天文はかせ幕下

撮影結果からシンチレーションを評価する

まえおき

撮影の合間に空を見上げて、3等星くらいの星があまり瞬いていないようだったら、「今夜はシーイング悪くないな」と判断しています。でもこれは多分に主観的です。できれば別日と比較検討できるような指標が得られれば良いですよね。

シンチレーションの大きさを測定する方法は様々あるようです。たとえば焦点距離が数メートルと長く、星像の大きさがほぼ大気の揺らぎだけで決まるような状況ならこちらのような方法で測定できるようです。最近ではDIMM(Differential Image Motion Monitor)という方法があるよく用いられていて、これは大気の乱流をリーズナブルなモデルで評価して、対物レンズに専用のマスクを取り付けて得られた星像からシンチレーションを評価するようです。

しかしこれらをアマチュアの天体撮影でこれらの方法を利用するのは厳しそうです。できれば、その日に撮影した星像からシンチレーションの大きさを見積もることができればありがたい。完全に客観的な指標を得るのが無理でも、自分が利用している光学系に限定して、前回の撮影の時に比べてシーイングが良かったかどうか比較できるような相対的な指標であれば便利だと思います。今回はそれを考えてみました。あくまで相対的な指標ですので、ご注意のうえ、もし「使えそう」と思われたら使ってみていただけると光栄です。また「それよりも良いこういう方法がある」というのをご存じでしたらぜひ教えてください。

前提として、スポットダイアグラムの大きさがわかっている光学系が必要になります。顧問の場合はSharpStar15028NHT(中心付近で約20μm)を使用しました。また以下では、PixinsightのDynamic PSFという機能を使用しています

相対的なシンチレーションの評価

最小のFWTMの測定

まずは星の最小のFWTMを測定します*1。FWTMとはFull Width at Tenth Maximumの略で、星の最も明るい位置を基準としてその1/10の明るさとなるような円の直径を指します。図にすると以下の通りです

スポットFWTMの定義

もちろん「1/10」という基準に根拠はなくこの値の選び方によってシンチレーションの大きさの値は変わりますので、その意味でこの方法は「相対的」です。

さて、撮影したライトフレームのなかで、ガイド状況の良いものを選び、PixinsightのDynamicPSFを開きます

設定の”PSF Models”を、下のように”Gaussian”に選んでおきます

そうしたら、中心付近に写っている星を60ほど、クリックして選択していきます。このとき基本的には写っている範囲でなるべく暗い星を選びますが、星の明るさとFWTMの大きさの傾向を掴むために、いくつか明るい星も選んでおくとよいです。こんかいはこのようにしました:

DynamicPSFウインドウの一番右にある、データ保存するアイコンをクリックして、CSV形式でデータを保存します

保存したCSVファイルをExcelなど用いて開くと、下のように様々な数値が並んでいます

ここにFWTMの値はありません。しかし今は”PSF Models”を”Gaussian”にしてますので、この場合FWTMはFWHMの1.8226...倍になります。エクセルの適当な列に

=1.8226*sqrt(FWHMx^2+FWHMy^2)

といった式を入力して、FWTMの直径を計算しておきます(FWHMxはM列、FWHMyはN列です)。そうしたら、星の明るさを表すSのfluxを横軸にとって、FWTMをプロットしてみます。典型的には次のようなグラフになるはずです

星のFWTMとFluxの関係

ここで、横軸は対数にとりました。グラフは星が暗くなるにしたがってFWTM≒8に漸近していますので、画像に写っている最小の星の直径は8pxと判断できます。

(また別の方法として

Script>ImageAnalysis>FWHMEccentricity

の機能を使ってもFWHMが測定できて、だいたい同じ値がでてくるようです。だたこれは中で何をしているのか分からなかったので、今回は使いませんでした。)

 

そうしたらあとは計算です。撮影につかったASI2600mcのピクセルサイズは3.76μmなので、最小の星の直径はセンサー上で

 8{\rm px}\times 3.76{\rm \mu m}=30.1{\rm \mu m}

です。SharpStar15028HNTのスポットダイアグラム径はおよを20μmなので、これを上から差し引いて

30.1{\rm \mu m}-20{\rm \mu m}=10.1{\rm \mu m}

がシンチレーションによる星の肥大と見積もれます。これを角度に直すには、焦点距離が420mmなので

 \displaystyle 2\times \arctan\left(\frac{10.1{\rm \mu m}}{2\times 420{\rm mm}}\right)

を計算すればよく、秒角に直すと

4.9秒角

が得られます。日本におけるシンチレーションの大きさは4~8秒角程度とのことですので、その範囲に収まる値が得られました。

幾つかの夜で試してみる

SharpStar15028HNTにASI2600MCをつけて撮影した過去のデータを引っ張り出して、シンチレーションの大きさを評価してみます。以下の四つです

  • 2023-11-23 神割崎(シーイングとても良かったと思う)
  • 2023-10-13 高萩ユーフィールド(シーイングふつうだった)
  • 2022-07-30 浄土平(酒飲んでいて正直覚えていない)
  • 2021-12-04 小山ダム(風吹いて悪かった記憶)

それぞれの撮って出しの切り出しは以下の通り

上記の方法でシンチレーションを測定した結果

  • 2023-11-23 神割崎 5.0秒角
  • 2023-10-13 高萩ユーフィールド 6.2秒角
  • 2022-07-30 浄土平 1.3秒角
  • 2021-12-04 小山ダム 6.6秒角

となりました。浄土平の値は異常に低くておかしな気がしますがほかの値はそこそこ記憶に一致しているようには思います。今後もうすこしデータを積み上げて、検証していく必要がありそうです

 

 

*1:典型的には1/10ではなく1/2、つまりFWHM(Full Width at Half Maximum)を用いるのが自然であると思いますが、私の光学系ではFWHMがスポットダイアグラム径よりも小さくなってしまいました。どうやらFWHMでは星像の大きさを過小評価してしまうようです。そのためにここではFWTMを使っています。