天文はかせ幕下

2025年の天文活動まとめ

私は今年、どんな天文活動をしたのか?撮影した天体写真を交えながら振り返ってみます

2025年の活動

1,新年は星沼合宿でスタート

1月に茨城県の花立山で2泊3日、星沼会の合宿をしました。これは今年だったのですねえ。

運よく両日とも晴れて、この時に撮影したカタツムリ星雲はお気に入りの結果の一つです。

IC1269 Dreyer's nebula

2,口径と分解能の関係を調べました

シーイングが悪い場合、望遠鏡の口径を大きくしても分解能は基本的に上がらないってはなしを、かなり詳しく調べて記事にしました。

これは、あるていど皆様からの反響を頂けて、良かったと思っております

3,自宅庭で撮った銀河が良い出来だった

SQM20程度の光害地である自宅で、M66を撮影しました。ASI2600MMに35㎜のLRGBフィルターを使用しており、こんな風にケラレた画像なんですが、真ん中しか使わないからいいやって感じで撮影してます。

結果はこうでした。光害地でも露光を重ねれば良い結果が得られることを実感しました。

M66 from my backyard

4,PixInsightの使い方[応用編]を出版!

10月には本を出版しました。これが今年のハイライトだったなと思います。出版後は各所から講演の依頼が殺到。。。ということは全くないのですが、年末になってもそこそこのペースで売り上げがあり、嬉しく思っています。黒字化も達成しました

5,デュアルナローフィルターとモノクロカメラ撮影方法を工夫

通常カラーカメラに取り付けるデュアルナローバンドフィルターをモノクロカメラに取り付けて一晩で効率よく露光する方法を工夫して、撮影したりもしました。

光子を集める効率が良くなる理屈はこんな感じです(実際には、一晩のうち半分くらいをモノクロカメラで、残りの半分をカラーカメラで撮影します)

6,神割崎で撮影したオリオン大星雲をパネルに

11月に撮影したM42の結果が気に入って、2年ぶりのパネル作成をしました。第一位のメジャー構図ですが、これが2025年撮影で最もお気に入りの結果になりました。

チリリモートのリザルトランキング!

いっぽうでチリリモートでも色々撮影しました。こちらは自己評価ランキングを付けてみました。

第3位!「NGC300のO3領域」

NGC300 Ha and O3 added

第2位!「しっちゃかめっちゃか銀河」

NGC1333

そして第一位!「NGC3521!」

NGC3521

全部銀河になってしまいましたが、焦点距離が1120mmでフォーサーズセンサーなので、そうなるよねって結果でした。

まとめ

これを書いている現在は大みそかの19時過ぎです。年が明けないうちにアップしなければ、って急ぎ足で文章を書いております。

正直に言うと、マンネリ化を感じている天体写真撮影の趣味、こうして書き出してみるとことしも精力的に活動したなあと感じます。自分をほめても良いくらいでしょう。

それでは皆様良いお年を!

 

サムネ用写真

 

たのしい惑星状星雲:NGC246を撮影しました

はじめに

惑星状星雲とは、私たちの太陽のような、ごく普通の星が迎える最期の姿だといいます。

そう考えると、夜空は無数の星雲で埋め尽くされ、まるで宇宙にインクを撒き散らしたような光景が広がっていてもよさそうです。現実にはそうなっていないのは、その姿が、星の一生に比べてとても短い時間しか続かないからなのでしょう。

もし星空をくまなく探索し、星と惑星状星雲の数の比を求めることができれば、その比は寿命の比に近い値になっていそうです。実際にそうした調査が行われたのかはわかりませんが、惑星状星雲の寿命はおよそ千年から数万年といわれています。太陽の寿命を人の一生に置き換えるなら、惑星状星雲の姿は数分から一時間ほどしか続かない計算になります。一発の花火・・・程ではありませんが、小規模な花火大会一回分、あるいはキャンプの焚き火くらいです。

NGC246のかわいい姿

止まって見える天体写真も、そういった瞬間の姿を捉えていると考えると味わい深いものがあります。今回はチリのリモートでNGC246星雲を撮影しました。

NGC246

撮影データは後で加えます

 

通常とは反対の「南が上」で掲載しました。そうすると、小さなお化けが微笑みながら星を食べようとしている姿に見えてきます。

特殊な中心星

見た目の可愛らしさとは別の話で、NGC246には他の惑星状星雲に例のない特徴があります。中心星である白色矮星が3連星系になっていて、その周りを普通の恒星と赤色矮星が回っているのだそうです。とくに赤色矮星が発見されたのは2014年とかなり最近の話です*1

顧問が撮影した画像でも、3連星の一番外側の恒星がギリギリ分解できていました。

この二つの星は、画像上で4秒角ほど離れています。NGC246までの距離は1600光年なので、恒星と白色矮星の実際の距離は0.03光年≒2000天文単位になる計算です。*1の記事では距離が1900天文単位とあるので、この光芒が3連星系の一つであると結論して間違いなさそうです*2。全く見えない赤色矮星はその内側1/3くらいの距離のところをまわっているそうです。

おわりに

惑星状星雲は小さくて地味、という印象がありました。実は今まで、ほとんど撮影してこなかったのです。図鑑などをみてみると、その瞬間ごとの実に様々な姿の惑星状星雲を見ることができて、とても面白いです*3

いまは、可能な限りの惑星状星雲を撮影して、コレクションしたい気分です。

*1:ハッピーハロウィン! くじら座に浮かぶ「どくろ星雲」

*2:ちなみにBXTをかけると、2重に見えていた星は一つに修正されてしまいました

*3:惑星状星雲の一覧 - Wikipedia

Topsy-Turvy(しっちゃか-めっちゃか)銀河

10月から11月にかけて、チリのリモートでNGC1313を撮影しました。海外ではTopsy-Turvy銀河と呼ばれています。表題の絶妙な対訳「しっちゃか-めっちゃか」は、もりのせいかつのKさんに倣いました*1

チリリモートを共同運用しているそーなのかーさんも、同じ時期にNGC1313を撮影していて、せっかくならと二人分のデータをひとまとめにして処理しました。おかげで総露光は54時間に達しました。

NGC1333

date:2025-10-1,3,7,14,17,21
location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200ss, Extender PH
Camera: ZWO ASI294MM pro
Exposure: L 120s x 500, RGB 120s x 220, Hα 120 x 245 + 240 x 120 total 54h
Processing: PixInsight, Photoshop

その呼び名の通り、NGC1313の見た目は通常の銀河に比べてとても不規則です。その億万年オーダー歴史にいったい何があったのでしょうか?

(以下の内容は、天体撮影の楽しみの一つとして、得られた画像から顧問が自由に想像してみたものです。ただ、全くの妄想というわけではなく、いくつかの記事や論文を参考にしてはいます。)

NGC1313の構造

伴銀河の衝突

いくつかの研究によると、NGC1313の奇妙な構造は、過去にちいさな伴銀河が衝突したことが原因なのではと考えられているそうです*2

銀河周辺のモクモクした構造は、その衝突の名残であると思われます。このような淡い構造はほかの銀河にもしばしば見られ、恒星ストリームと呼ばれています。NGC1313の場合下の図のように渦を巻いて見えています。

写真1:恒星ストリームの渦巻き構造

きっとこの渦巻き構造が、そのまま伴銀河がたどった軌道なのではないでしょうか?伴銀河は自身の星をまき散らしながら写真右上からやって来て、NGC1313の重力に引き寄せられてグルッと弧を描き、いままさに左下方向に抜け出ようとしているのです(想像)。

そういう風に考えると、ひときわ濃く写っている左下の角のような構造が、崩壊しつつある伴銀河の名残のように見えてきます。

写真2:伴銀河の名残?

(12月10日追記:たのしい天体観測の丹羽さんがこの記事を読んで、銀河の衝突コースは3次元的に考えてこうじゃないか?とイラストを寄せてくれました。

つまり、伴銀河は下から近づいてきて銀河の奥側から手前に向かってぐるっと回ってきているのではないか、とのこと。確かにそう見えなくもないですし、顧問は空間が3次元であることをすっかり忘れてました。この軌道の方が次節のスターバースト領域の位置とも整合性が良いです)

スターバースト領域

スターバーストとは、銀河内で生じる急激な星形成のことです。上に引用した論文では、NGC1313で過去に銀河が衝突した根拠として、南西部分(この画像は北が下なので左上方向)のスターバースト領域に注目していました。

写真3:スターバースト領域

この領域は、伴銀河の衝突によって星間ガス・星間物質が圧縮されて形成されたものと考えられているそうです。その位置がちょうど、写真1に描いた伴銀河の衝突コースと一致しているのが興味深いです

中心のズレ

ESOのプレスリリース*3によると、「ESOの3.6m望遠鏡での観測によって、銀河が回転している本当の中心軸が「中心の棒(the cental bar)」からずれている」のだそうです。これが何のことを言っているのか、調べた範囲では判然としませんでした。我々の写真を見ると、銀河のもっとも明るい場所(黄色の矢印)と、腕の構造から想像できる回転の中心(赤い矢印)が確かにズレているように見えます。ひょっとするとこれのことを言っているのでしょうか?

それとも「中心の棒」とは、棒渦巻きの棒部分のことでしょうか?だとしたら上の図は見当違いで、そもそも我々の20cm望遠鏡では観察できないのかもしれません。

おわりに

天体写真撮影を始めて10年以上が経過した今でも、

「ええ、こんな銀河あったんだ(知らなかった)」

なんてことがまだまだあります。M63やM104のような均整のとれた銀河も良いですが、今回のNGC1313のような不規則な銀河は、撮影した画像から読み取ったり想像したりできる要素がおおきく、一粒で二度美味しいなと思った次第です。

 

 

オリオン大星雲を撮影しました

15日夜の神割崎にて、M42オリオン大星雲からM43、NGC1977ランニングマン星雲にかけて撮影をしました。トータルの露光時間は100分ほど。2分露光のデータをベースに、10秒と2秒の短秒露光データをつかってHDR合成を行い仕上げました。

M42_fullFrame

date:2025-11-15
location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
camera: ASI2600MM, ASI2600MC
optics: Celestron RASA11
exposure: 120s x 28f +10s x 20 +2s x 20(L), 120s x 24f + 10s x 20 (RGB), gain100
processing: PixInsight, Photoshop

もっとも有名で定番の構図です。

M42はもう何度も撮影していますが、この構図は初めてでした。いままでは、ちょっと左にずらして分子雲を入れたり、引きの構図で馬頭やバーナードループを含めたりしていたのです。

あらためて向き合ってみますと、色の豊富さ、ハイライトからシャドウまでの情報の豊富さなど、全天でも随一の対象だなあと痛感しました。

画像処理もすごぶる楽しく、じっくり時間をかけて処理しましたが、もうちょっと良い仕上げができたかもしれません。でもとてもお気に入りの結果になったので、2年ぶりにFlatLaboにお願いしてパネルを印刷してもらっています。

切り取って遊ぶ

元画像はDrizzle2倍で9000万画素、BXTも効いて高精細に仕上げることができました。

そこで、面積で1/4までクロップしていろんな構図を切り取ってみました。

うーん、もとの定番構図をしのぐ切り取り方を見つけるのは、なかなかむずかしそうです

秋冬シーズン今年初の神割崎遠征に行ってきました

はじめに

天文秋冬シーズン、宮城県での遠征先は神割崎が定番です。

前回の記事で、前置きとして熊のことを書こうとしたら、筆がのって熊だけの内容になっちゃいました。

遭遇の確率はそれほど高くないと思ってますが、それでも出来る対策は行いつつ、撮影してきました。

今回は、RASA11でM33とM42を撮影する計画を立てていました。

遠征のようす

11月15日の夜は、穏やかに晴れておりました。毎度のパタンで、神割崎へ向かう高速道路を降りたすぐ近くにあるローソンに立ち寄ります。そこからガソリンスタンド越しに夕暮れの空を撮影するのも毎度のパタンです。

この夜、当地の駐車場に集まったのは私を含めて4名。ちょっと少なめで、みなさんやっぱり熊を警戒していたのかもしれません。同行のかのーぷすさんはラジオを流し、私は蚊取り線香を焚きながら撮影を開始します(線香の香りがクマよけになるらしい)

しばらくして、秋田のほうからこのブログを書かれている星夜思さんがやって来て、駐車場が少し賑やかになりました。拙著「Pixinsightの使い方 応用編」も購入して読んでくださっていたとのことで「あれで2600円は安すぎませんか?」とありがたいお言葉もいただいちゃいました。「そうなんですよー」と自信をもってお答えしました^^。

撮影トラブル

出鼻にちょっとしたトラブルがありました。RASAには、対物側にカメラを固定するための接続リングがあって、そのリングを強く締め付けすぎてしまったのです。これをやってしまうと星像が悪化することは、取説にも書いてある基本的な注意事項なのですが、今回初めてそのミスをおかしました。

中心でピントを合わせても、四隅が全て大きくピンボケになってしまいます。

「あれー?」

一旦筒先を低くして、ヘッドライトで対物側の補正版を照らしながらあれこれ調整します。すると今度は写野がまだら状になってしまった

「ええ、センサー焼けたか!?」

これには大汗をかきました。いくら明るい筒とはいえ天文用に減光したヘッドライトでセンサーが焼けるわけはなく、これは低空の林が星空に映り込んでいただけだったのですが、焦るとそんなことにも気づかないのですね。

そんなこんなで1時間くらい無駄にしました。余計に疲れたー。

ふぅー、なんとか撮影開始できた、と安堵しているワタクシ

リザルト

処理を終えたM33からご覧ください。M42は次回掲載予定です

M33

date:2025-11-15
location: Kamiwari-saki, Miyagi, Japan
camera: ASI2600MM, ASI2600MC
optics: Celestron RASA11
exposure: 120s x 138f (L), 120s x 42f(RGB), gain100
processing: PixInsight, Photoshop

15日のよるは、なかなかにシーイングも良く撮影時から手応えを感じていました。腕の淡い部分を描写するつもりはなかったので、解像度重視で120秒の短めの露光時間を設定(もっと短くても良かったかもしれません)。それが功を奏したか、とてもシャープな仕上がりになったと思います。ぜひクリックしてご覧ください。

このへんが鑑賞ポイントです。腕に点在している粒子状のざらざらは、星ではなくてM33本体の散開星団球状星団なのだそうです。かなり以前になりますが「もりのせいかつ」でKさんと丹羽さんがこのことを話題にしていました

記事内の、ハッブルの画像と重ねるのは楽しいので今度自分もやってみよう

元々の画角は、f=620mmのAPS-Cでこんな様子。これだとちょっと退屈な感じがしてしまいます。

M33 no croped

トリミングの切り取り方によっては、もっと力強い表現が可能かもなー、と思いつつ、今回は以上です。

 

熊と天体遠征

先日、実家に住む母親から電話がありました

「オマエ、クマが怖いから夜に星の写真撮りに行くのやめなさいよ」

とのこと。

たしかに天体写真遠征では、夜間に人気のないところに一晩滞在して撮影します。SNSを見ても警戒をされている方が多いようです。

そこで今回は「受け入れ可能なリスク」としての天体遠征における熊リスクについて考えてみたいと思います

熊の被害人数

下のグラフは熊の被害人数(怪我・死亡含む)の推移です。顧問が環境省のHPで公開されているデータをもとに作成しました。2025年度に着目すると10月末時点で190名の方が被害に遭われています。このまま行くと今年度は400名弱の被害人数になるペースです。

熊の被害人数推移(環境省HPのデータをもとに作成)2025年度の値は10月末の速報値

2009年から2024年度の平均は100名程度なので、今年は例年の4倍ほどの被害人数が出ていることになります。確かにこれは尋常ならざる事態で、最近の報道の過熱もそれを物語っています。

このような熊のリスクを評価するにあたっては、我々がすでに受け入れているリスクとの比較が役に立ちます。わかりやすい比較対象は交通事故と登山だと思います。

他の行動リスクとの比較

以下の確率は、かなり大雑把な見積りですので、そのつもりでお読みください。

交通事故

交通事故は年間で30万件ほど発生しています。日本の運転免許の保有者数は8000万人、ペーパードライバーは400万人くらいなので、年間の平均的な交通事後遭遇確率は、ざっくりと0.4%です。これは1日あたりに直すと0.001%です。

登山・ハイキング

こちらによると、2022年の登山・ハイキング人口は2023年で500万人くらい。山岳遭難の人数は年間3506人でした。ですので年間の登山ファンの遭難確率は0.07%です。総務省の統計によると、平均的な登山ファンは年に10回ほどの登山を行うので、登山1回あたりの遭難確率はざっくりと0.007%です。

 

上記と比較するために、全国の熊の被害人数を高く見積もって400名/年としてみます。確率を計算するための分母は「ふだん山間部でよく行動する日本人の数」とするべきでしょう。これについてはデータが見つけられなかったのですが、登山・ハイキングファンの人数よりもずっと多いはずです。ですので、熊の被害の確率は、計算するまでもなく登山と比べてずっと低くなります。交通事故と比べても低いかせいぜい同程度でしょう。(注:登山遭難と熊被害は必ずしも分離できないのでちょっと話がごちゃつきますが、それを考慮したとしても熊被害の確率は低いはずです)

結果の解釈(まとめ)

交通事故のリスクと(天体遠征における)熊被害を同列には比較できません。なぜなら自動車は生活に不可欠ですが、我々は天体遠征をしなくても生きていけるからです。しかし登山・ハイキングのリスクとの比較においても、熊被害の遭遇確率は低い結果になりました。

もちろん、熊の被害は近年急増した事態です。そのため未知数な点が多く、リスクの見積りも大きな誤差が伴う可能性があります。地域や状況によっては遭遇確率が一桁以上高い場合もあり得るかもしれません。ですので、少し過剰めに警戒するのが不合理だとは必ずしも言い切れません。

居眠り運転のリスクを心配して、天体遠征をやめた友人も知っています。結局は、天体遠征における熊遭遇のリスク判断も、結局は個人の価値観の問題になってしまいます。

「人による」って結論は避けたいものですが、そうなのだから仕方ありません。

5行まとめ

顧問の価値観では、熊のリスクは天体写真遠征をやめるほど大きくないと判断します。可能な対策をとりつつ天体写真遠征を楽しんでいきたいと思いますし、天体写真をやってみたいと思う人があれば、「楽しい趣味」としてお勧めし、一緒にやっていこうと考えています。

 

 

©2010熊本県くまモン



 

NGC300銀河の赤ポチと「緑ポチ」

さんかく座のM33銀河にそっくりな銀河が、南天のちょうこくしつ座にあります。NGC300銀河です。ちょうど1年前の今頃、チリに設置したリモート望遠鏡で、はじめてこの銀河を撮影しました。

NGC300

昨年に撮影したNGC300

Date: 2024-11-25,12-01,05,21(4 nights)
Location: El sauce, Chile
Optics: Vixen R200ss, PH Extender (1120mm F5.6)
Exposure: 120sec. gain120, (L, R, G, B)=(212, 62,57,57), 240s gain200 Ha=65f, total 17.2h
Processing Pixinsight, Photoshop

通常のLRGBに、ナローバンドのHαをちょっと追加してトータル17時間の露光データです。とっても美しい姿ではあるのですが、astrobinで他の作例と比較してみると、なんだか平凡な仕上がりで、煮え切らない気持ちが残りました。そこで

活動領域(赤ポチと緑ポチ)を写し出す

NGC300は、活発な星形成領域がとても多く、それらは「赤ポチ」として、銀河の腕に散在しています。さらに最近、海外の作例で見かけるのがO3領域の「緑ポチ」。これらを写し出すために、夏の終わりから秋にかけてさらに27時間の露光を行いました。

そうして、上のカラー画像に無いものが写っている2枚のモノクロナローの画像が得られました。

これらを、なるべく自然な形でカラー画像に追加することを考えます

連続成分の除去

銀河は星の光の集まりです。星の光は、それぞれの温度ごとにプランクの法則に従う波長で光っています。その波長とエネルギー密度の関係を、下の図の黒い実線で示しました。

いっぽうで銀河の腕の赤ポチと緑ポチは、星々の間に分布している水素と酸素が、星の光を受けて光っているものです。その光は特定の決まった波長をもっていて、水素の輝線はHα、酸素の輝線はO3と呼ばれています。波長はそれぞれ656nm、500.7nmです。下のグラフに赤と緑の帯で示しました

モノクロナローの画像は、それらの波長を含む、8nmほどの幅の光だけを通すフィルターで撮影しています。ですので、水素と酸素の輝線に加えて、星のスペルトルが、その8nmの幅のぶんだけ含まれてしまっているのです。

自然な形で画像の合成を行うためには、星の光の連続スペクトルをナローのデータから除去する必要があります。それにはいろいろな方法があります。今回は、Seti Astroさんがyoutubeで紹介されていた方法を試しました。

この方法では、たとえばHαから連続スペクトルを引くために次の手順を踏みます

  1. (R,G,B)=(Ha,R,R)と対応させた疑似カラー画像を作る
  2. Color Caribrationプロセスを使って、銀河の中心を白く、背景を黒くして、各チャンネルの輝度を合わせる
  3. HaからRの信号部分を差し引いて、連続スペクトルを除去

慣れてしまえば結構簡単に実行できます。連続スペクトルを除去した後のデータはコチラです。

こちらをHOO合成して、Narroband Normalizationプロセスをつかって調整し、こんな画像をこさえました

これを、PixelMathでLRGB画像にスクリーン合成し、最終的な結果を得ました。

リザルト

こちらが結果です。

NGC300 Ha and O3 added

 

銀河の中心部を並べて比較してみます

画像

もとのLRGB画像にはほとんど写っていないO3の明るい領域を映すことが出来ました。あんまりきれいではありませんが、拡大して並べてみましょう。

これらの天体は、DCLというH2領域のカタログに登録されているようです(TwitterでOHZAKI Hiroki[@ohzak1]さんに教えてもらいました)(追記、カタログ名はDCLではなくてDCL88だと、あとでHIROPONさんに教えていただきました。元論文の著者名のイニシャルと論文の発行年(1988年)からついたカタログ名みたいです。)

おわりに

今回のリザルトの目玉はO3の「緑ポチ」でした。これはかなり長い露光時間が必要なうえ、そもそもそういう領域が存在しない銀河もあります。活発な領域をもつ銀河をほかにも探して見て、また挑戦したい所存です。

「PixInsightの使い方[応用編]」を出版しました、校正の裏話など

先日からこのブログでもアナウンスしておりましたPixInsightの使い方[応用編]は、10月29日より販売が開始されました!

電子書籍、ペーパーバックのどちらの形式でも購入可能です。もしご興味あれば、ポチっ!とお願いいたします。

校正作業の裏話など

ひとまずの執筆を終えたのは、暑い夏の盛り。約3か月まえの8月8日でした。

当時のブログ記事

PixInsightの使い方[応用編]、近日刊行します! - 天文はかせ幕下

をピックアップしていただいた天文リフレクションズの山口編集長が、作業配信動画にておっしゃっています:

「校正が始まったということは、ここからが本番ですね!」

つまり執筆よりも校正のほうが大変だよ、ってことです。まったくその通りでしたね。

表記ゆれや誤字脱字、原稿の体裁などをチェックしていく校正作業は、丹羽さんと畠山さんの3人で情報を交換しながら行っておりました。自費出版ではあるけれど、商業書籍なみのクオリティを目指したい!という申し合わせの下、なんどもweb会議や原稿の交換を行い、修正を繰り返しました。

下の写真は赤の入った元原稿と、訂正箇所に付箋を貼った校正刷り(2冊)です。

図の調整も大変でした。本書は200ページに190もの図がちりばめられているのですが、いざ冊子に印刷してみると解像度がイマイチだったり、天体写真の暗部がつぶれていたりします。処理前・処理後の違いが全く分からないじゃん!なんてケースもざらにあって、一つ一つ修正しました。

 

販売が開始された今も、まだ原稿のことで頭がいっぱいです。でも作業自体からは解放されてしまい、なんだか日々、空気を漕いでいるような気分です。

一息ついたら、もうすこし勉強をして、続刊についても考えていきたいです。丹羽さんとは「今後はトピックごとの分冊が良いかもしれませんね」なんて話しています。

レモン彗星を追った3夜の記録

「レモン山サーベイ」と呼ばれる、アリゾナ州にある天文台での探索プロジェクトで発見されたレモン彗星は、今月に入ってマスコミにも取り上げられて、注目を浴びています。

当初の予測では、最高で4~5等級程度。これは、ぎりぎり肉眼でみえるかどうかという明るさです。昨年の紫金山・アトラス彗星と比較すれば、天文ファンの間の期待度はそこそこといった雰囲気でした。

それでも、何が起こるか分からないのが彗星です。10月に入って、じわじわと光度を増してくると、「ひょっとして今夜、急に増光するかも?!」なんて考えがよぎり、居てもたってもいられなくなります。

そんなわけで顧問は、これまで25日までに3回遠征をして彗星を撮影をしました。

上の地図に描き込んだ半球は、3回の撮影について、観測地と日時、レモン彗星が見えた方向を表しています。この地図を、頭の中で地球の球体に貼り付けて方向を想像してもらえると、レモン彗星が地球の北側を北東から南西へ移動している軌道が見えてくると思います。

 

この記事では、それぞれの場所でのそれぞれの撮影のことを簡単に報告したいと思います

9月27日未明、福島県浄土平でついでに撮影

福島県の浄土平は、東北地方ではもっとも星空がきれいな観測地です。この夜の撮影を一通り終えて、明け方の余った時間に北西から昇ってきていたレモン彗星を撮影しました。

C/2025 A6 Lemmon

この時の明るさは6.5等星ほど。あいにく、ちょうど福島市の明かりに被っていて、双眼鏡ではちょっとした明るいシミ程度に見えていました。

10月17日薄明後、宮城県村田町でお気楽撮影

前回の撮影から半月がたち、レモン彗星は夕方の西の空へ移動して見えています。

天文部の学生たちと近場でレモン彗星を観望しようという話になりました。そのための観測地を探します。特に宮城県では、地形のつごうで、彗星がみえている西の見晴らしが良い場所が少ないのです。我々は、GoogleMapをしらみ潰しに探索し、ある程度良い場所を見つけました。そこは宮城県村田町の農村にある道端でした。

その場所、彗星が見える方向の空はそこそこ暗いのですが、それでも街明かりの影響があるようです。双眼鏡で確認した彗星の姿は、空のわずかなシミという感じで、頼りないものでした。そこで撮影したのが、次の画像です

ごらんになってわかるかもしれませんが、やっぱり光害の影響がだいぶんきつかったです。強引に補正しようとすると背景がガタガタになってしまい、これは作品として仕上げることを諦めました。

10月23日薄明後、山形県弓張平公園で本気撮影

レモン彗星は近日点へ近づいていきます。23日、とうとう3等台に突入して明るくなっているという情報が入ってきました。顧問は先日の村田町での撮影を反省し、「やっぱり空が暗いところへ行かないとダメだ!」と、山形県の弓張平公園まで出掛けてきました。片道1時間半です。

上の地図をご覧いただくとわかる通り、弓張平から西は山以外に目立つ街は街はありません。西空は真に暗く、薄明後には肉眼でもぼんやりと彗星の姿を確認することができました。肉眼彗星です!双眼鏡でも、先日までの「すこし明るいシミ」とは違って、長い尾を伴った姿がはっきりと確認でき、感激でした。

デジカメで20分ほど露光し、画像処理した結果がこちらです。

Comet Lemmon, C/2025 A6

うん、これなら大満足。ながーく伸びるイオンテイルがたまりません。135mmにフルサイズの画角でも飛び出してしまいました。空が暗いからこそ映り込む低空の大気光も良い味わい深いです。

 

そんなわけで、レモン彗星を追った3夜の記録でした。この記事を書いている10月26日現在、彗星は予想を上回る増光をつづけていているようです。今後もしばらくは目を離せません。

ケフェウス座のLDNやLBNカタログの星雲たち

先日の浄土平遠征で撮影していたメインの対象を仕上げました。

Faint nebulae in Cepheus

Date:2025-09-27
Location: Jododaira, Fukushima
Optics: Sharpstar15028HNT, 420mm F2.8
Camera: ASI2600MM/MC
Exposure: 180s x 63f(Mono), 180s x 60f(color), gain100
Processing: PixInsight, Photoshop

ここはケフェウス座の南部あたり。以前、EOS6Dに135mmレンズで撮影していた星野写真を眺めて目を付けていました。下の画像に黄色い四角で示した領域で、画角はf=420mmにAPS-Cセンサー相当です。

作品では、横構図にしました。改めて枠内にAnnotationを書き加えてみると、LBNやLDNナンバーの星雲がたくさん分布しています。

構図を決めた時の期待通り、画像処理を行うと、赤、マゼンダ、紫、青と様々な色彩の星雲がうかびあがってきました。

この領域、どうしてこんなにいろいろな色(つまり様々なガス)が分布しているのでしょうか。不思議なものです