範囲で、

  • モノクロLRGB撮影
  • LRGB合成の基本
  • ありがちなトラブルと対処法

をまとめておきます

LRGB撮影編

使用機材

Astrodon E-seriesのLRGBフィルターを、ZWOのフィルターホイールに装着して、撮影をしています。鏡筒はVixenR200SS、レデューサつけてf=760mm、F値3.8です。

撮影手順

Lを3枚に対して、RGBを各1枚の割合で撮影します。撮影ではNINAのシーケンサーを使って

L→L→L→L→L→L→R→R→G→G→B→B

の順で撮影ループを回しています。

これについては別の方法もあります。すなわち、撮影対象がまだ低い時間帯から

R→R→R→R→G→G→G→G→B→B→B→B→L→L→L→L→L→L→L...

という感じで、低空でR、南中したころにBを撮る、というようなタイムテーブルで撮影する方法です。

フィルター交換にともなってピント合わせが必要な場合は効率を考えて後者の方法が良さそうです。しかし、シーイングや天候の変化によって各色のデータに質の差が生まれてしまう場合があります。そうすると、あとあとのLRGB合成でエラーが発生することが多いです。

我々がチリで使用しているAstrodinのフィルターの場合、幸いなことにフィルター毎のピント移動はほぼ無視できるようなので、L、R、G、Bを順繰りに撮影していく方法をとっています。

LRGB合成編

以降の処理は、Pixinsightの使用を前提にしています

0.前処理(マスターファイルの作成)

撮影したLRGB全ての画像をつかって、マスターライト画像を作ります。このとき、Lに比べて各R,G,BはそれぞれSNが悪いので、PSF Signal Weightの重みをつけて、スタックします。

次に、各R,G,Bをそれぞれ別にスタックしてマスターファイルを作っておきます。

この辺りの処理は、特に注意すべき点はないです。ちょっとした便利技として、各R,G,BをStar Alignmentするときの基準画像を、先に撮影したマスターライト画像に選んでおくと、全てのマスターファイルの星の位置が初めから一致していて、その後の処理が楽です。

以下が、作成したL画像と各RGB画像の例です。それぞれ㎝と名前を付けておきます。

左上から右下にかけて、L、R、G、Bの各マスターファイル

1.まずはLinear Fit

スタック直後の画像を、そのままLRGB合成すると、各フレームの明るさがバラバラなので、色がめちゃくちゃになります。まずはLiner Fit機能を使って、各フレームの明るさを合わせます。

Linear Fit プロセス

Linear Fitの適用は星の位置合わせが済んでいる画像に行うのが前提なので注意してください。ここでは下の画像のように、基準画像をLに選んでおいて、残りの画像に▷マークをドラッグして明るさを合わせます。

Lを基準画像として、RGBの明るさをLiner Fitする

Linear Fitの中身について気になる方は、丹羽さんのブログが参考になります

2.RGB合成をして色合わせ

LRGB合成を行う前に、Channel CombinationプロセスをつかってRGB合成を行いカラー画像をつくっておきます。

Channel Combination

上のように、ColorSpaceをRGBに選んで、各マスターファイルを指定したら●マークをクリックするとRGB合成が実行されます。

生成されたカラー画像

このカラー画像に対して、PCCやSPCCなどを使ってあらかじめ色合わせをしておきます。

3.LRGB合成

L画像に対して、必要に応じて被り補正やDeconbolutionを行ったのち、最後に、LRGB合成をします

LRGB合成の実行。RGBのチェックを外して、Lを指定した状態で▲をカラー画像にドラッグ&ドロップすると実行できる。

下はLRGB合成後と合成前の中心部の比較です。

質の良いL画像を合成することで、ノイズが減り解像度も上がっていることが分かると思います。かわりに彩度が少し弱くなりました。それは、この後のストレッチでカバーしていくことになります。

以上が、おそらくプロパーなLRGB合成の方法だと思います。これでうまくいけば、ラッキーです。しかし、実際にやってみるとエラーが起こることが多いです。以下では、典型的なエラーの1例と、その対処法を述べます。

アリがちなトラブルの1例と対処法

輝星の中心部で色ずれ

明るい星の中心で、このように色がおかしくなることがあります。

この星のRチャンネルを表示して拡大するとこんな風になっています

L、R、G、Bの各画像に全くエラーがなくても、LRGB合成後の画像はこのように破綻してしまいます。このような色ズレ、星沼会で議論していた際に丹羽さんに教わったところによると、LRGB合成ではよくあることなのだそうです。経験が薄い顧問は知りませんでした。

でも、なぜ? 

それを理解するために、RGB合成後のカラー画像からモノクロ画像を生成します

をクリックして出て気が輝度画像にLcと名前をつけておきましょう。

Lc画像(右)とL画像(左)

顧問の試した範囲では、LRGB合成直前の状態で

Lc > L

である場合に色ずれが起こっていました。つまり、RGBカラーの画像の輝度が、L画像の輝度を上回っていると、LRGB合成で色ズレが起こるようです。このような事態は、L画像にDeconvolutionやBlurXTerminatorを施して、Lだけ星を小さくした場合や、L画像の撮影時だけシーイングが良好で、RGB画像に比べて星が小さい場合には同じことが起こりがちです

でも、そうとわかれば対処はそんなに難しくありません

対処法1 LRGB合成前にL画像をストレッチ

一つ目は、LRGB合成を行う前に、L画像に軽くストレッチをかける方法です。下の写真はLRGB合成を行う前のL画像(左)とLc画像(右)のある星の中心輝度を表示させたものです。L画像の星の中心輝度が0.72なのに対して、Lc画像の星の中心輝度が0.94で、

Lc > L

となっています。実際にこの星はLRGB合成後に色ズレを起こしていました

そこで、HistogramTransformationプロセスを使って、下のようにハイライト側のスライダを左に寄せるストレッチを行って、L画像の星の輝度がLc画像を上回るまで、L画像を強調します。

こうすることでLRGB合成後の色ずれを防ぐことができました。

ただこの方法には一つ欠点があって、LRGB合成のあと彩度が落ちます。カラー情報に対して輝度情報だけにストレッチをかけているのでこれは当然の結果です。

それが気に入らないという方には、次の方法が有効かもしれません

対処法2 Lc > L の領域をマスクで保護

Pixel Mathを使って

とすると、Lc>Lの部分だけを処理から除外する下のようなマスクが作れます

そしたらこのマスクを適宜強調してグレーの部分を更に黒くしたうえで、下の画像に示した手順でマスクを適用してから、LRGB合成を実行します

 

顧問が試した範囲では、この方法でも星の色ズレを防ぐことができ、かつLRGB合成後の彩度も落ちないのでゴキゲンでした。

ただ、この後のストレッチのやり方によっては、星のフォルムがおかしくなる場合がありました。その場合は、マスクにボカシをかけるなど工夫が必要です。

ちなみにこの方法は、星沼会で議論している最中、そーなのかーさんに示唆された方法です。ありがとうございました。

(後日追記:この方法でも上手く行かない場合は以下のエントリで紹介した方法が有効かもしれません

snct-astro.hatenadiary.jp

)