天文はかせ幕下

raw現像を取り入れた画像処理の流れ

新しい画像処理フロー

多少なりに考えるところがありまして、天体写真の画像処理のフローを以下のように変更しました。

  1. (入力:デジカメのraw画像のライトフレーム)
    --> RStacker(フリーソフト)でそれぞれをダーク・フラット処理--> (出力:raw画像)
  2. (1.の出力データ)
    --> Photoshop(1000円/月)で黒レベル・ハイライト調整 (具体的には,ハイライトや白レベルを下げて星の白トビ部分の輝度が255未満になるように調整,ヒストグラムのピークが1/3よりも大きい場合は,黒レベル・シャドウを下げて,ピークがだいたい1/3くらいになるように調整),フリンジ処理・彩度強調 (<-これは必ずしもやらなくて良い)をしつつRAW現像--> (出力:16bit tiff, カラースペースはAbode RGB color)
  3. (2.の出力データ)
    --> DeepSkyStacker(DSS) (フリーソフト)でコンポジット
    --> (出力:16bit tiff画像)
  4. (3.の出力データ)
    --> Photoshop(1000円/月)でレタッチ
    --> 最終画像

 これは、海外の掲示板サイト

Astro Image Processing Work Flow, Clarkvision.com

を参考にしました。ちなみに従来の画像処理フローは

  1. (入力:デジカメのraw画像のライトフレーム)
    --> DeepSkyStacker (フリーソフト)でダーク・フラット・スタック処理
    --> (出力:16bit tiff画像)
  2. (1.の出力データ)
    --> Photoshop(1000円/月)でレタッチ

という単純なものでした。

もっとも重要と考える改善点は、赤字でしめしたRAW現像です。これをDSSでのスタック処理の前に行うようにしています*1(RStackerを取り入れた理由は後述*2しますが、便宜上のことにすぎません)。

まずは結果の比較

昨年の12月に五枚沢というところで撮影していたバラ星雲とコーン星雲の写真を比較して見ます。EOS60DaとSigma 70mm Macroでの撮影です。

旧来の方法(下)

rossetta_for_comparison

新しい方法(下)

rosette and cone nebula

今までよりは、photoshopのレタッチで、色が引き出せるようになったと思います。

理由とか背景とか

これまで何枚か天体写真を撮影していて、もっとも不満だったのは画像の「色が貧しい」ことでした。特に青色が。輝星や銀河の淡い部分の青が出ないのです。これはいままで何回か考察していて

  1. そもそもデジカメは青が出ない(冷却CCDでのLRGB合成と比較して)
  2. 光害カットフィルターが青を落としている
  3. そもそもDSSの内部処理は、色が消える傾向がある(?)
  4. 輝星の青は、白飛びして消えている

などが原因かなと考えていました。

この中の4.の要因を抑えるために、RAW現像内のハイライト処理で星が白飛びしないようにパラメータを調整したかったというのが、今回の変更の主な動機です*3

そもそも、RAW現像というのは、RGGBの4つベイヤーから得られたモノクロ画像を合成してカラー画像(tiffやjpg)にするプロセスです。旧来の方法では、DeepSkyStackerがこれをやっていたわけで、そこには何の恣意的な操作もありませんでした。RAW現像によって画像の情報量は落ちるので、そこに何らかの調整が必要なのは確かだろうと思います。

今後は、RAW現像でのパラメター調整を最適化して行きたいのですが、なにか参考になるサイトはないかと探しています。

*1:有償ソフトのステライメージを使っていた(いる)人たちにとっては、RAW現像をしてからスタックするというのは常識かもしれません。しかし我々はDSSから天体写真に入ったためか、RAW現像の位置付けがよくわからないまま現在に至った次第です。

*2:RStackerを取り入れた理由ですが、私の環境ではPhotoShopのRAW現像によってなぜか画像サイズが微妙に変わってしまって、DSSでのダークフラット補正の一括処理ができなかったためです。RAW現像したtiffをDSSに放り込んで今まで通り処理できれば簡単なのですが。

*3:できればFlatAideProの対数現像を、輝星の白飛び抑制に取り入れたいのですが、具体的な処理の仕方がわからない。そもそもFlartAIdeはRAW現像ができるの?

木星(22日)

先週金曜日の夜。宮城県名取市では透明度の高い空ながら、一等星のアークトゥルスなどもチラチラ瞬いていました。Windytyでは、3000m付近での寒気と暖気の境目がちょうど宮城県あたりに停滞しています。この寒気がもうちょっと北上してくれると、シーイングも良くなるような気がします。

あまり期待せず部長のハタナカと木星を眼視してみると、それほど見え味も悪くなさそうだったので、撮影をして見ました。

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2018年6月22日21:07 木星
鏡筒:Meade LX200-30, 直焦点 F10 Kasai trading 2inch x2バローレンズ(F20相当)
カメラ:ZWO ASI174MM CMOSカメラ
フィルター:kenko MC R1
gain:300, 露光:0.01sec*60sec
AutoStackkert!にて20%スタック x1.5Drizzle、Registax6.0でウェーブレット処理。

バローレンズを使ったファーストライトでしたが、それほど良い結果にはつながりませんでしたね。こればっかりは天気だのみです。

イクラ状の星への対策

Nikkor 300mm F2.8 EDと光害カットフィルター(Astronomik CLS CCD)で撮影すると、星像が「イクラ状に」なる

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写真1

は、古いEDレンズの軸上色収差が原因と、「天文リフレクションズ」というサイトを運営されている山口さんからTwitterで助言をいただきました。我々の「イクラ状」は、光害カットフィルタによって特定の波長がカットされたことで、元々あまり目立たなかった収差の影響がより顕著に見えるようになったのかもしれません。

https://twitter.com/tenmonReflexion/status/1007563934704910336

解決策として「赤と青(緑)のボケ量が同じになるようピントを調整すれば解決するかも」とのことです。

たしかに、イクラ状になるのは主に微光星で、その元々の色に関係ないようなので、ピントの微妙なズレが原因そうです。しかし、なかなかに曲芸的なテクニックですよね。

下の写真は、当日撮影していたバーティノフマスクの回折像です。

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写真2:バーティの不マスクの解説像

これを見ると、全体としてはピントがあっているものの、赤と緑のラインに注目すると、それぞれの光はピンずれしているように見えます。しかし実際の星像は、写真1のように赤にピントが合って緑がボケている状態でした。ということは、通常のバーティノフマスクのジャスピン回折像をよしとするのではなく、これよりも緑のラインをもう少しジャスピンへ近づけて、赤をズラすということになりますか。

Nikkor 300mm F2.8 EDのピントリングは手で動かすしか無いので、ちょっと難しいかもしれませんが、今度検証してみます

 

 

 

Nikkor 300mm F2.8 ED と M16わし星雲

先日の13日は梅雨の晴れ間に恵まれました。平日でしたし、学生たちは

「レポートの提出があるので」

といふので、今回はコモンひとりで撮影に出かけて来ました。

この時期、日没後に東から昇ってくるいて座周辺の星雲を撮影しようと思いまして、東の空が暗い福島県霊山の登山口駐車場へ出かけました。

17時半くらいに学校を出発して、薄明が残る時間帯に現地に到着。少し雲が出ていました。この場所、周辺の気流の影響なのか、西風が吹くときは山越えに雲が発生しやすいようなので、冬の時期は避けた方がよさそうです。幸運なことに、この日は雲もじきに晴れて、22時くらいから撮影を開始しました。

夜半を過ぎた頃、山形大地学研究部の天文班の方々が、やって来ました。プラネタリウム作りのアドバイスをいただいたり、持参されたC8でいろんな星雲を見せてもらいました。C8があんなによく見えるとは思いませんでした。またお会いしたいですね。

M16わし星雲

いて座付近のわし星雲を撮影してみました

M16_eagle nebula

2018/6/13 22:00-25:30
カメラ:Canon 60Da 
光学系:Nikkor 300mm F2.8 ED (->F4)  with Astronomik CLS CCD filter
露光:ISO1600 360sec x 22 
マウント:NJP赤道儀、PHD2ガイド
画像処理:DSSでフラット・スタック処理。PhotoShopでレタッチ。

まあ、そこそこ満足いく仕上がりになりました。今回はオートガイドがバキバキに決まりました。カメラとオートガイダからのケーブルを赤道儀本体に固定したのがよかったのかもしれません。歩どまりも100%。DSS上でのスコアも見事に安定しています。

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それと、撮影やレタッチに新しい試みを加えました。小出しに書いていきます。

Nikkor 300mm F2.8 EDの青いコマ収差問題

これまで何回か書いていますが、使用したニコンサンニッパレンズは、部での購入が平成3年。設計が古いため、コマ収差がでます。開放で使用するのはかなりきつくて、F4まで絞っても以下のような周辺像です。

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スタック後にレベル補正だけを施したものですが、周辺ではコマ収差が強く、青のにじみが目立ちますね。このまま強調すると、青にじみも強まって、ひどいことになります。だからといってphotoshopで青にじみを消してしまうと、いっしょに星の色も全部消えてしまうのでよくありません。

これを何とかしたいです。青ハロに対してはL42紫外シャープカットフィルターを使うと軽減できると

ASTERISM(アステリズム) SIGMA AF 70mm F2.8 EX DG MACRO

にて紹介されてました。L42はおおよそ波長400nm以下の光をカットするフィルターです。そういえば光害カットフィルターの透過特性のグラフを見て見ますと、同じように400nm以下をカットする仕様になっていることが多いです。というわけで、今回のわし星雲はNikkor 300mm F2.8 EDと光害カットフィルターの組み合わせで撮影しました。その中心と周辺像は以下の通り。

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なんと、青いにじみがほとんど見えません。これはすごいと思ったのもつかの間、強調処理をしていくと、星(特に微光星)の色バランスが大きく崩れていることに気づきました。拡大してみるとこんな感じ:

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比較的明るい星には緑のハロ、暗い星は芯が赤くなった上に周辺が緑で気持ちが悪いことこの上ないですね。

光害カットフィルタが星の色に悪影響というのは、

などでも触れられていましたけども、上の写真のようにひどくなるという話はあまり聞いたことがなくて、これは多分レンズとフィルターの相性が悪いのでしょうね。次回はL42フィルターを手に入れて撮影して見ます。

バローレンズを導入

倍率が足りないのです

ZWOのCMOSカメラ(ASI174MM)に、全部費をつぎ込んでしまったこともあって、ここ最近は、それを使った惑星の撮影を熱心にやっております。

このカメラのセンサーサイズは1/1.2"型と呼ばれるもので、その対角長は13.4mm。LX200と組み合わせた時の焦点距離はフルサイズ換算で約9800mm(LX200の焦点距離は3048mm)。かなりの長焦点ながら、木星や火星を撮影するには、それでももうすこし倍率をあげる必要がありそうでした。

「バローレンズなら持ってますよ。Vixenの私物ですけど。今度持ってきますよ。」

と部長のハタナカ。ありがたいことです。数日後、

「あの、バローレンズは?」
「ああ、忘れてました。明日持ってきます。」

しかし、翌日になっても「あ、忘れてた」なんて一向に持ってくる気配がありません。私は痺れを切らして、笠井トレーディングという会社の2インチマルチショートバローというのを購入してしまいました(部費はないので私費で。)

で、笠井のバローが届いた翌日、遅ればせでVixenのバローを部長が持ってきてくれました。

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どちらも公称は2倍のバローレンズ。お値段はVixen製が3400円、笠井製が10000円弱。せっかくなので比較して見ます。

望遠鏡とバローレンズの接続

ちゃんと理解しておらず付け焼き刃の知識ながら、バローレンズの倍率はカメラの受光面とレンズ間の光路長と関係していて、光路長が伸びると倍率も上がるようです。「2倍バローレンズ」と書いてあるのだから2倍の倍率で使用するのがもっとも性能が発揮されるのだろう(予想)。つまりバローレンズとカメラの間に、フィルターボックスとか接続環のような光路長を変えてしまうものを介在させるべきではないはずです。そういう考えのもと、以下の写真のように撮影システムにバローレンズを組み込みました。

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Vixenバローレンズの接続。

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笠井バローレンズの接続

A:LX200へ接続する2インチスリーブとM44雌ねじの接続環(M44雌ねじは自家加工)
B:フィルターボックス(タカハシ製?)左側M44雄ねじ、右側M42雄ねじ(Tネジ)
C:M42->M48ステップダウンリング(MPCC KOMA Collectorの付属品)
D:ZWOカメラ
E:笠井2インチマルチショートバローレンズ
F:Vixenバローレンズ
G:31.7mmスリーブと2インチスリーブの接続環(MPCC KOMA Collectorの付属品)

バローレンズと望遠鏡の間に、ゴタゴタがあって光路長が延びていますが、結論から言うと、どちらもピントが出ました。

撮影テスト

近く遠くの鉄塔を撮影しました。

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ひだりの「バローなし」はデジタル2倍拡大で、中央と右の2倍バローを使用した画像はピクセル等倍です。以下、わかったこと:

  • 鉄塔の見かけの大きさがどれも同じくらいなので、おおよそ2倍の倍率が得られているようです。
  • 解像度はバローレンズを使用したほうが確実に高くなった。
  • Vixenバローは、笠井バローに比べるとかなり暗い。Vixenバローを使用した中央写真は、笠井バローを使用した右写真に対して1.5倍のgainで撮影している。

色収差については、モノクロなのでわかりません。おわり

 

 

木星が歳差運動?

昨日(6月7日)撮影していた木星、18分間の短い時間間隔ながら時点の様子がわかるgifアニメを作って見ました。

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あれって思ったのは、なんか”味噌すり運動”してますね。そんなバカなとおもってよく見ると、右上にうっすら写っている衛星も一緒に時計回りに回転しています。そうだ、MeadeのLX200は経緯台だから、追尾とともに視野が回転するのを忘れていました。

すると困ったことになります。

近い将来に導入予定の、RGBフィルターでの3色合成。その際に必要になるDerotation処理*1が難しくなるのじゃないだろうか?困りました。

*1:ご覧の通り木星の自転は早いので、R画像、G画像・・・と悠長に撮影しているうちにどんどん回転してしまう。そこで、木星の模様を画像処理で逆回転させて合成するのをDerotation処理と呼ぶそう。ごく最近知った。ほんとこの分野は発展がめざましい

梅雨入り前、最後の木星

2ヶ月くらい前から、このブログの上部メニューに「Twitter」なるリンクが貼られております。そこをクリックしていただくと、我が天文部員たちが移動式プラネタリウムを作成するための資金集めに奔走している様子をご覧頂けます。

「〇〇全国大会優勝!」といったようなわかりやすい成果を上げられる部には多くの予算が回りますけれど、「天体観測してます」なんて言っても予算は回ってきません。ですので競争的に配分される資金を追わなければなりません。「じゃあ新彗星でも発見したら、校長先生も予算くれるんじゃないの?」とかアドバイスを受けますが、そんなの無理ですから。

さておき。部員たちが近く競争的資金を獲得するためのプレゼンをするので、その資料の中に、「宮城県名取市の光害がいかにひどいか」を示すための写真撮影に行ってきました。その帰り道に、顧問は木星の撮影をしてきましたので紹介いたします。前置きが長くてすみません。

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2018年6月7日21:55 木星
鏡筒:Meade LX200-30, 直焦点 F10
カメラ:ZWO ASI174MM CMOSカメラ
フィルター:kenko MC R1
gain:185, 露光:0.015sec*60sec
AutoStackkert!にて85%スタック x3Drizzle、Registax6.0でウェーブレット処理。

あいかわらずモノクロですけど、これは歴代で見ても最もよく解像しました。