天文はかせ幕下

チリリモート撮影第二作は、Dorphin-Head Nebulaを撮りました

10月中旬にスタートしたチリのリモート撮影.第二作目はわたくし自身初の本格的なナローバンド撮影に挑戦しました.The Dorphin-Head Nebula (Sh2-308)です.

The dorphin-Head Nebula
Optics: R200SS + Corrector PH (760 mm, F3.8)
Camera: ASI294MM + Astrodon LRGB, Ha, O3
Settings:
  Ha and O3 Gain 240, Offset 30, -10deg
  RGB   Gain 120, Offset 5, -10deg
Exposure
  R: 33*120 s
  G: 32*120 s
  B: 29*120 s
  Ha: 147*240s
  O3: 107*240s
(total: 20h04min)

画像処理の概要

1か月弱の撮影で,次の三つのマスターファイルを用意しました.それぞれ左上がHa,右上がO3,左下がRGBカラーです.

画像

擬似カラー合成はLAOOの組み合わせとしました。単純にAOOとすると、星雲の色彩がきつくなりすぎてしまったためです。画像処理にはStarnet++をフル活用して,リニア画像の段階でナローバンド画像から星を取り除き,RGBの星と入れ替えます。

これらの前処理をチャートにまとめると,次のような形です

自分なりの工夫ポイントは,Master Lumにコントラストの低いRGBも取り込んでいる点です.RGBそれぞれの露光時間はナローの10%ほどなのに対して,フィルターのバンド幅はナローの10倍以上ありますので,集めた光の量はほぼ同じ.なので使わないと損だと考えました.実際にやってみるとRGBを加えたほうが背景のノイズが減りますし,PSF Signal Weightで平均したおかげか,星雲のコントラストもそれほど弱まることはありませんでした.

リモート撮影の現状

R200SS鏡筒は光学系かカメラ保持機構のどこかにゆるみがあるようで,使っていると星像にコマが出て乱れるトラブルに悩まされています.そのたびに現地のエドアルドさんに調整してもらって一度は直るのものの,なかなかベストの状態になりません.この辺は反射望遠鏡をリモートで使う難しさかもしれません。でもR200ssはそう簡単に光軸がずれる鏡筒ではないので、どこかに単純な見落としがありそうです。4人のメンバーと議論しながら解決を探っているので,近いうちに安定稼働・快適撮影に入れると思っています

11月はそんな状態が続いていて,今回のSh2-308でも星像が悪いときにはひたすらHaとO3を撮影していました.エドアルドさんの調整の直後にRGBを撮影してようやく役者がそろって,画像処理に着手したのでした.

2ヶ月弱利用してのリモートの感想

以前,「リモートで楽に素晴らしい画像が得られるようになると,遠征撮影の熱意が無くなってしまうのでは?」ということを書きました.しかしこれは明確に間違い.リモートは、遠征撮影の楽しさには全く替えられないことがよくわかりました.これは以前,丹羽さんの言っていた通り.

ただ、認めたく無いとは感じながらもチリのリモート撮影では、淡々とデータが集まってくる感覚はあります。その味気なさの原因は、私がまだチリに行っていないからかもしれません。いつか皆で、地球の裏側の El sauceを訪問したいものです。そして、我々の望遠鏡が設置されているスライディングルーフの横で、現地の陽気なスタッフたちと一晩でも星空を堪能すれば、 日本への帰国後も

「あ、あの望遠鏡が光子を集めているのだな」

と実感が湧いて、味気なさを払拭できるかもと思います

 

もう一点,現在は4名で順番に一つの鏡筒を回していて,撮影日は4日に一回です.それでもひと月で20時間分ものデータが集まります.画像処理の労力は露光時間に比例するようでして,パソコンに向かう時間が増えました.また撮影日には,

「ああ,今日も光子を集めなければ」

という焦燥が無きにしも非ずです.

でもこの辺は,まだペースが掴めていないせいでもあるかもしれません.月に一回、たっぷり露光したデータを処理できるのは、なんとも楽しい時間です。