事の起こり
SHARPSTARの反射鏡は、たまに星から長い光条がでます。下の写真は、同メーカの13028HNTを使用されているふうげつ* (@fugetsuphoto) | Twitter さんからお借りして引用してます。13028にEOSのcooled6Dを取り付けて、トータル48分の露光によるアンタレス付近です。
写真左下のアンタレスから、右上方向に長ーーい光条が伸びています。まるで人工衛星のようです。顧問も以前に15028HNTでオリオン座の東側を撮影した時、写野外のアルニタクあたりから長い光条が伸びてきてびっくりしたことがありました。
ただこれは好みの問題で、光学系の大きなエラーではないと思います。しかし仮に長さを抑えたい場合、どうすればよいのでしょうか?
光条について、コモンはこれまで
「スパイダーがあるから出るんだろ」
くらいで、しっかり考えたことがありませんでした。しかしながら、上の長い光条の対策を練るには、まず原理から理解したほうがよさそうです。しばしのお勉強ののち、次節を書いておりますので、間違いがありましたがご指摘ください:
スパイダーによる光条を基本から
反射望遠鏡で星に光条がでるのは、副鏡を支えるスパイダーで光が回折するからです。
回折とは、光が障害物で遮られるときに、そこを回り込んで波が伝搬する現象のことです。その厳密な計算はフレネルとかキルヒホッフとかでてきて難しい。コモンはちゃんと勉強したことが無いのですけども、直感的に理解するには、高校で習うホイヘンスの原理で十分です。
上の図は進行する左から右へ進む光が、スパイダー(AB)で遮られている様子を横方向から書いてます。ここにホイヘンスの原理を適用すると、障害物での回折は次のように解釈されます:エッジの先端に新しい波源が発生して、そこから球面波が広がる、と。ですのでセンサー面から点光源を見ている場合、スパイダーの伸びる方向に対して直角に光が伸びることになり、これが光条の原因です。
これだけで予想できることがいくつかあって、列挙しますと
- 光条は、スパイダーの向きに対して垂直で両方向に伸びる
- 光条に七色の干渉縞がでるのは、上図のA点とB点での回折光がお互いに干渉することによる。
- 光条の明るさや長さは、スパイダーの端で回折する光の総光量に比例する。ダブルスパイダーで光条が強くなるのはそのため。
- なので、スパイダーの太さを変えても光条の強さと長さは変わらない。干渉縞の間隔が変わるだけ。なぜなら、センサー面上での星の中心からの干渉の明縞までの距離を、焦点距離を、波長を、スパイダーの太さを、として干渉縞のでる条件は
であるので、を長く(短く)すると、干渉縞の間隔は狭く(広く)なる。
このへんはウェブを探すと、同じ情報が出てくると思います。
じゃあ、どうやって光条を短くするか?
ここからはコモンの予想が混じってきます。
光の回折について計算するときは、ナイフのように鋭くとがった先端を考えます。ナイフエッジでの回折は、先端に一つの点光源があると見なせば良いので、扱いが簡単だからです。一方で鈍な端では、回折光の光源が連続的にボンヤリ分布していると考えねばならず、扱いが面倒になります。
鋭い端に比較して、鈍い端では回折の光源が薄くなり、しかもそれらが互いに干渉するので、おそらく光条がずっと暗く短くなるはずです。
SHARPSTARの長い光条の原因と対策
スパイダーが鋭い
翻って、15028HNTのスパイダーを見てみますと、なされている面取りが小さめです。この鋭い端が長い光条の原因か。”SHARPSTAR”というくらいですから、これは効果を狙っての設計かもしれません。
これを丸くすれば、光条は短く弱くなるのではなかろうか?そういえばVixenのR200SSのスパイダーも丸く、表面がザラザラしてました。
光条を抑える対策
簡単な対策として、スパイダーに不織布を巻いてみます。布の厚みの分だけ端が鈍くなります。効果のあるなしを比較するため、向かい合う片方にだけ張っています。
これで先日、庭先での試写をしてみました。
対策の結果
一等星のアークトゥルスを写屋の中心に入れて、フルサイズのEOS6Dでの撮影しました。撮影場所は自宅庭です。
まずは布を張る対策を施す前の画像です
なぜか長い光条が再現しませんでした。光害の所為なのか、それとも星が中心にあるときは光条は長くならないのか、その点は次回の検証に回します。
次に対策を施した後の画像です
下は中心部の拡大です:
光条は確かに短くなりました。さらに干渉縞も消えました。
まとめ
スパイダーに布を巻くという単純な方法で、光条は確かに短くなりました。ただ、この対策だとあまりにも光条が短くなりすぎかもしれません。あと七色の干渉縞が好みの方もいらっしゃるでしょうから、それが消えてしまうのも善し悪しです。
布を一部だけ巻くようにすれば、効果の強さは調整できそうです。この鏡筒でアンタレス付近を撮影するとき、試してみましょう。
以上です!