天文はかせ幕下

仙台高専天文部の顧問が、日々の天文活動や天文情報を綴っています。

デュアルナローフィルターとモノクロカメラで網状星雲

デュアルナローフィルターとモノクロカメラを組み合わせる作戦

ろ座矮小銀河のぐらすのすち君にOptolongのL-eXtremeというフィルターをお借りしました。これは、下の図のような透過域を持つフィルターで、HαとO3の輝線を同時に通します。

Optolongのサイトより引用

このようなDual Band Pass系のフィルターは、通常カラーカメラに取り付けて使用されます。今回はモノクロカメラのASI2600MMとカラーカメラのASI2600MCを使ったそれぞれの撮影で、L-eXtremeフィルターを使用します。

そうして得られた画像を、あとからLRGB合成します。この方法で淡い天体を狙ってみよう!という作戦です。

光を集める効率

ASI2600MCにL-eXtremeフィルターを取り付けてHα光を撮影する場合で単純に計算してみます。

まずこのカメラの量子効率のピークが80%。Rチャンネルのベイヤーフィルター透過率も約80%。Rチャンネルのセンサー全体に対する面積比は25%ですから、0.25x0.8x0.8=0.16。つまりL-eXtremeフィルターのHα透過率を100%としても、レンズに到達した光のうち、16%のHα光しか受光していないことになります。

一方で、ASI2600MMのHα線の波長656nmでの量子効率が60%ですから、ASI2600MCを使用した場合に比較して、3.7倍の効率になります。同様に計算して、O3の受光率は2倍です。

以上の計算の詳細をスライドにまとめてみました。

もちろん、モノクロカメラだけの撮影では、HαとO3を分離できませんので、カラーカメラも併用します。一晩の撮影時間のうち半分をカラー撮影に費やしたとしても、おおよそ2倍の効率になるわけです。

この撮影方法は、HαとO3を別々に撮影する通常のナローバンド撮影(AOO)と比較しても、モノクロ撮影時に2つの輝線を同時に取得することを加味すると、若干有利だと思います。

そういうわけで、リザルト

F2の明るい光学系まで対応しているL-eXtremeのメリットを活かして、RASA11で網状星雲の東側を狙ってみました。

The east region of Veil nebula

date: 2025-8-15
location: Zao, Miyagi, Japan
optics: Celestron RASA11 620mm F2.2, Optlong L-Extreme filter
camera: ZWO ASI2600MC/ASI2600MM
exposure: RGB 180s x 55f, L 180s x 67f (gain100)
Processing: Pixinsight and Photoshop

 

なかなか高精細に写ったなと思います。画像処理で行ったこと・気を付けたこと書いておきます:

  • O3領域は緑色に写るので、Curves TransformationでHue値を動かして青くしました。さらにPhotoshopで色相を調整してさらに青くしました。
  • 星もデフォルトで緑色になってしまうので、こちらはStarnet2で分離後、SCNRを100%かけて青くしました。
  • 星雲の淡い部分の描出よりも、ハイライトの透明感を優先したかったので、星雲の強調は控えめに気を付けました。
  • 網状星雲の構造を強調するために、BXTに加えてウェーブレット変換(Multiscale Linear Transform)を使いました。

以上です。

次回予告!

同じ撮影方法でダイオウイカ星雲を狙ってみようと思います。果たして、ダイオウイカは写るのでしょうか?!