天文はかせ幕下

M100銀河を力合わせて18時間露光

先日に撮影したM100にはある程度満足していました。

M100

 

じつはこのあと、Twitterでのやりとりで「天体写真初級編 ぼちぼち星空眺めましょ」のタカsiさん

から17時間分のM100のL画像を提供いただきました。これを上の画像に合成してさらに上を目指そうというわけです。私のが4.3時間で、合計18.6時間になります。

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左がタカsiさんの17時間データ、右が私の6時間データのL画像です。これを合成する場合、ブレンド比が問題になります。天リフの100時間企画では、露光時間と光学系の明るさからウエイトを決めているようでしたが、ここではちょっと違う方法を撮ってみました。

まず両画像の同じ背景位置を抽出して、pixinsightのstatisticsでデータを取ります

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これも左がタカsiさんのデータ、右が私です。44850ピクセルの平均輝度(mean)や揺らぎの標準偏差(stdDev)に着目して、両者の比(stdDev/mean)が最小になるようにブレンド比を決めました。それぞれの画像の配合比を変えながら,ブレンドした結果の(stdDev/mean)を縦軸にとると下のようにブレンド比が4:6のところに明確な最小が生じます。

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この比でブレンドした画像を,再び処理することにしました。

ただ,やった後にこの方法はあまりうまくないかもなと気づきました。平均輝度と揺らぎの比を取ってはいるものの,この指標は空の暗さに依存してしまいそうだからです。気づいたのが,画像処理を終えた後だったので,しかたなし。そのまま進みました。

 

M100_ver2

M100
The datas obtained by two different photographers (naga & takashi) stacked to form a single image.

naga:
Date: 2021-3-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi
Optics: Takahashi MT-200 1200mm F6, MPCC Koma Correcter, UV-IR Cut filter
Camera: ASI294MC pro
Exposure: 240s x 65, gain120 (total 4.3h)

takashi:
Date: 2021-3-8
Location: (A)Uda-city, Nara, (B)Nishinomiya, Hyogo
Optics: (A)μ-250CRS, (B)C11+0.72RD+IR Filter
Camera: (A)(B)ASI2600MM-pro
Exposure: (A)300s x 68 (gain100), (B)300s x 104 total 14.3h

Processing: Pixinsight, Photoshop

編集していて驚いたのは,二つの画像の光条がバッチリ一致していたことです。先に私の画像をみていたタカsiさんが職人技で一致させてくれたのだろうかとビビりましたが,単なる偶然だったようです。ひょっとして相性がいいのかも?「仮想敵国」とか言ってごめんなさい(はぁと)

さておき,ブレンドの結果として画像は滑らかになったと思います。ただトータル19時間近くものデータの素性を引き出せていないような気もします。そーなのかーさんが追加露光をしてくれていますので,再々処理を行う予定です

 

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サムネ用の銀河中心部アップ


 

 

 

 

 

 

Deconvolution

Teams勉強会

昨年末、ほしぞloveログのSamさんの呼びかけで、Teams上の画像処理座談会が行われたことがありました。テーマは「デジカメのノイズ」。もともとSamさんはノイズの専門家だそうですし参加者にはあぷらなーと氏、天リフの編集長、タカsiさん、Kagayaさん、kさんなど有名な方々だけでなく、有名会社でデジカメのセンサーを開発されている方とかが集まって相当にインパクトが強い「学会」でした。

この「学会」は一回限り。それではもったいないということで、ダボさん (関東で大学院生していて、天体写真をテーマにした研究をされている)の呼びかけて小さな画像処理研究会が組織されました。月に一回、満月の頃にTeamsのミーティングをやっています。

今月、その3回目のミーティングがありました。テーマは"deconvolution"。プレゼンターはブログ

を管理されているkさんです。お分かりの方なら「おお!」と思われたのではないでしょうか?21cmのニュートンと決して最新型ではない冷却CCDの組み合わせで、けっこうマイナーな銀河をしかも光害地から撮影されています。その画像はすさまじく、天文ガイドの入選もほぼ毎月という方です。最優秀賞も複数回受賞されているのではないでしょうか(確認してませんが)。

そのkさんが、銀河の"deconvolution"について話してくださるというのですから、顧問は3日くらい前から興奮していました。しかも私とそーなのかー氏が合作で撮影したNGC2903を例に処理の仕方やマスクの掛け方を話していただけました。

ちなみに下の写真が、私が一生懸命に処理したNGC2903です。

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同じソースを使って、kさんが処理をおこなうと次のようになります。

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 ・・・(無言

今回のエントリは、ミーティング得た内容をもとにして、上のイマイチなNGC2903を再処理した過程について、紹介したいと思います。

そもそもDeconvolutionとは

もし究極の望遠鏡とカメラがあったとしたら、それで撮影した星は1ピクセルの点として記録されるはずです。そのとき星雲や銀河はどんな姿なのか想像するだけでヨダレがでそうです。実際の天体写真では、星はぼんやりした楕円に写っています

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こんな感じです。しかし,この星像には

「理想的には1ピクセルの点であるはずの星が、光学系と大気の揺らぎでどれだけぼやけるか?」

という貴重な情報が含まれているわけです。画像上での座標を(x,y)とすれば,ボヤけた星を平均した輝度の分布は2変数の関数

 p(x-x_0,y-y_0)

で表すことができます。これはPSF(Point Spread Function)と呼ばれていて、 (x_0,y_0)にある点光源の星が(x,y)の位置にどれだけの輝度を与えるか?つまり画像のボケ具合を表しています。

さて、究極のレンズとカメラがないと撮影できない「真の」天体像の輝度の分布を仮にF(x,y)とし、顧問の普通のカメラとレンズで撮影した「ぼやけた」天体像の輝度の分布をg(x,y)とします。それらの間には余計なノイズなどを度外視すれば

g(x,y)=\displaystyle \int_0^{L_x}\int_0^{L_y} p(x-x_0,y-y_0)F(x_0,y_0)~dx_0dy_0~~~~~(1)

という関係があります(この右辺は畳み込み(convolution)積分と名前がついています)。 L_x,~L_yは画像の大きさを表しています。

いまg(x,y)p(x,y)がわかっているので、原理的にはこの式を逆に辿ればF(x,y)をもとめることができるはず、というのが"deconvolution(逆たたみこみ)"の考え方です。PSF関数を星の画像そのものから得られるこの方法は,天体写真にとって最適なシャープ化の手法といえるかもしれません。

(1)式からF(x,y)を解く方法はいくつか提案されていて、中でも"Regularrized Richardson-Lucy" というのがその標準的な手法のようです。たとえば

の解説が比較的わかりやすいです。顧問も完全には理解できていないのですが、要は反復法とよばれる逐次近似計算によって、適当に仮定した近似解を,漸近的に本当の解へ収束させることをおこなっているようです。

Pixinsightでの操作法、パラメターの意味

Pixinsightには"deconvolution"の機能が搭載されています。

まず"Dynamic PSF"という機能で星の平均値からPSF関数を作った後,それを"deconvolution"に渡して計算を行います。その手続きはおなじみNiwaさんのブログ

にわかりやすく説明されていますので,ご覧ください。

いかではそのときに設定するパラメータの意味を考えてみます。下はDeconvolutionのウインドウです。右上の小さなウインドウは"Dynamic PSF"で得られた星像。ウインドウの最上段"PSF"のタブのところで,この星像を指定しています:

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次に2段目の"Algorithm"です。

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1行目では,(1)式を解くための複数の手法のうちいづれか(ここでは標準的なRichardson-Lucyを選んでます)を指定しています。つぎの"Iteration"は、上記の反復計算の回数ですね。基本的にはたくさん繰り返せばより真のF(x,y)へ画像が近づいていくはずですが、画像にノイズなどが含まれていると、繰り返しを増やしすぎることによって、そのノイズが増幅されてしまったり、または数値振動を起こしたりと不具合も起こります(ちなみにkさんは100回を基本にしているとのことでした)。具体的な値は元画像との相談になるようですが,20~30回くらいがよいようです。

次に重要なのが、3段目の"Deringing"の設定です。どうしても生じてしまう星の周りに位落ち込みが生じるのを防ぐのが目的です。

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local supportに星マスクを与えて、Local amountでその強度を調整するというのはNiwaさんのブログにあるとおりです。

Global BrightとGlobal Darkは、Deconvolution処理による輝度の修正の上限値と下限値を与えているもと思われます(これはちゃんとしたソースを見つけることができておらず、顧問の推測です)。つまりGlobal Dark=0.01とした場合、Deconvolutionの解の輝度が0.01以下になるとしたら、そこで強制カットオフして輝度を0.01以下にならないようにしていると予想しています。

kさんは、このGlobal Darkを基本的には0とし、最大限暗部を強調する手法をとられているようです。代償として生じるリンギングはマスク処理によって徹底的に排除されているようでした。書籍Inside Pixinsightや、Light Vortex Astronomy をみてもGlobal Darkを有限の値で調整してリンギングを防ぐと書いてあるので、これを0にしてしまう発想はありませんでした。ここが重要です。 

NGC2903の再処理

ここからはあっさりめに行きます。上記の方針でDeconvolutionをやってみましょう。下は、スタック後にカラーバランスだけ調整して仮ストレッチしたものです。

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これに対して、適当にPSFを作った後とくにマスク処理せずにIteration=50, GlobalDark=0としてDeconvolutionをかけてみます。するとこんな感じ

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銀河中心部の解像”感”は劇的に上がっています。驚くほどです。これ、Global Darkを有限にしてしまうと、とくに暗黒帯のディーテールが浮かび上がってきません。ですが星の周りは強烈なリング、背景部分もモヤモヤとしたアーティファクトが浮かんでしまいます。これはマスクで防ぐことになるわけです。

Pixinsightでマスク作るのって簡単でないんですが、がんばって下のようなものをこさえました

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銀河の中心部だけを選択し、中の微光星は黒抜きで保護します。これを適当にボカしながら元画像に適用し、再度Deconvolutionを行いました。

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大体良さそうです。もう一度元画像と比べてみます。

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細かく見ると、周辺の星像がまだ変になっているので、その辺はもっとマスクの精度を上げる必要がありそうです。もうちょっと修行が必要ということで、今回はこのへんにしたいと思います。疲れた。

 

 

 

銀河シーズン、第二回目はM100を撮影しました

この時期、街が寝静まる時間帯になりますと、獅子座、かみのけ座、乙女座といった比較的地味な星座が頭上に並びます。ちょうど、天の川銀河の円盤に対して垂直の方向にある星座たちで、星が少ない領域でもあります。変わりにたくさんの系外銀河見えていて、例えばかみのけ座の方向を200mm程度のレンズで撮影してみますと、こんな写真が撮れます。

Virgo cluster

 数え切れないくらいの銀河が映り込んでいるのが分かりますでしょうか?

この写真の右上あたりに綺麗な渦巻状の銀河があります。M100と番号づけられた渦巻銀河です。

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今回の神割崎遠征では、これを撮影しました。

 

前回のはやま湖遠征の失敗がありましたから、 顧問は山籠りの修行をしておりました。何回かの予行練習を重ねた甲斐あって、APTのプレートソルブ などを大体使えるようになり(そーなのかーさんに大変お世話になりました)。おかげさまで、機材を設置してから撮影に入るまでのプロセスがだいぶん楽になり、トラブルもだいぶん排除できてきました。

現在、撮影までの流れはこんな感じです:

  • 機材を設置
  • iPolarで極軸あわせ
  • ハンドコントローラーからOne star Alignを実行(基準星方向に移動)
  • APTを起動してプレートソルブ >シリウス導入>One star Alignを終了
  • APTからM100へgoto
  • プレートソルブ>M100が中心に
  • PHD2のキャリブレーション
  • SharpCapで撮影

NJP赤道儀で手動導入していた頃に比べると、圧倒的に楽になりました。心にも余裕がてできて #天文なう 写真が捗ります

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こちらはオートガイドの様子を確認する顧問です。相変わらず星空みてません。

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明け方に天の川なんか撮影してみたり。

 

目的のM100はたっぷり6時間ちかく露光しました。その結果はこちらです

M100

Date: 2021-3-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi
Optics: Takahashi MT-200 1200mm F6, MPCC Koma Correcter, UV-IR Cut filter
Camera: ASI294MC pro
Exposure: 240s x 65, gain120
Processing: Pixinsight, Photoshop

 

ここ最近、teamsで行っていた勉強会にてdeconvolution処理について学んだことが多くあって、この画像でその成果を出すことができました。詳しくは次回以降にまとめたいと思います。

 

 

 

赤外撮影と赤道儀のてすと

 

先日の設営では、赤道儀のトラブルで撮影ができず、危うく発狂しかけたことを

に書きました。

どうも電源周りに原因があったようで、と言いますのも後から冷静になってみれば、パソコンの充電を開始したタイミングで赤道儀の挙動がおかしくなったのでした。

しかし。何にしても動作テストをしておかないと、次の遠征に望めません。念のためCEM70のファームウェアをアップデートして、赤道儀のとパソコンの電源を別系統にしたうえで自宅でテストしました

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そのときの様子。電柱がナトリウム灯の影を落としているところに機材を設置します。

「あすこのご主人、夜中にごそごそと作業していることがたまにあるんだけど、気色悪いわよね」

近所の奥様方にはそう見られている思うのです。まあでも、変人であるというイメージが一度定着してしまえば、あとは気を使う必要もなく楽なものです。この日は、作業中に隣のご主人(数少ない理解者)が会社から帰宅されて、ちょっとお話ししたり。

動作テストのついでに、最近流行の赤外撮影を試してみました。294mcにsightron japanの赤外パスフィルターを装着します。

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このカメラのマウント部には、付属のリングを利用してネジ径31.7mmのフィルターが装着可能です。「アメリカンサイズ」と呼ばれるフィルターで、小さいので比較的安価に手に入ります。小さな銀河の撮影なら、多少のケラれは気にしなくても良いでしょうというわけです。

がしかし、いざ撮影に入ると真っ暗で何にも写らずプレートソルブ もピント合わせもできません。実は、別のところにUV-IRカットフィルターをつけっぱなしにしてしまっていたのでした。IRカットとIRパスを重ねたら、何にも写らないわけです(このポカミスでバタバタしている際Twitterでタカsiさんに相談したり、お世話になりました。)。

そのあとは、AstroPhotographyToolsのプレートソルブ も、オフアキガイドもバッチリ決まって、気持ちよく撮影できました。

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M104 and M100
Date: 2021-3-4

Location: natori-city, Miyagi, Japan
Camera: ASI294mc-pro
Optics: Takahashi MT-200, Sightron IR720 pro filter
Mount: CEM70G off-axis Guider+QHY5II174M
Exposure: 240s x 5f gain:120

 M104とM100です。どちらも20分露光でたいしたことないですが、それはともかく今回久しぶりに

「お、写った!」

って感動を味わえました。

天体写真の楽しみの半分くらいはこの「お、写った!」なのだろうと思っています。それだから皆さん、どんどんと淡い対象に挑戦したり、あえて光害地で撮影したりするのでしょうね。この気持ちを忘れないようにしないと。

 

 

 

NGC2903に表れた縮麺ノイズとダーク減算の関係

はじめに

以前、十分になめらかでないフラット画像をつかってフラット補正を行った場合に発生した縮麺ノイズの記事を書きました。

そのエントリでは、マスターフラットに問題がある場合、輝度ムラが縮麺状に分布するタイプの縮麺ノイズが発生する、という話を書きました。下の写真は、その時の例です。

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対象はNGC1333です。左上から右下の方向に、輝度が暗く落ち込んだノイズが縞状に発生して見苦しいです。このタイプの縮麺ノイズ、結局はフラットダーク減算を行って十分滑らかなフラットを得るか、強引にフラット自体をボカしてしまうことで解決しました。

 

今回は、上とは違うタイプの縮麺ノイズについてのお話をしたいとおもいます。まずは例をご覧ください。

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対象はNGC2903です。NGC1333の例とは対照的に、赤や緑の色ノイズが縮麺状に分布しているのがよく目立ちます。

このような縮麺ノイズはどういう原因で発生することがあるのか、その簡単な解決法と,ダーク減算の落とし穴についてが,今回の主題です。

事の起こり

2月の新月期、そーなのかーさんと一緒に、しし座の銀河NGC2903を撮影しました。

遠征の後日、氏がEOSKissX7iとビクセンR200SSで撮影したライトフレームと、そのた処理に必要なダーク・バイアス・フラット・フラットダークを送ってもらいました。自分の撮影した画像と合わせて平均するために、まずは前処理(ダーク減算・フラット補正・スタックの一連の処理)を行います。すると、氏の撮影結果は縮麺ノイズにまみれてしまったのです。それが上の1枚目の写真です。

「なんだ、まだまだ撮像が甘いのう・・やっぱオフアキだよね」

なんて、エラそうにニヤついておったのですが、実は未熟なのは顧問の画像処理でした。と申しますのも、間も無くそーなのかー氏から、同じ素材を処理したxisfファイルが送られてきたからです。下は同じデータを元に、顧問とそーなのかー氏がそれぞれ前処理を行ったあとの画像の直接比較です(左:そーなのかー氏による前処理・右:顧問による前処理)

う!いったいなぜこのような差が生じてしまったのか? 慢心。環境の違い・・・。

冷や汗をかきながら再処理してみます。手抜きでつかっていたWBPPスクリプトをやめてキャリブレーションやディベイヤーなど全てマニュアルでやり直してみます。しかし結果は変わりません。さすがに衝撃をうけました。

「まあでも、これはまた縮麺ノイズへの理解に近づいているのかもしれない」

その夜、顧問は屁をこいてふて寝しました。

後日,いろいろ条件を変えて前処理を行っていたところ,私も縮麺ノイズを取り除くことができ,安堵しました。以下,前処理結果に差が出た理由をくわしく説明したいと思いますが,その前に顧問が行ったPixinsightでのImageCalibrationの設定について書いておく必要があります。

PixinsightのImageCalibration

まず,縮麺ノイズが発生してしまった時,顧問が行っていたImageCalibrationの設定は以下の通りとなります。

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バイアスファイルを指定せず、マスターダークは"Calibrate"と"Optimize"のチェックを外し、マスターフラットも"Calibrate"のチェックを外して処理をしています。 この設定で処理を行うと

\displaystyle\frac{\rm (Light)-(MasterDark)}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(1)

という計算を行った画像が出力されます。ここで(MasterDark)自体はダークに加えてバイアスも含んでいることに注意します。また(MasterFlat)は(FlatDark)をあらかじめ減算したものを使っています。

一方で、以下の設定でキャリブレーションを行うと,縮麺ノイズが解消しました。これは書籍InsidePixinsightなどで推奨されている設定でもあります:

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マスターバイアスが指定されていて、MasterDarkの"Calibrate"と"Optimize"にチェックが入っているところが違います。この"Calibrate"にチェックを入れると、MasterDarkからMasterBiasが減算されます。さらに"Optimize"にチェックを入れると,マスターダークとライト画像の間にセンサー温度や露光時間の差がある場合に、補正を行ってダークノイズの大きさをライト画像に合致するよう調整するのだそうです*1。その調整の係数をAとすると,上の設定では以下のような計算がされます。

\displaystyle\frac{\rm (Light)-A(MasterDark-MasterBias)-MasterBias}{\rm(MasterFlat)}~~~~~~~(2)

もし係数A=1なら(つまり"Optimize"にチェックを入れなければ),(2)式は(1)式と全く等価です。

 

つまり結論としては,"Optimize"機能がうまく働いて,縮面ノイズが解消されたことになります。あとで,撮影者のそーなのかー氏に聞いたところ,ダーク画像を取得する時に温度や露光時間をライトフレームと完全に一致させていないとのことでした。なーるほどそれでか,というわけです。

下の三つの画像は,

 (左)元の縮面ノイズ画像
 (中)"Optimize"にチェックを入れて前処理した画像
 (右)そーなのかー氏による前処理後の画像

です。

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縮面ノイズはあらかた解消したものの,それでも右のそーなのかー氏の処理画像が一番綺麗ですよね。それは氏が採用している「ディベイヤーを行わない前処理の方法」に秘密があるからかもしれません。ちょっと本題からずれました。

ダーク減算の"Optimize"の功罪

"Optimize"オプションについては賛否があって,Pixinsightの海外フォーラムをみると「最悪だから使うな!」という意見が多いようです。これは「楽しい天体観測」のNiwaさんから伝え聞きました。上の例では,露光時間と温度が違うダーク減算について,"Optimize"がうまく働いてくれたようです。センサー温度の制御が厳密に行えないデジカメの場合は,強い味方かもしれません。

いっぽうで今回の共同撮影では,私が294mcで撮影したNGC2903の画像をそーなのかー私に処理してもらいました。すると「なかなかアンプグローが消えなかったのですが,どうやら"Optimize"にチェックを入れていたことが原因だったようです。」という話を伺っています。アンプグローには、露光時間と輝度の間に単純な比例関係がないためでしょう。どうにも"Optimize"には功罪ありということですね。

今回の作品

最後に,今回仕上げたNGC2903の画像を上げて終わりにしたいと思います。

NGC2903

The datas obtained by two different photographers (Wata & Naga) stacked to form a single image.

Wata:
Date: 2021-2-11
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: Canon EOSKissX7(mod)
Optics: R200SS+Extender PH
Mount: EQ6-R+130 mm Guide scope+QHY5L-IIM
Exposure: 120s x 78f ISO: 800

Naga:
Date: 2021-2-9
Location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
Camera: ASI294mc-pro (no filter!)
Optics: Takahashi ε-200
Mount: CEM70G off-axis Guider+QHY5II174M
Exposure: 240s x 45f gain:120

Processing: Pixinsight, Photoshop

 

294mcのノーフィルターで撮影した私の画像をL画像とし,そーなのかー氏の画像のLと平均したあと,氏のRGBの色情報を使ってカラー化しています。8本の光条が合作の印です!

 

 

*1:ダークからバイアスを減算したフレームのノイズの輝度が露光時間に単純に比例するという規則があって,それを利用しているようです。これはあぷらなーと さんが検証されています

apranat.exblog.jp

温度差の補正はどうやっているのかちょっとわかりません。

屈辱のはやま湖

メンタルが弱いと様々のことが上手くいかなくなるものであって、勝負事は基本的に負け越し、過ぎたことをいつまで経ってもクヨクヨと思い出しては憂鬱になったり気に病んだりしてしまう。

顧問もそんな人間です。人に見られていると物事がうまくいかないというのも、よくある事です。例えば私はギターを嗜んでますけど、部屋に一人の時でないとうまく弾けないというのは、意味がないではないか。

 

さて今月。上弦の月の頃に撮影に出かけてまいりました。名取天文台のはたけさんを乗せてて、久方ぶりのはやま湖です。はたけさんは、我々の天文部から独立したのち天体写真を熱心に始め、急激な上達を見せています。今回、彼はM51を、私はM100を撮影予定でした。それで私の中には気負いがありました。 「華麗なる撮影を披露してしんぜよう」なんて余計なことを考えたのです。そんなふうにして失敗したこと、以前にもあって。

これも前回のはやま湖遠征でした。

今回は、私のメンタルの弱さが赤道儀に影響を及ぼしたように思えてなりません。覚えているうちにその詳細を時系列で書いておきます

症状

  今回からAstro Photography Tools (APT) を使ってみようということで、もう一人ご一緒していた(というかいつもご一緒)そーなのかー氏に教授を受けて準備をしていました。CEM70GにMT200を搭載して、撮影カメラは294mc、174mmでのオフアキガイドという機材構成です。

以下は、鏡筒とカメラをセットして、極軸を合わせてからの操作と症状です。

とここまでは順調。(2/22追記:実はこのタイミングで,パソコンのAC電源をバッテリーにつないでいたことを思い出しました。今のところCEM70G自体の不具合ではなく,電源の圧力降下が原因であった可能性が濃いです)

  • ガイドが突然止まる。
  • APTで、もう一度M100の再導入を試みるー>赤道儀が反応しない。
  • 赤道儀の電源を落として、初めからやり直す。やはりAPTが赤道儀を認識しない。
  • パソコン再起動して再挑戦。しかし結果は変わらず。
  • APTを諦め。SharpCapとCarte Du Cielをつかったいつもの操作に切り替え。
  • しかし、Carte Du Cielからの赤道儀の操作ができない。
  • パソコンからの操作を諦めて、HC一本での撮影に切替。
  • HCからのOne Star Alignmentのあと、M100を導入すると
    ”Object exceeds the limit”
    のエラー表示。
  • よく見ると、HCの日付がリセットされている。GPSも動いていない様子。
  • 手動で日付と緯度経度を設定。もう一度初めから。
  • しかしながら、M100を導入すると再び”Object exceeds the limit”。
  • 対象をM101に切り替えてみる。Gotoすると、再び”Object exceeds the limit”が表示されるも、赤道儀はM101の方向に移動。しかしgotoの途中で赤道儀が突然停止。
  • ・・・

向こうでは、そーなのかー氏はいつものように華麗に露光を続けています。はたけ君は

「やっぱり暗い空はいいですね!」

なんていって、M51の撮影も順調なようです。

顧問はひとり涙目です。

「おれ、天体撮影やめようかな・・。それか、鏡筒もろとも赤道儀を蹴り倒して発狂しようかな。」

なんて考えましたが、静かにお片付けすることにいたしました。その後はコーヒーを入れて気分を落ち着かせたのち、

「ちょっと星が伸びてますかねえ?」

なんて自分の写真を心配しているはたけ君に

「いえいえ、十分丸うございます。これだけガイドできていれば100点満点です」

と助言したり、そーなのかー氏の華麗な子午線反転を眺めて

「いいですなぁ」

なんて言ったのち、自家用車に籠もってふて寝しました。 

福島県の某所で撮影した星空です。 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA

この写真は、リコーのTHETAではたけ君が撮影してくれました。3名の様子が対比的に良く写ってます。

 

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こちらがそーなのかー氏。

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これははたけ君。

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そして顧問。一人だけ動き回ってます(泣)。

翌々日に動作確認

まづ、後日に動作を確認しました。何の問題もなく、パソコンは赤道儀を認識するし、異常は再現できません。一応、ハンドコントローラーとマウントのFiemwareを更新し、さらにドライバーも最新版に置き換えました。満月期にゆっくりテストして、来月に備えます

sigma Fp, 天体写真を中心に一年使って改めてレビュー

顧問はSigma Fpなるカメラを購入。日常と天体撮影の両方に使ってきました。それから一年余。このブログをご覧いただき「天体撮影用にSigmaFpの購入を検討中です」というコメントもいただいておりますので、ここらへんでもう一度、sigmaFpを1年間使った感想を簡単にまとめたいと思います。

購入時のレビューはこちらです。

上のエントリの内容をまとめますと

  1. 無改造でもHaの感度は結構ある(改造カメラの60%ほど)
  2. 高感度は、ISO3200~6400くらいはノイズが気にならずに使用できる
  3. マウントアダプタの性能は問題なし。
  4. タイマー付きレリーズがないので自作の必要あり
  5. 液晶画面は撮影中offにできない。

といったところ(註:2019年11月現在にて)

(2022年1月追記:上の4.についてSigma Panasonic一眼レフ用のタイマーレリーズがΦ2.5-3.5変換アダプタを介してSigmaFpLに使用可能とのこと

また、撮影中の液晶画面は2021年のファームウェアアップデートによってoffに設定することが可能になっています。)

3.については1年が経過した現在もSigmaFpに対応するタイマーレリーズは販売されていません。いっぽうPCからSigmaFpをコントロールできる"SIGMA Camera Control SDK"というのは昨年7月に公開され、これを使えばUSB接続でカメラコントロールが可能になったようです。しかしこれはあくまで開発者向けのソフトウェアで、顧問が試したみたところワケがわからず、これを使ってタイマー付きレリーズの機能を実現するのは素人には無理に感じました。

5.については、ファームウェアアップデートで撮影中offが可能になるかもという噂はあったのですが、いまだに実装されていないようです。そういうわけでカメラを取り巻く環境は、1年前とそれほど変わっていません。

そういった状況ですが、顧問がこれまでこのSigmaFpを使って撮影した天体写真を全て並べておきます。

Coma Berenices

Horsehead, M78 and Barnard's Loop

Orion with night glow

Comet/2020 M3(atlas) on 11th. Nov

Comet NEOWISE on 19t July

The milkyway - from Sagittarius to Cygnus

IC4592 The Blue Horsehead Nebula

 使用したレンズやマウントは、写真のリンク先に記載しています。

6Dとの直接比較

EOS6Dは随分前のカメラですが、いまだに人気で、天体写真では根強く使われています。その性能の良さについては、改めて述べるまでもなさそうです。実は、うえに紹介した写真のうち、馬頭星雲からM78にかけての星野写真は、SigmaFpと改造EOS6Dにそれぞれ同じレンズをつけて撮影したものです。

そのときのデータをつかって、この二つの直接比較をしてみます。下の1枚目は改造EOS6D、2枚目はSigmaFpになります

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どちらもISO1600の5分露光です。これといって大きな差は内容ですが、カラーノイズは6DよりもFpの方が小さいです。さらに拡大するとホットピクセルが見えてきて、その数はFpの方が多かったです(というか6Dにはホットピクセルがまるで見当たらない)またヒストグラムの平均値は6Dが114に対して、Fpは100でした。これはFpのほうがダイナミックレンジが広いと解釈できるのか、それとも改造されている6Dのほうが感度の波長域が広いためなのか、どう解釈したらよいのかははっきりしません。

キットレンズ45mm DG DNの天体適正

コメントで質問いただきましたので、45mm F2.8 DG DNで星を撮った場合の中心像、周辺像をみていきましょう。自宅庭での撮影のため、カブリが酷く星が少ないのはご容赦ください。絞り開放のF2.8からF4までです。

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うーん。星像は周辺で大きなコマ。絞っても改善しません。周辺減光もそれなりにです。45mmDGDNは「オールドレンズ的な味わい」が開発コンセプトにあったよう(?)なので、これは仕方ない結果かもしれません。星の撮影を目的にSigmaFpを購入するなら、キットで購入せず、べつのArtレンズを買った方が良さそうです。

サムネ用

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