天文はかせ幕下

ベランダナロー撮影に挑戦

先日、曇天にはばまれて不発だった神割崎遠征では、ラッキーな出会いがありました。下段で撮影されていたお気楽ジョガー (@hiroshi_xy) | Twitter さんとお近づきになれたのです。そして後日、氏から連絡がありなんとASI183mmとフィルターホイールセットを貸していただけるとのこと。たった10分ほど立ち話をしただけだったのに。

Twitterでも、天文仲間たちが機材をシェアしているようすをよく見かけるようになって、なんだか最近の伝染病の流行が、別の面では人と人の距離を縮めているような、そんな気がいたします。

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コチラがいま顧問の手元にあるモノクロカメラ。ホイールの中にはバンド幅3nmの高級なナローフィルターが入っていて驚きました!ありがとうございます。

そんなわけで過去の発言「モノクロナローは老後の楽しみ」を撤回し、ベランダ撮影に踏み切ったのです。

準備

まず、物干しスペースのベランダの一角を、冬期にひと月ほど占有し続けることについて妻から了承をとりました。そのうえで、SharpStar15028HNTを載せたKenkoのSE2を常設します。

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むかし庭の舗装につかった平べったい石を置いて、マジックで三脚の位置をマーキング。普段は自転車カバーをかけておきます。

ベランダ撮影覚え書き

ドリフトアライメントはざっくりでも何とかなる?

ベランダ撮影といえば北極星が見えない場合がほとんどなので、極軸のドリフトアラインメントが必要になります。RNAさんのブログ

やLambdaさんのブログ

を参考にしました。GoogleMapを使って、自宅の壁が南北に対して何度ズレているかを把握するアイデアはさすがでした。

撮影初日に30分くらい格闘し、極軸精度が曖昧なまま撮影に入りまました。するとガイドグラフは赤緯が一定方向にズレつづけ、終始修正が入る形に(ということは北極星が東西方向にズレている)。ですが結果は点像だったので、おおらかな気持ちでヨシ!としました。

毎回ドリフトアラインをするのはかなり面倒なので、赤道儀は出しっぱなしです。

電線はそんなに影響しない

こちらはベランダからの撮影方向。

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「S」の文字を入れた方向が真南で、南に低い対象は南中後すぐに電線に掛かってしまいます。

実際のところ撮影結果に影響はほとんど表れないようで、電線越しに撮影したフレームもどんどん採用できました

撮影すると、子供が暴れる

ベランダ撮影では、三脚の周りを歩くとPHD2のグラフがピコーンと動きます。その様子に長男興味を持ってしまいました。自宅内をわざと飛び跳ねて、グラフが動くかどうか確かめようとするのです。室内で子供がドタバタするくらいでは、ガイドには影響なかったのですが、私が撮影を始めるとワザと階段をジャンプして、そのあとガイドグラフを確認しに来るので閉口しました。

結果

撮影対象は「カモメ星雲の右翼」。左翼かもしれませんがそれはどっちも似たようなものです。各フレームの詳細はキャプションに書いてます。共通の撮影条件は以下の通りでした
Optics: SharpStar15028HNT
Camera: ASI183mm pro
Exposure per frame: 240sec. 
Gain: 120
Sensor Temp.: -10deg.

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Jan. 14, 17, 18, 21 and 22th. Total 157frames, total 10.5 hours, Astrodon 3nm Ha filter

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Jan. 31th and Feb. 2nd, Total 86 frames, total 5.7 hours, Astrodon 3nm O3 filter

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Feb. 4, 6th, Total 38 frames, total 2.5 hours, Antila 3nm S2 filter

お気楽ジョガーさんからも、星沼会の皆さんからも「S2,O3は泣きが入るほど淡いから吠え面かくなよ」的なことを言われておりましたので、Haは満月期、S2とO3は新月期に撮影スケジュールをあてました。ところが思いのほか晴れなくて、残念ながら時間切れ。

Hα=10時間、O3=5.7時間、S2=2.5時間

とバランスの悪い配分になってしまいました。

それでも星沼会のみなさんにアドバイス受けつつ、SHO合成をしてみます

The right (or left?) wing of the seagull negula

SHO Composition, total 18.7 hours.

あー、やっぱり頭部を撮るべきだったか。でも、羽根先端の明るい領域を写してみたいと思ってたんですよね。

最近、machoさん

が、東京からのナローバンドでハート星雲など」を撮影され、天文ガイドにも入選するなど目覚ましい結果を出しており、コモンとしては目標だったんですけど、及びませんでした。でも初挑戦としては結構満足です。

(machoさん、ブログ更新待ってます)

 

 

M45からIC348にかけての星野

12月の小山ダム遠征と1月末のはやま湖遠征,2ヶ月弱の間をおいて5時間の露光をした星野写真です。牡牛座からペルセウス座にかけての分子雲を構図にとりました。

M45 and IC348
Date:20211204, 20220128, two nights

Location: Ibaraki and Fukushima
Optics: Apo-sonner 135mm F2@2.8,
Camera: EOS6D(HKIR),
Mount: SkymemoR without auto guide
Exposure: ISO1600, 180s x 108frames

以下,感想など五月雨式に

珍しく二夜に渡っての撮影になりました。12月の小山ダムでの撮影が半分失敗していたためです。その様子はグラスノスチさんの動画に記録されています。

茨城県天体写真遠征|Shooting astrophoto at Koyama Dam, Ibaraki Pref. B-PART - YouTube

左の15028HNTが星を追尾しているのに対して,スカイメモの方は静止してます。それに気づいて子午線反転させる顧問の様子も残像として写っています。

それで,冬の星座のシーズン終盤になって追加露光をしてトータル5時間を確保しました。自分としては長い方で,フレーム枚数も108枚。SubframeSelectorを活用して,しっかりウエイトをかけてインテグレーションしました。またPixinsightの新しい機能であるNormalize Scale Gradient も丹羽さんのサイトを参考に試してみました

明るさと輝度勾配を一致させるNormalize Scale Gradient 〜 PixInsightの画像処理 | たのしい天体観測

ただ,ImageIntegrationへの移行時に画像が60%以上もリジェクトさせてしまい,うまくいきませんでした。

結果としては,そこそこ淡い構造を炙りさせたと思います。しかし正直なところ,この領域に限っては,このぐらいのモクモクはもうアタリマエになりつつあり,インパクト薄いなあと。

一方で,背景にごく淡いH2領域が広く分布しているのが描出できた点はよかったです。ナローバンドフィルターでの撮影を追加して,これをもっと強く出せば,インパクトのある絵になるかもしれません。

あと今回の処理で気づいたのは,スバル付近の分子雲って意外と茶色いんだなということ。例えば2018年に撮影した以下のM45を見直すと,周辺の雲はほとんど青いです

M45

Date:3rd, Nov. 2018
Camera: EOS 6D(Normal)
Lens: Mamiya APO-Sekor 250mm F4.5
Exposure: 390sec×14flames+420sec. ×14flames, ISO1600

これもそこそこ長い露光時間で撮影していたんですけど,本来の色を引き出せていなかったのかもしれません。いま同じ画角で撮影できれば,茶色の分子雲を強調して,これとはだいぶん違う風景にできそうです。

来冬はスバルをツインで撮ってみたいです。

クールファイル補正法をPixinsightのスクリプト化しました

あぷらなーと氏が数年前に考案した「クールファイル補正法」をPixinsightのスクリプトとして利用できるようにしました。コーディングをしてくれたは気鋭の大学院生だぼ氏です

これを書いているコモンはHelloWorld程度の下地を作って、あと口出ししただです。

今のところ開発中ですので、このスクリプトによって損害が発生した場合は

「ご、ごめんね(泣」

と謝りますが、責任追及や賠償には応じられませんので、ごめんね。

さっそく導入方法

  1. 以下をクリック

    リンク先の緑色のボタンから”Download zip”を選択してください。

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  2. 落ちてきた"CPI_script-master"を以下に指定するフォルダにコピーします

    windowsなら
    C:\Program Files\PixInsight\src\scripts

    Macなら
    MacintoshHD>Applications>Pixinsight>src>scripts

  3. Pixinsightを起動します。
    Script メニューから、以下の Feature Script を実行します。 

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    すると下のウインドウがでます

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    ここの”Add”から先ほどコピーしたフォルダ ”CPI_script-master” を指定します。

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    こんなメッセージが出ますので、OKして、さらに”Done”をクリックして終了。

  4.  以上でScriptへの登録は終わりです。
    Script > Utilities > ColdPixelInterpolation
    と辿って、起動できます。うまくいっていれば下の画面が立ち上がります。

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使用方法と機能

使用法は説明の必要がないほど簡単です。

  1. 「+Add」ボタンを押して、フラット補正・ダーク減算が終わった複数枚のファイルを指定します。
  2. Cold Sigmaは、クールピクセルを検出するための閾値(CosmeticCorrectionのColdSigma値)です。初めはデフォルト値のゼロで試します
  3. 必要に応じて、出力ファイルを保存するフォルダーを指定したり、出力ファイルの名前や添え字を指定したりします。ここではデフォルトのままにしておきます。
  4. 「EXECUTE」をクリックして実行します。

上手くいけば、pixinsight上には「クールファイル」が表示され、作業ディレクトリに生成された"corrected"フォルダ内に

  • [A] クールファイル補正が適用されたライトフレーム達(ファイル名XX_cf.xisf)
  • [B] 位置合わせなしスタック画像
  • [C] 位置合わせなしスタック画像にCosmeticCorrectionを施した画像

の3種のファイルが保存されています。クールファイルは特に使わないので、確認後消して大丈夫です。あとは、[A]のファイル達に、位置合わせやカブリ補正など必要な処理を施した後、スタックします。(説明終わり)

補足

「クールファイル」は[C]から[B]を引いた画像で、その白い部分が検出されたクールピクセルを表しています。クールファイル補正法は、このクールファイルを処理前のライトフレームにそれぞれ加算して出力しています。もしコールドピクセルの検出が過剰であるなら、少し大きい値を指定してやり直します。

蛇足

後で書き加える。

 

光害地で縮緬が出やすい理由

先日のエントリで、縮緬ノイズの処理について報告しました。

そこで、コモンは

「どうも光害地で撮影したとき、縮緬が出やすいような気がする」

と書いたところ、ほしぞLoveログのSamさんから鋭いコメントをいただきました。それが目から鱗で、コモンはガッテンボタンを10連打したいような実に清々しい気持になりました。

その内容を簡単にまとめて、皆さんと共有したいと思います。ポイントは、ダーク減算で消せないクールピクセルの存在です。

 

まずは、空が暗い遠征地での撮影を考えます。下の図は、一枚のライトフレームの輝度分布と、消え残ったクールピクセルの深さを模式図に表しています

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天体写真の輝度分布(光害が小さい遠征地の場合)

光害成分は一様に分布していると仮定して、それをオレンジのラインで表しました。白いカーブが天体の情報で、ダーク減算で消せなかったクールピクセルの輝度の落ち込みを、ブルーの線で表しました。以下では、この落ち込みの深さが輝度に対して一定の割合を持つと仮定して話を進めます*1

さて、同じ対象を光害地で撮影したとします。輝度の分布は次の図のようになっています

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天体写真の輝度分布(光害が強い市街地の場合)

光害で輝度が増えた分だけ、クールピクセルの輝度の落ち込みも深くなっています。

この画像に対してレベル補正を行い、背景の輝度が遠征地での撮影データと同等になるまでダーク側の輝度を切り詰めたとすると。。。

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光害地での撮影データをレベル補正した場合

このように、クールピクセルの輝度はほぼゼロに落ち込んでしまうはずです。

つまり光害成分をレベル補正によって取り除く画像処理によって、あまり目立たなかったクールピクセルが強調される結果になると。これに一定方向のガイドエラーが加われば、暗い線の縮緬ノイズになるわけです。

 

samさん、有益なコメントをありがとうございました。縮緬ノイズ、その正体がだいぶんつかめてきたような気がしています。

*1:クールピクセルの輝度の落ち込みの深さ、実際はだいぶん難しい問題みたいです。Twitterであぷらなーとさんから頂いたコメントによると、クールピクセルの深さは輝度の大きさに対して非線形に変化し、撮影対象によっても変化するなど、なかなかとらえどころがないとのこと

一人はやま湖

底なしの黒い水の上に、闇へ消えゆくように橋が架かっている。渡ってすぐ右手に30m四方ほどの不明な広場。我々が冬シーズンによく使う、はやま湖の撮影地。夜中に巡回してきた警察官の話によれば、自殺の目的で訪れる人も多いのだとか。。。

(はやま湖についての記述、過去記事より引用)

 

はやま湖から足が遠のいているのは、あまりに不気味で一人で撮影するのが怖いからです。よっぽど「ここしか晴れない」という時しか訪れません。28日はそんな夜でした。

事前につぶやいても同行してくれる人はなく、「一人はやま湖」に追い込まれてしまったのです。なんということだ。

到着後、撮影地はやっぱり無人。風が強く「ゴウンゴウン」と大気が鳴っていました。よく見ると奥の方にハイエースが一台停まっています。撤収まで終始無言で、人が乗っているのかどうかも定かでなく、かえって不気味。

「一人はさみしいなー」

落ち着かない気持ちで機材をセッティングし、今夜の狙いカモメ星雲を指定したらなぜだかプレートソルブが動きません。APTやパソコンを再起動してもダメ。いつもなら、隣にそーなのかーさんが居て、すぐに解決してくれるのに。堤真一の気持ちでした、「だれかー!」

このトラブルは凡ミスで15分くらいで解決できたのですけど、その後も撮影自体あまり上手くいきませんでした。RASAの星像を犠牲にして疑似スパイダー付きのフードを外し、露光も120秒に抑えます。それでも夜中も吹き続けた強風の所為で歩留まりが上がりません。3枚中2枚は使えない結果でした。

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撮影中の一コマ。沈む冬の大三角とワタクシ

21時撮影開始。カモメが南西側の丘に隠れる25時過ぎまで4時間撮影し、使えたのは1時間ちょっとでした。遠征撮影の不利をひしひし感じます。

そんな風に格闘した今回の結果です

Seagull negula (IC2177)

IC2177 Seagull Nebula
Date: 2022-1-28

Location: Hayama lake, Fukushima, Japan
Optics: Celestron RASA11’’, ASI120mm(guide)
Camera: ASI2600MC-pro
Mount: iOptron CEM70G
Exposure:  120s x 16f(left) + 120s x 13f (right), gain 100, 2x1 mosaic
Processing: Pixinsight, Astropixelprocessor, Photoshop

 

撮影は2枚モザイクです。RASAと2600の組み合わせでは初のモザイク。露光時間の割には解像感や淡いところがよく出てくれて、満足できる結果になりました。うまく出来た時のお約束、各部のアップでニヤニヤします。もしよければお付き合いください:

  1. カモメ頭部

    f:id:snct-astro:20220130213420p:plain正確にはここにIC2177の番号が振られているようです。ギザギザの暗黒帯まわりに青と赤のガスがよく写りました。

  2. バウショック?

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    画面ちょい左の最も明るい星はβ328の番号が振られた脈動変光星だそうです。その右方向に星ハロみたく見えているのは、オリオンの「バウショック」にも似ています。たとえばナローバンドの画像

    An artistic impression of IC2177 (The Seagull nebula) | Flickr
    をみるとよくわかります。

  3. Sh2-293からNGC2327にかけて

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    ここが一番のお気に入りです。Sh2-293の青やマゼンダ、NGC2327のグレーの分子雲の構造が見ていて飽きません。より長焦点で狙ってみたくなる領域です。

  4. NGC2423の周辺

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    画面右の横を向いたV字型をしている星の集まりがNGC2423。周辺には褐色の暗黒帯があります。この辺りは露光時間の短さが露呈していて暗黒帯の構造がつぶれているようです。

お付き合いいただきありがとうございました。今回で冬の撮影シーズンはおしまい。次回は銀河ですね。かみのけ座のニードル銀河撮りたいと思ってます。

縮緬ノイズ、三つたび現る! クールファイル補正法で解決できました

事の起こり

神出鬼没の縮緬ノイズ。今回は自宅庭にて15028NHTとEOS6Dでの撮影テストをしていたらふいに発生しました。

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斜め方向のひっかき傷のようなノイズを「縮緬ノイズ」と呼んでます

おのれ、殲滅してこます!

これまで経験した縮緬の原因は、マスターフラットの固定ノイズや、ダーク減算のエラーによるものでした。それに対して今回の縮緬ノイズ、結論を先に申しますと原因はズバリ「クールピクセル*1。よって、あぷらなーと氏考案の「クールファイル補正法」により消し去ることができました。

それで話は済んでしまいますけれど、顧問としては初めてのケースでしたので、詳しく記録しておきたい。よければ少々お付き合いください。

クールピクセルはダーク減算で消せない

縮緬ノイズの原因は、画像の特定のピクセルに生じる固定ノイズと、一定方向のガイドエラーです。

縮緬あるとき必ず固定ノイズありき!です。固定ノイズを消し去りさえすれば縮緬は必ず解決します。しかしながら今回の原因であるクールピクセルは、ダーク減算では消せないのです。言われてみればアタリマエの茶漬け程度のことなのに、これまで顧問はそのことを理解できていませんでした。

その理由を図解します:

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上の図の(A)~(C)は、ライトフレーム、マスターダークフレーム、ダーク減算後のライトフレームの輝度を一次元的にあらわしています。(A)のライトフレームに、明るい点として現れるホットピクセルと、暗く凹んだ点として現れるクールピクセルがあるとしましょう。すると、マスターダークフレームの同じ位置にもホットピクセルは存在します。しかしクールピクセルは、もともと輝度が無いので表れません。ですので、ダーク減算を行ってもクールピクセルは補正できないわけです。たとえオフセット値が確保されていてもその事情は変わりません。

縮緬退治の手続き

それでは解決して参りましょう。とその前に、早速取り掛かりたい気持ちを抑えて、縮緬ノイズの原因の切り分け手続きについて、今回の顧問のケースを例に、ドキュメント形式考えます。

縮緬の原因の切り分け(ドキュメント)

元画像はEOS6DをISO100に設定して8分露光で取得した15枚ほどのデータ、その撮って出しのヒストグラムのピークは50%くらいでした。いつも通りにRAW画像をキャリブレーション。スタックしてみたら

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おのれ縮緬ノイズ、殲滅してこます!(二度目)

原因を特定するためにまず試すべきは、フラット補正とダーク減算を省略して、撮ってだしのライトフレームをスタックする事です。

次は、そうして得られた画像です。

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縮緬ノイズは残っています(一見滑らかになっているように見えるのは、フラット補正を行なっていないため、オートストレッチが強く働かないためです)。もしこれで縮緬が消えれば、原因はキャリブレーションのためのマスターフレームにあることになります。その場合は、マスターダークの取得にミス(温度や露光時間のズレ)があるとか、マスターフラットが十分に滑らかではないなどの原因が考えられます。

うえではそうではなかったので、縮緬の原因はライトフレームの固定ノイズであることがほぼ確定。

それならばダーク減算をしっかり行えば縮緬が消えるかもしれません。冷却CMOSならともかく、デジカメの場合はダーク減算を省略することはよくあり、顧問もそうしていたのです。そこで一晩かけてマスターダークを用意して、しっかりダーク減算をおこなってからスタックしてみました。その結果↓

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お、だいぶん滑らかになりました。けれどもまだ薄く縮緬が残っています。

以上から、ダーク減算では原理的取り除ききれないライトフレームの固定ノイズが縮緬の原因であると考えるべきです。次に試すべきはクールピクセルの補正だろうと判断しました。

最後に、各ライトフレームにクールピクセル補正法を適用したあとにスタックした結果がコチラ

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おお、ばっちり消えました。ありがとうあぷらなーとさん。

クールピクセル補正法はFlatAideProに実装されていて、その機能だけは無料版でも制限なしに使うことができるそうです。お試しください。

しかし顧問はPixinsightでそれを行いました。最後にその手続きを紹介します。

Pixinsightでクールファイル補正 

全体のステップは

  1. キャリブレーションを行なったライトフレームを用意する
  2. 1.のライトフレームを位置合わせなしでスタック。その結果を複製して2枚にし、片方にCosmeticCorrectionを適用。両者の差を取った「クールファイル」を作成する。
  3. PixcelMathを使って、「クールファイル」を元のライトフレームに加算する
  4. 上で加算したライトフレームをスタックする

の3段階です。

1.キャリブレーション

ここでは、バイアス・ダーク・フラットを指定し、ダーク減算のOptimizeをオンにして、以下の設定で行いました

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2.クールファイルの作成

ImageIntegrationを起動し、上のキャリブレーションで生成されたファイルを指定し、以下の設定でスタックを実行します

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スタック後のファイル名は”stacked_noAlign.xisf”としました。

上の結果にCosmeticCorrectionを適用します。Add Filesで”stacked_noAlign.xisf”を指定したうえで、Use Auto detect の Cold Sigma にチェックを入れ、閾値を0.0として、実行(●をクリック)します。

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つぎに、上の出力結果 ”stacked_noAlign_cc.xisf” から  ”stacked_noAlign.xisf” を引き算して「クールファイル」を作成します。そのためにPixcelMathを起動します。

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”Create new image”をチェックして、■ボタンをクリックして実行します。以下のような画像が出力されます

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これに”coolFile.xisf”と名付けておきます。上の画像の白い部分が、クールピクセルです。もし検出されたピクセルがあまりに多すぎるようでしたら、CosmeticCorrectionのColdSigmaの閾値が小さすぎるかもしれません。その場合は調整が必要です

3.キャリブレーション後のライトフレームにcoolFile.xisfを一括加算

最後のステップです。上で生成した”coolFile.xisf”をキャリブレーション後のライトフレームのそれぞれに加算してあげれば「クールファイル補正」は終了です。それを行うにはImageContainer機能を使います。

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赤矢印の”Add Files”をクリックして、キャリブレーション後のライトフレームを追加します。わかりやすさのため出力ファイルに_cf.xisfとしたいので”Output template”を赤線のように書き換えていますが、これはお好みです。

そうしたら、再びPixelMathを起動しcoolFile.xisfを開いた状態で数式欄に

$T+coolfile

と入力します。"Replace target image"を選択しておいて、ImageContainerの三角マークをPixelMath の下のバーの部分にドラッグ&ドロップします。

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そうするとCoolFile.xisfがそれぞれ加算されたライトフレームが”*****_cf.xisf”といったファイル名で出力されているはずです。

あとはそれらのファイルをWBPPなどを使ってスタックしてください。以上で!

終わりに疑問点など

上手くいきました。ですが、なぜ今回の撮影データに限ってクールピクセル由来の縮緬が姿を現したのか、実は腑に落ちていません。

あぷらなーとさんが「クールファイル補正法」を発案したのは、かなり短時間露光で輝度の小さいデータに対してです。今回のデータはISO100ながら8分の露光を行い、撮ってだしのヒストグラムのピークも50%を超えていました。

さらに言えば、もともとEOS6Dは固定ノイズの少ない機種です。顧問はこれまで何度もこのカメラを使って撮影してきましたが、ダーク減算なしでも縮緬が発生したことはありませんでした。

余り根拠のない経験則として、縮緬ノイズはどうも光害の強い環境で撮影すると遭遇することが多いと感じています。今回も住宅街の自宅庭での撮影でした。うーん。

縮緬ノイズはめでたく退治できたものの、その神出鬼没の理由はいまだよくわかっていません。



 

*1:英語ではcold pixcelやdead pixelと呼ぶそうです。この記事ではクールピクセルとしておきます。

Masa'sAstroPhotography氏の北アメリカを処理しました

事の起こり

@MasaAstroPhoto さんから 23時間露光の北アメリカ星雲の前処理後のデータが提供され、Twitter上の天文ファンが大挙してそれを後処理するというイベントがありました。

その結果は、youtube動画

にてまとめられています。どうぞご覧ください。わたくしの結果は8:30あたりから紹介してもらっています。

だいこもんによる処理

わたしの処理した結果はコチラです。持てる技術のほぼすべてをつぎ込んで、全力で処理しました。例によってリンク先のflickrに飛んでもらった方が画像がシャープに表示される傾向ですので、クリックしてね。

NGC7000

処理してみての感想

元データについて

まず、@MasaAstroPhotoさんの元データは、ある程度の光害地から、決して最新型でないカメラを使用して撮影されたものです。SightronのQBPフィルターの効果と長時間露光が、それら不利を十分に払しょくできるのだということを、実証してくれました。

しかし、写真下方向からの光害カブリはかなり強いもので、PixinsightのABEでは取り除くことができませんでした。DBEを使うにはサンプル点を打つ隙間が見つからない。わたしは結局、photoshopのグラデーションツールでGを中心にカブリを取り除きました。カブリを取り除いていくと、写真下部の淡いH2領域がどんどん浮きあがってきて驚きました。これは23時間露光の賜物だったと思います。

画像処理について

1月8日の黒編集長のつぶやき

は、@MasaAstroPhotoさんのデータを処理しての感想でしょう。おっしゃる通り確かに北アメリカ星雲は難しく、画像処理の技術の差が出やすいと思います。

以下、自分の処理の手続きです。

Pixinsight
  1. BackGroundNeutlization:背景をニュートラルなグレーに
  2. ABE:n=1でおおざっぱな傾斜カブリを除去
  3. ColorCalibration:カラーバランスの調整。これは星の色の平均を白にする処理ですが、QBPフィルターを使っている画像なので、あまり参考にはならない。あくまで、のちのちPSでさらにカラーバランスを調整することを前提としてます
  4. 光星のみにDeconvolution:特に写真上側の密集した微光星を小さくすることを目的として。これをやると星の色も少し出やすくなります。詳しくは

    Deconvolutionでスターシャープ! - 天文はかせ幕下
    をご参照ください。

  5. AutoHistgramのlog stretch->asinhStretch->maskedStretch:の順番でストレッチ
  6. HDRMT(Layer=8, gauss 11)で構造を強調
  7. EZStarReductionで星を小さく
Photoshop
  1. グラデーションツールをつかって、下部のGカブリかなり強く補正。これにともなって下部の淡い構造がでてきます
  2. 明るい星を選択して、彩度と色相を強調
  3. トーンカーブ レベル補正をRのみに対して適用
  4. CameraRawで彩度とコントラスト調整

総括

こちらが画像のヒストグラムです

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自分の処理の反省点は、北アメリカ本体に含まれるO3の青っぽい成分をうまく引き出せなかったこと。星雲の色全体がだいぶん単調です。Pixinsightでの5番目の処理

AutoHistgramのlog stretch->asinhStretch->maskedStretch

がちょっと雑すぎたのかもしれません。もうちょっと考えないと。

一方で微光星の処理と明るい星の色の抽出、淡いH2領域のあぶり出しはうまくいったなと思っています。