はじめに
1月から2月にかけて、チリのリモートでイータ・カリーナ星雲の中心部を撮影しました。LRGBSHOの7つのマスターを撮影して、それぞれの長所をなるべく活かして合成することを目指しましたが、後述するように画像処理にはとても苦労しました。
まずは結果です。
結果
Date: 2025-01-18~2025-02:08
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200ss + PH Extender (f=1120mm)
Mount: CEM70
Processing: Pixinsight and Photoshop
Exposure: total 47h
L211x2min+20x10s=253min
R135x2min+20x10s=273min
G141x2min+2x10s=285min
B147x2min+20x10s=297min
S2165x4min=660min
Ha101x4min=404min
O3 119 x 4min=476min
イータ・カリーナ星雲は、北天だと北アメリカ星雲同じくらいの大きさです。しかしこのような複雑な構造をもった星雲は、全天を見回しても他に無いように思います。そこで、いくつかの部分をクローズアップして見て行きたいと思います。
ミスティック・マウンテンの周辺
暗黒帯を伴った手前の構造と、O3の青いガスの向こう側に見えているHα領域がとても面白いです。ハッブルの画像で有名な「ミスティック・マウンテン」も右上に横たわって見えています。中央付近の青い星団の様子から、この付近が活発な星形成領域であることが窺えます。
大質量のイータ・カリーナ星
中央左の明るく輝く星はエータカリーナ星と呼ばれるとても重い星です。日本評論社「星間物質と星形成」によれば、太陽より8倍程度重い恒星は「大質量星」に分類されます。巨大な星として知られるベテルギウスは17倍程度です。ところがエータカリーナ星は100倍以上の質量をもち、全天でも最も重い星だそうです。
重いとどうなるかというと、強い重力により星の中心で激しい核反応が起こります。それによって生成されるガスは重力に打ち勝つほど強烈で、周辺に放出され、星そのものはかなり不安定になるそうです。回転するネズミ花火みたいなものでしょうか。
この放出されたガスによって、このイータカリーナ星雲が形成されたというのですから驚きます。中央の鍵穴のような形をした星雲は”KeyHole”と呼ばれていて、これもエータカリーナ星の質量放出の結果のようです。
左下の脇役
大きな暗黒帯の影のあたり、ガスに霞んでうっすら見えているこの構造は、何かの建物の横にたたずむ人の立ち姿のように見えます。
画像処理に大いに迷走する
もしご興味あれば、以下で今回の画像処理で自分がどう悩んだのかを皆さんに聞いてほしいと思うのです。
悩みの原因は、ブロードバンドのカラーバランスを保ちつつ、それぞれ三つのナローバンドに写っている複雑な構造も活かしたい!という少々欲張った気持ちでした。
もう少し詳しく説明します
それぞれのフレームの特徴
まずコチラ、左はLRGB合成後の画像、右はSHO合成後の画像です。
それぞれの処理プロセスは以下の通りです(特別なことはしていません):
LRGB画像
- RGBをSPCCで色合わせ、LにBXTを適用
- それぞれをGHSでストレッチ
- LRGB合成
SHO画像
- それぞれのモノクロ画像にBXTを適用
- それぞれをGHSでストレッチ
- Hαを基準にLinearFitで輝度を調整
- SHO合成
- 星消し画像にCCを適用してカラーバランス調整*1
- RGBの星をスクリーン合成
クローズアップで見てみますと、両者の特徴はかなり異なっています。特にこのあたりです
右のSHO画像では、Bに割り当てたO3のガスの向こうにS2,Hαの構造が透けて見える立体感が非常に魅力的です。一方で左のRGB画像では同系統の色が重なってしまっていてあまりはっきりしません。
しかしながら、SHOの配色はどうも現実味がなく人造的な印象を受けてしまいます。単純に自分の好みではないのです。RGBのナチュラルなカラーバランスを保ちつつ、SHOの立体感を活かせないか?と考えました。
いくつかの、ボツになった「いいとこどり」アイデア
単純なブレンド
まずは単純にPixelMathでブレンドしました。
この単純なブレンドはお互いの長所を削っているようにも感じられてしまい、落としどころが見つけられずボツとしました。ただ、カラーバランスだけに着目すれば、真ん中の1:1ブレンドくらいが良さそうです
Lの交換
つぎに、SHO画像からLを抽出し、RGB画像のLと交換するアイデアを試してみました*2
全体としては星が小さくなった程度の印象ですが、クローズアップでみると、立体感がも改善しています。
しかし、もうちょっと立体感ほしいと感じます。また星が小さくなりすぎるのもいかにもナローぽくて良くない気がします。O3の青の成分ももうすこし欲しいです(ちょっと矛盾している)
あと、この時点で気づいたのは、ブロードバンドのLの方がナローのLよりもモクモクしていて、分子雲がよく映っているようなのです。ナローのLに差し替えたことで分子雲が消えてしまい、全体がすこし痩せた印象を受けてしまいます。
FornaxxスクリプトによるダイナミックSHO
そのあと、2週間ほど画像を開かずに放置していました。そのようなある日、astrobinを見ていましたらKevin Morefieldさんのこの画像が目に留まりました
NGC2018をRGBSHOで処理したもので、全体的なカラーバランスはナローっぽくなく、O3の色と透明感も自然です。
「あー、これを目指したいなあ」
でもどうやったらこんな風にできるのでしょう?
よくみるとKevinさんは、自身の画像処理の詳細をDescription欄に記述してくれています。なんとありがたい。ふむふむ、”FornaxxのDynamic Narrowband Combination(DNC)”という語が何度も登場します。初めて聞く言葉です。
どうやら、O3の濃度に依存してS2とHαのブレンド比を変える方法みたいです。PixInsightのリポジトリに
https://foraxxpaletteutility.com/FPU/
を入れると、専用のスクリプトをインストールできます。試してみるとこんな結果に成りました。
星の色が、通常のSHOにくらべるとブロードバンドに近い仕上りになる特徴があるようです。あと全体のカラーバランスもハッブルパレットのSHOに比べるとブロードバンドに近いです。
よし、これを使うことにしてみます。
Lの交換
次に、ブロードバンドに写っている分子雲の情報を加えるために、上の”DNC”で得られたSHO画像のLを、LRGB画像のLで置き換えました。
星も力強くなって、悪くないようです。さらに、この画像とLRGB画像を1:1でブレンドして下の結果を得ます
あとは、Photoshopでゴニョゴニョやって、冒頭にお見せした最終的な仕上がりになりました。
お付き合いいただきありがとうございました
おわりに
うーん、でもなー。
紹介したKevinさんの仕上がりにはまだ及ばないです。ブレンドの方法についてもNBColorMapperをもう少し活用できたらと思っていますが、あれはどうも扱いが苦手です。最終結果も星の表現とか、「すこしウネウネが強いかも」という丹羽さんの指摘に納得したり、いろいろ反省点があります。(もう修正する気力が無い)。
じつは顧問は、ナローバンドの画像処理をいままで避けていました。つまりまだまだ経験が足りないようです。散光星雲は対象によって、S2,Hα,O3のそれぞれの輝線のバランスがかなり違っていているので、今後はもっとたくさんの星雲をナローで撮影して、コツをつかも必要性を感じている次第です。