天文はかせ幕下

三裂星雲、成り立ちを空想して楽しむ

コチラは2017年5月、1年生の新入部員を連れて白石スキー場に出かけた時に撮影した、三裂星雲M20です。

2017年、白石蔵王スキー場で撮影。MT-200とEOS60Daで

日本からは高度が低く、単独で写すには800mmくらいの焦点距離が必要。明るい割には難易度の高い対象です。この最後の撮影から6年、なかなか撮影の機会に恵まれませんでした。

 

これを撮りたくて仕方がない気持ちが先行し、チリのリモートで季節先取りの撮影をしました。

M20, Trifid Nebula

Date: 2023-4-15,19,23,25,27,30

Location: El sauce Observatory, Chile

Optics: R200ss,

Camera: ASI294MM-pro

Exposure:

L:326 x 120s

R:71 x 120s

G:54 x 120s

B:70 x 120s

(gain 120, offset 5)

Processing: Pixinsight, Photoshop

光かがやく感じを意識し、その輝度に負けないように彩度も上げています。背景が赤いのは天の川の中心部だからこれでいいだろうと。でも、SPCCの出力そのままですとさらに真っ赤で、「さすがにこれは赤すぎてムリ」と悲鳴を上げて、CCの結果を30%くらいブレンドして赤を抑えました。

成り立ちを空想する

まずは事実を並べる

M20は、一か所に輝度の高い青と赤が共存しているのが特徴です。どうしてこんな構造をしているのか、とても不思議です。調べてみました

まず、M20には中心星があります。

M20の中心星

「く」の字に曲がった暗黒帯の脇で輝いている3重星の真ん中の星は「O型主系列星」に分類されていて、HIP88333Aのカタログ番号が振られていています。表面温度は数万Kに達し、太陽の6000Kと比較してとても高温。放射のエネルギーの密度は温度の4乗に比例しますので、星の大きさも含めると、太陽の10万~100万倍のエネルギーを出しているのだそうです。

O型に分類される恒星は銀河系内でも1000万の星に1つ程度の割合でしか見つからないそうで、そんな極めてレアな恒星がM20の中心にあったのです。星雲の輝度分布をみると、まさにこの星の光を吸収して周辺の水素ガスがHα光を放っているように見えます。

その周りの青いガスは、近くの星の光を反射している「反射星雲」です。

周辺は、確かに青い明るい星が目立ちます。特に黄色の矢印で示した二つは「B型主系列星」に分類されていて、O型に次いでエネルギーの高い星です。

これらの星の色をStellariumで調べてみますと、いづれもB-V等級が-0.03,-0.06とほぼ同じ値を持っていることから、これらの星は中心星も含めて同じ時期に生まれた「星団」であることがわかります。

いっぽうで、下の写真は、波長656nmの光だけを通すフィルターで撮影したものです

HαフィルターでみたM20

656nmというのは主に水素が放つ光で、このフィルターは「Hαフィルター」と呼ばれています。単純に言えば、水素の分布をみていることになります。可視光でのM20の姿に比べるとだいぶん団子状で、水素ガスが中心部だけに存在していることが予想できますね。

一方でこちらは500nmのフィルターを通してみたM20の姿です

これはおおざっぱに酸素の分布を表していますが、水素に比較するとぼんやりと広がっています。

そして空想

以上から、三裂星雲の成り立ちを想像してみました(あくまで楽しみのための空想で、正しい保証はありません):

むかしむかし超むかし、よくわからないけれど水素の非常に濃い領域がありました。そこでは活発な星の形成が起こっていて、青い星々がほぼ同時にたくさん生まれました。とくに水素の濃い中心部では、銀河系の中でもめったにお目に掛かれないような、とんでもなく熱くて大きい星が誕生してしまいます。その星のすさまじい放射のおかげで、水素が赤く輝くようになりした。一方で、周辺では水素が使いつくされて、残ったそれ以外のガスやチリが、星団の星々に照らされて青く輝きます。とくに地球から見て北側の青い二つの星はエネルギーが高く、三裂星雲は頭部が青、胴体が赤のだるまのような構造になりました。南側の星も頑張って輝いていますが少しエネルギーが弱く、中心星の強烈な光に負けて、星雲の色は紫っぽくなっています。

おそらく中心部で水素が使いつくされてしまうと、プレアデス星団に似た姿になるのかもしれません。

 

(この空想は楽しいので、シリーズ化するかもしれません)