天文はかせ幕下

EOS6Dを追加購入して、アンタレス付近をモザイクしました

天体写真用のカメラ、ここ数年の間、ZWOやQHYCCDの冷却CMOSカメラが主流になりつつあります。その性能は素晴らしく、「冷やし中華」なんて皮肉った呼び方もほとんど耳にしなくなりました。

そんな潮流に反して、あえて国産の一眼レフCanonEOS6Dを追加入手したのです。ぼちぼち 星空眺めましょのタカsiさんからミラーレス改造の個体を格安で譲っていただきました(ありがとう存じます)。

かくして我々の手元には、

「EOS6D+Mamiya Apo-sekor 250mm F4.5」 

のツインシステムが爆発的に誕生したのです!

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ドカーン!

 

EOS6Dは、もう10年近く前のカメラです。しかし2021年においても、その性能は十分に素晴らしく、けっして天体用CMOSにも引けを取らないと信じています。例えば最近、ふうげつ*さんが、cooled6DにL-extremeフィルターとの組み合わせで、仙台市内から撮影した素晴らしい結果をTwitterにて報告されてました

すごーいですよね*1

 

また、6Dのツインシステムは、国内だとZeissapo-asonnerapo-sonnar135mmやタカハシのFS60CBとの組み合わせで運用されている方がおられます。それらに比べてF4.5と若干中途半端なApo-sekorを組み合わせた利点は、フルサイズでも減光が分からないくらいの周辺光量の豊富さです。写野全体の明るさで換算すれば、実質F3.8くらいかなー(根拠なし)と勝手に見做しております。その性能は、とくにモザイク合成で威力を発するのではないかと狙っていました。

そこで、このツインシステムのファーストライトの対象として、おなじみアンタレス付近をモザイク撮影することにしました。Telescopiusを使って計画した構図は以下の通り:

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そして5月9日の夜、暴風の飯館村で撮影しました。

Rho Ophiuchi cloud complex part 2(2021)

Date: 2021-5-10
Location: Iidate-mura, Fukushima
Camera: Modified Canon EOS6D (2 units)
Lens: Mamiya Apo Sektor 250mm F4.5 (2 units)
Exposure: 240s x 17flames(ISO1600), 2x3 panel mosaic
Processing: Pixinsight, Photoshop

各フレーム1時間ちょっと。トータル6時間の露光を一晩で撮影しました。結果としては、前回にASI2600mc-proにapo-sonnerを組み合わせてモザイクしたこちらの結果

Rho Ophiuchi cloud complex(2021)

に引けをとっていないのではないかなーと満足しています。あと数年は、このシステムでいろんなところを撮影して楽しみたいと思っています。

 

次回、ミラーレス改造の6Dとミラーありの6Dについて、周辺減光の様子など比較して報告したいと思います。

 

 

 


 

 

 

 

*1:ちなみにこのcooled6D、最近ASI2400MCを入手されたM&M VillageのM&Mさんから譲り受けたものだそうです。

銀河のAnnotationに進歩が

なんだか学術的な撮影をなしたような気分にさせてくれるPixinsightの"AnnotateImage"機能。

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これはぼほ初期設定(PGC銀河の表示をOnに変更しただけ)で、適用した例です。

この機能、文字の色や大きさは随意に調整できるようになっていて、好みのシャレオツな表示にカスタマイズできます。「あーでもこーでもない」と調整しているうちに、気がつけば夜中の2時、目は真っ赤に充血し肩はバキバキ。なんてよくありますね。

Pixinsightの"AnnotateImage"には、3つほど不満がありました。

  1. 選べるフォントが少ない(したの10種のみ)
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  2. 表示する銀河に等級の制限をつけられない(領域によっては、写真がラベルで埋め尽くされてしまう)
  3. 銀河のマーカーが真円だけ

これらの不満は、ぐらすのすち君のブログ id:fornax でも述べられています。 

さて此度、これらの不満を一挙解消した"Galaxy Annotator"というスクリプトid:rna さんが作成して公開してくれました:

導入方法・使用方法は

に詳しく記述されています。Python3とAnnaconda環境を用意しなければならないので、初心者とっては取っつきにくいかもしれません。私も苦労しました。(需要があれば、初心者視点の導入チュートリアルかこうかな?書きましたー>

銀河のアノテーションスクリプトの使いかた、導入方法 - 天文はかせ三段目(仮)

 

ともかく、このスクリプトを利用して先ほどと同じ領域をシャレオツにAnnotationした結果がこちら

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ただし、座標グリッドだけPixinsightを援用してます。

フォントの設定は.json形式のデータをしたのように自分で書き換えることで行えます。

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また、銀河のマーカーがちゃんと楕円になっています。これは、自分の写真に写っている矮小銀河が、はたして本当に銀河なのかそれともノイズがそれっぽく見えているだけなのかを判定する時に役立ちますね。

さらに、実行時のオプションで表示する銀河に等級の制限をつけることができますので、ラベルの密度を程よい感じに調整できます。上の例は16等より明るい銀河のみ表示してます。

おまけの機能として(id:rna さんにとってはこの機能が本命だったみたいですが)銀河までの距離も表示することができます

「おいおい、おれ15億光年先の銀河、捉えちゃったよ・・」

って楽しみかたができます。これこそAnnotationの醍醐味です。

 

参考:

snct-astro.hatenadiary.jp

カシオペヤ座の新星(V1405 Cas)

5月10日から11日にかけての夜。薄命直前にカシオペヤ座の周辺を撮影してました。一部で話題になっていたバブル星雲近くの新星が狙いです。

V1405 Cas ( a nova visible to the eye)

Date: 2021-05-09 16:41 (UT)
Camera: ASI2600MC
Optics: Zeiss Apo-sonner 135mm F2(@ F2.5)
Exposure: 180sec. x 7flames(gain 0)

 

新星の周りが賑やかということもあって、鑑賞写真目的で撮影しました。星の中心はわずかに飽和してしまっていてゲンミツな測光はできませんが、周辺の似た明るさの星との比較をすれば、大雑把な見積もりが可能です。やってみました。

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周辺に写っている、明るさの近い星は

  • 4Cas(mag=4.95)
  • HIP115218(mag=6.3)
  • HIP115395(mag=5.5)

といったところ。PixinsightのDynamicPSFで星のプロファイルをガウス関数でフィットし、FWHMを比較してみますと、4Casよりは小さく、mag=6.3のHIP115218よりは大きく、mag=5.5のHIP115395とほぼ同じでした。

というわけで撮影時のV1405 Casはmag=5.5±0.5といったところでしょうか。

いまは徐々に暗くなっているそうです。不思議なものです

 

 

 

 

アンタレス付近、2021年バージョン

9日の夜、東北地方は寒冷前線が通過して暴風が吹いていました。また南から梅雨前線が迫ってきています。この日の夜の予報は晴れ。

「これでしばらく晴れなくなっちゃう。ちょっと無理してでも撮影しとかないと」

自宅でスマホを眺めながら呟いた顧問に返事をする者はいません。というのは梅雨入りしたらどうせ

「山瀬が吹いて今夜は雲抜けあるかも。ちょっと無理してでも撮影しとかないと」 

なんて言って、結局は出かけることを家族は知っているからです。 

5月の狙いは満を辞して例の場所、「アンタレス付近」です。日曜の夜、南が暗い空を求めて飯館村のこんなところに出かけてきました:

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撮影地のようすです。南が暗いです! Twitterで相互フォローかたから教えてもらった場所なもので、詳しくは申しませんが(とはいえgoogleMapで探せば簡単に見つかります)、アクセスも良くてこれから頻繁に使うことになるかも。

明日は月曜で副業があるというのに、そーなのかーさんと柊二さんといっしょです。仕方ありません、天体写真は我々の生業、本業ですから。撮影中は、このブログにたまにコメントくださるモモさんも奥様と遊びにいらして、少々お話ししたり、楽しい夜を過ごしました。

アンタレス付近

この領域、2年前に蔵王で撮影したのが最後でした。思い出してみます。

Rho Ophiuchi cloud complex
(2年前の撮影結果です)

使ったのはEOS6Dとレンタル品のSigma 105mm F1.4 DG HSM Artレンズです。当時は大満足の結果で、フリッカーでも累計58000アクセスを稼ぎました。

天体写真の楽しみ方は、自分との戦いです。あのときの自分を超えられるか?ひとつひとつ改善するのが楽しいのです。

前回を乗り越えるための、今回の作戦はズバリ「モザイク合成」です。

例えば135mmのレンズである領域を1時間撮影するとします。これに対して約半分の画角の250mmレンズで同じ写野を15分づつ4枚モザイクで撮影して合成したとします。どっちが質の良いデータになるのでしょう?

ちゃんと比較した例はそんなにないと思いますけど、顧問の感覚では後者の方が遥かにいい結果になると思っています。縮小による「ゴマカシ」の威力は絶大です。

 

実は今回、2パターンでアンタレス付近を撮影しました。135mm + APS-Cの2枚モザイクと、250mm + フルサイズの6枚モザイクです。後者の方がデータがデカすぎてまだしあがっていません。前者の方からご覧に入れます

Rho Ophiuchi cloud complex(2021)

Date: 2021-3-9, 5-10
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Iidate-mura, Fukushima
Camera: ASI2600MCpro
Lens: Zeiss Aposonner 135mm F2(F2.5)
Exposure: 180s x 30flames(gain 0, offset 20), 2 panel mosaic
Processing: Pixinsight, Photoshop

さて、今回はちょっと自信ありというのもあって、各所をクローズアップしてみていきます。よろしくお付き合いください。

まずは呪い*1の馬付近です。

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青の彩度はもうちょっとあげた方がいいかもしれませんね。このへんはコントラスト低めですが、そのほうが淡い分子雲がいい感じに見えるように感じます。人工衛星痕、消す気力が起きませんでした。

次はモクモク領域、

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星によって強烈に照らされているんだなーとよくわかります。黄色い部分はアンタレスの明かりでしょう。その中に埋もれている青い星が、がんばって周囲に明かりを投げています。周辺の緑は青と黄色の混色でしょうか?

最後は1番の萌ポイント、M4付近です

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 M4が飽和しないように気をつけました。悩んだのはこの周辺の分子雲の色。緑色になっちゃいました。PIのColor Calibrationを信じてそのままにしたんですが、どうでしょう。きっとこれも青と黄色の混色?と信じることにしました

というわけでお付き合いいただきありがとうございました

*1:ここを撮影すると失敗することが多い

ダーク減算を手抜きするとフラット補正が合わない、といふ話

全体の概要

このエントリでは,ダーク減算を下手に省略するとフラット補正が失敗することの実例と,その理由ついて書きました。お伝えしたい内容は,次の3つです。厳密な1次処理を行えば,フラット補正が成功する撮影データについて

  1. フラットダーク減算だけを省略すると,フラットは補正不足になる
  2. ライトフレームのダーク減算だけを省略すると,フラットは過剰補正になる。
  3. 上記を両方同時に省略すると,ライトフレームのダークとフラットフレームのダークが打ち消しあって,おおよそフラット補正は合う。(ただし,フラットの輝度をライトフレームに合わせている場合)

これを検証した光学系と撮影データ,処理ソフトは以下のとおりです。

  • カメラ:HKIR改造済みEOS6D
  • レンズ:Mamiya Apo-sekor 250mm F4.5
  • 撮影データ:ISO1600, 240秒露光,外気温10℃前後
  • 処理ソフト:Pixinsight

細かな話:先に結論を書いておきますと、ポイントになるのは画像に付与されているオフセット(=バイアス)です。天体CMOSカメラでの撮影では画像にOffsetが付与されるので、どの画像処理ソフトを使っても上と同じ状況が起こると思います。一方で、デジカメのRawデータをDSSやRStackerで処理する場合は、ダークはフラット補正にほぼ影響しないようで、上のことを気にする必要がなさそうです。しかしながらPixinsightで処理する場合は、ダーク減算がフラット補正に大きく影響するのを確かめています。またStellaimegeでも同様のことが起こると、Twitterにて@fateOkiriさんや@daemon1995さんから教えてもらいました。これらのソフトは、一時処理において後からオフセットを付与しているように思えますが、まだはっきりと証拠はつかめておらず現在調査中です(2021-05-11)

ことの発端は1次処理でのトラブルでした。先日にアンタレス付近の撮影データを処理していて,フラットダークを省略したら,フラットが合わなかったのです。まずはその様子からみていきます。

ダーク減算を手抜きするとフラットが合わない!

処理対象は、次のアンタレス付近モザイクの一コマです

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右側方向からの光害被りと周辺減光がよくわかります。

これに対して一次処理を行うのですが、顧問は「面倒だからいいや」とフラットダークを撮影せずにマスターフラットを作りました。すると次のように、フラットが合いません。

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右側の四隅が暗く落ち込んでいます。うーん、やっぱりフラットダークは必要なのかなと、厳密な形での一次処理をおこなうと、

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はい。しっかり補正できました。周辺減光が補正されて、ほぼリニアな被りだけになっています。

ここですこし好奇心が湧きます。じゃあ、ダーク減算だけをサボるとどうなるか? するとヒドイことに。

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極端な過剰補正です。これはいけませんね。

 

最後に、ダーク減算もフラットダーク減算も両方ともサボった最も怠惰な一次処理をした場合はどうなるでしょう。驚くべきことに、これが実は良い結果になります

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 最後に、GIFアニメで比較してみましょう

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厳密な一次処理と、ダークを一切引かない手抜き一次処理が、ほぼ同じ結果になっています。

なんでこんなことが起こるのか、考察してみました。しかし内容に進む前に、そもそも一次処理とは何かを確認する必要があります。

一次処理の概要

天体写真の一次処理について説明します(ご存知の方は飛ばして次のセクションに進んでください)。まずは下のスライドをご覧ください(これは@kaerupapaさんが作成されたものを、許可を得て拝借しました)

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非常にわかりやすい図です。順を追って見てみましょう。まず左上のこれ

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これは、われわれの撮影対象が天体(黄色の部分)とSky(青い部分)の和であることを表しています。Skyとは光害など大気の輝度のことです。これをデジカメで撮影すると

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こんなデータが得られます。Biasは、カメラが画像データに付与するゲタみたいなもの。その上のDarkがセンサーや回路の熱揺らぎに起因するノイズ、その上にSkyと天体データが乗っています。その「丸み」は光学系に周辺減光を表しています。このデータから黄色い天体部分だけを復元しようとするのが、我々が行っている一次処理ですね。

それは以下のようなプロセスで行われます:

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まずダーク減算によって紫と茶色の部分を取り除いてから、フラット除算で周辺減光を復元し、最後に被り補正などの「スカイ引き」を行って、黄色の天体画像を得るわけです。この順番が重要です。

さて、ここに赤字で示したフラット割りのためには、「フラット画像」を用意します。それは天体撮影に用いた機材で、一様な光源を撮影して取得します(この撮影方法についても、さまざまなノウハウがあるわけですが、本題からずれますのでここでは割愛します)。ここで注意しいたいのはフラット画像にもまた、次に示すようにバイアスとダークが含まれているということです。

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これに注意して、一次処理を行う必要があります。

 

さて、このエントリーの目的は、「ダークで手抜きするとフラットが合わない」のを説明することでした。そのためにはちょっとした数学を使うのが便利です。

一次処理を簡単な数学で理解する

数式を使うと言っても、一箇所を除けば中学レベルの数学です。まず記号を以下のように定義しておきます。

L_{\rm out}  ...デジカメによる取得画像(ライトフレーム)
L_{\rm in}  
...目的データ+sky
D_{\rm L}  
...ライトフレームのダーク+バイアス
F_{\rm out}  
...デジカメによるフラット取得画像
a  ...周辺減光率
C ...フラット取得に使用した一定光源
D_{\rm F}  
...フラットダーク画像

例えば一番上の L_{\rm out}は、画像では

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といったものでしたが、これを数式で書いてみると

 L_{\rm out}= a L_{\rm in}+D_{\rm L}~~~~~~(1)

とこう書けます。同様にデジカメによるフラット取得画像は,一定光源に周辺減光率を乗じてダークを加えたものですから

 F_{\rm out}= a C+D_{\rm F}~~~~~~(2)

とかけます。

一次処理は、(1)式と(2)式から L_{\rm in}だけを取り出す手続きのことで、それは次のように書けます:

 L_{\rm in}=C\dfrac{L_{\rm out}-D_{\rm L}}{F_{\rm out}-D_{\rm F}}~~~~~~(3)

(3)式の分子と分母がダーク減算、フラットダーク減算を表しているわけです。

 

このように数式で表すと何が嬉しいかと言いますと、手抜きの一次処理を行うと何が起こるかを簡単に見ることができるのです。やって見ましょう。

ダークを手抜きすると何が起こるか?

ダーク減算もフラットダーク減算も、面倒くさいので省略してフラット補正を行ったとしましょう。そのようにして得られた画像は

L_{テヌキ}=C\dfrac{L_{\rm out}}{F_{\rm out}}~~~~~(4)

と表せます。これは(3)式でD_{\rm L}=D_{\rm F}=0としたものです。(4)式の右側に(1)と(2)を代入し、次のように変形しておきましょう。

L_{テヌキ}=C\dfrac{a L_{\rm in}+D_{\rm L}}{a C+D_{\rm F}}~~~~~(5)

 この式の分母をよく見ます。フラットダークを表すD_{\rm F}の値はaCに比べてとても小さいと仮定して良いはずです。そこで、ここが先ほど注意した「一箇所」なんですが、テイラー展開を用いて小さな量の一次までを取ると、ゴニョゴニョっと計算して

L_{テヌキ}=L_{\rm in}+\frac{1}{a}\left( D_{\rm L}-\frac{L_{\rm in}}{C}D_{\rm F} \right)~~~~~(6)

とこうなります。

この(6)式を見ると分かることが三つあります。それを次にまとめました。

(6)式から分かること3つ

[1] フラットダーク減算をサボると、フラット補正不足になる 

フラットダーク減算だけをサボって、ダーク減算はしっかりやった場合を考えます。これは(6)式にてD_{\rm L}=0とした場合です。すると式は

L_{テヌキ}=L_{\rm in}\left( 1-\frac{D_{\rm F}}{aC} \right)

となります。この式の括弧の中身を図形で表すと次のようになります

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つまり結果は補正不足です。

[2]ダーク減算をサボると、フラット過剰補正になる

今度は、ダーク減算だけをサボって、フラットダーク減算はしっかりやった場合を考えます。ダークの取得は大変ですから、こう言うケースは多いと思います。これは(6)式にてD_{\rm F}=0とした場合です。すると

L_{テヌキ}=L_{\rm in}+\frac{1}{a}D_{\rm L}

これは図形で表すと

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となります。つまり結果は過剰補正です。


[3]フラットダーク減算もダーク減算も両方サボると、フラット補正はそこそこ合う

最後に最も罪深い者、ダーク減算を一切やらない場合を考えます。しかしこの人はちょっと用心深く、ライトフレームとフラットフレームの輝度を合わせていたとしましょう。これは

 \frac{L_{\rm out}}{aC}\simeq 1

と表せます。この分子に(1)式を代入して計算して

 \frac{L_{\rm in}}{C}\simeq 1-\frac{D_L}{aC} ~~~~(7)

を導けます。これをまた(6)式に代入して整理し,ダークの2次以上の微小量を無視すると,次のL_{テヌキ}の表式が得られます。

L_{テヌキ}\simeq L_{\rm in}+\frac{1}{a}(D_{\rm L}-D_{\rm F})

 この式のカッコの中身,ダークとフラットダークの差がどのくらいの大きさを持つか?それはカメラによるわけですけど,そもそもバイアスは打ち消し合うはずですし,EOS6Dのようなノイズの小さい個体ならほぼ無視して良いレベルではないかと思います。すると次のことが言えます。

定理:フラット画像の輝度をライトフレームに合わせている場合に,ダーク減算とフラット減算の両方を省略して一次処理すると,ダークとフラットダークがお互いに打ち消し合い,フラット補正が近似的に合う。

顧問はいままで、この手抜きパターンでフラットを合わせてきたような気がしています。

フラット補正とフラット補正でないモノ

最後に、もうちょっとだけ。フラット補正を含む一次処理は、観賞用の天体写真だけでなく、天体画像解析でも重要になります。例えば星の測光では、厳密な形での一次処理とsky引き(被り補正)を行わなければ、正確な測定ができません。

ところで最新版のStellaImageでは、セルフフラット補正という機能が追加されました。しかしそれは厳密な意味でフラット補正と呼べるシロモノではなく、 天体画像解析では使うことができません。似たような処理は、FlatAideProや、Pixinsightでも実装されていて、広く使われています。しかし、それを「フラット補正」と呼んでしまうと、これから天体画像解析を行う初心者にとってあらぬ誤解を生むのではないか?と、これは上で一次処理のスライドを提供くださった@kaerupapaさんが懸念されていました。そういったものはフラット補正ではなく、別の名前、たとえば「背景輝度勾配除去」とでも呼ぶべきじゃと。

顧問も賛同いたします。と同時に、このブログで2番目に高いアクセス数を叩き出している

このエントリにて、「フラット補正」という用語を使ってしまっていることをお詫びいたします(ちかくお断りを書き加えます)

 

 

はじめまして

はじめまして。

天文部2年のAです。

4月10日、蔵王での撮影に参加しました。

初の天体撮影への挑戦。数日前からわくわくしてなかなか寝付けず、当日最初から寝不足気味…。

(こんなにわくわくしていたのは、小学校の遠足以来かもしれない…)

しかし、それを上回るほどの撮影への気持ちを胸に、カメラを持って行ってきました!!

 

目的地に到着。

なかなかに自然豊かな場所。

日が暮れるまでの間、部員のみんなと周辺散策。

ちょうど「水芭蕉」の開花時期で、たくさん咲いていました!

少し調べてみると、約5万本の水芭蕉が初春から一斉に咲くらしく、結構有名な

場所のようです。

「きれいだなー。」と思って眺めていたら、置いて行かれそうになりました。

迷子にはなりたくない…。

 

そうこうしている間に辺りは暗くなり、いよいよ撮影開始!!

天体撮影初心者の私は、事前に手順など調べてから行ったものの、いざやるとなると全く分からず困ってしまいました…。

そんな私に、丁寧に教えてくださった皆様、ありがとうございました。

基本的なところから説明していただき、とても助かりました。

その時に撮った写真がこちらです。

 

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画像処理までしてくださいました。

最初の撮影でこんなに素敵な写真を撮れたのは皆様のおかげです。

ありがとうございました。

今回の撮影で、今後の目標が見つかりました!

一人でも良い写真が撮れるように、少しずつ成長していきたいと思います。

時間はかかるとは思いますが、よろしくお願いします。

 

最後にはなりますが、このブログを読んでくださった皆様ありがとうございます。

影技術と同時に、文章も上手くかけるようになれたらなと思っています。

それでは。

「いちばんはじめのストレッチ」

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はじめに

冒頭の黒い四角は、Pixinsightにてフラット補正やダーク減算、スタッキングを終えたのちの天体写真です。"Linear画像"と呼ばれることもあります。ここから被り補正やカラーバランスの調整、場合によってはDeconvolution、ノイズ処理を行った後に"nonlinear"なストレッチを行います。

”Linear”画像を”nonlinear”に持っていくストレッチを、ここでは「いちばんはじめのストレッチ」と呼びたいと思います。

その方法は、用いる画像処理ソフトによって色々な方法があるようです。顧問なりにまとめてみました:

  1. [Photoshop] レベル補正とトーンカーブをつかって少しづつ強調していく。ときには複雑なマスクなども駆使する。
  2. [StellaImage] ディジタル現像で輝度を調整し、マトリクス色彩強調で彩度を調整する。
  3. [FlatAidePro] 対数現像で輝度を調整。
  4. [Pixinsight] MaskedStretch, AutoHistgram, HistgramTransformation, CurvesTransformation, ArcsinhStretch など選択肢が多数ありカオス状態。

といったところでしょうか。まず[Photoshop] の方法は、非常に時間がかかる上に再現性が低いのが問題です。顧問も昔はこの方法を使っていて、精神状態によって結果が変わるのがしんどかった覚えがあります。つぎの二つ[StellaImage] と[FlatAidePro]の方法は、調整するパラメータが最小限で再現性があります。しかしその中身は、定式化されたトーンカーブ調整に過ぎず*1私としては、もう少し工夫の余地があるかもなーとも感じています。

で、最近の画像処理では主流になりつつあるとおもわれる[Pixinsight]ですが、上に書いた通り選択肢が分岐していて、「使う人それぞれ」状態です。そこでTwitterでアンケートとってみました

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一番人気のArcsinhStretchは色を保存するストレッチ法で、輝度を強くすると同時に、色が白に近づいて彩度が落ちることを防いでくれる手法です。星雲の色を引き出しやすい特徴がある一方、しかし淡い部分のあぶり出しにはそれほど適していません。2番人気のHistgram / Curves Transformationは、PhotoShopで使うトーンカーブ調整ですね(ただCurves..では彩度の選択的強調のできます)顧問的には意外だった3番人気のMaskedStretchは、輝度の高い部分にマスクをかけながら数十回から100回ほどにわけて細かくストレッチ行うアルゴリズムで、輝度の飽和を防ぎながら淡い部分を引き出すことができます(まさにPhotoshopでの職人技がオートマチックになったような方法です)、しかし色の出方はAsinhStretchに劣ります。

顧問としては、ArcsinhStretchとMaskedStretchのいいところ取りをできればベストと考えます。

そしてそれは実に単純な方法で実現できます。何で今まで思いつかなかったのかと思うほど簡単なので、ひょっとしたらすでに多くの方が実践されているかもと恐れつつ、紹介いたします。

ArcsinhStretchとMaskedStretchのいいとこ取り

プロセスは単純です。元画像から輝度情報(以下、L画像)を取り出して、それにMaskedStretchをかける。元のRGB画像にはAsinhStretchをかけ、あとから合成するだけです。それだけで「分かった」という方は以下を読む必要はありません。

  1. ストレッチしたい画像を用意し、あらかじめ、L画像を抜き出しておきます・
    (下の写真のように、画像をアクティブにした状態で "Image" > "Extract" > "Lightness(CIE L*)”と選択)

    f:id:snct-astro:20210501192119p:plain

  2. もとのカラー画像に対して、好みの強度でArcsinhStretchを施す。下の画像は、カラー画像にArcsinhStretchを施した後のものです

    f:id:snct-astro:20210501192726p:plain
    この工程は1回目Stretch factor=40, 2回Stretch factor=7くらいを目安に分けて行うのが良いと言われています。

  3. ストレッチが終わったら、以下のようにしてカラー画像の背景の輝度値を測定しておきます。

    f:id:snct-astro:20210501193303p:plain上の例では、背景輝度はおよそ0.15でした。この背景の輝度を暗めに押さえておくと、次に行う Masked Stretchの強度を落とすことになります。ストレッチを弱めにしたい場合は背景輝度を落とすと良いです。

  4. 次に 1. で用意しておいたL画像を開き、これにMaskedStretchをかけます。このとき、"Target Background"の値を、ArcsinhStretchを施したカラー画像の背景輝度(ここでは0.15)に指定し、その背景値を測定した付近に"Background reference"のpreviewを設定しておきます

    f:id:snct-astro:20210501194105p:plain

  5. そしたら最後に、LRGBCombinatinで、MaskedStretchをかけたL画像とArcsinhStretchをかけたRGB画像を合成します。これは以下の画像に示す手順を使うと楽です。

    f:id:snct-astro:20210501195033p:plain
    つまりL画像にMaskedStretch後のL画像を指定しておき、RGBチェックを外した状態でAsinhStretch後のカラー画像に「青い三角マーク」をドラッグします。この方法は「楽しい天体観測」で有名なNiwaさんに教わりましたが、いまいち謎な操作法ですよね。ちなみにL画像を指定するときも、L画像のウインドウの青い部分をタグの部分を白枠部分にドラッグして指定できるので便利です!

以上です。結果は以下の通りです

結果の比較

まずは今回紹介した、MaskedStretchとArcsinhStretchのLRGB合成から↓

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次はMaskedStretchのみの結果↓

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 最後にArcsinhStretchのみの結果です↓

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MaskedStretchのみの画像は色の出方が弱く、ArcsinhStretchは淡いところがイマイチですが、今回の方法は色ノリ良く&淡いところも出ていると思います。

注意点としてはこの方法、ピンクスターが出やすいです。それが気になる場合は、L画像にMaskedStretchをかける前にHistgramTransformationで星の輝度を飽和させておくか(M&Mさんがやられていた方法)、蒼月城さんがYoutubeで紹介していたRepaired HSV Separationを適用するといいかと思います。

それでは以上です。ありがとうございました。

 

サムネ用:

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*1:拙ブログの記事を参照ください

snct-astro.hatenadiary.jp

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