天文はかせ幕下

MGENでのガイドのポイント覚書

はじめに

我々の部では,タカハシMT-200(f=1200mm)とε200(f=800mm)をつかって撮影する場合,NJP赤道儀とM-GENを組み合わせPD5-XYコントローラーを介してオートガイドしています。

このM-GENをなかなか使いこなせていません。ユーザーの絶対数も少ないためかwebにもあまり情報がないですね。また付属マニュアルも情報に乏しいのが苦しいところ。

以前PHD2 Guidingを使っていて,その時の方が成功率が高かったので,M-GENやめようかなと考えたりもしました。PHD2の優れた点は、デフォルトの各種パラメータが汎用的な最適値に調整されていて、ユーザーが調整する必要がないこと。これに対して、MGENのデフォルト値はPHD2ほどには練りこまれていないような印象です。

「パラメター値は自分で考えてね♡」

と言われている気さえします。

しかしこれまで,6回ほどの現場での使用経験をかさね,星が楕円に伸びるあの絶望感をなんども味わってきました,いろんな方にブログで質問したりして,ようやくM-GENの性格がわかってきた気がしています。忘れないようにここにまとめておきます。よろしく。

MGENでのガイドのポイント

以下の箇条書き、赤字のものは我々の経験(なので間違っている可能性もあり)、黒字はマニュアルからの情報です:

  1. オートガイダーの設置
    - MGENのオリジナルのケーブルはとても硬いので、ガイドカメラから伸びるLANケーブルは赤道儀本体に這わせて、ぶらぶらさせない。(これは有名な話)
  2. キャリブレーション
    - (英語マニュアルによると)キャリブレーションの後に表示されるRAとDECの直交度は90%以上あればOK。60~80%だったら、風が強すぎるか望遠鏡が重すぎるか、赤道儀が貧弱すぎるかのいづれか。
  3. ピント合わせ
    MGENのLiveView画面はモノクロで1ビットだから、これで正確にピントを出すのは不可能なので、ピント合わせの時は,下の写真のプロファイル画面を見るのが吉。(こんなことになかなか気づかなかった)
    - 一部、「ピントにはそれほどシビアにならなくてよい」という情報があるが、さすがにピンぼけではオートガイドのプログラムがちゃんと働かないと思う。
  4. カメラの感度など
    - まづ、カメラのgainとexp.をガイド星のプロファイルが飽和しないように調整する。これが飽和していると,ガイドが暴れる。私はピークが5割くらいになるようにしている(下の写真くらい)。
    -
    thresh.はオートガイダーが星を認識する閾値で、プロファイル画面上で横棒に表示される。ガイドプログラムは、この閾値よりも上の情報をガイド星の位置として利用する。マニュアルではthresh=10くらいが良いと書いてあってデフォルトもこの値になっている。しかしガイド星のプロファイルの形を参考に調整すべき。閾値がプロファイルの裾野に近すぎると、揺らぎを拾いすぎてしまうことがあるので、わたしは「4合目」くらいになるようにthresh.の値を10より大きくしている。

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  5. ガイドパラメター
    -Num.という値はデフォルトが1で、日本語版のマニュアルでは説明が省略されている。英語マニュアルにすると、RA側はこれは1であるべきとあるが、根拠は不明。DEC側はガイダーがシンチレーションを追わないように調整すべきとのこと。Num.が1だと、ガイドカメラの露光時間ごとに、ガイド信号が送られる。これが短すぎてハンチング*1を起こしてしまうようなら、Num.を大きくする。num.を大きくするとその間に露光されたデータが平均されるので、シンチレーションによるガイド星の揺らぎの影響が抑えられる。私は2~3くらいにしている。
    - tol.の値は、どれくらいのガイドエラーを許すかを決めていて、日本語マニュアルにもくわしい説明がある。デフォルトが0.1だが、これは小さすぎるかもしれない。シンチレーションが悪い時は、少しづつ大きくして様子を見る。あんま大きくしすぎると、ガイド信号がまったく発せられなくなってしまうので注意。tolの値0.1は小さすぎると思われる。標準的なシンチレーション なら0.4~0.5くらいが適切だろう(2020/3/20追記)
    - aggr. これはよくわからないので、マニュアルのおすすめ通り70~80%にしている。
    - mode. は1がデフォルト。0はハンチングを起こしやすいという記述がマニュアルにあるが、0の方が良いという話もあり*2最近は,RAをモード1にDECをモード0にしている(2020/3/20追記)。
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  6. ガイド星の選択
    ガイド星の選択はマニュアルで行わず,AutoditectでMGENに選ばせた方が良い結果がえられることが多かった。PHD2と違って,異常に明るい星や重なった星が選ばれることがある。ガイドのアルゴリズムが違うのだろう。明るい星を選んだときは,もちろん飽和しないようにgainを調整する(2020/3/20追記)。
  7. ガイドグラフについて
    MGENのガイドグラフは,ガイド星のズレではなく,修正量を表している。これまでの経験上,上の写真のように,どちらか一方だけに修正信号が送られていることを示す結果が出やすい。これはPHD2だとよくない兆候であるが,MGENの場合はこれでも星が点像になることがおおく,気にしなくて良いだろう(2020/3/20追記)。

(番外:フィルターワークについて)ガイドが日によって成功したり失敗したりするのは,たいていは気流によるガイド星の揺らぎをガイドプログラムが拾ってしまうから。なので,カメラに赤いフィルターをかければ,シーイングの影響を抑えられるというアイデアがあります*3, *4(波長の長い光ほど,大気の影響をうけにくいので)。これは信憑性高いのですが,オートガイドの場合「同一条件での比較が極めて困難」なのが難しいところ。私の経験でも,R60フィルターをつけて,確かにガイドが安定したことがありました。しかし星が暗くなるので,その分ガイドカメラの露光時間(exp.)かゲインを伸ばさなければならず,そうするとなにが理由でガイドが安定したのか判定できません。また露光時間とゲインを変更しないにしても,上のthresh.の位置が変わるので,それもガイドの成功率に大きく影響します。結局わからないのですが,星の揺れがフィルターによって小さくなったようにみえるのは,確かです。

M87と中心部のジェット

南岸低気圧が通過していった先日の金曜日。夜にかけて天候が回復し、windytyが予想する上空の気流の様子もよし。月は上弦*1でしたので深夜からの撮影です。子供が寝た後に、のそりと家を出ました。目的地は神割崎「下段」。後部座席にMT−200とNJP赤道儀を装填して一路北東へ。

神割崎下段と申したのは、ここの駐車場は上下2段構造になっているからです。通常は公道から遠く、旅館の自販機の照明も避けられる「上段」がよく使われます。一方の下段は東風を避けるのに有利です*2。長焦点撮影の時は「下段」を使います。

当日、「上段」にはひとり同趣味の方がいらして、お話ししました。このブログもたまに読んでくださっているそうで、うれしい限り。顧問が最近始めたtwitter上でお仲間になりました。

さて、今回はですね、先日ブラックホールの「撮影」で話題になったM87の中心部のジェットを月没前に撮影。そのあと、前回失敗したM51を薄明ギリギリまで狙います。その間、ポタ赤+250mmレンズでアンタレス付近も撮っておこうかと思っておりますよ。

M87銀河と中心部のジェット

先日、人類が初めて撮影したというブラックホールがあるM87銀河。おとめ座銀河団のに属していて、春は見やすい天体です。そのジェットは可視光で比較的に明るく、アマチュアでも撮影できるそうです。中心部にジェットの構造が埋もれてしまわないよう、短めの露光時間でささっと撮影しました。

M87 and the jet

Date: 12th Apl. 2019, 23:30~
Location: Miyagi, Minamisanriku 
Camera: Canon 60Da
Optics: Takahashi MT-200 1200mm F6, MPCC Koma corrector
Exposure: 70sec. x 13(ISO1600)
Guide: Takahashi NJP

フルサイズ換算の1800mmで撮影しても、地味な姿です。中心部をピクセル等倍するとヒョロと東方向に伸びるジェットの存在が確認できました。この銀河のように中心部が明るくて内部構造の乏しい天体は、おとめ座銀河団には他にもあって、M84やM86がそうです。そこから類推するとこれらの銀河のなかにもブラックホールがあるのかもしれません。ジェットは噴き出している方向が悪くて、見えないだけとか。

銀河の導入に苦労した話

我々の赤道儀は古いNJPなので、自動導入機能がありません。銀河は手動で導入しています。いまどきそんな方法をとっている人はいない中、最近の顧問の導入技術は職人技の域に達しているのではと自惚れています。M51くらいのイージーな対象なら、1200mmでも一発で中心に入ります。

ところがこのM87には苦戦しました。もう二度と撮影しないような気もしますが、一応導入法をメモしておきます:

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おとめ座銀河団の周辺。ステラリウムより

大雑把な見当は、獅子座のデネボラと乙女座のalmuredin(どちらも2等星)を結んだ線の中心部あたり。さらなる手がかりになるのが、画像に青線をひいたこのT字の星の並びです。この星が7倍ファインダーでも1つの視界に入ってよく見えます。もちろん周辺に散らばっている銀河は肉眼ではまったく見えないので、ISO6400で10秒ほど露光して撮影位置を確認します。今回は、T字の二倍の長さ西に辿って、その後北に向かいマルカリアン鎖を撮影。その銀河の位置関係から、M87にたどり着きました。30分くらいかかりました。

*1:上弦と下弦というのは、何に対して上とか下とか言っているのだろう。一向に覚えられない。

*2:夜は陸風ですので

桜の向こうでヒアデス星団蝕

宮城県では、9日に桜の満開を迎えました。新月をすぎて日没後には細い月が西空に浮かんでいます。望遠で夜桜をフレームに入れて、その背景にボケた朧月が浮かんでいる・・・という光景を写真に撮ってはどうでしょうかと考えていました。

折しも火曜の夜は晴れ間に恵まれ、しかも(これは後で気付いたのですが)ヒアデス星団食の日でした。近所の古墳公園に出かけて撮影しました。

たまに星景写真を撮ってみると、自分のセンスと技術の無さ痛感します。暗闇の景色にピントを合わせるのが難しく、しかも真っ暗で何も見えないので構図もあてずっぽうになってしまいます。この日は「下手な鉄砲、数打ちゃ当たる」方式で100枚くらい撮影しました。その中の「マシだった」1枚です。

the crescent moon entering Hyades and cherry blossoms

2019年4月9日、名取市内雷神山古墳公園にて
Canon EOS 6D, EF 70-200mm F4 (200mm F4)
ISO1600, 2秒露光、トリミングあり
PSでRAW現像

蛇足&メモ:雷神山古墳公園は周囲に街灯がほぼなく、暗い。しかも月明かりが逆光で、桜の色はほとんどわからない。この写真では、シャドウを思い切り持ち上げて、ハイライトを全開まで落としています。その上で彩度をあげたら、なんとかピンク色の桜が表現できました。そのぶんノイジーになります。もともと暗い画像でディテールが見えないので、かなり強めにノイズリダクションをかけても、眠くなりませんでした。

「名取天文台」のプロモーションビデオ

本校天文部の「プラネタリウム班」はクーデターを起こして4月づけで独立宣言*1をなし,「名取天文台」という別組織となって学校と,わたくし顧問の手を離れていきました。

昨日,部員たちが作った「名取天文台」のPVが公表されていましたので,紹介しますね。よくできています。

www.youtube.com

*1:実際には,外部から補助金をいただいてプラネタリウムを運営する形態と,学校のルールのあいだで不都合な点がいくつかあり,学生たちは考えた末にとった結論でした。顧問としても彼らの意思を尊重した次第です。

4月は成果なし

4日の夜は、卒業生のアベ君と3年生部員のコン君をつれて観測・撮影にいきました。久しぶりに暖かい春日で、夕方には雲もなくなって良い感じでありました。

コモンは最近、スマートフォンを手に入れてtwitterを始めており、「#天文なう」とかいうハッシュダグを覚えてツイートしながら、終始にやにや。

ところが今回、悲劇の観測会となったのです。

MT-200でM51を撮影すべく、原町まで出かけて撮影に挑みました。しかし思いのほか風が強くて、かつシンチレーションも極悪。いくら頑張ってもガイドが安定しません。試行錯誤しながら10枚ほど撮影を続け、ほとんどすべてがガイドエラー。たまに風が収まって星が点になっても、ボッテリとした不明瞭な画像しか出てきません。

「あーだみですね」

疲労困憊。M51は子午線を超え、MT200のお尻が三脚に干渉しそうです。

あーすべてがだめだ」

と我々は集中力を欠いていました。その時です。もう一つの赤道儀に載せていた Mamiya 500mmとEOS6Dがアスファルトの地面に落下する事故が起きてしまいました。アリミゾのネジの締め付けが不十分だったのが原因でした。結果、FotodioxのMamiyaレンズ用マウントアダプターが破損してしまいました*1

「これは不吉の前兆じゃ。とっとと帰りましょう。これ以上夜更かししては、帰りの車で事故って、吹っ飛んできた赤道儀に頭をぶつけて死んでしまうかもしれません」

と早めに帰宅しました。そんなわけで、今回は作品なし。

 

*1:そのお陰か、レンズとカメラは(たぶん)無事でした。ふー、マウントの変形がなければ良いのですが。

今年度の目標:市民向け電視観望会を行います

本校の天文部のこれまでの活動は,各人がバラバラにやりたいことをやっているという感じで,全体のまとまりとか目的意識が希薄でした。天文部の顧問であるワタクシが捻くれ者で「心一つに」とか「団結」といった運動部的な価値観が嫌いなせいか,それに共鳴して(?)集まって来てくれる部員たちもどこかヒネクレています。

しかし!

今後は,公共の福祉に寄与する活動をやっていくことになりました。

気がくるったわけではありません。なぜならば今年度,中谷医工計測技術振興財団から科学教育振興助成という助成金をいただくことになったからです。

あからさまな金額のはなしは,普通は控えさせていただくものでしょうが,どうせ公表されることですから申し上げます。1年間で約100万円です。期間は2年間なので,トータル200万弱の助成金をいただくことになります。

そのお金を利用して,市民向けの電視観望の天体観測会を行う体制を整えたいと思っています。

電視観望にこだわる理由:天文台などで行われる観望会では,大きな望遠鏡に長い行列ができて,ひとりがアイピースを覗ける時間は数秒に限られてしまう。淡い星雲が見えていたとしても,初心者にはよくわからなかってりしますが,「ほら,この部分が星雲だよ」と指差して教えて上げることもできません。こういった問題が電視観望なら一挙に解決できるのではと思っています。あと,赤い星雲も見れます。

必要になるのは,高感度のカメラと明るい光学系,適切な光害カットフィルターです。まずはCelestronのRASA 11inchの購入を検討中です。

 

 

 

高級アリガタプレート(Vixen規格)

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本校にて作製しました,純金製の高級アリガタプレートになります。金特有の優れた振動特性,および撮影システムの重心を低くする効果によって,お使いの撮影システムのガイドを飛躍的に安定させる効果が期待できます(時価1200万円)

男性向きの趣味の世界では,疑似科学的な製品が散見されます。たとえば, オーディオにおけるスピーカーのスタビライザーとか,ゴルフにおけるよく入るパターとか。そういったインチキが,天文界隈ではほとんど見かけられない事実は,この業界が確かな科学的知識をそなえたインテリ層から構成されていることの証左である気がしています。

ちなみに上のアリガタプレートは,金というのは冗談です。来夏に投入予定の新撮影システムを構築するために,学校のフライス盤でこさえました。たまたま黄銅の廃材が転がっていたのを利用したら,無駄に立派な製品になってしまいました。気に入っております。黄銅の写真は彩度をすこし上げると,本物の金のように見えますね。