天文はかせ幕下

赤い猫の手星雲

いやはや、6月はチリの天候が不順でした。

毎晩8割くらいは曇ってほとんど撮影できなかったのです。昨年の秋から春にかけてはほとんど晴れていて、撮影か忙しすぎるくらいだったのに。

現地からの情報では

「確かに6月は曇りが多いよ。けどこんな天気は初めてさ!全くヒドイぜ!」(テレビショッピング風意訳)

とのこと。

「でも最近、『過去に例がない』って話、毎年聞くよねー」

なんてメンバーと話していました。

天候不順に追い打ちをかけて、望遠鏡R200ssの調子がよくありません。どうやら毎夜のつかいこみで、ドローチューブのがたつきが次第に大きくなっているようなのです。R200ssのドローチューブにはピントを固定するネジがあって、通常これをキュッと締めてから撮影します。ところがリモート運用ではEAFでドローチューブを動かしながら撮影するため、固定ネジの締め付けができません。ここからは推測ですがするとどうなるかと言いますと、撮影中にドローチューブの緩みが原因で、カメラがじわーーーっッと傾いてしまいます。小一時間ほどで収まって撮影ができるようになりますが、光軸がいつもバラバラです。カメラの「収まりどころ」に依存して毎回星像が異なるのです。

これの対策グッズを先月くらいに現地に発送していて、来月には改善できるかなと期待しています。

というわけで6月は天候と望遠鏡がどちらも不順、なかなか撮影に苦労していました。そんな中、M8近くの「猫の手星雲」を撮影しましたので、ご紹介いたします。

猫の手星雲

結果から。

NGC6559 and IC1274

date: 2023-6-18,30,7-5,28,8-1
Location: El sauce Observatory, Chile
Optics: R200ss,
Camera: ASI294MM-pro
Exposure: 
L 120s x 104f gain120
R 120s x 50f gain120
G 120s x 50f gain120
B 120s x 50f gain120
Ha 240s x 250f gain200
S2 240s x 122f gain200
O3 240s x 25f gain200
Processing:Pixinsight, Photoshop

カラーバランスはSPCCの出力から動かさず、さらにHaを添加しています。だいぶん赤に偏って見えるかもしれません。しかしながら、この辺りは天の川の中心部で星間物質が多く、本来とっても赤い領域です。そういった科学的な後ろ盾もさることながら、このくらいのカラーバランスのほうがHα領域が強く出て全体的に力のこもった絵になると顧問は思っております。

画像処理の工夫点について

上述したように、望遠鏡の調子が悪く星像が思わしくありません。スタック後のL画像はこんな様子で、星がぼってり太ってオニギリ型です。

一方で、Ha画像は当然ながらL画像より星像がよろしいです(フィルターで光を制限して光量が少ないため)

そこでStarnet2でそれぞれの画像の星を分離したうえで、L画像の星をHa画像の星に置き換える荒業を実施しました。

強引な手法ですし、拡大してみると星の周りにエラーが出ます。またこんな方法使わなくても星を小さくする方法はたくさんありますし毎回行うことではないと思います。今回はやむにやまれずでした。その効果のほどを比較してみます。得られた画像を単純にLRGB合成した結果がこちら:

これに対して、L画像の星だけをHaの星で置き換えた結果がコチラ

全体の雰囲気が変わってしまっているのは、下の画像では星の置き換え後にナローを添加してしまっているからです(その画像しか保存していなかった)。星の大きさだけ比べてください。

やっぱり星がぼてっと太っていると、なかなか処理する気分になりませんので、今回に限っては星の置き換え上手く行きました。海外の作例でも、微光星が消えてしまっている位に星がシャープな作例をよく見かけます。ひょっとするとこんな処理をしているのかもしれません。

終わりに

最高の夜空の下によく調整された望遠鏡を設置して、たっぷり露光したデータを弄っていると、画像処理はとっても単純です。でもそうすると処理の引き出しが狭まってしまうということはあるかもしれません。

画像処理技術を磨くために、光害の強い庭先で撮影して、カブリに苦しんだり、映り込んだ電線に悪態ついたり、縮緬ノイズが出まくったりするデータを扱うのも修行だよなー。そして、そういうのも楽しいよね。お盆休みはニワトリやってみようかしらん、と思いました。