天文はかせ幕下

オフアキシス(off-axis)ガイドへの入門

(注:使用した写真のリングの配置や順番がいろいろ間違っているので、近く差し替えます 2021-2-14)差し替えました2022-11-3

春に銀河を撮影するために、Off-axis guiding(オフアキガイド)を導入しました。

入門者が、新しい機材やシステムを導入するときに、大きな障壁があるいうのは、天体写真撮影に限らずどんな趣味でもよくあることです。顧問もオートガイドや天体用CMOSを初めて導入した時は、とても戸惑いました。

今回の「オフアキ」については、いくつかの販売店のホームページでも丁寧な説明があり、また他にも詳しい解説サイトはあります。しかしそれらを詳しく読んでも、なにか霞がかかったように細かなところが判然とせず、長く悶々としていました。

結局は「買えばわかるだろ」という大雑把な発想で購入に踏み切り、そうして初めて不明点が明瞭になり、「大して難しくはないのだな」という結論になります。そうすると、初期の戸惑いというのは忘れ去ってしまいます。

と言うわけですので、ここでは入門者の視点を忘れる前に,オフアキシスガイドについての基本的な知識,導入について戸惑ったこと,実際の効果,などについてまとめておきたいと思います。

オフアキガイドってなに?

ごく簡単に説明します。

オフアキシスガイドとは,オートガイド用のガイド鏡を用いずに,メインカメラのセンサーに投影される像の一部を借用してガイドを行う仕組みのことです。

下の図は手書きで恐縮ですが,その概念図です。

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赤い色の円柱が,望遠鏡からの光束を示しています。そのフォーカスが合う位置での光束の直径が「イメージサークル」です。一般的にはこのイメージサークルよりも小さいカメラセンサーを使って撮影を行うので,撮像に使われない領域が発生します。そこで,小さなプリズム(図中の三角柱)を光束の隅に配置し,光の一部を光軸の外へ取り出します(これがOff-Axisということですね)。そこに写っている星をガイド星としてガイドを行うのが,「オフアキシスガイド」です。

我々が導入したオフアキシスガイダー

今回導入したのは、ZWO製のオフアキシスガイダーです。

長焦点撮影での利用がメインになります。我々の部ではf=800mmのε200か、f=1200mmのMT-200にASI294MCを取り付けて撮影する際に利用できるよう、選定しました。下がそのブツになります。

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まず左側に望遠鏡、右側にカメラがきつながります。上側のスリーブがガイドカメラを装着する部分で、ここにはQHY5II-Lなどを挿入できます。またM42のネジで固定されているスリーブは取り外し可能で、通常のZWOの非冷却カメラをガイドカメラとして利用することもできます。

カメラ側のオネジ部分も着脱可能になっていて、それぞれM42とM48のネジが切られた2種類のアダプタが用意されています。

望遠鏡側はM48のメネジが切られてます。光路長を変えることなくM48メネジ->M42メネジと変換するアダプタが付属しています。

つまりZWOのオフアキは、望遠鏡側の補正レンズがM48かM42のネジになっていれば、そのまま取り付けられます。下は、我々の部のε-200に取り付けた様子です。

自分の光学系にオフアキを導入可能かどうか判定する

はたして自分が今使っている望遠鏡とカメラの組み合わせに、オフアキを入れることができるのだろうか?この点が一番モヤモヤしたところでしした。

判定基準は、使用する望遠鏡とカメラの二つのマウント面の間に、オフアキシステムの光路長(zwoのオフアキなら16.5mm)を確保できるかどうか、になります。この点はもちろん、オフアキを設計したメーカーの方達が「そうなるように」作ってくれていてはいます。ですが原理を理解していないと思わぬ勘違いを生むこともあります。

多くのばあい望遠鏡には補正レンズがくっついていて、その「メタルバックフォーカス」という距離が十分長いかどうかが問題になります。ついでにカメラのフランジバックについても確認しましょう。

メタルバックフォーカス 

問題になるのは望遠鏡の補正レンズに設定された「バックフォーカス」という長さです。これは補正レンズの後玉のガラス面から、焦点面までの距離を指します。ただそれだとわかりにくいので、「メタルバックフォーカス」といって、補正レンズのマウント面(ネジ込んでいったときに、ネジが止まる面)から焦点面までの距離が参照されることが多いです。

この「メタルバックフォーカス」の値が、メーカーサイトをみても大抵ハッキリしないのです。通常はユーザーがこの長さを意識しなくても望遠鏡が使えるように製品が設計されているので、これは当然といえば当然です。しかしその値を知りたい場合は、たとえばタカハシの望遠鏡なら

などが参考になります。

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多くの場合、50mm以上100mm以下といったところです。またメタルバックフォーカスがわからなくても、それぞれの補正レンズごとのシステムチャート(望遠鏡へのカメラの接続方法の図解)は多くの場合公開されてますので、そこに表示されているパーツの光路長とカメラのフランジバック(後述)を合計すればそれがメタルバックフォーカスになります。

フランジバック

使っているカメラのフランジバックは、そのマウントごとに定まっています。CanonEFマウントなら44mm、ニコンFマウントなら46.5mm、ミラーレスのソニーEマウントなら18mmといった具合です。

一方で、ZWOのCMOSカメラのフランジバックは17.5mmに統一されているようです(QHYCCDカメラのフランジバックは調べてみましたがよくわからない)。

 

以上から、現状でミラーボックスのある一眼レフを望遠鏡に接続している状態なら、カメラをミラーレス一眼かZWOのCMOSカメラに置き換えることで、オフアキに必要な光路長を十分に確保できる計算になります。

次に計算例を見てみます(本当はたくさん例を並べたいのですが、知識不足なもので)

例1:ニュートン鏡に汎用的な補正レンズを装着している場合

我々の部のMT-200という20cmF6の望遠鏡を例にして光路長の計算を考えてみます。この望遠鏡にはバーダー社のMPCC Koma correctorという汎用的な補正レンズをつかっています。

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この補正レンズのメタルバックフォーカスは55mmです。写真手前側のネジはM42、向こう側は2インチスリーブです。

デジカメを取り付ける場合は、下のようになります:

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EFマウント用Tリングの光路長は11mm、キャノンのカメラは44mmのフランジバックを持つので

     11mm + 44mm = 55mm

で補正レンズのバックフォーカスに一致する形です。

このようにカメラを接続しているシステムに対してオフアキを入れる場合は、55mmの光路の中にオフアキの部品が入らなければなりません。この場合、ソリューションは下の写真ようになります

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オフアキ部品の光路長が16.5mm、21mmの延長筒はZWOのカメラの付属品です。

   16.5mm+21mm+17.5mm=55mm

となります。つまり「そうなるように」できているわけです。

ただ、この例はコレクターレンズを除けばすべてZWO製品で揃っているからこうなるわけです。たとえばCelestronのオフアキなら光路長は29mm になるので、8.5mmの延長筒が必要になります。そう言う場合は

☆COSMOの天文工房

などで特注品の延長筒を制作してもらう必要があるかもしれません。 

例2:一眼レフカメラでオフアキを行う場合

ミラーボックスをもつ一眼レフは、ミラーレスカメラや天体用CMOSにくらべてフランジバックが長いので、オフアキ間に挿入するのに制限が大きくなります。しかし、工夫された商品は販売されているようです

このオフアキ部品は、11mmの光路長で作られています。ですので、Tリングでカメラを望遠鏡に接続している状況なら、そのままそれを置き換えるだけで使えるようです。

フィルターの厚さと光路長

ちょっと本題からそれますが、補正レンズとカメラの間に各種フィルターを入れる場合があります。ガラスは屈折率が空気よりも大きいので、フィルターの挿入によって光路長は伸びることになりるので、厳密にやりたい場合は延長筒の長さを補正してやる必要があります。これについては以下のサイトが参考になります。

撮影時の調整

プリズムの位置調整

オフアキに利用するプリズムは、柔軟に位置調整できるようになっています。これも実際に購入して実物を触ってみないといまいちよくわからなかった点です。

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まず、二つのイモネジ(A)(B)を緩めると、プリズムを写真上下方向に動かすことができます。撮影に備えて、ケラレが発生しないギリギリの位置にプリズムを調整します。また3つのイモネジ(C)を緩めると、カメラ自体を60度弱回転させることができますので、センサーの短辺方向にプリズムが来るようにします。

後者の調整は必ずしも自由度が十分でなく、この写真のようにプリズム位置がセンサー長手方向に対してわずかにずれてしまう、なんて自体も起こりました。

ガイドカメラのピント調整

ピント調整はプリズム反射位置を基準にして、下の写真のように,ガイドカメラと撮像カメラのセンサー面がプリズム位置から見て同じじょりになるように調整します。

ZWOからガイドカメラのピント位置を調整するためのヘリカルフォーカサーが販売されてますので,これを使用したほうが良いと思います.

あらかじめ昼間の時間帯に、十分に遠い風景などを利用してあらかじめ調整しておきましょう

ガイドカメラの選定

オフアキ用のガイドカメラは、感度重視になります。

通常のオートガイドでは、100mmから200mm程度のガイドレンズがよく使われるのに対して、オフアキシスガイドでは撮像画面そのものを使ってガイドしていることになるので、小さなピクセルピッチは必要ありません。そのかわり画面に写る星の数はとても少なくなりますので、ピクセルピッチが大きめで感度の良いカメラが適していることになります。

我々の部では、ちょっとお高いですが

を選びました。

ガイドの結果

以上のように、色々と面倒くさいことが多いオフアキシスガイドですが、運用にこぎつければその威力は絶大でした。

2月9日、f=800mmのε200で、NGC2903を4分露光で50枚ほどの撮影しました。そのコマ送りアニメをご覧ください。

風の強い夜で、歩止まりは80%ほどでしたが、それぞれのコマで星がほとんど動いていないことがよくわかると思います。途中星が大きく移動しているのは、子午線反転を行った為です。

通常のガイドカメラでオートガイドした場合のコマ送りアニメと比較してみますと、上の結果が優れていることがわかると思います。赤道儀は同じCEM70G、望遠鏡の焦点距離は620mm、240秒の露光です。

星が一方向にスライドしています。これはガイドカメラに対して相対的に望遠鏡が撓むために起こる現象で、撮像とは別の光学系でガイドを行っている都合上、完全に排除するのは難しい事態です。特にCEM70GのiGuiderは、ガイド鏡がマウント部にガッチリ固定されているのでたわみの影響が大きくなるようです。このようなたわみの影響が表れないことが、オフアキを導入する最大のメリットになります。

おわりに

少し尻切れトンボですが、オフアキガイドについてまとめました。今シーズンの銀河撮影に大いに活躍してくれることを期待してます